サカグチアミが語る、弾き語りのこだわりと新作『名前』に詰め込んだ“自分の真骨頂” 

デビュー10周年を迎えた2025年に“坂口有望”から改名、レーベル移籍を発表したサカグチアミ。そんな彼女が2026年1月にデジタルEP『名前』をリリースした。“自分の真骨頂”を詰め込んだという本作の作曲やアレンジ、そして長年続けるアコースティック・ギターでの弾き語りのこだわりを語ってもらった。

取材・文=角 佳音 撮影=石川雄斗

自分に合う形のギターを探すことが大切

──まずはアコースティック・ギターとの出会いから教えてください。

 小学6年生の時に6年分のお年玉が貯まって、大きな買い物がしたいと思ったんです。その頃ちょうどテイラー・スウィフトやmiwaが日本で流行り始めて、“ギタ女ブーム”だったんですよ。

 鍵盤は習ったことがあったんですけど、歌うことが好きで、鍵盤以外に伴奏できる楽器が欲しいと思ったんです。で、アコギ初心者セットを地元の島村楽器で買いました。子供用の、ボディが小さめのギターでしたね。

 手が小さいのもあって最初は全然練習が続かなくて、ほこりを被っていた時期もあったんですけど、中2の時にYouTubeを観るようになって、そこから“目コピ”を始めたんです。それがアコギのスタートですね。

──“目コピ”はどのようにやっていたんですか?

 ライブ映像などを観て、押さえ方を真似していました。でも自己流でやっていたので、6弦のミュートはサボっていましたね。数年くらいはミスった形でコードを押さえていました(笑)。

──当時はどういう曲をコピーしていたんですか?

 それこそテイラー・スウィフトの「We Are Never Ever Getting Back Together」や、miwaの「ヒカリヘ」など弾けそうな曲から手をつけて歌っていました。

──現在は、本作のアレンジにも関わる柿澤秀吉さんにギター・レッスンを受けているんですよね。

 普段からレッスンをしている方ではないので、大きいライブが決まった時に“ちょっと練習入りたいです”という感じで個人的にお願いしています。今でも教えてもらうことばかりですね。弾き語りツアーをやっていた時は、弾き語りアレンジを一緒に作ったりもしていました。

──10年以上アコギを弾き続けていると思いますが、これまでアコギを弾く中で挫折した経験はありますか?

 今でもずっと挫折し続けてますよ。やっぱり手が小さいというのが致命的で、バレー・コードのマイナー・セブンスがしっかり鳴っていない時もあるし。前に使っていたギターは、ネックがすごく太かったので、自分で選んだギターなのににらんだり(笑)。

──アコギを練習する際に壁に当たる人は少なくないと思うのですが、サカグチさん流の克服方法を教えてください。

 物理的なことで言うと、カポでキーを変えられるっていうこともギターの魅力だと思うので、私は5カポ、6カポの曲も作っていましたね。

 あとは自分に合う形のギターを探すことが大切ですね。私もネックが細めの今のギター(マーティンD-35)を使うようになって、めちゃくちゃ弾けるようになったので。みんなには挫折しないでほしいです。

“自分の真骨頂ってこういうのかな”と思ってたどり着いた

──デジタルEP『名前』はどのようなテーマのもとで制作していきましたか?

 改名やレーベル移籍という変革のタイミングだったので、音楽家としてこのタイミングでしか出せないものを出そうということを考えながら動いていきました。

 そのきっかけになったのは、活動10周年を迎えて回ったツアー(2025年にサカグチが開催した“歌十年tour -うたってんねん-”)だったんです。ツアーを準備する中で自分の音楽をめっちゃ聴いて、振り返って、俯瞰して。“どんな曲が私の真骨頂なんだろう?”というのを突き詰めて、カタカナの“サカグチアミ”に詰め込んだ1枚目が『名前』になっていると思いますね。

 曲に関しては、言ってしまえばものすごく得意分野でした。“自分の真骨頂ってこういうのかな”と思ってたどり着いたのが、人生について歌う“ライフ・ソング”だったんです。そういう曲だけに絞って、この4曲を選びましたね。

──タイトル曲の「名前」は奥田民生さんと斉藤有太さんが編曲に参加しています。アレンジを進めるにあたってオーダーしたことはありますか?

 どういうサウンドになるのかを知っている自負があったので、いわゆる“民生さんサウンド”を盛り込んでほしいと伝えました。この曲に寄り添って合うアレンジを考えてもらうというよりも、“民生さんのひと筆書きで書いてください!”とお願いしましたね。

 最初はアコギの弾き語りで作ったんですけど、鍵盤の音色が欲しいと思っていたので、有太さんにはオルガンとエレピを使ってアレンジしてもらいました。ギターはデモの時のバッキングをなるべく活かしてもらったので、シンプルなアレンジになっていると思います。

──この曲はGキーとEキーを行き来し、ラストはGキーで締めくくります。このような展開にはどのような意図がありましたか?

