やっぱりビートものが好きなんですよね
──インタビュー初登場になりますので、まずはアコースティック・ギターを弾き始めた経緯から聞かせてください。
中学校2年生にテイラー・スウィフトの“ザ・レッド・ツアー”の映像をYouTubeで観た時に、弾き語りをしている姿がすごくカッコ良くて、自分もギター始めたいと思ったんです。そんな矢先に、学校で音楽の授業の一環としてクラシック・ギターでビートルズなどの曲を習って、いろんなコードの勉強もしていく中でギターがすごく楽しくなっていったんです。学校でギターの貸し出しをしていたので、家でもテイラーの好きな曲をカバーするようになったのが最初でしたね。
──ギターの練習はどういったことをしていましたか?
完全に独学で、ひたすら自分が歌いたい曲ばかりを練習していました。テイラーの曲は全部、コード譜を調べて演奏したり。最初はカポの存在も知らなかったので、“キーが全然違うじゃん”みたいに思ったり。本当にそんなところから始めました。
──その時に弾いていたテイラー・スウィフト以外の楽曲は?
アヴリル・ラヴィーンやシェリル・クロウは弾いていましたね。あとは授業でもやったビートルズの曲も。当時は洋楽が多かったですね。
──YouTubeの過去の動画を観ると、J-POPのカバーも多いですよね?
オーストラリアにいる時も母がよくCDを家で流していたので、aikoさんやZARDさんを聴いていたんです。ギターで歌うようになると、コードを見ながら演奏するので、普通に歌うよりも時間がかかるんですよね。そうすると歌詞がどんどん自分の中に入ってきて、邦楽の魅力にも気づいていったんです。
──ギターだけにフォーカスすると、どのようなアーティストからの影響が大きいですか?
やっぱりカントリーの、テイラー・スウィフトやシェリル・クロウあたりが大きいんじゃないかなと思います。手グセもどうしてもそこに似てくるので。だから逆に、染まりすぎちゃうので、あまり聴きすぎないようにはしています。
──その手グセはどういったところに表われていると思いますか?
どうなんだろう……例えばキーがGの曲でBメロの終わりにDコードを使っちゃったり、そういうサビに向かう時の進行には、“節”が入るように感じますね。
──1stアルバム『愛’sCREAM』の収録楽曲は、バンド・アレンジからビリー・アイリッシュのようなビートの楽曲など、すごく幅広い楽曲が並んでいます。これまでにいろんな楽曲をアコギでカバーしてきたことで、弾き語りで作曲している時点でアレンジも見えているような感覚はありますか?
自分ではあまり深く考えていなかったんですけど、言われてみるとそうかもしれないですね。いまだに自分で作詞作曲する曲では“これはロック系で提出している”みたいな感覚があったりします。“アルペジオでの弾き語りだけど、ドラムを入れたらアップテンポになる”とか。デモを弾き語りで作る時は、そういう感覚があるかもしれないですね。
──デモの弾き語りの時点で、入る楽器なども決まっているんですか?
決まっています。さっきビリー・アイリッシュっぽいって言っていたのは、たぶん「delulu」だと思いますが、あれも最初から絶対にビートものにしたくて書いていますし。
──「delulu」や「アイワナ」など、ビートで引っ張っていくような楽曲をアコギで作曲する時は、どのようなプレイになっていますか?
弾き語りにもアルペジオやストラミングなどいろいろとあると思いますけど、基本的にビートを効かせたい曲はミュートで作曲していますね。「アイワナ」もコードをある程度探っていったら、全部ミュートでAメロから書き出していった感じでした。
やっぱりビートものが好きなんですよね。インディー・ロックもすごく好きで、最近ではガール・イン・レッドっていうアーティストが、インディー・ロック感や懐かしさがあって大好きなんです。彼女の音楽もビートがはっきりしてるんですけど、曲が生きてるかのように鼓動のようにずっと鳴っているんですよ。
私の声にヤイリの音の深みが合ったんです
──テレビ朝日の『歌カツ!』(2020年〜)に出演されていた時は18歳でしたね。
懐かしい、『歌カツ!』……やばい(笑)。
──(笑)。あの頃からK.ヤイリのJY-45を使っていますが、初めの1本なんですか?

