竹原ピストルに聞く、新作『FIRST CRY!!』のアコースティック・ギター・アレンジのこだわり

2026年に50歳という節目を迎えるシンガー・ソングライター、竹原ピストルがオリジナル・アルバム『FIRST CRY!!』をリリースした。ロックやパンク、ヒップホップからポップスなど多彩なジャンルの楽曲で構成される今作では、竹原によって奏でられる、力強く、時に繊細なアコギの音色を堪能することができる。

“最近はアレンジまでを考えるのが楽しくなってきた”という竹原に、今作のアコースティック・ギターのアレンジについて語ってもらった。

取材・文=角 佳音 写真=福政良治

アコギ抜きで聴くとたまらなくて、
そこで初めて“大事なんだ”と気づく

──今作には“改めてファースト・アルバムを出す”というテーマがあり、それがタイトルの『FIRST CRY!!』=“産声”に込められているんですよね?

 そうですね。今回のレコーディングが全部終わったあと、我ながら“めちゃくちゃ良いものができたな”と思ったんです。

 今、僕は49歳で、今年から50代というのもあって、“ここでもう一発、ファースト・アルバムを出す”と言うに値する内容のものができたなと思って。それで、あとづけにはなるんですけど、このタイトルに決めました。

──前作までと比較し、今作の制作において、アコースティック・ギターに関わる部分で何か変化はありましたか?

 作曲などはいつもどおりでしたね。ただミックスに関しては、ずっと一緒にやっているディレクターさんがいるんですけど、その方が“アコギをもっとガツッと出そうよ”と言ってくれたんです。

 だからバンド・サウンドの楽曲でも、うしろのアコギの音が前に出てくるようになっているんですよ。そういうことを意識的にやったのはこのアルバムが初めてかもしれないですね。

 竹原ピストルと言えば、アコースティック・ギターを弾きながら歌うというのが基本スタイルですので、単なるバンド・サウンドで収まるよりも“らしさ”が出るというか。ディレクターさんとしては、そういう意図だったのかもしれないですね。

──今作には「ばっちこ〜い!!」、「オオセンチコガネ」や「宇治川釣り日和」など、バンド・サウンドのロックな雰囲気の楽曲が多数収録されていますね。バンド・サウンドの中にアコギのバッキングが入ることで、疾走感がもたらされていますが、こういった楽曲におけるアコギの役割についてどのように考えていますか?

 僕はどちらかというと、ほかの楽器にサウンドを支えてもらってる楽曲においては、“アコギって必要なのかな”と思っちゃうタイプだったんです。“いやこれ弾かなくていいでしょ、十分かっこいいでしょうよ”と(笑)。

 バンドでライブをやる時もそうなんですけど、これだけどっしり支えてもらっているなら、アコギを弾こうが弾くまいが……なんて思いながらやっているというか。

 でも時々、アコギ抜きで聴くとたまらなくて、そこで初めて“アコギって大事なんだ”と気づくんですよ(笑)。アコギという楽器の偉大さを感じるというか、大事だなと。それで、“ちゃんとアコギを弾かなきゃな”と思いながらやっています。

──「ありがとう」は、キラキラとしたアコギの高音域の音色が気持ちいい楽曲ですね。この曲のアレンジはどのように組んできましたか?

 新曲ができると、まずは同じ事務所のエンジニアをやっている先輩のスタジオに行って、デモを録ることが多いんです。この曲も、僕がベースとなるアコギを弾いて、借り歌を入れて、“こんな曲です”と先輩に聴いてもらって。

 たぶんこういう時はマンドリンを入れるのが定石だと思うんですけど、そこからは外したかったというか。そういうちょっとしたある種のひねくれ心もあって、“アコギでやりたいんです。ただ、僕は弾けませんから弾いてください”と頼んで、入れてもらいました。

 ただ、それはあくまでもデモとしてやってもらったものだったんですけど、ディレクターさんが“これはこのままで良い”と言ってくれたので、デモ音源のアコギがそのまま収録されていますね。

──楽曲のアレンジは、そのデモ制作段階である程度出来上がっていることが多いんですか?

