ビートルズ“最後の新曲”=「Now And Then」
まず見逃せないトピックとなるのが、ビートルズの“最後の新曲”=「Now And Then」だろう。
ジョン・レノンが生前に残したデモ・テープからボーカル・パートを抜粋し、1995年のセッションでジョージ・ハリスンが録音したエレキとアコギ、新たにポール・マッカートニーのベースとギター、リンゴ・スターのドラムを加えた形で、2023年11月にリリースされた。
また、まるで4人が同じ空間にいるように錯覚させられるMVも大きな話題となった。
このMVでジョンとポールがマーティンのD-28を弾いている姿が確認できるほか、ジョージがギブソンのJ-185などをプレイする姿も見ることができる。
今回のグラミーでは、レコード・オブ・ザ・イヤーとベスト・ロック・パフォーマンスの2部門にノミネート。
ビヨンセのカントリーへの挑戦
本サイト読者諸兄も、カントリーやブルーグラス関連部門には注目されていることだろう。マーク・ノップラーの最新作『One Deep River』に収録された「Ahead Of The Game」がベスト・アメリカン・ルーツ・ソング部門にノミネートされるなど、ギタリスト的な注目ポイントも多いが、やはり今回はビヨンセの存在がはずせない。
『COWBOY CARTER』でカントリー・ミュージックに挑戦して話題を呼んだR&Bディーヴァは、最多11部門にノミネート。キャリアを通じてのノミネート数が99となり、グラミー史上でも最多となった。
レコード・オブ・ザ・イヤーやベスト・カントリー・ソングなどにノミネートされた「TEXAS HOLD ‘EM」は、レディー・ガガやカーリー・レイ・ジェプセンらとも共演するカナダ出身のプロデューサー/ソングライターのネイト・フェラーロがアコースティック・ギターを務めた。また、印象的なイントロなどのバンジョーは、キャロライナ・チョコレート・ドロップスで活躍したリアノン・ギデンズがプレイ。
ビートルズのカバー「BLACKBIIRD」では、ポール・マッカートニーによるオリジナルのアコギ・プレイが使用されており、「BODYGUARD」ではラファエル・サディークのアコースティック・ギターも聴ける。ゲイリー・クラークJr.が参加した「Protector」やドリー・パートンの名曲をカバーした「Jolene」などでは、ジャック・ロションによる美しく構築されたバッキングが楽しめる。
また、同作収録の「SPAGHETTII」と「SWEET ★ HONEY ★ BUCKIIN’」に参加したシャブージーは、ベスト・ニュー・アーティストにノミネートされ、自身の楽曲「A Bar Song (Tipsy)」がソング・オブ・ザ・イヤーほか3部門にノミネート。カントリーやアメリカン・ルーツ・ミュージックとラップを組み合わせ、新たなシーンを築いている彼の音楽にもアコギは多用されている。
ブルースやソウル/R&Bにとどまらず、ブラック・ミュージックのルーツを再定義する新世代にも注目したい。
躍動する若手ブルーグラッサーたち
『Home』で2021年にグラミー賞を獲得したビリー・ストリングスが、ライブ盤ならではの緊迫感の中で超絶プレイを披露した『Live Vol.1』でベスト・ブルーグラス・アルバムにノミネート。また、同部門に並ぶバンジョー奏者=トニー・トリシカの『Earl Jam』にも参加、ベスト・カントリー・アルバムにノミネートされたポスト・マローンの『F-1 Trillion』でも「M-E-X-I-C-O」で見事なフラット・ピッキングを披露している。
『Earl Jam』には、モリー・タトルも参加。2023年のエリック・クラプトン主催“クロスロード・ギター・フェスティバル”にも出演するなど、ブルーグラス・ギタリストとしての立ち位置を確固たるものにした彼女は、ベスト・ブルーグラス・アルバムにノミネートされたフィドラー=ブロンウィン・キース・ハインズの『I Built A World』でも2曲でプレイしている。
新世代の台頭と、彼らにバトンを渡すがごときベテランとのコラボレーション、気鋭プレイヤーたち同士の共演などもチェックしておこう。
群雄割拠のトラディショナル・ブルース・アルバム部門
ベスト・トラディショナル・ブルース・アルバム部門は、アコギ・ファンであれば見逃せない。タジ・マハール節全開のライブ盤『Swingin’ Live at The Church in Tulsa』を始め、ノミネート作品すべてをチェックしたいところだ。
