マーシンが語る、ギタリストとしてのルーツ、チューニングの重要性、爪のケア

ポーランド出身の新世代フィンガースタイル・ギタリスト、マーシン。2024年5月の来日時に行なった、9月に発売される初のフル・アルバム『Dragon in Harmony』に関するインタビューの記事に先駆けて、そこで語ってくれた彼のルーツや、独自のプレイスタイルについての話をお届けしよう(アルバム・インタビューは9月公開予定!)。最近お気に入りで“秘密にしていた”というチューニングについても特別に教えてくれたぞ!

インタビュー/撮影=アコースティック・ギター・マガジンWEB 翻訳=トミー・モリー

フラメンコが僕に最も影響を与えてくれた

──10歳でクラシック・ギターとフラメンコ・ギターを習い始めたそうですが、どのような経緯でそのフィールドを選んだのでしょうか?

 それは簡単な質問で、僕が選んだわけじゃなかったんだ(笑)。両親が僕に何かを習わせたいと考えていて、サッカーや水泳もやったけど、それらは好きになれなくてね。2010年の夏休みに僕は暇を持て余していて、父が旧友に紹介してもらったギターの先生に頼んで、クラシック・ギターのレッスンに通うことになったんだ。

 その先生はとても優しい人なんだけどエキセントリックなところもあって、それがかえって僕にしっくりきて、ギターが好きになったんだ。

──あなたの背景には幅広いジャンルの音楽がありますが、ミュージシャンとしてのスタイルを確立するうえで大きく影響を受けたのは何ですか?

 グッドな質問だ! 僕がギターの練習を始めた頃、ギター・ミュージックの大ファンというわけじゃなくて、むしろギターではない音楽を聴いていた。エクスペリメンタルなものやエレクトロニックなものだね。今思い返すと、こういった経験が、ギターで非日常的なサウンドを表現する今のスタイルにつながっている気がするよ。

 で、ギター・ミュージックに関して話をすると、フラメンコが僕に最も影響を与えてくれた。フラメンコは情熱的でとてもダイナミックで、超高速でもあって、実験的なことをやれるジャンルだと感じたんだ。フラメンコのこういったところが、その後どんどん実験していく姿勢につながったと思うね。

マーシン

チューニングの選択が最も大事

──NBAのハーフタイム・ショーの映像を観ましたが、ボディ・タップする位置を音色によって分けていますよね? ドラム的な役割としての奏法で、叩き方や叩く位置で考えていることはありますか?

 けっこうテクニカルな話になってしまうけど、右手でパーカッシブなプレイをする時は、常に円を描くような感覚でいる。例えばスネアみたいな役割のビートをボディの定位置(ボディ上部の6弦側)で叩くなら、必ずそこを行き来する線上で右手は弦のピッキング位置まで戻ってこなければならない。

 でも、必ずしもスネアの位置に戻れないこともあって、そういう時はボディの違う箇所を叩いてから再び定位置を叩くように戻すんだ。弦を弾きながらキックを入れるためにまた違う箇所(ボディ下部)で叩くこともあるし、タッピングと行き来する時はまた別の場所を叩くこともある。

 実践的なチョイスをしていて、叩く場所によってパーカッションの音色が変わってしまうけど、それはある意味ハッピーなアクシデントでもある。僕の手がある位置によって導かれる結果ではあるけど、あくまでも円弧を描く動きに基づいてチョイスしているよ。

──さまざまなチューニングを駆使していると思いますが、こだわりはありますか?

 長い答えになるよ(笑)? 僕はチューニングの選択が最も大事なものだと思っている。何よりもまず、そこを決めてからすべてが始まるからね。これは絶対にしっかりと選ばなきゃいけないポイントだ。

 スタンダード・チューニングは何をプレイするにしてもグッドなものだけど、多くの場合においてパーフェクトというわけではないんだ。インプロヴィゼーションにはグッドだけど、音域が高いところに限定されている。6弦のEではローエンドが十分に得られるわけではなく、分厚くてパンチのあるハードなサウンドが欲しい時にはスタンダード・チューニングは良い選択肢とは言えないね。

 それよりも低いチューニングとなるとDADGADやDADFADといったフィンガースタイルの定番チューニングで、僕にとってはスタンダードよりも優れている。これらならまだインプロヴァイズができる。僕のアレンジではキー=Dが多いんだけど、DADGADでは開放の状態では3度の音がないから、マイナーにもメジャーにも対応できる。

