MUCCがいなかったらこんなに音楽を聴いていなかった──猪居
──ミヤさんが猪居さんのことを知ったのはいつ頃でしたか?
ミヤ 1年くらい前かな? 「雨のオーケストラ」をカバーしてくれた時です。“こんな人がいるんだ、すごいな”って。とにかくロックを押し出しているのが面白いと思ったし、バンドが好きということが伝わってきたので、一緒に何かできたら面白そうだなって感じましたね。
猪居 『My Immortal』(編注:2024年4月リリースの猪居の1stロック・カバー・アルバム)を出した時に、ミヤさんがInstagramでアルバムのことをシェアしてくださったんです。本当にびっくりしました。
ミヤ “ありそうでない”っていうのが大好きなんですよ。型にハマるのは簡単で、そこからどれだけはずれられるかが重要だと思っているので、すごく面白いなと。
──猪居さんはMUCCの音楽性やミヤさんのギター・プレイから大きな影響を受けていると思いますが、改めてMUCCとの出会いや、受けた影響について教えてください。
猪居 2008年にNHKで“真夏の宴”(編注:NHKの音楽番組『MUSIC JAPAN』のスペシャル企画として、2008年7月14日にNHKホールで開催された“MUSIC JAPAN~ネオ・ビジュアル系 真夏の宴2008~”)が放送されていたのを観たんです。当時すでにヴィジュアル系にも興味を持ち始めてはいたのですが、こんな世界があるんだと思って。
ミヤ NHKホールでやったのは覚えてる。でも“真夏の宴”ってのがニッチだね。よくそこと出会えたなっていう(笑)。
猪居 もちろんMUCCのことは存じていたんですけど、演奏している姿はそこで初めて観たんです。まず、最初の「アゲハ」がすごく衝撃的だったんですよ。言うまでもないですが、音がめちゃくちゃ良いなと思って。低音ゴリゴリのヘヴィな音で。あと、MUCCの皆さんが4人で並んでいる絵が美しいなと思ったんですよね。“日本にこんなすごいバンドが存在するんだ”と、当時、中学生ながらに衝撃を受けて、すぐに『球体』と『志恩』を買いに行きました。
ミヤ 「アゲハ」は4ヵ月間のアメリカ・ツアーから帰ってきた直後に作った曲なので、向こうの環境に影響されまくっているんですよね。それも良かったのかな。
猪居 あの本格派なメタル・サウンドに心を射抜かれました。そのあと『球体』と『志恩』から全アルバムをさかのぼっていったんですが、アルバムごとに世界観や音楽性が変わるので、こうやってMUCCの音楽は出来上がってきたんだっていうのを知るのがまた楽しかったですね。
ミヤ 最初が『球体』っていうのも巡り合わせだったんじゃないかな。当時はすでにメタルが好きだったんですか?
猪居 いえ、まだでした。ミヤさんがコーンやスリップノット、リンプ・ビズキットの影響を受けたということを知って、そこから逆にコーンを聴いたりとか。MUCCの音楽をとおしていなかったら、コーンを聴いた時にどう感じていたんだろうと思いますね。
ミヤ 面白いですね。俺は初めてコーンを聴いた時は、メロディがなくてガシャガシャしてうるさいし、全然良いと思わなかった。だからメロディがあるスリップノットが先に刺さったんですよね。
猪居 私は先にMUCCの音楽を聴いていたので、コーンを聴いた時にすごく面白いと思いました。こういう音楽から影響を受けて、MUCCの音楽ができていったんだっていうのを知るのも面白くて。そこからいろいろと聴くようになったので、MUCCがいなかったらこんなに音楽を聴いていなかったかもしれないですね。ずっとクラシックの家庭にいたので。
ミヤ うちも親が音楽教員だったので、そういう環境でした。そもそも俺は、家にあった親父のクラシック・ギターで「紅」のイントロのアルペジオを弾いたのが始まりなんですよ。それまではクラシックを避けていたというか、ピアノはずっとやっていたんですけど、やっぱりちょっとやらされてる感があったし、音楽を楽しめていなかった。
でもそれをX JAPANがつないでくれたんですよね。Xに出会うまでは自分が音楽をやると思っていなかったし、「紅」を自分が弾いたらどうなるんだろうっていうので、その場にあったギターを手に取ってやってみたのが初めての“音楽をやりたい”という衝動だったんです。
“ギターのフレーズをここまで拾ってるの?”って思いました──ミヤ
──『クラシック・ギター1本で描く、ロックの世界』には「紅」の楽譜が掲載されていますが、クラシック・ギターと「紅」の相性についておふたりはどのように感じますか?
