メイ・シモネスが語る、ジャズとボッサのセンスが光る1st作『アニマル』とアコースティック・ギター

ジャズやボサノヴァの語法を自在に操る注目の新鋭シンガーソングライター/ギタリスト、メイ・シモネスが待望の1stフル・アルバム『アニマル』をリリース。アコースティック・ギターでジャジィなメロディ・ラインを弾きながら歌う独自のスタイルは、本サイト読者にも刺さる人は多いはず! 今回は、ギタリストとしての来歴からアルバムでのプレイ、鈴木真海子との共演まで、気になるトピックをアレコレ聞いてみた。

ちなみに彼女は生まれも育ちもアメリカだが、日本にもルーツを持つ。インタビュー終了後に“日本語が完璧じゃなくて、ちょっと変なところあったかもしれない”と謙遜してはいたが、しっかりとした美しい日本語で語ってくれた。

文=福崎敬太 Photo by Sophie Minello

アコースティック・ギターを弾くようになったのはけっこう最近です

メイ・シモネス
Photo by Zack Giller

──まずは、11歳の時にエレキ・ギターを始めた経緯から聞かせてください。

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、メイン・キャラクターのマーティがギターを弾いているシーン、チャック・ベリーの曲を弾いているのを観て、すごくカッコ良いな、ギターを弾きたいなって思って、そこからレッスンを始めたんです。

──その頃はどういった音楽をプレイしていましたか?

 実は最初は、ナイロン・ストリングのギターを買ってもらって、“鈴木式(スズキ・メソード/バイオリニストの鈴木鎮一が考案した音楽教育法)”で始めたんだけれど、それは3ヵ月ぐらいしかやらなくて。「メリー・ハッド・ア・リトル・ラム」とか「トゥインクル・トゥインクル・リトル・スター」みたいな曲を弾いていて、私が持っていたロック・ギターのイメージと全然違う感じだったんです。

 そのあと、ロック・ギター・レッスンを始めて、ビートルズ、レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイドとか、みんなが最初に弾くような曲を始めて、ニルヴァーナみたいなバンドも好きになっていきました。

──高校でジャズ・ギターを始めたそうですが、そのきっかけは?

 ギターがすごく好きで、高校でギターを弾ける授業があるならやってみたいと思ったんです。だから最初は、ジャズが好きだったわけじゃなくて、“ギターを弾けるからやりたい”という理由でした。そこからすごくジャズが好きになって、もっとちゃんと勉強するようになったんです。

──そこではどういったレッスンがあったんですか?

 いろんなレベルがあったんだけれど、ジャズ・スタンダードの弾き方、ハーモニー、セオリー、いろんなスケールを弾いたり。あとは、いろんなソロイストのトランスクリプション(記譜/コピー)をやったり。そういうジャズを最初に弾き始める時に、普通に学ぶことをずっと練習していました。

──それはずっとエレキ・ギターで弾いてきたと思うのですが、アコースティック・ギターを本格的にプレイするようになったのはどういった流れでしたか?

 一番最初のアコースティック・ギターは、高校に入ったちょっとあとに自分で買ったんですけど、ホーナーのアコースティック・ギター(EL1-S00CE)で。それでもずっとエレキ・ギターを弾いていて、アコースティック・ギターを弾くようになったのはけっこう最近ですね。

 1年半ぐらい前に最初のアルバム『アニマル』の作曲をしてる時、なぜかエレキ・ギターよりアコースティック・ギターがスタイル的にも合っている感じがしたから、その時期はずっとアコースティック・ギターで作曲していたんです。

──2022年にクリフォード・ザ・バンドの「シープスキン」に参加されていますが、プロ・ギタリストとしての活動はこのあたりが最初でしょうか?

 ギタリストとしての活動は、その前からいろいろやっていましたね。高校の時もパーティーでジャズを弾いたり、大学の時も友達のバンドでギターを弾いたり、レコーディングもしていました。

 そのあとは『ツキノ』(2022年)っていうEPだったり、その前の「エイチフォーアス(Hfoas)」(2020年)っていうシングルとか、自分の音楽を出しながら、時々ギター・レッスンを教えたり。

Mei Semones · Tsukino
Mei Semones · Hfoas

一緒に歌うとフレージングがもっと自然になる

メイ・シモネス
Photo by Julia Saule

──メイさんのプレイでは管楽器的なメロディ・ラインなども多く聴けますが、影響を受けたアーティストにはどんな人がいますか?

 やっぱりジャズを勉強してきているので、チャーリー・パーカーはいっぱいトランスクライブしているし、あとはジョン・コルトレーンがすごく好きでほとんど毎日聴いているからけっこう影響を受けていると思う。ギター以外だとビル・エヴァンスやバド・パウエル、セロニアス・モンクとか、そういうジャズのピアニストも聴いてトランスクライブしているので、ギター以外の影響はいっぱいあると思います。

──アコースティック・ギターを弾くプレイヤーだとどうですか?

 ボサノヴァをナイロン・ストリングで弾くことが多いんだけれど、ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビン、そういうアーティストもすごく好き。あと、ビレリ・ラグレーンが弾くアコースティック・ギターも。

──メイさんのメロディをギターで弾きながら歌うスタイルはどのように生まれたのでしょうか?