 音楽理論がまったくわからないので、“たぶん転調してるんだろうな”みたいな感じで作っているんですけど(笑)。この曲は歌い出しが一番最初にできて、別で生まれたサビをあとで合体させたんですよ。だから転調してやろうというよりは無理やりくっつけた感じですね。でもそれがこの曲に合っていて良かったなと思います。

バンドでこの曲をやる想像が全然できなかった

──「Life Goes On」は1番の“明日になればわかるでしょうか”から、アコースティック・ギターのサウンドが入ってきますが、レコーディングではサカグチさんがプレイしましたか?

 アレンジをしてくれたギタリストのひぐちけいさんが全部重ねて、私は応援していました(笑)。

──ではひぐちさんのギターでレコーディングしたんですか?

 そうですね。私のギターを使う案もあったんですけど、けいちゃんのアコギは高音がきれいに響くギターだったので、そっちのほうが曲に合うねという話になったんです。

──ひぐちさんの弾くアコギのパートを聴いて、どのように感じましたか?

 自分が弾くよりもゆとりがある感じがしました。ちょっとリッチに聴こえて、それがこの曲が持つ日だまりのような雰囲気にすごく合っている気がします。

 音源化する前からツアーでやっていた曲なんですけど、その時からこれはけいちゃんに編曲をやってもらおうってずっと思っていたんです。

──「歌を歌わなければ」は、ライナーノーツでは“唯一、完成形が見えなかった”とありましたが、その理由は?

 前からちょくちょくライブでやっていたんですけど、弾き語りでやるとすごく暗くて、ドシーンとしちゃうんです。なので、バンドだとより重く聴こえるんじゃないかと思って、バンドでこの曲をやる想像が全然できなかった。暗くなるからやるべきじゃないのかなって思っていたぐらいでした。

 でも今作はどの曲も弾き語りの状態で選曲しているので、この曲が選ばれた以上、そういう方向になるべく行かないようにしたいというのを編曲の野村陽一郎さんにお願いしました。

──エレキのカッティングがリズミックで、この曲に明るい雰囲気をもたらしているように感じました。

 跳ねるようなカッティングをたくさん重ねているので、自然と軽快になっていますよね。歌詞の暗さを和らげるのに効いているかなと思います。

──弾き語りも含め、ギターのリズム・メイクという点で意識していることはありますか?

 弾き語りでライブをやっていた時はめちゃくちゃ意識していました。コード弾きで抑揚をつけるために、例えば、2番のAメロが同じような感じで回ってきた時に、カッティングを2倍にして違う感じを出すとか。それこそ秀吉さんと一緒に、なるべく豊かに聴こえるようなアレンジをいっぱい考えましたね。

サカグチアミ
サカグチアミ

ドームでこのギターで弾き語る夢を見た

──作曲についても教えてください。作曲時に手に取る楽器は?

 アコギが7割、鍵盤が3割くらいなんですけど、鍵盤で作っても結局弾き語りでアコギで録ってデモを送ることも多いですね。アコギのほうが気持ちを乗せやすいので。

──手に取る楽器によって、出てくるインスピレーションに違いはありますか?

 めちゃくちゃありますね。楽器にすごく引っ張られるので、アコギで煮詰まった曲は、途中で鍵盤に変えたり。

 でも曲に対する気持ちが溢れ出している時は先にギターを手に取りますね。何にも考えずに触れるのはアコギなので。相棒というか、戦友みたいな感じがあるんだと思います。

──曲を作る時は、歌詞とメロディはどちらが先ですか?

 何をテーマにするかがなんとなく決まっていたら同時ですね。即興で歌いながら作る時もありますが、歌詞とメロが一緒になった状態で降りてきた1フレーズを広げることが多いです。

──最後に、改名、レーベル移籍を経て新しいフェーズを進むサカグチさんですが、これからどのような活動をしていきたいか教えてください。

 4曲目の「歌を歌わなければ」で“ドーム”という言葉が出てくるんですけど、この曲を書いたきっかけが、ドームでこのギター(現在のメイン・ギター=マーティンのD-35)で弾き語る夢を見たからなんです。で、“これやりたい!”と思って、そのまま曲を作ったんですよ。

 ほかのシンガーソングライターと比べても弾き語りでたくさんライブをしてきましたし、47都道府県ツアーも弾き語りでやってきたので、アコギは体の一部のような存在になっているんです。本当にこのギターとふたりきりというか、ひとりだけど一体になった状態ですね。“でっかい会場で弾き語る”という夢はブレずにずっとあるので、楽しみにしていてほしいです。

サカグチアミ

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