フラット・マンドリンが買えるお勧めのショップ【ドルフィンギターズ 大阪店】

 1998年に大阪にオープンした老舗アコースティック・ギター専門店ドルフィンギターズ。現在は、東京、福岡にも店舗を増やし、定番モデルはもちろんのこと、国内外の著名ビルダーの逸品も数多く取り揃え、フィンガースタイル系のギタリストを中心に幅広い支持を集めている。実は大阪店ではマンドリンにも力を入れており、リペア担当の木曽さんによる独自の調整法が評判を呼んでいるという。木曽さんにドルフィンギターズのマンドリン事情を聞いてみよう。

ドルフィンギターズ 大阪店

インタビュー 木曽誠(ドルフィンギターズ 大阪店スタッフ)

今回インタビューを受けてくれた木曽誠さん

お店に入荷したマンドリンは弦高を下げ、.010か.009に替えてから店頭に出すようにしました。

●ドルフィンギターズにマンドリンが置かれるようになった経緯を教えてください。木曽さんの情熱からすべてが始まったと伺いましたが。

○もちろん入社前から音楽は好きでギターも弾いていたのですが、それまではフラット・マンドリンの存在すら知りませんでした。お店で初めて見た時に、それはもう美しくて美しくて……体にイナズマが撃たれたくらいの衝撃を受けましたね。うちのお店ならではだと思うんですけど、それは1910年代のDitsonのマンドリンでした。洋ナシ型みたいなスタイルBだったと思いますけど、僕がもともとビンテージが好きというのもあったので、やばい! かっこいい! 弾きたい!と思ったんですよ。でも、手に取ったら、あり得ないくらい弾きにくかった(笑)。これを弾ける人なんているのかな?っていうくらい左手が痛かったんです。フレット交換をして調整にも出したんですけど、全然弾きやすくなってなくて……そこで、フラット・マンドリンって弾きやすくあってはならないものなんだな!という勘違いをしてしまったんです(笑)。

●確かにビンテージものは弾きにくい個体も多いですよね。

○そうなんですよね。そこからだいぶ時は流れて、ある時、ボールバックのスズキの安価なクラシック・マンドリンを手に入れました。自分のものなので、ありえないくらい弦高を低くして、弦も細いのを張って、自分好みのセッティングに調整してみたんです。そしたら、ものすごく弾きやすくなったんですよね。押弦もスムーズで練習も楽しいし、音もこっちのセッティングのほうがしっくりくる!と。そこから世のフラット・マンドリンはなぜこのセッティングにしないのかな?と本気で思い始めて。それが10年くらい前ですね。

●では10年前くらいから本格的にマンドリンに力を入れていこうと。

○ちょうど入社10年目くらいの時に、やっぱりフラット・マンドリンを本格的にやっていきたいと社長に提案しました。実際、その頃はまだフラット・マンドリンを本格的に扱うショップも少なかったのと、僕もちょっとは弾けるようになっていたので、プレイヤー目線の提案もできますし、そこで差別化がはかれるんじゃないかと思ったんです。試しにロアーというブランドのF5タイプを仕入れました。それがまた、すごく弾きやすかったんですよ。弦高もちゃんと低く調整できる構造を持っていて、現行のフラット・マンドリンはものすごく進化していることを知って。このジャンルは絶対売れる!と思ったら、2〜3日後にたまたま、”これからフラット・マンドリン始めたい”というお客さんが来て買ってくれたんです。そこからはマンドリンにも需要があるってことがわかったので、ロアーのほかに、イーストマンなんかも置くようになりました。イーストマンは、弾きやすくて、指板にラディウスもついてて、弦高を低くできる構造を持ってると同時に、サウンドも大音量のマンドリンでしたね。現在でも当店人気のブランドです。

●入荷したモデルは木曽さんがセッティングをし直すのですが?