 大学の時にプロフェッサーによく言われたのが、ジャズ・ギターのソロの練習をしている時は、一緒に歌うとフレージングがもっと自然になるっていうことで。どこで息をするかとか、そういうことを自然と考えるから、フレージングが良くなるって言われたんです。

 最初は練習としてやっていたんだけれど、曲に使ったら聴いていてインタレスティングだから、入れようって思ったんです。

──では歌のメロディもギターから作ることが多いんでしょうか? 例えば「ザリガニ」のボーカル・メロディもジャジィです。

 そうですね。だいたいギターで考えて、歌うっていう感じです。「ザリガニ」のラインは、ジョン・コルトレーンのリックをちょっと長くして、少し変えた感じですね。

私もバンドもみんな頑張って作ったアルバムだから、誇りに思う

──今回の作品『アニマル』はどんなアルバムに仕上がったと思いますか?

 すごく好きな曲がいっぱい入ってるし、私もバンドもみんな頑張って作ったアルバムだから、誇りに思う、っていう感じかな。今までアルバムを作ったことがないから、こんなにいっぱい曲作れてよかったなって思っています。

──「ダム・フィーリング」はイントロのフレーズがジャジィで印象的です。このフレーズはどう考えたのですか?

 最初の半分はチャーリー・パーカーのリックにインスパイアされたもので、最後のほうは大学の時にプロフェッサーがソロ・ジャズ・ギターのアレンジで見せてくれた、「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス」のコード・アレンジを使っています。そのふたつを一緒にして、こういうフレーズにしたんです。

──「アイ・キャン・ドゥ・ホワット・アイ・ウォント」や「ラット・ウィズ・ウィングス」はハーモニクスを効果的に盛り込んでいますね。

 インスタで好きなギタリストが何人かいるんだけれど、ハーモニクスがすごく上手なギター・ビデオを観て、私も曲に使ってみたいなって思ったんです。あと、自分的にも弾くのが難しい曲を書いてみたいなって。

──このアルバムでアコースティック・ギター・プレイヤーに聴いてほしいポイントみたいなのありますか?

 ハーモニクスもすごく面白いと思うし、「ラット・ウィズ・ウィングス」はいろんな速いフレーズが入っているんだけど、そういうところも。「トラ・モヨウ」もそうだけれど、アコースティック・ギターはストラミングだけじゃなくて、ソロ的なこともできるし、ハーモニクスもできるし、なんでもできる。そういうメッセージが伝えられたらいいなって思ってます。

バンドのみんなで行くのがすごく楽しみです

メイ・シモネス
Photo by Zack Giller

──今回のアルバムのアコースティック・ギターの音は、すごく部屋の空気を感じる音だと感じたのですが、レコーディングはどのように行ないましたか?

 アコースティック・ギターのレコーディングはほとんど、日本語でどう言うかわからないけど、牛とかが住んでいるバーン(Barn)として使われていたところでやったんです。大きなスペースで、音もその感じになったんだと思います。

──メイさんのように自由にギターをプレイできるようになりたい人は多いです。おすすめの練習方法を教えてください。

 ほかの人からそう思われるのはうれしいけれど、私はもっと練習しなきゃいけないし、自分的にはそんなに自由だと感じてないんです。

 でも、私はいつもスケールやアルペジオ、いろんなインターバルを練習していたし、好きなミュージシャンのソロをトランスクライブするのが多かったですね。あとは、ドロップ2とかドロップ3っていうボイシングのインバージョン(1オクターブ内に収まる和音構成の一部を1オクターブ下に変えるボイシングの考え)を練習したり。

 ジャズ・スタンダードのコードやメロディを学んだり、ジャムするのも大切だと思います。実は私はあんまりしていないんだけど、きっとほかの人と弾いたら、今よりすごく上手になれるって思っています。でもやっぱりほかの人と、そういう風にジャムとかするのは、ちょっと緊張する(笑)。

──メイさんでも、そうなんですね(笑)。最新作とは別に、鈴木真海子さんの「お酒を飲んだ夜(feat. Mei Semones)」での共演についても聞かせてください。

 真海子さんとはインスタで友達になって、私が日本に行った時にライブも観に行ったり、会うようになったんです。それで、真海子さんからコラボしないですかって言われて、真海子さんが歌詞やコードも書いてたんですけど、私がもうちょっとボサノヴァっぽい感じでアレンジして。いろんなラインやコード・テンションとかも足して、ちょっとジャズっぽくしたんです。

 真海子さんはいろんな音楽が好きだと思いますけど、ジャズが好きだから。私にギターをお願いされた時に、きっとジャズっぽくしてほしいのかなって思って、そういう風にしたんです。

──さて2025年7月のフジロックに出演されますが、楽しみにしていることはありますか?

 今までの日本でのライブは全部ソロでの弾き語りだったけど、今回はドラム、ベース、ヴィオラ、バイオリン、バンドのみんなで初めて行くので、それがすごく楽しみです。

『アニマル』メイ・シモネス

Track List

  1. Dumb Feeling
  2. Dangomushi
  3. Tora Moyo
  4. I Can Do What I Want
  5. Animaru
  6. Donguri
  7. Norwegian Shag
  8. Rat With Wings
  9. Zarigani
  10. Sasayaku Sakebu
  11. Itsumo(※日本盤CDボーナス・トラック)

ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ/BR066JCD(CD)/2025年5月2日リリース

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