さまざまなジャンルに影響を与えたブルース・レジェンド=R.L.バーンサイドを祖父に持つセドリック・バーンサイドの『Hill Country Love』は、R.L.譲りの中毒性の高いリフが聴ける。また、祖父もジョン・スペンサーらと録音を残した「Shake Em on Down」ではダウンホームなアコギ・プレイを披露し、「Strong」ではボーカルと寄り添う独創的で美しいフレージングも聴かせてくれる。
ブルース・ロックの印象も強い女傑=スー・フォーリーがギター1本と自身のボーカルのみで作り上げた『One Guitar Woman』も、改めて聴き直したい。エリザベス・コットンやメンフィス・ミニー、シスター・ロゼッタ・サープなどのブルース・ウーマンのみならず、メイベル・カーターやイダ・プレスティなどのカントリーやクラシックまで、女性ギタリストのパイオニアたちに敬意を表した1枚だ。使用ギターはメキシコ人ルシアー=サルバドール・カスティーロが手がけたフラメンコの白。
同部門のノミネート作品では、リトル・フィートの12年ぶりのスタジオ・アルバム『Sam’s Place』も、バンド作品だからと言って見逃すべからず。マディ・ウォーターズの名曲「Long Distance Call」は、ボニー・レイットがアコギ&ボーカルで参加、スライド・ギターはケブ・モが務めているという、アコギ・ファン必聴曲だ。
ワールド・ミュージックも見どころ満載
ベスト・ラテン・ロック/オルタナティブ・アルバム部門にノミネートされた、メキシコのシンガー=エル・ダビド・アギラールの『Compita del Destino』は、ガット・ギターによるフォーキーなバッキングで歌い上げる「Aliada」や、ブライトなストロークで表現したジョン・レノンの「Woman」のカバー=「Morra」など、ギター的な注目ポイントが満載。
そして、ペルー出身のギタリスト/コンポーザー=シロ・ウルタドの『Paisajes』も応援したい作品だ。ベスト・グローバル・ミュージック・アルバム部門にノミネート。トロピカルなイントロが弾きたくなる「Bienvenida a América」、ドラマティックなソロ・ギター曲「Cartas del Corazón」など、プレイヤー目線で参考になるプレイが多い。
ベスト・メキシカーナ(テハノ)・アルバム部門のペソ・プルマ『ÉXODO』は、情熱的なラテン・ギターが聴ける「ME ACTIVO」や情緒あふれるメロディの「BELANOVA」など、興味深いプレイが聴ける。
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ほかにも、ベスト・コンテンポラリー・インストゥルメント・アルバムには、現代最高峰のジャズ・ギタリスト=ジュリアン・ラージの『Speak To Me』がノミネート。完全なアコースティック・アルバムというわけではないが、「Omission」や「Myself Around You」、「Two And One」などでは、アコースティックの風合いが滲み出る、彼らしい叙情的なアプローチが聴ける。
リーガルのリゾネーター・ギターを手にするジャケ写が印象的なルーシー・フォスターの『Mileage』は、ベスト・コンテンポラリー・ブルース・アルバム部門にノミネート。「Done(feat. Larkin Poe)」で、メタル・ボディらしいエッジィな音色が聴ける。
また、アルバム・オブ・ザ・イヤー部門のサブリナ・カーペンター『Short n’ Sweet』では、ジャック・アントノフが、ミュートしたガット・ギターのようなアプローチを聴かせる「Sharpest Tool」やカントリー風味のバッキングで彩る「Slim Pickins」で活躍、イアン・カークパトリックとジョン・ライアンが爽やかなストロークで華を添える「Coincidence」など、最新ポップスでもアコギは効果的に取り入れられている。
世界最大の音楽祭で、古き良きアコギの世界と最先端のシーンでのアコギの使われ方に注目したい。
すべてのノミネート作品はグラミー公式HPでチェック!
公式HP:https://www.grammy.com/news/2025-grammys-nominations-full-winners-nominees-list
日本ではWOWOWで生中継
生中継!第67回グラミー賞授賞式(R) ※二カ国語版(同時通訳)
2025年2月3日(月)午前9:00 放送・配信
第67回グラミー賞授賞式(R) ※字幕版
2025年2月3日(月)午後10:00 放送・配信
第67回グラミー賞授賞式(R)の最新情報は特設サイトへ!
https://www.wowow.co.jp/music/grammy/