○はい。新品で出荷されるフラット・マンドリンのほとんどは.011のミディアム・ゲージが張られているんですよ。前々から僕は、これだと固いと思っていたんです。お店に入荷したマンドリンは弦高を下げつつ、基本的に.010か.009に替えてから店頭に出すようにしました。やっぱり第一印象は大事じゃないですか。パっとマンドリンを持った時に、“あっ、弾きやすい、見た目も可愛い”ってなって、初めて、買おうかな?と思うじゃないですか。逆に、持った時に指が痛かったり、弦が固かったら買いませんよね。それをなるべくクリアにしたかったんです。

●いずれにせよ、最初はゲージは柔らかいほうが弾きやすいということですね。

○そう思います。僕は.009-.034っていうゲージを推奨していますが、あんまり売ってないので、ドルフィンギターズのオリジナル弦として、8年前くらいに作りました。お店の入門者用のマンドリンには、基本的にそれを張るようにしています。ただし、もちろん指定があれば別です。例えばビル・モンローやローランド・ホワイトのような、ブルーグラスのアーティストにあこがれているプレイヤーであれば、.011のほうがお勧めです。 ビル・モンロー&ザ・ブルーグラス・ボーイズやケンタッキー・カーネルズを始めとする、“いわゆる”ブルーグラスの音源を聴くと、音がかなり突っ張ってタイトに聴こえるんですよ。あの音は、F5の特徴のひとつでもあるんですが、弦のゲージや弦高セッティングにより生み出されるサウンドのようにも聴こえます。フラット・マンドリンを弾きたいっていう人の中には、ブルーグラス・スタイルを目指している方もたくさんいらっしゃいますので、細いゲージだと音楽の再現性がなくなってしまう場合があります。そのあたりは、最初の段階で好みの音楽の方向性をヒアリングさせてもらってから、モデルのチョイスや弦高や弦のゲージも替えています。実は裏メニューで.008-.032といったゲージも用意しているんですよ、もう髪の毛のような細さで、サウンドもかなり優しくなるので、ウクレレからの持ち替えには最適です。当店は女性のお客さんが多く、そういった需要から生まれたゲージです。あと当店で購入していただいたマンドリンは、弦のお金だけ頂ければ、張り替え交換も無料で行なっております。だって、マンドリンって8本もあるから弦交換、めんどうでしょ?(笑)

●マンドリンにも複数の形やスタイルがありますけど、初心者にお勧めはありますか?

○実は傾向があるんですけど、例えばF5タイプとオーバルホール・タイプがあるとすると、F5タイプのほうが弾いた時にサウンドのタイトさやテンション感を感じる場合が多く、そしてオーバルホールのほうは、逆に柔らかい。これはなぜか?とふたつのモデルの特徴を観察していくと、サウンドホールの違いは、もちろんなのですが、F5は大体15Fジョイントでロング・ネック、オーバルホールは大体12Fジョイントでショート・ネックといったスペックに加え、それにともなうブリッジ位置の違い、ボディ形状やブレイシングなどの違いなどがあり、それがサウンドや弾き心地に関係してると思うのです。しかし、あくまで僕の予測であり、楽器はさまざまな要素の集合体なので一概に言えない部分は多いです。いろいろ言いましたが、結論、見た目の好みで決めてもらっても良いと思います。渦巻きが可愛いとか、なんか雰囲気がカッコ良いとか。

ショップのマンドリン・コーナー

挫折しないためには、まず自分に合ったセッティングの楽器を使うことです。

●お店には常時何本くらいのマンドリンが置いていますか?

○今は、常時20〜25本ぐらいあって、形としてはオーバルホールが多いですね。その中でもイーストマンがけっこう多いです。

●kasugaやbluebellなど、70年代の国産モデルをレストアして売りに出すこともあるのですか?

○そうですね。中古の入荷はいつ入ってくるかわからないのでその時々でラインナップは変わるんですけど、 入ってきたら必ず調整はしてます。内容は、ネック、ナット・サドル調整、フレット擦り合わせ、場合によっては、指板修正、フレット交換までやりますね。昔のマンドリンは、良い素材を使っていますし、ビジュアルも良かったりするんですけど、やっぱり弾きにくいというデメリットがありますね。

●ジャンボ・フレットに交換することも?

