山木康世、ふきのとうからソロまでの活動50周年インタビュー

移り変わりの激しい音楽シーン。その中で長く活動できるミュージシャンこそ、真の実力者と言えるだろう。さらに半世紀もの間、活動し続けている人物となると、数えるほどしかいないのが現状だ。その希な存在のひとりが、ここに登場する山木康世である。

フォーク・グループ、ふきのとうで輝かしい実績を築き上げ、その後、自身の理想とする音楽追究のためソロ活動を行なってきた山木康世。その彼にこれまでの音楽活動を振り返ってもらった。純粋に音楽と向き合う姿は、音楽を奏でる多くの人の参考になるはずだ。

ふきのとう〜ソロ活動の現在まで、音楽活動50年を語る

一番思い入れのある曲? それは・・・

50周年おめでとうございます。50年というと、凄く長いように思えますが。

ふきのとうが18年、ソロ活動が32年。で、合計50年。何とも言えないですが、長くはないですね。まあ、20代、30代、40代まであっという間だったもので。

ソロになってからは、ふきのとうではできないことをやろうと、いろんなチャレンジをしてきました。だから、面白い50代、60代を過ごせたなあ。例えば、ライブ活動。大きなステージじゃなくて、ライブ・ハウスみたいな客席と近い距離で演奏をしたり。そのための曲を作ってきたり、目的をライブ・ハウスに設定して試行錯誤してきたなぁ。一般的に、ソロでは好きなことをやるようなイメージがありますが、自分はファンに求められていることを形にしていくような活動をしてきました。ふきのとう時代よりも、チャレンジや冒険に関して強いものがあったんですね。

ふきのとう時代は、どのような感じだったのですか?

レコード会社が用意したローテーションみたいなものがあって。レコーディングをして、ツアーがあって、それが世間に波及する。活動規模も大きいし、目的もしっかりしているわけです。ある意味、仕事的というか。だから、葛藤もありましたよ。それが18年、続いてたんですね。

そして、ソロでは違った取り組み方をしてきたわけですね。

自分を見つめ直し、自分しかできないことの追求をしたんです。そうしたら、ギター1本での活動がいつの間にか定着してて。それが32年、続いてきたわけで。月並みですが、シンプルで、いい歌を歌い続けるのって難しいですね。まだ、その完成形には至っていないかな。

ひとりでステージに立つというのは、かなりプレッシャーが大きいと思います。観客は、山木さんしか見ていないわけですから。

そうですね、逃げ場がないわけで。怖いという面もありますが、お客さんを相手にしているという実感も大きいので、充実感も大きいですね。

50年の中で、思い入れの大きい曲というと?

たくさんあるんだけど、ふきのとうのデビュー・シングル「白い冬」のB面の「夕暮れの街 」かな。出来もいいし。大学3年生ぐらいの時に作ったんだけど、コンテストで作曲賞までいただいた楽曲なんです。この曲がなかったら、東京まで出てきて音楽活動しなかったと思うんですよ。

ほかには?

同じく、ふきのとうの8枚目のシングル「風来坊」。“やったな!”っていう手応えがあったし。この曲をレコーディングして、シングルとなった時の晴れ晴れしさは、「白い冬」以上のものがありました。

ソロの曲では?

ソロになってからは「嶺上開花」ですね。充実した手応えの50代を過ごしていた時の曲です。いい歌ができたなっていう 感じはあります。58歳の時に作ったんですけど、年相応の歌詞とメロディが、この曲にはあります。もしも、この曲をふきのとう時代に発表していたら、いい感じでランキングに乗ったんじゃないかな。

楽曲提供で思い出の曲というと?

