井草聖二が語る、さまざまな表情の“雨”をギターで表現した新作EP『Rainy Season』

2024年3月のEP『Spring Breeze』から3ヵ月、井草聖二が新たなEP『Rainy Season』を配信リリースした。タイトルどおり“梅雨”をテーマにした作品で、さまざまな表情の“雨”を表現した5曲を収録。各楽曲の“雨ポイント”、アレンジやプレイのこだわりについて、たっぷりと話を聞いていこう。

インタビュー=福崎敬太 撮影=福田直記

エレキ以上にタイトに弾かないと、トラックに馴染んでくれない

──2023年にリリースしたシングルをまとめたEP『Rainy Season』ですが、前作の『Spring Breeze』(2024年3月リリース)に続き季節モノですね。今回は“梅雨”がテーマですが、シングルを制作している段階から、こうまとめることを考えていたんですか?

 そうですね。シングルを作る段階からEPに向けて、“だいたいこのあたりの曲でまとめよう”とイメージしていました。

 今回の5曲も基本は“雨”や“梅雨の時期”をテーマにして、その中でも見せ方を全曲で変えた感じです。すごくジメジメした日があったり、逆に心地良い雨の日があったり。

──まずタイトル曲の「Rainy Season」は、ギター・デュオ的な感じですが、どのように組み立てていきましたか?

 まさにギター・デュオの、リードとバッキングというよりは二重奏に近いテイストですよね。R&Bとアンビエント・ミュージックをミックスしたような楽曲です。ギターはアイバニーズの、ボディがすごく薄いナイロン弦ギターを使って、ラインはほぼ使わずに生音で録ることによって軽いサウンドにしました。

 あと、一応ビートの音は入れているんですけど、スネアなどの音じゃなく、水の音を入れていて。水たまりのある道を散歩しているようなイメージで、全体的にすごくレンジ感を軽くしたくて、そういう作り方をしていきました。

──左チャンネルが表拍から入り、右チャンネルが裏拍から入ります。水の音のタイミングも含めて、リズムの考え方のポイントとしては?

 全体的にシンコペーションをしつつ、なかなか掴みにくいようにぼかしていて、水の音が入るタイミングでしっかり着地するようなイメージですね。

 で、水の音を録るにあたって、洗面台にマイクを立てて、一日中ずっとバシャバシャやっていたんです。それでいいなと思ったリズムが、かなりうしろ目だったんですよ。最初の“ピチャ”っていう“ピ”の音は、2拍目のアタマにきているんですけども、音が大きくなる“チャ”っていう部分はかなりうしろにきている。ギターの音はその“チャ”に合わせている、というのがポイントかもしれないです。

──「Cloud Days」はEDMとかではなく、90〜00年代っぽい雰囲気のトラックですね。

 おっしゃるとおり、90年代のオールド・スクール・ヒップホップの感じですね。あの当時使われていたようなビート・サンプルから引っ張ってきたので。

──そのヒップホップのトラックに対するギターのアプローチのポイントは?

 地盤はそのオールド・スクールな雰囲気で、ギター自体は現代のネオ・ソウル的なフレージングにしたら面白いかなって思って、そういうイメージでアプローチしました。

 あと、メロディをあまりメロディらしく作らないっていうのを意識して。ネオ・ソウルで使われるリックをつなぎ合わせるような感じで、鬱々とした雰囲気を出したかったんです。

──こういうヒップホップ的なトラックとアコギのスチール弦の響きを組み合わせる時のポイントは?

 アコギをタイトなビートのトラック上で弾く時は、エレキで弾く時以上にタイトに弾かないとなかなか馴染んでくれない。エレキだともう少しレイドバックしたり、ルーズに弾いてもカッコ良いんですけれども、アコギは単音弾きでリズムが出ちゃうんです。ピッキングのゴリっていう音がハイハットのように聴こえてしまうので、トラックに対して16の裏まで合わせるように意識しています。

 アコギでもコードでジャランって弾く時はレイドバックしても大丈夫な感覚はありますが、絶対に前に出ないようにはしていますね。

 あと、この曲はエラストマーという素材のピックを使って、湿度が高い感じを出しています。このピックが不思議で、アタック感がすごく少なくなるというか。それで弾くことによって、アコギの音なのに全然キラキラしないんです。

井草聖二

トレモロ奏法は昔からなぜか、木に雨がポツポツと当たっているイメージ

──「Waterfall」はハーモニーが美しいですね。

 この曲は大雨の時に室内から見た窓をイメージしていて。窓に滝のように流れる水が何本も重なるような情景を、複数のメロディで表現しました。重なる部分もあれば、全然違う動きもしたりっていうような。なので、最初からダブル・ストップや二〜三声でずっと続くようなイメージをしていましたね。

 それと、裏でエレキを鳴らしているんですけども、それはグレッチのホワイト・ファルコンを使っていて。ワーシップ・ソングという教会音楽で、アメリカやオーストラリアでは、グレッチのホワイト・ファルコンがよく使われているんですよ。ホワイト・ファルコンのクリーン・トーンでシングル・ノートを刻むのが、めちゃくちゃよくあるパターンで。それをかなり意識しています。

──ギターはエレキ、アコギが2本ずつくらい入っていますが、それぞれどのような役割で?

 サビで左右のエレキが裏メロを弾き始めるんですけども、対位法的な重ね方というよりは、ディレイみたいなイメージで。音がぶつかりながらもうしろからついてくるようなイメージで、メロディを作っていきましたね。

──主旋律と副旋律はどのように組み立てていくんですか?

