大衆音楽としての命脈を保ち続ける“ブルーグラス”
もし皆さんが何も知らずに、その辺のブルーグラス・バンドに“おお、カントリーですか! いいですね〜!”などと声がけしたら、まず間違いなくこんな答えが返ってくると思う。“いや、私たちはブルーグラスです”と……。
意外に思われるかもしれないが、カントリーとブルーグラスの両コミュニティは、互いに異なるジャンルであるという共通認識を持っており、両者が交流することは滅多にないのだ。
ブルーグラスはカントリーのサブ・ジャンルという位置にありながら、商業ベースにショー・アップしてきたカントリー産業と一定の距離感を保ってきた。強烈な音楽的アイデンティティとコミュニティの結束力を武器に、アメリカ音楽において自他ともに認める確かな地位を獲得してきた稀有なジャンルなのである。
カントリーとは比較にならないほど小さな市場規模にも関わらず、そのためだけのフェスが開催できてしまうという事実が、当事者たちの熱の高さを物語っている。
ブルーグラスが“民謡”であるとか、創始者であるビル・モンロー&ブルーグラス・ボーイズの楽器編成(マンドリン、ギター、バンジョー、フィドル、ウッド・ベース)を単に踏襲した音楽だ、などといった見立てでは、そうしたエネルギーを生み出す理由を十分に説明できるとは思えない。
いずれにしてもビル・モンローのバンドから名前をとったこのジャンルが、80年の時を経てもなお、大衆音楽としての命脈を保ち続けているということは事実である。ブルーグラッサーたちが自分たちのことをカントリーではなくブルーグラスと名乗るのは、その誇りの表われだと言えよう。
『現代ブルーグラスのフラットピッキング革命』 by 齊藤ジョニーの第9回は、アコースティック・ギター・マガジン2024年12月号 Vol.102をご覧ください。