 DADGADはかなりフレキシブルにプレイできるし、ハーモニクスもかなりグッドな音が使えるんだ。A弦のハーモニクス音はAマイナーで使いやすいし、D弦の7フレットには高いAの音があり、5フレットのDはかなり重要なものだね。かなりマニアックなんだけど、ハーモニクスは重要なポイントだよ。

 DADFADもマイナーのキーの曲をプレイするならパーフェクトだけど、もっとパンチがあってメタルやハードコアみたいな勢いが欲しかったらCGCGCE♭というCマイナーのオープン・チューニングにすることもある。これはベートーヴェンの「交響曲第5番」をプレイする時に使っていて、オーケストラの大きなダイナミック・レンジと低いローエンドを得ているんだ。高音弦はけっこう高い音だし、低音弦はかなり低いから、このチューニングはグレイトだよ。

 そして最近お気に入りの新しいチューニングがあって、ちょっと秘密にしていたけど教えてあげよう。B5スタンダードと呼んでいるもので、低音側がB5で高音側がスタンダード(6弦からB、F♯、B、G、B、E)となっている。

 低音はローBで、普通のギターから出る音としてはクレイジーで極端に分厚いんだ。かなりハードなコードもプレイできるよ。その一方で高音側はスタンダードだから、インプロヴァイズすることもできてしまうんだ。

マーシン

日本と韓国のプレイヤーたちのレベルの高さにかなり驚いている

──フラメンコ的な奏法に加えてタッピングも行なっていますが、右手の爪などはどのようなケアをしているのですか?

 よく聞いてくれた(笑)! 爪の長さは普通だけど、僕のプレイスタイルだと何もしなければ割れてしまう。だから爪用のジェルを使っていて、月に一度はネイルサロンに行っているんだ。いつも中高年の女性たちばかりの中でネイルを仕上げてもらってハッピーな状態を保っている(笑)。右手だけをケアしてもらっていて、左手は特に何もしていないけど、これは超重要なことだね。

 そしてタッピングについては誰もが聞いてくることで、ポリフィアのティム・ヘンソンも同じことを聞いてきたよ。彼からラスゲアードといったテクニックを教えてほしいと頼まれたけど、爪がないと難しいと伝えたんだ。すると“どういうことだ? そんなことしたらタッピングができなくなるじゃないか!”って怒鳴りつけられたんだ(笑)。

 でも実は両立可能なテクニックで、ほとんどの人たちが指板に対して垂直に指先を当てているけど、爪を伸ばすなら指の腹で平面的に押弦すれば良いんだよ。低いフレットに近い位置でプレイすればナイスなタッピングができてしまうよ。ほんのちょっとアジャストする時間はかかるかもしれないけど、慣れれば自然にプレイできるようになるはずさ。

──最後に、日本のフィンガースタイル・ギタリストたちにメッセージをお願いします!

 僕は日本と韓国のプレイヤーたちのレベルの高さにかなり驚いている。両国のアコースティック・ギタリストたちの中には本当にすさまじい人がたくさんいるよ。

 僕のコンサートの反響の多さにとても光栄に思うし、インターネット上で僕をサポートしてくれているすべての声に感謝している。もっと多くの人に僕のアレンジを覚えてみてもらいたいと思うし、これからアルバム(『Dragon in Harmony』/2024年9月11日リリース)も出るから聴いてもらいたいね。

 僕のカバーをする人たちをもっと目にしてみたいし、同じパーカッシブなスタイルで勝負する日本のプレイヤーがたくさん出てくるのを楽しみにしているよ!

『Dragon in Harmony』Marcin

『Dragon in Harmony』Marcin
ソニー/SICP-31733~4/2024年9月11日リリース

Track List(DISC1)

  1. Guitar Is Dead
  2. I Killed It
  3. When The Light Goes – featuring Portugal. The Man
  4. Cry Me A River
  5. Classical Dragon – featuring Tim Henson
  6. Smooth Operator
  7. Allergies – featuring Delaney Bailey
  8. Nardis
  9. I Don’t Write About Girls – featuring Ichika Nito
  10. Clair de Lune
  11. Cough Syrup
  12. Heart-Shaped Box
  13. Bite Your Nails
  14. Requiem
  15. Carmen(ボーナストラック)
  16. Just The Two Of Us – featuring Ichika Nito(ボーナストラック)

※DISC2は「Classical Dragon」のMVなどを収録したブルーレイ

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