自分たちの音楽の延長線上で、ブルーグラスの要素を取り入れられた
──前作の『野原では海の話を』(2025年)は“APPLE VINEGAR – Music Award”で大賞を受賞、またリリース記念の全国ツアーを成功させたりと、充実の1年だったと想像します。これらの活動が今作の制作にもたらした影響などはありましたか?
今回のアルバムは2025年の9月頃から作り始めたんですけど、ツアー最終日のSHIBUYA CLUB QUATTRO公演も9月だったので、この公演を通じて感じたことはアルバムに反映できたと思いますね。
SHIBUYA CLUB QUATTROでのライブは、自分の中ではかなり大きな変化だったんです。500〜600人規模の会場は初めてだったので、ライブをとおして、“もっとこういう規模で音楽をやってみたい”と思う部分もありました。
それに去年のツアーは3ピースで回っていたんですけど、クアトロという大きな規模のライブを経験して、“自分たちももう1サイズ大きくならないとな”とも感じたんです。
そこで今作では、パーカッションの石崎元弥さんに新しく入ってもらったんです。自分たちの音楽の中で、元弥さんにどういう風に音を鳴らしてもらうかというのは、アルバムをとおして考えていきましたね。
──1st『カントリーサイドじゃ普通のこと』(2024年)は“カントリー寄り”、前作の『野原では海の話を』は“フォーク寄り”だったと過去のインタビューで語っていましたが、そういった観点で今作はいかがですか?
今回は、マンドリンやバンジョーなどのブルーグラスやカントリーで使われる楽器を入れることができたので、個人的にはカントリー寄りだと思っています。“楽しげなカントリー”というか。
──1曲目の「やわらかいくるま」は、まさに“楽しげなカントリー”という言葉がぴったりですね。
やっぱりマンドリンが入ると、よりカントリーやブルーグラスのサウンドに近づくんだなと勉強にもなりました。
ドラムが入っているので、正式にはブルーグラスではないかもしれないですけど、自分たちがやっている音楽の延長線上で、ブルーグラスの要素を取り入れられたのはすごく良かったなと思います。
──この曲にはギター・ソロのパートもあります。眞名子さんの楽曲にギター・ソロが入るのは初めてですよね?
ちゃんと入れるのは初めてだと思います。“技術的にいけるかな?”と当初はちょっと不安に感じた部分もあったんですが、自分は曲で取り入れることでおのずとうまくなっていくタイプだと思うので、やってみることにしたんです。
メロディ自体は思いつきなんですけど、ブルーグラスの典型的なフレーズをちょろっと入れて、そこから広げていきました。
──「やわらかいくるま」のセルフ・ライナーノーツには、リファレンスとしてポール・マッカートニー作曲の「Goodbye」とゲーム音楽の「アスレチック」(ヨッシーアイランド)が挙げられています。この2曲を結びつけるという遊び心に眞名子さんらしさを感じました。
実は、「やわらかいくるま」の前に作っていた曲があったんです。それはR&Bのような雰囲気で作っていたんですけど、自分の中でうまくアイディアが広がらなくて。“こういう曲にしたい”と思って作っていたら、アイディア元そのものになっていると気づいて、ダメになってしまったんです。
そのあと、「やわらかいくるま」を作る中で、“自分らしさ”というのは自分が聴いてきた音楽が良い意味でリンクしていくということなのかなと思ったんですよね。
──この曲も含め、セルフ・ライナーノーツで多くの楽曲のリファレンスを明らかにしていますよね。ここまで明確にリファレンスを語るアーティストはあまり多くないと思うのですが、なぜ明らかにしているのですか?
まず、リファレンスを隠したい人は恥ずかしいからだろうなというのは、気持ちとしてはわかります(笑)。
でも、基本的にセルフ・ライナーノーツを読む人たちはアルバムを買ってくれた方々というのが前提としてあるので、自分たちの音楽に興味を持ってくれた人が、“こういう曲をもっと聴きたい”と思った時のひとつの道標になれば良いなと思うんですよ。
自分自身、アメリカのカントリー・ミュージックから影響を受けて音楽をやっているので、世界には素敵な音楽がたくさんあると知ってほしいですし。こういうところからカントリーの文化が広がっていけば良いなという思いで音楽をやっているというのもあるので、リファレンスを書いているんです。
みんなで試行錯誤しながらどんどん良くしていく
──「右目に稲妻」は、パーカッション楽器の音色がアコギの音色と混ざり合って気持ちいい楽曲です。パーカッションを入れるのは初めての試みとのことですが、パーカッションとアコギの相性についてはどのように感じましたか?
めっちゃかっこいいなと。あと、意外と合うんだなと思いました。
この曲では元弥さんがバウロンというアイルランドの民族打楽器をプレイしているんですけど、元弥さんの影響もあって、最近はアイリッシュ系の音楽を聴いてみたりもしているんです。
アイリッシュ音楽って、カントリーっぽい部分があると思うんですよ。フレーズの運び方や使う楽器が違うだけで似ているところがあると思っていて。そういうのもあって、やっぱり相性は良いと思いますね。
──この曲では、アコギも同じリズムをくり返す形でリズム楽器としての役割を担っていますが、リズム・メイクでこだわるポイントは?
