“魔女”は自信と発信する勇気を持つ存在
──1曲目「Edelstain」は、ドイツ語で“宝石”という意味のタイトルで、明るいメロディが印象的な楽曲ですね。1:32からリバーブ感が増しますが、これにはどんな意図がありますか?
“この曲を聴いた人は幸せになる”という願いを込めた魔法の曲で、1:32からのパートは“魔法がかかる瞬間”なので、リバーブを強めています。
──この曲を弾いてみたい方に、アドバイスはありますか?
“ギターを弾く”という感じではなく、“ギターに魔法をかける”ような感覚で音を鳴らしてほしいです。
──2曲目の「Orange Rogue」はトラディショナルな楽曲ですが、この曲を選んだ理由は?
アルバム前半の魔女カテゴリーで、唯一のカバー曲として「Orange Rogue」を選んだのは、曲調、リズム、歴史的背景が、今作のコンセプトに完全に合致したからなんです。
この曲との出会いは数年前ですが、今回さらにカントリー音楽を掘り下げる中で、ケルト音楽やアイリッシュ音楽と出会い、そして中世ヨーロッパからアイルランドの魔女伝説まで触れることになりました。
アイルランド伝統音楽、舞曲としても有名な曲なので、アイリッシュ・ダンスの起源も調べてみたんですが、イングランドによるアイルランド支配時代、自国の伝統文化を守るために、足だけでリズムを刻んで踊っていたことが起源と知りました。また、かつては窓の外にいるイギリス兵の監視から逃れるため、上半身を動かさず、足だけで踊ることで密かに継承された文化でもあるそうです。
そうした歴史的背景に衝撃を受け、“困難な時をどう生き抜くのか”、“個性の在り方をどうするのか”という舞曲に隠されたメッセージ性が、私が考える“魔女とその歴史”にもリンクし、今回カバー・アレンジ曲として収録しました。
──アレンジする上でこだわった部分は?
楽曲の背景を私なりに解釈して音に落とし込みましたね。原曲のメロディ・ラインにハイ・ポジションのメロディを加えることで、ドラマチックに聴こえるようにしています。
──2023年にYouTubeに演奏動画をアップしていますが、あの時とはキーが違ったりと、さまざまな変化がありますね。
複雑なベース&リズムとメロディ・ラインをわかりやすく聴かせるために、キーを上げたのと、奏法的には、低音域と高音域の良さが際立つように、音の分離感を意識して弾きました。
あとは、以前のアレンジに、テーマの2回し目の後半でさらにハイ・ポジションのメロディを加えることで、物語性を強調しています。“それでも個性を大切にしたい”という思いを旋律に落とし込みました。
──「ヴァルプルキスの夜」も以前のバージョンと比べるとキーやBPMに変化があります。
この曲を私なりに味わいながら弾き慣れていく中でそうなっていきましたね。“ヴァルプルキスの夜”は、年に一度、世界中から魔女が集まるお祭りで、そこで魔女たちは踊るんです。その踊っている感じを出すために、少しBPMを下げて収録しました。
──「Angriff」はボディ・ヒットのサウンドが多く聴こえますが、どのようなこだわりがありますか?
この曲は、“避けては通れない戦い”をイメージした曲なんです。その争い感を出したかったのと、争いをどうやって解決するのかというのを意識してプレイした結果、自然に生まれた音です。ちなみに叩いている部分は、ボディ・トップとボディ・サイドの2ヵ所ですね。
──KOYUKIさんにとって、“魔女”とはどんな存在ですか?
私にとって“魔女”は、自分の心に抱く自信を大切にしていて、発信する勇気を持っている存在なので、その思いを胸に演奏しています。
“KOYUKIが弾いている”とわかるプレイを目指した
──「Luis & Clark」は、トミー・エマニュエルのバージョンに忠実なプレイですね。過去のインタビューでは、“なるべく原曲どおり、かつ自分のサウンドでカバーしたい”と話していましたが、現在もその考えは変わっていませんか?
以前、トミー自身も“カバーをしてもらうのはうれしいけど、するなら正確にしてほしい”と話していたんです。私にとってトミーは特別な存在なので、その思いを大切にしたくて、なるべく忠実に弾きました。
ただ、カバーへの思いは変わらないですが、そこに自分なりのエッセンスをどう落とし込むかが今回の作品では重要だと感じましたね。カバー曲だけど、“KOYUKIが弾いている”と気づいてもらえるプレイを目指しました。
──カントリー楽曲を弾く時、“KOYUKIらしさ”を出すために意識していることは?
すごく考えさせられる質問だなと思ったんですけど、リズム感やノリを意識しながら、正確なピッキングを心がけているので、それらによって私らしい音になるのかなと思います。
──「Anji」は、有名なポール・サイモンのバージョンと比べると、KOYUKIさんのプレイは縦のリズムが正確なのが印象的でした。
「Anji」に関しては、多くのギタリストがアレンジしているので、他の人のプレイの好きなところをピックアップし、不透明なフレーズやリズムを私なりにわかりやすく伝えようと思いながらアレンジしましたね。
──影響を受けた「Anji」のプレイはありますか?
ポール・サイモンとバート・ヤンシュの「Anji」ですね。ふたりのプレイに私なりのエッセンスを加えました。ベース・ラインのアクセントなどがそうです。
──今作で、一番レコーディングに時間をかけた曲はどれですか?
自分のオリジナル曲は何回も録り直しました。一番印象に残っているのは「Green Witch」のイントロです。最初はゆっくりで、だんだん速くしていくんですが、遅すぎても速すぎても“何か違うな”と思って、何度もやり直しました。
──今作のレコーディングで使ったギターについて教えてください。
カントリー曲はマーティンの0-18で、魔女の曲はメイトンのKOYUKI CUSTOM 2022という使い分けだったと思います。
──最後に、改めて今作の注目ポイントを教えてください。
カントリー音楽やルーツ音楽を私なりに解釈する中で、私の音楽(魔女=個性の発信)とともにお届けしたいというところから始まった企画でした。言葉では表現できない部分もあるので、ぜひお手に取ってその感覚を味わってもらえたらうれしいです。CD付属のブックレットには曲の説明もあるので、それを読みながら聴いてみてください!
『KOYUKI〜Country & Witch〜』KOYUKI

KNRS1002/2025年4月23日リリース
- Edelstein
- Orange Rogue
- ヴァルプルギスの夜 (2025 ver.)
- Green Witch (2025 ver.)
- Angriff
- TIME TRAIN (2025 ver.)
- Get Going (2025 ver.)
- Lewis & Clark
- Digitalia
- Black Mountain Rag
- Little Martha
- The Last Steam Engine Train (2025 ver.)
- Anji