アコギは僕の音楽人生になくてはならないアイテム
──約8年ぶりの“大石昌良”名義でのリリースですね。8年という短くはない期間が空いた背景や経緯から教えてください。
まず、カタカナ名義での活動が忙しくて、漢字名義でのリリースがままならない状況だったというのがあるんです。そういった中で、今年9月に漢字名義の“大石昌良”として武道館で弾き語りワンマン・ライブを行なうことになったので、ライブまでに漢字名義の音源もちゃんとリリースしたいと思ったんです。
また関西地方で放送されている情報番組『よんチャンTV』(MBS放送の関西ローカル・テレビ番組)のオープニング曲とエンディング曲を漢字名義で担当していたのもあって、その2曲を音源化しようということで、今回のリリースにいたりました。
──『よんチャンTV』は毎週月曜〜金曜の夕方に放送されているので、関西の方々にとっては毎日のように聴いている一方、ほかの地域の方々にとっては早く聴きたかった楽曲ですよね。
そうなんですよね。“いつリリースすんねん”みたいに言われていたんですけど、ようやく出せることになりました(笑)。
あと「ただいま」は、ライブで演奏し続けてきた曲なので、ファンの方からしても“ようやくあのライブ曲が音源化される”ということで楽しみにしてもらえているみたいで、ありがたいですね。
──『よんチャンTV』は2021年より放送開始していますが、この2曲を書き下ろしたのはさらにその前ということでしょうか?
そうですね。コロナ禍真っただ中の“おうち時間”と言われていた時期でした。世の中にどんよりと暗いイメージがある中で、番組プロデューサーから、“できるだけ関西の日常を届けたい”、“極力明るい番組にしたい”とお話をいただいたんです。
それで、“こんな日常だけど、僕たちが思ってる以上に日常は素晴らしいもので、退屈ではない”というテーマで書き下ろしたのが「嗚呼、素晴らしき日常」という楽曲でした。
──原作もストーリーもなく、さらに放送開始前の新番組への書き下ろしということで、アニメなどの映像作品の書き下ろしと比較し、何か違いを感じる部分はありましたか?
それまで放送されていた『ちちんぷいぷい』(MBS)というワイドショーのことも知っていましたし、実は『よんチャンTV』に出演するコメンテーターやアナウンサーが知り合いだったりもしたので、どんな番組になるか、ある程度は予想できていたんです。なので、映像作品の主題歌を作る時とあまり変わらないフォーマットで作っていけた気がしますね。
あと、カタカナ名義とは違って、漢字名義の時は“生活感”を出して曲を書くことが多いので、そういう意味でもフィット感がありました。無理をしていないというか、書くことには苦労しませんでしたね。
──過去のインタビューで、“アニソンや提供曲は基本的に作品や相手ありきで、ソングライターとしては、自分の中のメッセージを切り取って書くことが多い”と語っていましたが、今作の立ち位置はどのように考えましたか?
後者にあたるとは思うんですけど、もちろんタイアップ性もあるので半々ですかね。ただ、すべてをエンタメに振っているわけではなくて、自分の身に起こったことや自分が考えているメッセージもアニソンより多めに配分されているので、どこかリアリティを感じてもらえるんじゃないかなと思います。
──“自分が考えているメッセージ”を表現するにあたって、アコギがもたらしてくれる力を感じることはありますか?
100%がアコギから来ていると思います。アコギの良さって、すぐに音が出ることだと思うんです。エレキやベース、ドラムやピアノは、場所もとるし、特別な場所に行かないと音が出せない。かたやアコギは、リビングや寝室でもつま弾くことができるし、路上でも弾ける。
アニソンを作る時も、アコギでとっかかりを作ることが多いんですけど、それって一体どういうことなのかと考えてみると、音と心の距離が近いからなのかなと思うんです。表現したいものをすぐに奏でることができる“直結感”が良いのかなと。だから、アコギは僕の音楽人生になくてはならないアイテムですね。
──以前、“アニソンもアコギ弾き語りから作る”と語っていましたが、そこは現在も変わりませんか?
いえ、実は最近変わってきました。最近、アニソンの制作には引き出しの多さが問われているなとよく思うんです。
どういうことかというと、理想の音にたどり着くまでの“最短距離”を走れる人というのは、引き出しがすごく多くて。それは経験からくるものだったり、ガジェットの扱いにおける素早さや瞬発力もあると思うんですけど、弾き語りで作ってからDTMに持っていくのはやっぱり“最短距離”ではないので、まわりのクリエイターのスピードに追いつけなくなってきたんですよね。
だから最近はパソコンを開きながら、アコギを抱えて作ることが多いですね。弾き語りベースから作るというよりも、DTMのトラックに対してアコギでセッションするスタイルが増えてきました。
──漢字名義の制作の場合はどうでしょうか?