基本的に、アコギはリズム楽器としてとらえているんですけど、弾き語りで曲を作っている段階で“こうやって弾こう”と決めていても、ドラムが入るとまったく変わるんですよ。
「右目に稲妻」に関しては、もともとはイントロだけ3フィンガーのアルペジオで弾いて、場面が変わるところからストロークで弾いていたんですけど、ドラムと合わせる中で、1曲をとおしてストロークでやったほうが良いなと思ったんです。
で、そこに少しフレーズを入れることで、アコギとしての音の存在感も出るし、リズム楽器としても成立するという、“良い塩梅”を見つけることができました。
──アコギのリズムが変わるだけで曲の印象はガラッと変わりますよね。
そうなんですよ。そこの足し算と引き算がすごく難しくて、今作だと「法則」はアコギをどう弾くか、ギリギリまで悩んでいました。
ずっと“チャーンチャーン”って弾くだけだと面白くないから、メロディも入れつつ、でもリズム楽器としてはドシッとしておかないといけなくて。そのバランスを取るのが難しいんですよね。
──「薔薇を飾るなら」は、最後のサビ前に入るアコギとベースのキメのパートがかっこよくて耳に残りました。
これはドラムの谷(朋彦)さんのアイディアです(笑)。
もともとは“嫌な朝なら誰にでも”というパートを3回くり返して終わるイメージで作っていたんですけど、それだと少し味気ないということで、ラスサビに向かっていく流れを作ることにしたんです。
コードに関してはベースの稲葉(航大/Helsinki Lambda Club)さんがいろいろと試行錯誤してくれて、その中でキメがあったほうが映えるというので入れました。
──アレンジは全員で試行錯誤しながら組んでいくことが多いんですか?
そうですね。特に「薔薇を飾るなら」は一番時間をかけて作ったと思います。
スタジオに入って、その場でバーっと決めていくアーティストもいるらしいですけど、僕はできないので、みんなで試行錯誤しながらどんどん良くしていくことが多いですね。
“カントリー・ミュージシャン”としての責務を果たせた
──レコーディングや使用楽器についても教えてください。今作のレコーディングでは、普段から愛用しているギブソンのJ-50を使いましたか?
ギブソンのJ-50ですね。で、「楽しいだけじゃない」だけはヘフナーのPresident ThinE-2 Brunette 1964を使いました。
──アコギのレコーディングはどのように?
「弾き語りの男」は一発録りで、サウンドホールと手元あたりにそれぞれ1本ずつマイクを立てて録りました。それ以外の曲は、基本的にマイク1本で録っていたと思います。
──レコーディングにおけるアコギのプレイでこだわったポイントは?
例えば「弾き語りの男」は、けっこう雑に弾きました。ちょっとへたくそでも、より歌がグッとくるほうが良いなと思うんです。あと「法則」は明るい曲なので、重たくならないように細かく刻むというのを意識していましたね。
でも、ライブだとまた全然変わってくるんですよね。「右目に稲妻」は、もともとは指で弾いてたんですけど、バンドの中だとアコギが埋もれちゃうからピックに変えたほうが良いなと思ったり。ライブで弾き方が変わることもありますね。
──話は戻りますが、「楽しいだけじゃない」は、作曲もヘフナーで行なったんですか?
いえ、アコギで作りました。レコーディングもギリギリまでアコギでやろうと思っていたんですけど、スタジオにエレキがあったので、みんなに“エレキを試してみなよ”と言われて……。自分はアルバム全編をアコギでやったほうがいいと思っていたんですけどね(笑)。
──それはなぜですか?
アルバムをとおして、“ポップな雰囲気で録りたい”、“ブルーグラスやカントリーの楽しいところをやりたい”と思っていたのもあって、エレキではないと思っていたんです。
ただ、少し気が早いですけど、次の作品ではもっとエレキを使って、よりスケールを大きくしていきたいと考えているんです。「楽しいだけじゃない」はそういう考えに向かうひとつのきっかけにもなりました。
──ここまでアルバムについてお話をうかがってきましたが、改めてどんな作品になったと感じていますか?
前作はフォークの要素が強かったので、今回は自分の好きなカントリーやブルーグラスなどで使われている楽器をちゃんと使えたというのが自分の中では大きかったですね。
マンドリンやバンジョーを使う日本のミュージシャンはそこまで多くないと思うんですけど、自分は“カントリー・ミュージシャン”として歌っているので、その責務を果たせたかなと思っています。
あと今回、バンド・メンバーが増えたことで、いろいろ考えることも増えた分、しっかり成長できましたし、自分でもナイス・チャレンジだったなと。
前作から1年が経って、進化はできている感覚がありますし、良いアルバムができたなと思うので、そういう部分が“良くなった動物”というアルバム・タイトルで表現できていると感じていますね。
眞名子 新 2nd Album『良くなった動物』
Track List
- やわらかいくるま
- 右目に稲妻
- 薔薇を飾るなら
- 角(つの)
- 弾き語りの男
- 法則
- 準備しますので
- 楽しいだけじゃない
- 海辺の観覧車
- ボイルド・エッグ
SPACE SHOWER MUSIC/PECF-3306/2026.06.17 Release

