○ありますね。あとは、スクープ加工という ハイポジションをえぐる加工もやったりします。マンドリンだとハイポジションの指板の上でピッキングをするんですね。見てると、皆さんけっこうピックがカチャカチャと当たってるんですよ。そのストレスから解放されるために、スクープ加工をしたりしますけど、その楽器に合わせてレストアの内容は変えています。

●ビンテージものの入荷は?

○数は少ないですけど、ちょうど1920年代のギブソンA-4が入ってきてますね。トラスロッドが入っているロイド・ロアー期と言われる人気の時期のギブソンですね。あとは、おもしろいところでは、山梨県の製作家の岩下マンドリンズを取り扱っていますね。若い製作家さんで、ご自身もマンドリン・プレイヤーで、楽器の完成度もめちゃくちゃ高く、人気があります。ただ、入荷するとすぐに売れてしまいます。

●ピックアップ・システムについてはお店で対応してもらえるのでしょうか?

○はい。ピックアップに関してはふたつあります。LRバッグスのRadius(ラディウス)という貼り付けのピエゾで、カーペンター・ジャックというサイドに挟み込んで固定するタイプ。もっと大音量だったりバンドで使いたいという人には、フィッシュマンでのM300をお勧めしてますね。そっちもピエゾなんですけど、少しコードの取り回しが面倒です。テールピースの下にコードを通す穴を開ける必要があるので、加工はちょっとという人はRadiusが良いと思います。ただ、実際には、ピックアップ需要はそこまで多くないですね。常にピックアップを使うかと言われたら、そうじゃないお客さんが多かったりするので、たまにしかライブをしない方は、ダイナミック・マイクで拾うとか、使う時だけ貼り付けて使うみたいなシンプルなコンタクト・ピックアップのほうが向いているかもしれないです。

●木曽さんもマンドリン奏者ということですが、長く続けるためのアドバイスはありますか?

○くり返しになってしまいますが、挫折しないためには、まず、好みのデザインは大前提で、自分に合ったセッティング(弦のゲージも含めて)の楽器を使うことですね。楽器は自分を表現する道具なので、使いやすくなくてはならないと考えています。そこをまずクリアにして、自分の気に入った曲やフレーズを弾く。マンドリンをやめた人の話を聞くと、“指が痛い”という理由が圧倒的に多いんですよ。ギターもそうじゃないですか。Fが押さえられへんからやめるみたいな。あれも実は原因は自分じゃなくて、楽器のセッティングがただ自分に合っていないだけだったりします。マンドリンはそこがクリアになれば、見た目よし、弾き心地よし、という魅力的な楽器になると思いますので、そこをお手伝いができればいいかなと思います。

お勧めの1本 1923年製 GIBSON A-4 

 1923年製のA-4です。いわゆるロアー期(F-5が発表されロイド・ロアーがギブソンに在籍していた1922-24年までの楽器を指します)の貴重な楽器です。それまでのノントラスロッド極太ネックから、アジャスタブル・ロッド入りの細ネックに変更され、ネックまわりがだいぶとスッキリした形状になりました。同時にヘッド形状も先細りでスタイリッシュなスネーク・ヘッドにマイナーチェンジ。クラシカルなフルールドリス・インレイと斜めのインレイも堂々たる貫禄です。ネック・コンディションも大変素晴らしく、フレット擦り合わせを含め弦高調整済み、プレイアビリティも抜群です。ゆったり、たっぷり、味わい深い極上のマンドリン・サウンド、ぜひ一度体感していただきたい逸品です。

1923年製 GIBSON A-4

SHOP INFORMATION

〒564-0063 大阪府吹田市江坂町1-23-34 第2梓ビル5F

営業時間/平日11:30〜20:00、日・祝11:00〜19:00 定休日/水曜日

お問い合わせ:06-6310-6180

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