それが初めてもらったギャラだったんです──ひぐちけい
──まずは、コレサワさんがアコースティック・ギターを始めた経緯から教えてください。
コレサワ 中学生の時、YUIがすごく大好きで、“ギターを弾きながら歌う女の子かっこいいな”って思ったんです。それでクリスマス・プレゼントとして、1万円くらいのアコギの初心者セットを父親に買ってもらいました。その時にとりあえず“弾き語り初心者ブック”みたいな本を買って、1曲目に載っていた「きよしこのよる」を部屋で弾いたのが最初でしたね。
──高校時代はバンドを組んでいたそうですが、そこでもアコギを弾いていましたか?
コレサワ 弾いていましたね。YUIのカバーとかをやっていました。
──高校3年生の時にソロ活動がスタートしますが、アコギでの弾き語りというスタイルを選んだ理由は?
コレサワ バンドは誰も真剣にやっていなかったというか、それぞれ将来の夢があって、部活としてやっていたんです。でも私は“音楽でやっていきたい”ってふんわりと思っていて、ひとりでできるとなるとアコギ弾き語りだなって。ピアノは持っていくのが大変だし、アコギは軽くてどこでも弾けるのがいいなと思ったんですよね。
──ギター・マガジンWEBのインタビューでひぐちさんが話していましたが、ひぐちさんがPAとして働いていたライブハウスのGee-geで、ふたりは出会うんですよね?
コレサワ けいちゃんがPAになりたての頃だったっけ?
ひぐちけい そうそう。ライブやリハが始まる前の時間に、空いている時間でPAを練習できる会をやっていたんです。コレちゃんはそこに“タダでライブハウスを使える美味しい話”っていうので来てくれたんだよね。
──その練習会では、ひぐちさんがPA卓に、コレサワさんはステージにいたということですね。
コレサワ Gee-geは、私が東京に出て来て一番お世話になって、下積みもいっぱいしたハコなんです。本当に最初の、Gee-geに出始めた頃だったと思います。
──そこから一緒にライブをするようになる経緯は?
コレサワ まず、けいちゃんがクレープを奢ってくれて、“この人、良い人だ!”ってなって(笑)。
ひぐち それから、うちにもよく来るようになったんです。それで、一緒にギターを弾いている時に、エレキでちょろちょろって弾いていたら、“けいちゃんエレキ・ギター弾けるの? それならライブやろうや”みたいな感じでしたね。
コレサワ そうだったんだ。昔すぎて覚えてない。
ひぐち 話は逸れますけど、一緒にライブをやった次の日も私はGee-geで働いていて、コレちゃんから“今日お店にいる?”って連絡がきたんですよね。そしたら、学校帰りにアコギを背負ってきたコレちゃんが、“けいちゃん、これ!”って、封筒をくれたんです。その封筒には“ありがとう”って書いてあって、中に1000円が入っていたんですよ。
コレサワ ギャラが安い! 安すぎる(笑)!
ひぐち でもそれが初めてもらったギャラだったんです。なので、その封筒をそのまま残しているんですよね。旧札の前の旧札だったけど、夏目漱石の(笑)。
コレサワ うそー! “うちから初めてもらった1000円”って、いつかプレミアつくね(笑)。
ひぐち 1000円以上にはなる気がする(笑)。
“これを入れたらコレサワ・サウンド”っていう共通認識があるんです──コレサワ
──では、ニュー・アルバム『あたしを選んだ君とあたしを選ばなかった君へ』について聞かせてください。今作を制作する中で、コレサワさんがひぐちさんに相談したことなどはありましたか?
コレサワ いつもはあまりないんですけど、今回はどういう曲をリードにしたらいいかを悩んでいた時に相談しましたね。“自分の歌いたい曲か? 世間が聴きたい曲か?”って。そういう話をファミレスで聞いてもらって。けいちゃんは、“コレちゃんの歌いたいものがいいんじゃない?”って、背中を押してくれました。
────ひぐちさんは今作の制作にも参加していますね。
コレサワ けいちゃんがアレンジしてくれた「君がおじいちゃんあたしがおばあちゃん」と「シュシュ(コレシアター05 Ver.)」(CD限定収録曲)が入っていますね。
あと「かわいいもん」は、初めてha-jさんにアレンジをしてもらって、今までの“コレサワ・サウンド”とは少し違う、新しいサウンドになったんです。でも、けいちゃんがいつもの音でエレキを入れてくれたことによって、新しいサウンドと今までのサウンドが融合したものになったなって思っています。
──「君がおじいちゃんあたしがおばあちゃん」と「シュシュ(コレシアター05 Ver.)」のアレンジをひぐちさんに依頼した理由は?