 まず主旋律のアコギとベース・ラインを先に録ってしまって、サイドのエレキはあとから重ねていく感じですね。

 楽譜で書く時もあるんですけど、この曲は弾きながら考えていきました。ディレイ的なサウンドが欲しかったので、どこがぶつかるかは偶然に任せて。そのカウンター・メロディに対してのハモリは、ちょっと楽譜に起こして“こんな感じかな?”っていう流れです。

──「Deep Forest」はソロ・ギターがベースの1曲です。

 すごく山奥の森の中にある実家をイメージしながら作った1曲ですね。小さい頃に山のほうへ遊びに行って帰って来れなかったこととか、きれいなんだけど怖いイメージもある、そんなことをイメージして作曲しました。

──そのイメージはどんなところに表われていますか?

 メインのコーラスのコードはシンプルで、1度から7度に降りて6度に行く。かと思いきや、ふた回し目はモーダル・インターチェンジで違うキーから音を借りてきて、ふわっとしたコード感を狙いましたね。

 あと、森の中って雨が降っていてもあまり濡れなかったり、逆に晴れの日には水が滴ってきたりするんです。で、自分の中では昔から、なぜかトレモロ奏法って“木に雨がポツポツと当たる音”という印象があって。トレモロを入れてその雰囲気を出しました。

──最後の「Inside a Dream」は、アンビエント音を聴かせるようなアレンジです。これはどのようなイメージの楽曲ですか?

 それまでの4曲は日常にある雨の風景ですが、この曲はファンタジー色が強い、空想の中での雨の世界というテイストで作りましたね。自分の中では、夢の中で下から上に雨が上がってくる逆再生のようなイメージで書いたんですけど。

──リバース・ディレイのように聴こえた部分で、それこそ雨が下から上に上がっていくような印象を受けました。

 まさに、そうですね。サビ前はリバース・ディレイです。あとはシマー・リバーブを100%で、ドライ音を消したエレキの音を入れたり。

──ほかに不思議な雰囲気を担っている要素として、ローファイ・フィルターっぽい感じで、ピッチが揺れる箇所がありますよね。

 ナイロン・ギターでバッキングを録った時に、ローファイ・フィルターを入れて。たぶん1960年代のレコードをシュミレートするようなやつだったと思います。だからピッチも相当揺れていて、レンジもぎゅってなっていますね。

 それによってリアルな感じが少しなくなるというか。映像の中の世界だったり、現実世界とは切り離されたような印象になる。

井草聖二

プラグインの“CLA Unplugged”をかなり使った気がします

──それぞれの楽曲で使用したギターについても聞かせて下さい。

 「Rainy Season」はアイバニーズのFRH10Nです。「Cloudy Days」と「Waterfall」はピックのサウンドの違いが対比がわかるように、同じスイッチ(Switch)のドレッドノートで弾いたんです。「Water Fall」はウェーゲン・ピックっていうパキパキするようなピックですね。で、「Deep Forest」と「Inside a Dream」はハヤシ・ギターズ(HAYASHI Guitars)のHCOCです。

──ギター選びの基準や使い分けは?

 曲のテーマに対してどの音色が合うかで、エレキかアコギかナイロンかを選びます。その後、その中でもより近いサウンドを出すために指弾きがいいか、ピック弾きがいいかっていうのは、実際にレコーディングしながら考えていく感じですね。

──レコーディングの環境は?

 基本的に自宅で録りましたね。アコギはノイマンのペンシル・マイクを2本立てた、すごくシンプルな構成で。オーディオ・インターフェースはRMEのBabyface Proで、そこに入る前にRMEのマイク・プリを挟んでいます。

 アコギに使ったプラグインは、ウェイヴス・オーディオ(Waves Audio)で固めているんですけど、その中でも最近特に“CLA Unplugged”っていうのがお気に入りで、今回もかなり使った気がしますね。EQもリバーブもディレイもすべてそのひとつで完結できるというようなプラグインです。

──楽曲ごとのエフェクトについても教えて下さい。

 シマーはValhalla Shimmerっていう、EDMの方たちがよく使っているプラグインを使うことが多くて。「Deep Forest」のナイロン弦の時も、聴こえるか聴こえないかくらい薄く、3%とかでかけています。そうすると、全体の質感が立体的になるんです。

──さて、今回はEPシリーズの第2弾ですが、今後の展開についても教えて下さい。

 まず2024年の7〜8月頃に夏のEPが出るんですけども、エレキもオーバードライブしているような感じがあったり、すごくアップテンポで元気な曲が多いですね。普段自分がやらないようなスタイルに挑戦した曲も多い。

 で、秋のEPは今まで自分が培ってきたものを表現しています。ソロ・ギターでやってきたことを、ギターを重ねたアンサンブルなものにした感じで。

 冬に関しては、オーケストレーションをすごく意識して作ったので、初めて聴くと“これ誰の曲だ?”ってなる曲が多くなると思います。

井草聖二15th Anniversary Concert
15周年&YouTube登録者数100万人突破を記念したコンサート

『Rainy Season』井草聖二

Track List

  1. Rainy Season
  2. Cloudy Days
  3. Waterfall
  4. Deep Forest
  5. Inside a Dream

sunflower music/2024年6月5日配信リリース

『Island』井草聖二(2024年7月29日リリース)

Track List

  1. Early Summer
  2. Road Trip
  3. Island
  4. Sunset Drive
  5. Summer Nights

sunflower music/2024年7月29日配信リリース

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