歴史的名曲を生み出したHummingbird
2026年に結成64年目を迎えるザ・ローリング・ストーンズ。その長い歴史の中でも、1968年は特別な輝きを放つ年だ。ロック史に残る大名曲「Jumpin Jack Flash」が生まれ、アルバム『Beggars Banquet』が制作されたこの時期、ミック・ジャガーとキース・リチャーズのソングライティングは神がかった域に達していた。当時、ミックが曲作りの相棒として信頼を寄せていたのが、1963年製のギブソンHummingbirdだった。
ジャン=リュック・ゴダール監督の映画『ワン・プラス・ワン』(1978年)は、ローリング・ストーンズの制作過程を知る上で、大変重要な作品である。1968年6月4日から10日にかけて、ロンドンのオリンピック・スタジオで実施されたレコーディング風景が収められており、「悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)」が完成するまでの過程が描かれている。
まだフォーク調だった原曲をブライアン・ジョーンズに弾き語りで伝える場面で、ミックが手にしていたのが、1963年製のチェリー・サンバースト・カラーのHummingbirdだ。ちなみに、ブライアンはギブソンのSJ-200を手にしていた。
最高級のボーカル伴奏用ギター
ギブソンがHummingbirdを発表したのは1960年。世はフォーク・リバイバルのまっただ中で、それまで主流だったカントリー向けのJ-200や、ブルースマンらに愛されたJ-45とは異なる方向性が打ち出されたモデルだった。1961年のギブソンのパンフレットには“史上最高級のボーカル伴奏用ギター(one of the finest ever made for voice accompaniment)”というキャッチフレーズが掲げられていた。
マーティンを意識したようなスクエア・ショルダーのボディ・シェイプ、指板にはダブル・パラレログラム・インレイを配して高級感を演出。極めつけはハチドリがチューベローズ(月下香)の蜜を吸う姿を描いた大型ピックガードだ。その華やかなルックスはスポットライトを浴びて立つボーカリストを意識したもので、ミックが好んだ理由もよくわかる。
ドレッドノート・サイズのボディは、サイド&バックにマホガニーを使用。低域が過剰に主張することもなく、柔らかくまとまりのある中低域が心地よく響く。歌を包み込みながらも邪魔をしない伴奏向きの鳴りこそがHummingbirdの魅力だった。
キースも同色のHummingbirdを所有し、レコーディングでも使用した。「Jumpin Jack Flash」や「Street Fighting Man」(1968年)で聴けるギター・サウンドは、エレキ・ギターではなく、フィリップ製カセットレコーダーを通して歪ませたHummingbirdの音色だった。
伝説のHummingbirdの行方
しかし、1968年のレコーディングで使用されたミックのHummingbirdは、1971年にフランスのキースの別荘で行なわれた『メイン・ストリートのならず者(Exile on Main St.)』のレコーディング中に盗難に遭い、現在も行方不明のままだ。
ミックはよほどHummingbirdを気に入っていたようで、その後に1960年代製のHummingbirdを複数本買い直し、スタジオだけでなくステージでも使用した。1970年代のツアーでは「Wild Horses」、「Dead Flowers」、「Sweet Virginia」といったフォーキーなナンバーでHummingbirdを手にしていた。
2010年代のツアーでもその姿は健在で、近年、SNSなどでは自宅スタジオでHummingbirdを抱えるミックを確認することができる。2019年の“Exhibitionism-ザ・ローリング・ストーンズ展”では、本人所有の1963年製のナチュラルのHummingbirdが展示された。
Hummingbirdは、ミック・ジャガーにとって欠かすことのできないギターだ。中でも『ワン・プラス・ワン』に登場した1963年製のチェリー・サンバーストは別格の存在と言える。そして、あの伝説の1本は今どこにあるのか。ストーンズ・ファン、ギター・ファン双方にとって尽きることのない関心事である。