そう言いたいんですけど、実は2本目で。中学校2年生の1年間は学校のギターを借りていたんですけど、“これはテイラー・スウィフトが使っているものとは違う、クラシック・ギターだ”と気づくんですよ(笑)。
それで中学校3年生の時にオーストラリアで1本目に(ギター・ブランドの)テイラーを買って、“ルル”っていう名前もつけて大切に大切に使っていたんです。日本に帰る飛行機の時も大丈夫かなって心配して、たくさん包んで大切に持って帰ってきたんですよね。そのあとお母さんにコンビニに行ってくるから、ギター持って待っててって言ってたんですけど、お母さんが手を離しちゃって。路上に落ちて、当時はケースも薄いやつだったので、ネックが折れてしまったんです。
──えぇ……。
スマホに通知がきて“ごめん、倒れると思わなかった”とか言われて、大ショック。高いギターではなかったんですけど、見た目も可愛いしテイラーが持っていたギターに少し似ていて、“この子だ!”と思って大切に使っていたのに壊れてしまい……もう号泣。母とはめっちゃ仲がいいんですけど、その時初めて1週間ぐらい口を聞かなくなりました(笑)。
──そのあとにK.ヤイリを手にいれる経緯は?
高校生になって路上ライブをしたいと思っていたし、長く使えるものが欲しかったんです。それで17歳の時にお店に並んでいるのを見て一目惚れして、弾いてみたらすごくいい音で自分の声にも合うと感じたんです。“ルル”は小さめのサイズのギターで、私の声に対して少し音が高かったんですよね。私の声は深みがあるほうなので、ギターも深みがあるものじゃないと嫌だなと思っていたら、ヤイリがすごく良かったんです。
──YouTubeではHISTORYのNT-S4も使っていますよね?
ヤイリは深みのある音でストラミングに適しているので、路上やライブで弾くのにはピッタリなんですけど、それとは少し違うサウンド感としてあのモデルを選びました。ラジオのような場所で、アルペジオを爪弾きながら歌う時にはちょうどいいですね。配信とかにも適しているギターです。
床にキーボードを置いて足の指も使いながら弾いてました(笑)
──『愛’sCREAM』は1stアルバムですが、テーマなどはありましたか?
1stアルバムなので何か意味のあるものにしたいと思っていて、これまで生きてきた中で感じた、“愛”に対しての価値観を届けられるようなものにしたいと思っていました。
──作曲は基本的にギターで行なっていると思いますが、どのように作っていくことが多いですか?
今回のアルバムの曲だとメロディと歌詞が同時に浮かんだものが多いですね。例えば「恋する惑星「アナタ」」は、ウォン・カーウァイ監督の映画『恋する惑星』(1995年)のポスターを見て、“恋する惑星”っていう言葉が引っかかって、そこから1曲書こうと思った時は、歌詞とメロディが同時に出てきました。
ただ「831」は、プロデューサーのTomoLowさんとコライトさせていただいた曲で、ピアノから作っているんです。その時は歌詞の世界観を最初に考えてから、いただいたコードに対してメロを乗せてくっていう、やったことのない流れでしたね。
あとは1曲だけ、初めて自分でピアノから作った曲もあって、それがタイトル・ソングの「愛’sCREAM」なんです。ギターは慣れているのでコードもスムーズに出てくるし、書ける時は10〜20分でサビができることもあるんですけど、逆に言うとそれって手グセがあったり、あまり音と向き合えていない時もあると思うんです。でもピアノは全然慣れていないから、ひとつコード進行を変えるだけでも時間がかかるんですよね。
──黒鍵も多いB♭のキーで、初めてピアノで書くには難しいキーを選びましたね。
めっちゃ大変でした(笑)。でも音が素敵で、ギターにはない鳴りがあったので、響きを優先して書きましたね。ただ、作曲中の姿は到底披露できるようなものじゃなかったです(笑)。おじいちゃんが買ってくれたキーボードが部屋にあって、それを床に置いて足の指も使いながら弾いてました(笑)。
──(笑)。ピアノで作曲することによって気づいた、ギターで作曲した曲の特徴などはありますか?