コレサワ コレサワでずっとエレキを弾いてくれているので、“これを入れたらコレサワ・サウンド”っていう共通認識があるんです。だから任せやすいというか、“コレサワの感じで!”って渡せちゃうんです。
ひぐち ギタリストになる前から一緒にやっているので、ちょっと弾いた時に、“それは嫌や!”とか“それ可愛いやん!”みたいなことを言われて育ってきているんですよ。コレちゃんが“嫌や!”って言ったものは、ほかの現場でも弾かなくなってる(笑)。
コレサワ それは弾いてあげて(笑)。
──(笑)。「君がおじいちゃんあたしがおばあちゃん」は、冒頭が指弾きでのアコギのバッキングですが、これはどのように作っていきましたか?
ひぐち なるべく手グセでいかないようにしようと思って作りましたね。コレちゃんのコード進行はけっこう特徴があるので、それだけで“コレサワ・サウンド”って感じがするんです。でも、せっかく自分がやるってことで、ちょっとだけ弾き方を変えたのかな。コレちゃんの弾くような感じからは、あえてちょっと変えたところはあったと思います。あとは、コードもちょこっと違うものを入れたりしてるよね?
コレサワ そうだね。アレンジャーさんが作るアコギのアレンジは難しいので、いつも“簡単なものでお願いします”って言うんです。なのに、みんな難しいものを入れたがるんですよね……。
ひぐち 1番と2番でコードが違ったりね。
コレサワ 頑張って練習するんですけどね。でも、「最上級にかわいいの!」は難しすぎて、アレンジャーさんに弾いてもらいました。今作だと、この曲だけアコギを弾いていないです。
わりとなんでも“コレちゃんの音”になるんですよね──ひぐちけい
──10曲目の「朝帰り」は、アコギ弾き語りの楽曲ですね。この曲についても教えてください。
コレサワ いつもEPやアルバムを作る時には、弾き語りの曲を1曲入れるようにしているんです。弾き語りは私の原点でもあるので、アコギだけのサウンドの曲を絶対に入れたくて。で、今回は「朝帰り」を、アコギだけで歌うための曲として作りました。
こういう曲は、ふんわりした気持ちでアコギを弾きながら作っていくことが多いので、レコーディングもなるべく家で弾いている感じを出してもらうようにしましたね。
──“家で弾いている感じ”を出すために、どのような工夫をしたんですか?
コレサワ 「朝帰り」は、家にずっとあるギターで弾いている感じを出したかったので、古い弦のまま弾きました。弦って、家ではそんなに気合い入れて変えないじゃないですか。
で、マイクも離れたところや近いところと、いろんな場所に置いたものをエンジニアさんがミックスしてくれました。
──レコーディングで使ったギターについても教えてください。
コレサワ レコーディングは生音を録るので、生音が一番いいものを使います。育ててきた年数的に、“ハミーちゃん”(編注:コレサワのメイン・ギターであるギブソン Hummingbirdの愛称)が一番いい音がするので、それ1本でやっていますね。
──レコーディングで、コレサワさんが特にこだわる部分はなんでしょうか?
コレサワ 私はこだわるのはピックの薄さだけですね。ピックを何種類か持っていって、レコーディングでは、曲によってどれが一番合うかを聴いて決めています。
ひぐち コレちゃんのアコギって、わりとなんでも“コレちゃんの音”になるんですよね。あんまり知られてもないだろうけど、コレちゃんはめちゃめちゃアコギがうまいと思うんです。
コレサワ あ、気づいちゃった(笑)?
ひぐち (笑)。よく見ていると、右手の角度とかがすごい。左手はそんなに上手じゃないし、コードとかもあんまり知らないけど、ストロークだけをやってきた分、その上手さがすごい。あまりブレないし、手首が動かないというか。アコギを弾く上での“お手本”みたいな形をしているんです。これはすごいなって思っていて。基本的に、どのギターを弾いてもコレちゃんの音になるので、たぶんピックの薄さを変えるくらいしかないんだと思いますね。
コレサワ ストロークだけは自信がありますね。
──ストロークをする時は、どのようなことを意識していますか?
コレサワ アコギって、ただ弦を6本鳴らせばいいわけじゃないんですよね。ストロークの中でも、高音と低音を選んで弾くストロークがあって、その音の混ざり方だと思うんです。なのでこれは……センスかな(笑)?