武田鉄矢さんと作った「思えば遠くへ来たもんだ」ですね(作詞・武田鉄矢、作曲・山木康世。海援隊のシングルとしてリリース)。武田さんとは十数曲一緒に曲を作っていますが、この曲がふたりで作った初めての曲なんですよ。いい歌をふたりで作ったんだなっていう実感がありますね。

武田さんにとっても、「贈る言葉」の次くらいに大事な曲らしく、必ずコンサートで披露する生涯の歌になっているようです。それから、ふきのとうとは違った場でのレコーディングということもあり、何かといろいろ面白かった現場だったなあ。

その後も武田さんとの音楽作りをする機会があったんですけど、それも面白かったですね。彼はメジャーな思考があり、映画やテレビの音楽に携わったりしているわけですよ。ふきのとうは純粋に音楽のみにフォーカスしていたので、そういった依頼は新鮮で面白かったなあ。

動画の再生数を気にしちゃダメ! それに気を取られてしまうと・・・

50年の中で、音楽と対峙する気持ちは変わっていったのでしょうか?

基本姿勢は変わってないんじゃないかな。 時代はあんまり意識しないんだけど、かと言って無関心じゃなく、 ちゃんと体の中に取り入れておく。そんなスタイルですね。

あと、歌詞に対する姿勢も、20代の頃から変わんないなあ。自分よがりの歌っていうのはなくて、やっぱり、お客さんと価値を共有したいなって思って書いています。みんなで同じような気持ちになり、その一体感みたいなのを ずっと持ってきたんです。ふきのとうの時も、みんなで歌うための楽曲を必ず混ぜていたし。

具体的には、どんな取り組みで歌詞を作っているんですか?

日記みたいに、自分がこうあって、こう考えているというようなことを書き留め、それを精査して、そしてお客さんの立場で考えて詞を直すとか。そういうような作業は、結構大事なんじゃないかな。

プロデューサー的な目線とも言えますね。

昔からそういう感じだったんです。学生の頃、グループを組んだ時も、そこで細坪に歌ってもらうために曲を作っていたのね。この辺もプロデューサー的ですし。

それで、ふきのとうのレコーディングでも、プロデューサー的な立場で歌を聴いて、そこに 俺がかぶさったらどうなるか・・・こういう風に第三者的に関わってきたみたいなところはありました。

ライブで大きなハプニングに見舞われたことはありますか?

意外とないなあ。喉の調子がよくないことが何回かあったけど。ギター1本、ひとりでライブをやるわけで、そうなると喉の調子が良くないと大変なんですよ。あと、ステージではパソコンを持ち込んで歌詞を見ているんだけど、パソコンのトラブルがあったり。ハプニングと言ってもその程度で、立てないぐらい体調が悪くなったりとかはないんです。

山木さん、かなり早い時期からパソコンを取り入れていたそうですね。最近では配信ライブもやったり、テクノロジーを取り入れた活動に積極的なんですね。

コロナが流行してからライブ配信をやるようになりました。全国にファンがいるので、そういった面でもライブ配信は利便性がありますね。

あと、音だけの音楽より、映像があったほうが音楽への引き込まれ方、面白みが増すと思うんですよ。自分もそうだけど、CDだけで聴いていると飽きちゃうこともあるし。時代的に、映像をつけたほうがファンは喜ぶと思うなあ。

ライブの回数も凄いですよね。

72歳で年間108回やったり。煩悩の数です。本当に修行の場ですね。

あと、2020年10月21日から10月25日まで開催された山木康世古希大祝賀会のコンサートでは、5日間で100曲歌ったこともありましたよね(DVD『山木康世古希大祝賀会』に収録)。もはや荒行ですね。

ありがとうございます。

山木さんが50年も音楽を続けられたのも、テクノロジーと上手くつきあえたからというのもあるかもと思いました。音楽環境や機材面で言えば、プロとアマの差はなくなってきていますよね。

差はないですね。昔はこれ持ってるとプロみたいなのは感じあったけど。今は、プロ、アマ関係なく羽ばたける時代だから。自分も、ライブ配信をやった時、「羽ばたいた!」って感じがありましたね。ライブ配信はアマチュアでもできるんで、同じように羽ばたけるんですよ。

SNSも重要だと思いますか?