Bメロが違いましたね。Aメロやサビは曲ができた瞬間に、“これだ!”っていうものが迷わずにできるんですけど、その間のブリッジとなるBメロが、ギターで作る時はバリエーションが限られてしまう。限られてるコードの中でやっているのもありますし、Bメロは手グセが出やすいと思いました。
ピアノで作るとBメロが全然違って、ゆとりがある。Bメロは言いたいことも詰まっているのに、サビに行くために早く終わらせてしまいがちだったんです。でも、ピアノで作った「愛’sCREAM」は一番長い音が入ったりして余韻が生まれたんですよ。

ギターを弾くようになって、やっと相棒ができた
──「グッバイバイ」を弾き語りでカバーしたい人は多いと思います。何かプレイ面でアドバイスはありますか?
「グッバイバイ」は8〜9回ぐらいアレンジャーさんとやり取りしているんですけど、そこで何にこだわっていたかと言うと、やっぱりビートなんですよ。ド頭の“EyeとEyeが合ったの〜”っていうところのビートが、最初はイメージしていた音色と全然違くて、入ってくるスピードもズレていたんです。そこに寄り添ってくださるアレンジャーさんだったので、最後までこだわって調整していったんですよ。
で、それをギターだけで表現するとなると、Aメロは声を聴かせるためのアルペジオにして、Bメロはミュートでビートを引き出す、サビは“Be by your side”、“会いたいわ”みたいにループなので、ストラミングでドラムの仕事をしてダイナミクスを出すとか。それが個人的に気に入っている「グッバイバイ」の弾き方ですね。
でも、たまに1コーラス全部をアルペジオで弾いているカバーもあって、それはそれで素敵だなと思います。
──「劣り」の最初のストロークが、初期のYouTubeの録音のようなラインの音です。Apple Musicの解説で、路上ライブをやっていた頃の思い出から作った曲だと書いてあって、その音をイメージしたのかなと思ったのですが、いかがでしょう?
あれは私のデモの音をそのまま使っているんですけど……なんかそういう風に言っときたいですね(笑)。もちろん路上での思い出をメインに書いた曲ではあるんですけど、曲自体は自分自身への応援歌で。当時路上ライブ以外の場面でもギター1本でいろんなところに行っていたりしてたので、“ギターと私”を表現したかったんです。
でも……表現を変えたら言われたとおりかもしれないですね。路上の時の自分というわけではないんですが、ギターと一緒にやってきた感じの音を入れたいなと思って、そうなっているんだと思います。
──冨岡さんの音楽人生において、アコギの弾き語りはどんな存在ですか?
土台というか、それがなかったら何もないと思います。昔にクラシック・ピアノを習っていたんですけど、全然好きになれなくて。でも歌うことはすごく好きだったんです。
で、ギターに出会う前はアカペラが一番好きで、カラオケで歌うのは全然好きじゃなかったんですよね。ギターを弾くようになって、やっと相棒ができたっていう感じで、自分に寄り添ってくれるし、私の歌の持ち味をより引き出してくれる。だからここぞというところでは、やっぱりアコギでの弾き語りを聴かせたいですし、ライブのセットリストにも絶対アコースティックの箇所は入れます。
──最後に読者にメッセージをお願いします。
めちゃくちゃいい曲たち、自信作ばかりをまとめたアルバムなので、1曲1曲聴いていただけたら嬉しいです。個人的には声とアコギの相性がすごくいいと思うので、うしろで鳴っているアコギにも着目して聴いてもらえたらなって思いますね。
『愛’sCREAM』冨岡 愛

Track List
- あなたは懐メロ
- 恋する惑星「アナタ」
- 愛 need your love
- delulu
- アイワナ
- デジャヴ
- 劣り
- beat up
- MAYBE
- 831
- 愛’sCREAM
- グッバイバイ
ビクター/VICL-66102(通常盤)/2024年11月12日リリース
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