漢字名義は、変わらず弾き語りベースから作っていますね。ライブではひとりで弾けないと意味がないので、その再現性の担保も含めて、アコギ弾き語りから作っています。
演奏している人の指先まで見えるアレンジにしたい
──具体的に、曲作りはどのように進めていくことが多いですか?
基本的にはコードとメロディから作っていくスタイルですね。コードとメロディをつま弾いていると、部分的に言葉が出てくるので、その言葉をクロスワード的に埋めていくというのを、バンド時代の25年以上前から続けています。
──イントロから順に作っていく方もいれば、サビから作っていく方もいますが、大石さんはいかがでしょうか?
7割方がサビからですね。イントロやAメロ、Bメロから作る時もあるのでまちまちではあるんですけど、結局、日本人の作家なので、サビで“これを言いたい”というメッセージがあったほうが構図的にもわかりやすいと思うんですよね。
でも、アニソンを書く時は少し変わってきました。頭から書き始めるスタイルが多くなってきた気がします。
──その理由は?
サビから作るというフォーマットに飽きてきたんです(笑)。で、自分のモチベーションを保つためにも、音楽の楽しさを別のやり方で掘り出してみようということで、手を変え、品の変えながら作っています。
面白いことに、頭から作った曲は転調が多くなったりするんですよ。あまり気をつかわなくていいというか、どこに行くのかが未知数で楽しいんです。イントロで転調しちゃうとか、Aメロに入ったら変えちゃおうとか、どこか実験的な作り方になっていっていますね。
──「嗚呼、素晴らしき日常」は、どのようなことを考えながら作っていきましたか?
明るくて、リズムが速くて楽しい曲、にぎやかな曲にしたいと思っていました。あと、カタカナ名義とは違って、優しい声のトーンが出るように、キーを少し低めに設定しているんです。そういうところも意識していましたね。
──この曲はストリングスやピアノなどがメインのアレンジになっていて、カタカナ名義のような大きなスケール感を感じました。アレンジ面ではどのようなことを考えていましたか?
派手で華やかに彩りたかったので、ストリングスやピアノを全面に出したアレンジにしていますね。
でもアレンジにおいては、自分の中でひとつの考え方があるんです。それは漢字名義とカタカナ名義の違いでもあるんですけど、漢字名義の時は、誰が演奏しているのかが見える、“演奏感”のあるアレンジにしたいと思っているんです。だからこの曲もドラム、ベース、ギター、ピアノ、ストリングスそれぞれのピースが、生のバンドのように集まっているように感じられるように作っていきました。
逆にカタカナ名義は、実はもっと派手なんですよ。アニソンは、おもちゃ箱をひっくり返したような音の羅列やアンサンブル、セクションごとの変化も多くて、そういう構成の面白さや情報量の多さだったりが作る上での楽しさなんです。
漢字名義ではそういうのは除外して、演奏している人の指先まで見えるように、それぞれの楽器を尊重したトラックを作りたいと思っています。
──カタカナ名義の時は、アレンジャーと編曲を進める時もあると思うのですが、漢字名義での編曲はご自身でされていますよね?
そうですね。その理由はふたつあるんですけど、ひとつは自分のアイデンティティというか、大石昌良を濃度100%で濃縮還元した音源をお届けしたいというところですね。
で、もうひとつはリーズナブルだからです(笑)。外部のアレンジャーさんに頼むとやっぱりお金がかかるんですよ(笑)。
ただ、そうも言っていられなくなってきたなとも思います。僕にはできないアレンジをほかの誰かならできるということを知っているのに、つまり、音源がもっと良くなるとわかっているのに、そこに手を出さないのは、音楽の神様に対する冒涜なのかなと思ったりもするんです。それに、時代によって最適解も変わってくると思うので、そこは柔軟にやっていけたらいいなと思っていますね。
同じフレーズでも、ほかの誰かが弾いたら全然違う音源になる
──「ただいま」は、イントロからギターのフレーズが聴こえる楽曲です。街の喧騒のようなSEが入っていて、大石さんが路上でギターを弾いている画が思い浮かんだのですが、この曲はどのように作っていきましたか?
