“モーダル・インターチェンジ”とは? 『アコギで音楽理論講座』第16回 by ドクターキャピタル

ドクターキャピタルによる実演動画

まいど! ドクターキャピタルです。今日はポップス、ロック、フォーク、ブルースを始め、ポピュラー・ミュージックのほぼ全ジャンルで多く使われる音楽理論の秘密をさらいます。まずは演奏から入りましょう。早速Ex-1を弾いてみてください。

絶対にロックに聴こえるコード進行

Ex-1 アコギでも絶対ロックに聴こえるコード進行

Ex-1

“ロック・ギター”という概念を想像する時、ドラム入りのバンド編成や、エレキ・ギターの歪んだ音色をイメージするかもしれません。

しかし、ナイロン弦や鉄弦のアコギ1本でも、指弾きでも、小音量でもEx-1は思いっきりロックっぽく聴こえませんか?

その理由は、リズムが4拍子のロック・グルーヴにハマりそうなのも少し関係していますが、最も重要なポイントはコード進行です。Key(調)がAメジャーなのに、3つめのCコードの構成音には、Aメジャー・スケール以外の音が含まれています。

まずはAメジャーKeyを確かめよう

Ex-2aでAメジャー・スケールを弾いてみて、音を確かめてください。

Ex-2a Aメジャー・スケール

Ex-2a

五線譜にシャープが3つありますね(C♯、F♯、G♯)。音符の下に“R(ルート、主音)“2、3、4……”と、スケールの2度、3度、4度…を意味する数字が付いています。

Ex-2bではAメジャー・スケールの音のみ(つまり、ダイアトニック)の構成音を使用するコードが並んでいます。

Ex-2b Aメジャー・スケールのダイアトニック・コード

Ex-2b

音符の下の表記を注目しましょう。最初に、KeyがAメジャーを表わす“A:”が書いてあり、各コードの下に分析用のローマ数字が付いています。国、ジャンル、先生によって、ローマ数字の書き方が異なりますが、僕が使うのは現在アメリカの音楽大学で多く使われる書き方です。

メジャー・コードなら、大文字のローマ数字で、マイナー・コードは小文字です。ディミニッシュ・コードは小文字のローマ数字に“ディミニッシュ”を意味する小さな丸が付きます。

ちなみに、今日のテーマ、モーダル・インターチェンジは正しく、このアメリカ音大式のローマ数字の書き方がとても便利になるケースのひとつです。

Ex-1を、Ex-2bと見比べていただくとわかりますが、ダイアトニック・コードならC#m(iii)のはずのコードが、Keyに入っていない、つまりノンダイアトニックの音を含めるC(♭III)コードになっています。このCコードは“どこから来たのか? なぜロックっぽく聴こえるか?”、気になりますよね!

AマイナーKeyから借りたんや!

今度はEx-3aと3bでAマイナーKeyの音とダイアトニック・コードを確認しましょう。

Ex-3a Aマイナー・スケール(エオリアン)

Ex-3a

Ex-3b Aマイナーのダイアトニック・コード

Ex-3b

スケールの構成音は、Aメジャーと比べて3つが違います。3、6、7度がそれぞれ半音下がっていて、♭3、♭6、♭7になっています。つまり、もともとAメジャーでは3つシャープが付いていた音C♯、F♯、G♯が、シャープが付かないC、F、Gに半音ずつ下がっているのです。

コードの分析でいくつか注目したいのですが、まずはフラット(♭)の表記です。スケールの短音に付けていた♭3、♭6、♭7と同じ位置ですね(Ex-3b/Am:→♭III、♭VI、♭VII)。

そして、メジャーKeyと比べて、メジャー、マイナーとディミニッシュ・コードの順番はずれています。メジャーKeyならI、IV、Vがメジャー・コードでしたが、マイナーKeyの場合はこの♭III、♭VI、♭VIIがメジャー・コードになります。

Ex-1のロックっぽいコード、C(♭III)は、AマイナーKeyから借りたコードになっているのです!

モーダル・インターチェンジ

ここで重要なポイントは、AメジャーKeyからAマイナーKeyに転調しているわけではなく、Ex-1のKeyはあくまでも最初から最後までAメジャーです。

ただ、途中でAマイナーKeyのコードを一時的に借りているのです。これがモーダル・インターチェンジ(modal interchange)になります。

注意点として、モーダル・インターチェンジの場合は、ふたつのKeyが同じルートになります。AメジャーKeyの音楽のフレーズの中で、同主のAマイナーKeyからコードを借りるのは、モーダル・インターチェンジです。

現代のさまざまなジャンルの特徴として、モーダル・インターチェンジの技法を私用するコード進行がヒジョ~ウに多いです。ポップ・ミュージックの定義のひとつと言っても、ロックらしさの源の大きなひとつと言っても、過言ではありません。

続きはアコースティック・ギター・マガジンVol.103本誌にてご覧ください。

第16回の内容

アコースティック・ギター・マガジン 2025年3月号 Vol.103

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ドクターキャピタル

どくたーきゃぴたる アメリカ出身大阪在住ギタリスト、シンガーソングライター。音楽博士号を持ち、名門/南カリフォルニア大学の教壇に立つ現役のプロフェッサーで、ソロやユニットなどさまざまな音楽活動を継続。日本文化にも精通し、バリバリの関西弁を駆使した“Dr. Capital’s JPOP講座”で、YouTuberとしても存在感を高めている。

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