ひぐち (笑)。たぶんコレちゃんは、“この響きがいい”みたいなお手本が頭の中にあって、それを弾いているんですよね。“この弦は鳴らさないほうがいい”とかも、ギターを弾いた上で耳で聴いて、どの弦をミュートするかを自然にやっているんだと思うんです。それが20歳くらいの時点でわりと完成していたイメージなんですよね。ほかの人も言っていたけど、20歳頃までの貯金でやりくりしているみたいな感じ。
コレサワ 練習貯金ね(笑)。確かに、20歳までどちゃくそ弾いていたんですよ。もう毎日毎晩、ストロークだけを一日中弾いていたんです。その頃の努力と思っていない努力が今を支えてくれているなって思います。昔の自分にありがとうと言いたいですね。左手は、貯金がないからズタボロなんですけど(笑)。だから、もし若い人がこれを読んでいたら、手が動くうちに叩き込めっていうのだけは伝えたいですね。
ひぐち 本当にそう。部屋でギターと一緒に寝ている時とかもあったもんね。
コレサワ うちはそこまではないけど(笑)。けいちゃんはあったんだね。
“変だけど、一番天才”だと思っています──コレサワ
──長年活動をともにしてきたふたりですが、ひぐちさんがコレサワさんから受けた影響はありますか?
ひぐち 小さいハコで一緒にやったりしていたので、曲中にエフェクターを踏む時のカチッて音がするのをすごく嫌がるんですよ。“うるさい!”みたいに言われて。なので、全部音が鳴らないシステムをになっていきましたね。パチーンって音がする機材は基本持っていないかも。
コレサワ 昔はカメラマンにもキレてたよね。“バラードでカシャカシャ撮るな!”って。ライブ中に、声と楽器以外の音を無闇に鳴らす人が許せなくて。
ひぐち 尖っていた頃だね。
コレサワ 今はもうそんなことは言わないんですけど、ちゃんとステージ上はこだわりたいっていうのがあるんです。けいちゃんはすごくそれに気を使ってペダルを踏んでくれますね。
──ひぐちさんはコレサワさんから見てどういうギタリストですか?
コレサワ 音に対してすごくこだわりを持って追求するオタク気質なところがあって、自分はここまでにはなれないって思います。だったら私はこだわるのをやめて、“こいつに任せよう”って。“どうしてこれが好きなんだろう?”っていうのをちゃんと考える、そういう音楽に対する姿勢は私にはない部分なので、見習いたいなって思います。
あとは何より、ギターがすごくいいんです。うまいフレーズが弾ける人はいっぱいいても、いいフレーズを弾ける人って限られているじゃないですか。そういうのって努力でもなくて、結局センスや生まれ持ったものなんじゃないかって思っているんですよね。けいちゃんが出られない時のために、いろんなギタリストを見るけど、同じような人はいない。だから……変な人です。変だけど、一番天才だなって思っています。
ひぐち うれしい。
コレサワ 演奏面だけじゃなくて、セットリストも一緒に考えてくれたり、ライブの演出もいつも一緒に作っているので、私たちが作るライブを一度観てもらえたら、コレサワのことをもっと好きになってもらえるかなって思っています。
6月からはバンド・ツアーが始まるんですけど、それに向けて面白いことをやりたいなって思いますし、面白いことをずっとやっていかなきゃって。けいちゃんは、私がサボろうとしたら“サボんなよ”ってすぐ言ってくれる人でもあるので、そうやって支えられていますね。
──9月には初の武道館公演がありますが、意気込みを聞かせてください。
コレサワ 昔から一緒に切磋琢磨してライブをしてきたけいちゃんと、ずっと一緒に戦場に立ってきた“ハミーちゃん”と、みんなで武道館に立てるので、“感動するのかな? 泣いちゃうのかな?”とかって想像しています。でも、終わるまでは安心できないし、終わってからじゃないと“やったね”って思えないかなっていうのはあるんですけどね。
注目してほしいところは……アコギを持ちながらいかに動けるかっていうのを頑張りたいですね。武道館って広いですし、最近は回る練習もしているので。
ひぐち 確かに、回りながらちゃんとストロークしているのを見てほしいね。
コレサワ はい、アコギを弾きながらちゃんと動けるところを見てほしいかもしれないです。
『あたしを選んだ君とあたしを選ばなかった君へ』コレサワ

COCP-42459/2025年3月19日リリース
- あたしを選ばなかった君へ
- かわいいもん
- SPARK!!
- ほっぺた
- 浮気したらあかんで
- 元彼女のみなさまへ
- 最上級にかわいいの!
- お嫁さんになるの
- 君がおじいちゃんあたしがおばあちゃん
- 朝帰り
- にゃんにゃんにゃん
- ♡人生♡
- ファミレスへGo!
- シュシュ(コレシアター05 Ver.)※CDのみ収録