マンドリンの魅力を語らせたら、日本トップクラスと評されている木曽誠さん(ドルフィンギターズ 大阪店スタッフ)の解説が好評の本連載。今回、取り上げるアルバムは、ニッケル・クリークの『THIS SIDE』だ。
楽曲データ
アーテスト:ニッケル・クリーク
収録アルバム:『THIS SIDE』
マンドリン使用曲:全曲
名曲解説
アメリカでナンバーワンのテクニックを持つマンドリニスト、クリス・シーリー、いや世界一でしょう。
今日のフラット・マンドリンの概念をいろいろと覆してくれました。
誤解を恐れずに言うと、それは、ビル・モンロー、デヴィッド・グリスマンやサム・ブッシュ以上の功績ではないか?と感じてなりません。
“フラット・マンドリンはカジュアルに弾くのだ”、と言わんばかりなポップなフレーズ群、魂を感じる抑揚あるブルージィなピッキング、繊細なタッチで演奏される気品と厳格に満ち溢れたクラシック曲などなど、ジャンルの引出しの多さも世界一。
ビル・モンローから始まったフラット・マンドリンの歴史を一旦クリアにし、クリス・シーリーから新たなマンドリン時代が始まったと思わせるくらいの圧倒的な存在感を放ちます。
そして味わい深いボーカルもカッコ良い!
そんなクリス・シーリーが音楽活動の初期に組んでいた3ピースバンド、”NICKEL CREEK (ニッケル・クリーク)” 4枚目のアルバム、『THIS SIDE』は、2003年にグラミー賞を受賞、アコースティック・ミージック史に大きな影響を与えました。
1曲目のブズーキをフィーチャーしたロック全開なインスト曲の「Smoothie Song」から始まり、ミディアムテンポの2曲目「Spit On A Stranger」から、その後のお洒落バラードの3曲目「Speak」の曲順の抜群のカッコ良さに、これはヤラレた!と思う隙を与えてくれずに、美しいボーカルのハーモニーと、あたかもピアノと錯覚するほどに美しいマンドリンの高音域を聴かせてくれる4曲目の「Hanging By A Thread」になだれ込み、5曲目の「I Should’ve Known Better」のニッケル・クリーク的アコースティック超スロー・ファンクで魂を刺激され、その後、マンドリンの開放弦5度インターバルを上手に絡ませた印象的なイントロから始まるアルバムタイトル曲の6曲目「This Side」へいつの間にか突入、誰もが口ずさむであろう超ポップな曲調に完全ノックアウト。
聴き終わると、これマンドリンのアルバムだったっけ?と思うほどの、後味スッキリ感、不思議な爽快感、マニアック感ゼロ、これぞ音楽、これぞ名盤!
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選盤・文:木曽誠(ドルフィンギターズ大阪店)