ミヤ 「紅」はギター・アレンジがずっとハーモニーで、Xはそういう曲が多いんですけど、特に音の積み方が全然ロック・ギターっぽくないんですよ。ほかの曲よりも転調が多いし、サビに行くまでがめっちゃ長いし、クラシック・ギターが映える曲だなと思いますね。
猪居 確かにクラシック・ギターは展開がある曲のほうが弾きやすいんですよね。シンプルな曲は弾きやすそうに見えて、あまり代わり映えがしなくて。なので、私もわりと展開が多い楽曲を選んでいます。今回本に掲載した「紅」は別の方(峯吉奏典)のアレンジなんですが、私とは違うアプローチが素敵だったので使わせていただきました。
ミヤ クラシック・ギターでアレンジする編曲者がいるっていうこと?
猪居 いえ、基本的にはすべて自分で編曲しています。バンド・スコアなどを見ながらアレンジするんですけど、スコアがないものは全部耳コピで。
ミヤ 耳コピもするんですね。「雨のオーケストラ」の演奏動画を観たんですけど、“ギターのフレーズをここまで拾ってるの?”って思いました。再現しすぎていて……これをクラシック・ギタリストに弾いてもらうのは申し訳ない(笑)。
猪居 そこに命をかけているので(笑)。
ミヤ 本人にしかわからないようなアルペジオの音の積みなどが再現されていて、すごいなと思いました。愛がないとできないことだし、自分の曲を知っていてくれるのはうれしくて、ありがたいですね。
──「雨のオーケストラ」は、アルバム『My Immortal』にも収録されていますね。数あるMUCCの楽曲の中から、猪居さんがまずこの曲をチョイスした理由は?
猪居 MUCCの楽曲は、曲によって感じ方がけっこう違うんです。メタル系の曲は聴いていて心地いいんですが、「雨のオーケスラ」は聴いていると世界に没入していく感覚があって。そういうところが好きで、この曲をカバーさせていただきました。
ミヤ 演奏動画のプレイがそのまま譜面になっているんですよね?
猪居 そうですね。音を削ることなく載せています。
ミヤ 同じギターではあるけど、クラシック・ギターとバンドのエレキ・ギターってまったくアプローチが違うし、別の楽器だと思うんです。さっき“申し訳ない”って言ったのは、クラシック・ギターのアプローチとしてはもっとできることがあるはずなのに、ここまで原曲を忠実に再現してくれているからで……。
逆にそれができるということは、いろいろなことができる方なんだろうなと思いますね。ただ、本人にしか伝わらないよっていう(笑)。コアなギター好きのファンには伝わるかもしれないけど。
猪居 どの曲もそうなんですが、“原曲リスペクト”を大切にしています。
ミヤ 自分もXのコピー・バンドをやっていたのでわかりますよ。同じことを弾くのは誰にでもできるけど、コピーする上ではどういう風にニュアンスを出すかのほうが重要なんですよね。解釈が違うアレンジを聴くのも良いですけど、やっぱり原曲の匂いが伝わってこないとファンは楽しめないですから。
──猪居さんが2026年2月にリリースする2ndロック・カバー・アルバム『Red Rose』にはMUCCの「咆哮」が収録されるそうです。せっかくですので、その音源をミヤさんに聴いてもらいたいと思います。
ミヤ オリジナル音源の「咆哮」のリフは適当すぎて(笑)。ちゃんと弾き切っていなかったり、適当に弾いていたりするので、そこをどうやったのかが気になる。
猪居 どのパターンにしようか悩んで、すべて統一しました。
ミヤ (音源を聴きながら)これフリーテンポで弾いているんですか?
猪居 はい、フリーテンポです。
ミヤ すごいな。やらなくていいところがけっこうある(笑)。“細かすぎて伝わらないモノマネ”と一緒なんじゃない?
猪居 (笑)。
ミヤ この曲のアプローチはスパニッシュっぽいんですけど、クラシック・ギターになるとそれがより出てきますね。でもそう感じさせるのも、“クラシック・ギターだから”というより“(猪居さんが)こういう人だから”なんですよね。クラシック・ギターという表現方法を持っているだけで、ひとりの面白い表現者だなって気がします。
猪居 ありがとうございます!
──ミヤさんが、猪居さんにクラシック・ギターで表現してみてほしい曲はありますか?
ミヤ 今はメタルやハード・ロックを多くやっていると思うんですけど、グループ・サウンズの曲や井上陽水さんの曲とかを弾いてみてほしい。俺はそこからの影響が強いので、自分のルーツを猪居さんが演奏するとしたらどんな風にやるのか気になりますね。
──MUCCの楽曲だとどうですか?
ミヤ クラシック・ギターのアプローチで聴いてみたいのは「娼婦」。「娼婦」は“Xがアングラになったらどうなるのかな?”と思って作ったんですが、あとからロシア民謡がルーツにあることに気づいた曲なんです。フレーズ的にもクラシック・ギター映えするし、途中に「モルダウ」的な要素も入っているし。
猪居 そうなんですね。改めて「娼婦」をそういう曲なんだと思いながら聴いてみようと思います。
ミヤさんがソロのクラシック・ギターを録ったらどうなるんだろう──猪居
──クラシック・ギターで「紅」を弾いたところから始まり、その後、ロックの道に進んだミヤさんですが、現在の音楽性やギターのプレイ・スタイルにクラシック・ギターはどのように根づいていますか?