 そうですね。最近はそれが楽しくなってきたんです。何年前かまでは“歌詞が書けた→曲をつけた→アコギで弾いて歌えた”というので、どこか完結しちゃっていたんですけど、“ここはこうじゃないと嫌”と思えるベース・ラインが頭に浮かんだり、というのが年々増えているような気がします。

──そういったアレンジのインスピレーションはどういったところから来ていると思いますか?

 やっぱり日頃聴いている音楽から無意識に引っ張ってきているものだとは思うので、ジャンルを問わず、いろんな音楽を聴く時間は大事にしていますね。

竹原ピストル

アコギのポツンとした感じがこの曲の世界観に染み込む

──「失礼だ。」はサビからアコギのバッキングが入ってきますが、アコギの音色により、曲に広がりが生まれているように感じました。こういったアコギの使い方で狙っている効果はありますか?

 「失礼だ。」で聴こえるアコギの音色は、それだけで暮らし臭くなるというか、もの悲しくなる効果があると思うんですよ。

 アコギのちょっとポツンとした感じがこの曲の世界観に染み込むので、そういう意味ですごく効果的な使い方だなと思いますね。

──この曲では、1回目のサビ終わりからの間奏で、エレキのメインのフレーズの上にアコギが重ねてありますよね。イントロや間奏、アウトロなど、歌が入っていないパートのアコギはどのように作っていくことが多いですか?

 最近、バンド編成でのライブを始めたんですけども、それまではずっと弾き語りでライブをやっていましたから、弾き語りでやれるアレンジというのが中心だったんです。

 具体的に言うと、間奏は極力カットで、アウトロもいらないのでブレイクで終わる曲がやたら多いんです。最小限の作り方をしてきたので、そういうパートの発想力が乏しいというか、全然慣れていないんです。

 だからひどい時は、“「6畳一間の部屋に住んでいる青年がポツンと部屋の隅っこで体育座りしている」というのを表わしてください”みたいに、アレンジャーさんに頼むんです(笑)。

──なかなか難しい注文ですね(笑)。

 “これだとちょっと畳がきれいすぎるんですよね〜”みたいに言ったり(笑)。この曲もそういう感じで伝えて、アレンジを作ってもらいました。

──「恋をして」、「ありがとう」、「黙る海、丸い月」などは、ギター・アンサンブルが生み出す緻密なハーモニーが楽曲の世界観を彩っています。ギター・アンサンブルのアイディアはどのように生まれることが多いですか?

 ディレクターや先輩が出してくれるアイディアから刺激を受けながら、どんどん蓄えていっている感じがありますね。“こういうやり方があるんだ”と、いつも驚きながらレコーディングをやっています。

 ただ、そこまで詳しくならないほうが良いかもしれない、とも思っているんです。天然でやってるところがあるから、“なんでそこにそのコードが入るの? 普通はそうじゃないけど、それが面白いよね”と、褒め言葉として言ってもらうことがあるので、詳しくなりすぎず、コントロールしすぎずがいいなと思っています。

竹原ピストル

アコギは歌の間を埋めるものでもあり、間を作るものでもある

──「どれも俺だ」では、アコギのパーカッシブなサウンドが楽曲にアクセントを与えていますね。

 この曲も、デモの時に“ここからここまでで◯小節”という目印として仮で入れたアコギの音がそのまま採用されているんですよ。これがまた効果的ですよね。頭だけバンって弾いて、空ピックでビートだけ出すという。この奏法は潔いし、個人的にすごく好きなので昔から多用していますね。

──「はなす」ではアコギのアルペジオが聴こえてきますが、メロディを奏でる役割というより、歌を支える役割を担っている印象を受けました。アルペジオで奏でる時に意識していることは?

 アルペジオで作った音の上に歌を乗せるんじゃなくて、合いの手として存在させるという意識でいます。そのほうが僕の場合はうまくいくんです。

 アコギは歌の間を埋めるものでもあり、間を作るものでもあると思うんですよ。自由度が高くて、それが弾き語りの楽しいところでもある。それこそアコギの偉大さじゃないですけれども、どうとでも表現できるところはすごく重宝していますね。

──以前のインタビューで“歌詞から作ることが多い”と言っていましたが、現在もそれは変わらないですか?

 変わらないですね。

──書き上げた歌詞に対し、メロディを乗せていく流れはどのように?