そういうものに左右されちゃダメだよ。動画で何億回も再生とかあるど、カウントの仕方で左右される指標で音楽の善し悪しは計れないでしょ。それが人気の指標のように語られる風潮があるけど、大切なのはそこじゃない。

ズバッと言ってくれてありがとうございます。そのとおりだと思います。

テクノロジーで世の中が良くなっているような雰囲気があるけど、一方でどんどん退化してるって部分もあるから気をつけないと。そういったことに気づけるが本当のプロ。アクセスを稼ぐために、音楽の本質とは違うことをしているようでは、いい音楽にならないよ。残念ながら、そこの見極めができない人もいるし。一方でアマチュアでも、精神がプロの人がいますよね。うん、素晴らしい。精神は大事だよな。

いい音楽を作る秘訣? 音楽には不足感が重要で・・・

ほかに、音楽活動をする上で、どんなことに気をつけたほうがいいですか?

健康や体力だね。精神面も体力から来ている部分もあるから。枕が変わったら眠れないとか、水変わったらダメだとか。それじゃあ、ツアーはできないし。一晩寝て疲れが取れないという人は、やっぱりどこかが弱っているんじゃないのかな。

いい音楽を作る秘訣をひと言でいうと?

満腹感があると、良い音楽にならないような気がするんだよな。音楽には、ある程度の不足感が必要かと。世の中にもう少し吠えたいなというような感覚がないと、心に響く詞が書けなくなっちゃうから。

ギターの演奏に関して質問です。近年は情報過多で迷っているギタリストも多いと思います。いったいどんなことに気をつけていったらいいのでしょうか?

演奏面に関しては、自己流でいいと思うなあ。自分が 楽しいと思うことが一番じゃないかな。上手い人のプレイをコピーしたり、面白いフレーズを覚えたりというのは、最初は効果的かもしれないけれど。そもそも、難しいプレイのコピーなんて、長続きできない人がほとんどだから、その時間が無駄になっちゃう。

聴く方も1回、2回、3回ぐらいまでは興味を示しても、それを2時間もライブでやったら全然面白くないよね。それよりも、自分独自のギターをやることによって、中から沸き出てくるものをいっぱい表現したり、キラキラする自分を観客に見せることのほうが大事だと思うのね。まあ、好きなことを10年もやってれば、そのうち本当に、「これだ!」っていうものが出てくるし。

あと数十年後の山木さんの演奏はどうなっていると思いますか?

そうだね、90代になったら、どういうギターを弾いているのかな。もう、うまさを追求するのは体力的に無理なんで、手を抜くしかないなあ。でも、聴いている人は、いろんな付加価値を感じていると思うのね。音の重みというか。そういうのを感じてくれるとなると、やっぱり 長く生きて、音楽をやるってことは素晴らしいんだなって思えるなあ。

今後、50周年ライブがありますよね?

何かを見つけられたら素晴らしいなと思っておりますんで、よろしかったら遊びに来てくださいね。

【インフォメーション1】50周年ライブ・イベント

日本フォーク界のレジェンド、山木康世の活動50周年を記念したライブが10月22日に行われる。詳細は以下のとおり。

●イベント・タイトル

「山木康世 Live Lovely 2023 TOKYO」
山木康世 50周年記念コンサート
~ギターと歌で半世紀半生記!~

●日時/会場

2023年10月22日(日)

東京都新宿区新宿区立新宿文化センター 小ホール

●開場/開演

開場 16:00 

開演 16:30 

【インフォメーション2】1st〜2ndソロ・アルバムのリイシュー

ふきのとう時代にリリースしたソロ・アルバム2枚、1stソロ『野良犬HOBOの唄』(1981年リリース)と2ndソロ『泳いで行くにはあまりにも水の流れが速すぎる』(1982年リリース)が2023年10月25日に復刻リリースされる。詳細はリンク先で確認してほしい。

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写真:八島 崇

アコースティック・ギター・マガジン

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