ミヤ クラシック・ギターというよりはピアノが土台になっていますね。生まれた頃からピアノがあったので、自分が書いた曲をピアノに置き換えると、“これってもしかして?”みたいにルーツに気づくことは多いんです。
で、クラシック・ギターは、形が違うだけでピアノと同じところにある楽器だなと思っています。エレキ・ギターやバンド・サウンドは、見えないところは見えなくなるし、だからロックってかっこいいと思うんですけど、その見え隠れしてる部分のルーツには絶対にクラシックがあって。そういう風に育ててくれたうちの親にはすごくありがたいなと思いますね。
クラシック・ギターはやればやるほど難しいので、そこにもリスペクトがありますし。自分はそこに到達できなかったのでロックで仕事していますけど、すごくありがたいルーツだなと思います。ちなみに、クラシック・ギターって何年前からあるんですか?
猪居 今の形になったのは200年前くらいですかね。
ミヤ そうなんですね。クラシック・ギターを扱えることにリスペクトですよ。相当な努力で休みなく練習する素質がないとできないと思う。だからそういう人がロックに目を向けてくれて、エンターテインメントとして楽しめる動きをしてくれているというのはありがたいことだし、クラシック畑の方にロックから影響を受けましたって言ってもらえるのはすごくうれしいですね。
音楽に垣根はないけど、やっぱりお互いにロックに対する偏見もあれば、クラシックへの偏見もあると思うんですよね。でも今のインターネットでつながっている世界では、そんなのどうでもいいじゃないですか。我々もネットでつながっているみたいなものだし。だからもっといろんなことをやってほしいし、ライブでコラボする機会などがあれば良いですね。
猪居 はい! ぜひお願いします!
ミヤ ただやるからにはこっちは真っ向からロックをやって、そちらにはクラシックでやってもらう。寄り添うというよりもバチバチにやったほうが面白いと思いますね。
──猪居さんはクラシックとロックをつなぐ活動を続けていますが、ご自身の現在の活動についてどのように考えていますか?
猪居 私はクラシック・ギターから入ったんですけど、高校時代はMUCCのコピー・バンドをやっていたんです。
ミヤ エレキも弾いていたんですか?
猪居 はい。10代の頃はエレキ・ギターでプロになりたいと思っていたんですけど、親からは反対されました。ただやっぱりエレキは全然弾けなくて、私にとってはクラシック・ギターよりも難しいんですよ。
ミヤ えー、そういうもんですか?
猪居 やっぱりまずピッキングが難しいですし、左手のロック・スタイルのビブラートもできないんです。もしエレキ・ギターでプロになっていたら、今いただいているようなお仕事ができるレベルではなかったと思いますね。
今のマネージャーから“ロックが好きなら、クラシック・ギターで弾いてみたら?”ってアイディアをもらって、“これだったら、私の大好きなMUCCの音楽もできる!”って思ってロック・カバーを始めましたが、まさかミヤさんと対談できるまでになるとは思っていなかったので、クラシック・ギターには感謝しています。
あと、クラシックのファンでも“実はロックもメタルも好きなんですよ”っていう方はけっこう多いんですよね。
ミヤ メタルは特に多いんじゃないですか? 様式美というか、構築感もクラシックと似た感じがあるし。
猪居 そうなんですよ。どっちも好きっていうお客さんが“1回のコンサートで両方を聴けると思わなかった”という風に言ってくれたりします。だから、ロックやメタルのミュージシャンたちが影響を受けたクラシック音楽を演奏するというのが今の自分のギタリストとしての役目なのかなと思っていますね。
あと話は変わりますが、いつかクラシック・ギターをミヤさんに録っていただきたいです。ミヤさんがソロのクラシック・ギターを録ったらどうなるんだろうと興味がありまして。
ミヤ ぜひぜひ。レコーディングは大好きなので。普段はどういう風に録っているんですか?
猪居 基本的にはホール録音ですね。
ミヤ ライブ録音ということですね。レコーディング・スタジオで録ったこともありますか?
猪居 あります。今のレーベルで出している作品は全部ホールなんですけど、以前はスタジオで録っていました。
ミヤ ホールとは違う響きになると思うんですけど、ドライに録っておいてそこからリバーブで装飾するというのもすごく良いと思う。
猪居 ミヤさんが思うクラシック・ギターの音がどんな感じなのか、気になります。
ミヤ 昔、後輩に頼まれてサントラみたいなのを録ったことはあって。その時は全部アコースティック・ギターだったんですけど、やっぱり生楽器ってレンジが広くて音の幅も広いんですよ。なので、シビアなんですけど、表現にすごく幅がある。今は録音機器の精度が上がっていて、細かなところまで録れるので、イヤホンで聴いても寒気が走るような音像で録音したいなっていうのが頭に浮かびました。
猪居 次の夢ができました!(笑)
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