この曲は、もっと自分自身の経験に寄った曲にしたいと思っていました。“ただいま”と言えるのは、当たり前のことのようで、すごく尊いことだなと思うことがあったんです。最近も災害などで、自宅に帰りたくても帰ることができない“帰宅難民”の方々が話題になったりしましたけど、自分自身も体調を崩して、自宅に帰れない時があって。その時に“ただいま”って本当に尊い言葉だなと思って、その意味をかみしめるような曲を書きたいと思ったんです。
アレンジ面は、さっき言ってもらったような喧騒の音を入れて、街中でギターを弾いている雰囲気を出しているのもあるんですけど、トラップ・ミュージックにも通じるような打ち込みのトラックにガット・ギターとアコースティック・ピアノを合わせることで、異文化交流のような感じを出せたらいいなと思って作っていきましたね。
──この楽曲のレコーディングでは、ヤマハのナイロン弦ギター、NTX1200Rを使用していますか?
そうですね。このナイロン弦1本で録りました。
──この曲に、ナイロン弦のギターを選んだ理由はありますか?
ナイロン弦ならではの温かみや粒立ちの良さも含めて、鉄弦よりも打ち込み主体のトラックに合うと思ったんです。あと、鉄弦よりも“ただいま感”があるというか、”ただいま”というフレーズに対して、ナイロン弦のほうがアプローチ的に近い感じがしたんですよね。
ちなみに、楽曲でナイロン弦のギターを使うのは初めてではないんですけど、ここまでフューチャーしているのは初めてかもしれないです。
──レコーディングでナイロン弦のギターをプレイする時は、どんなところを意識していましたか?
バックに打ち込みのトラックが入っているので、AメロやBメロはシーケンスっぽく、アルペジオの規則性を極力乱さないようにプレイしました。で、イントロや途中のギター・ソロのようなパートは、僕が弾いているのがわかるように、生の質感を出せたら良いなと思っていました。
あと、一発録りにはこだわりました。部分ごとではなくて、イントロからアウトロまで一気に録っているんです。1曲の中で芯がとおるようにしたくて、そこは意識していました。
それに、ナイロン弦ならではというか、鉄弦では表現できない部分もたくさんあるんですよ。例えば、弦を引っ張るプルという奏法は、鉄弦だとスラップっぽくなるけど、ナイロン弦でやると味が出るんです。ナイロン弦はこすれる音すらちゃんと音楽になるので、そういった息づかいを感じられるように収録しました。
──いわゆる“落ちサビ”で、歌とギターのみのパートがありますが、そのパートのナイロン弦の音色が印象的でした。大石さんが楽曲制作において判断する“良い音色”の定義はありますか?
本人の姿が見えるのが一番良いなと思いますね。どのプレイヤーもそうなんですけど、“このドラムは誰が叩いてるのがわかる”とか、“このピアノのフレーズはこの人ならでは”とか、“これ絶対、大石昌良が弾いてるやん”みたいに言ってもらえるのが“良い音”なのかなと。
同じフレーズでも、ほかの誰かが弾いたらたぶん全然違う音源になると思うし、それってやっぱり個性だと思うんです。ただ、それを意識してレコーディングすると、全然良い音で録れないんですよね(笑)。だから無我の境地みたいなところはあるんですけどね。本人さえ気づいていないような時に、プレイヤーが楽器を弾いてきたこれまでの人生が見えると“良い音”だと感じるんじゃないかと思います。
──そんな大石さんの“良い音”を堪能できるのが、9月23日に開催されるワンマン・ライブ“大石武道館 ~大石昌良 弾き語りワンマンライブ at 日本武道館~”ですね。最後に、ライブの意気込みをうかがえますか?
漢字名義でのワンマン・ライブとしては一番大きなステージになるので、どんな風になるのか自分でも未知数なんですけど、来てくれた方々を巻き込みながら、自分なりの弾き語りワールドを展開したいなと思っています。
“弾き語り”と言うと、ジャカジャカと弾いたり、アルペジオでバラードを弾いたり、そういうイメージがあると思うんですけど、僕の弾き語りは“アコギ1本でこんなことできるんだ”ということをステージ上でやったりするので、武道館というスケールで自分なりにうまく魅せられたらいいなと思っています。
あとは、漢字名義ならではの人間味を感じられるんじゃないかと思います。エンタメ性とはまたちょっと違う、自分の人間的な部分が出たら良いなと思いますし、それを感じてもらえたらうれしいですね。
大石昌良『嗚呼、素晴らしき日常』
Track List
- 嗚呼、素晴らしき日常
- ただいま
- 嗚呼、素晴らしき日常 (Instrumental)
- ただいま (Instrumental)
TIME IS MONEY RECORDS / Flying Pan RECORDS/WAGE-13014/2026年9月9日(水)リリース
Download&Streaming:https://lnk.to/buFzro

