 歌詞を書いたり、整理しているうちに部分的にメロディがついてくる感覚ですね。“この曲はスローが良いだろうな”みたいにざっくりの時もあるけど、メロディがくっきりと出てくる時もあります。

 あと、サビから生まれることが多いです。“サビに値する強いフレーズ”を先に考える癖があるので、サビができたあとに、正しい言い方かわからないけど、Aメロ〜Bメロで辻褄を合わせるというか。

 どのようにしてこのサビに至ったのか次第で、ドぎついメッセージ・ソングにも、さらっとしたラブ・ソングにもできる。選択肢が無限だからこそ、そこを特定していく作業がすごく好きなんです。

──今作のレコーディングで使用したギターについても教えてください。

 どの曲でどれを弾いたかは忘れたんですけど、ヤマハのFG280が2本と、K.ヤイリ(K. Yairi/DY-Granadillo)を使いました。

 ざっくり言うと、ヤイリは粒がそろっていてきれいな音が鳴るんです。チューニングというか、コード感も安定していて。で、ヤマハのほうは馬力があって、弾いた時にすごくパーカッシブな効果が出るんですよ。そんなイメージで、曲によって使い分けました。

 でも、ずっと一緒にツアーを回っているPA曰く、ヤイリの低いところの出方が元々使ってきたヤマハに似てきているらしいんですよ。プレイヤーの弾き癖で、ギターの経年変化するところが似てくるのかななんて思いました。

 あと「恋をして」で、ブランド名はわからないんですけど、先輩の家にあったガット・ギターを弾きましたね。

これさえあればどこでも行ける

──2026年7月より『FIRST CRY!!』を引っ提げたツアーがバンド編成/弾き語り編成で開催されますね。意気込みを聞かせてください。

 これまでアルバムを何枚か出してきましたけど、どんなにアレンジをこだわったとしても、全国ツアーは全部弾き語りでやっていたんです。だからどんなに好きな曲でも、弾き語りで再現しようがないからセットリストに入れられないということもあったんです。

 ただ音源となるべく近いアレンジでお客さんに聴かせたいという気持ちはあったので、それがやっとできるぞと思っていますね。

 逆に弾き語りでやる時は、大胆に弾き語り用のアレンジにしても良いなと思っています。しっくりくる形に変化させられる安心感もありますし、贅沢は言えないですけど、両方のライブに来てくれたらうれしいなと思います。

──竹原さんの音楽において、アコースティック・ギターとはどのような力を持つものですか?

 弾き語りって、お客さんの雰囲気やその場のノリに影響を受けやすいスタイルだと思うんです。攻める時も守る時もすべてがむき出し。ちょっと変なノリになったりすると、それがそのままライブに直撃するような脆さがあるんだがしかし、“こいつがあればなんでもできる”みたいに、精神的に支えてくれる楽器でもあると思いますね。

──では、竹原さん自身にとってアコースティック・ギターはどのような存在でしょうか?

 “通行手形”みたいなものじゃないですかね。これさえあればどこでも行けるし、さまざまな壁を超えられるような気持ちになる。音楽ジャンルが違おうがなんだろうが、アコギさえあれば“ちょっと歌わせてよ”って向かっていける“通行手形”だなと思います。

──最後に、今年で50歳を迎えるということで、今後アコギに関してチャレンジしてみたいことがあれば教えてください!

 全然できるイメージが湧かないまま言いますけども、ループを使ってみたいです。山さん(山崎まさよし)みたいに。

 ボディを叩いて、シンプルなポロンっていうフレーズをループさせて、ラップしてみたり。でもトラックが完成するのに1時間ぐらいかかっちゃいそうだから、初めはスタジオで、遊びとしてやってみたいなと思います(笑)。

竹原ピストル

竹原ピストル 8th Album『FIRST CRY!!』

Track List

  1. ばっちこ〜い!!
  2. どっちつかず梅雨入り間近
  3. オオセンチコガネ
  4. ありがとう
  5. 失礼だ。
  6. 真夜中に
  7. 千切り絵のように私は
  8. 恋をして
  9. どれも俺だ
  10. 黙る海、丸い月
  11. 宇治川釣り日和
  12. はなす
  13. あたりまえの歌

SPEEDSTAR RECORDS/VICL-66151(通常盤)/2026年5月27日(水)リリース

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