龍藏Ryuzoが語る、煌びやかなソロ・ギターで彩った初のクリスマス・アルバム

ソロ・ギタリストの龍藏Ryuzoが、初のクリスマス・アルバム『Very Merry Christmas〜Acoustic Guitar Solo〜』をリリース。J-POPを多くカバーしてきた彼にとって、欧米スタンダード曲の多いクリスマス楽曲のアレンジには、また違った苦労があったそう。各楽曲のプレイから、龍藏Ryuzo流アレンジのこだわりと探っていこう。

取材=アコースティック・ギター・マガジンWEB 写真=田中利明(Rolling Ahead)

クリスマスのにぎやかな感じは出したいと思っていました

──初のクリスマス・アルバム『Very Merry Christmas~Acoustic Guitar Solo~』はどんな1枚に仕上がりましたか?

 今まではJ-POPが中心でしたが、今回はスタンダード曲が多いんですよね。J-POPのように、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏があるような作りではなくて、1コーラス分のテーマという形が多いじゃないですか。なので、アレンジの手法が今までと全然違う感じになっていて。全体的にソロっぽい部分が多かったり、アレンジをひと工夫しないと間(マ)が持たないんですよね。そういう意味でも今までのアルバムとはけっこう違う感じになったかなと思います。

──でもジャズのスタンダード演奏などとは違って、ソロのパートもテーマのメロディに沿った流れが多いですよね。

 ちょっと崩した感じのアプローチが多いですね。本当にセッション的なアドリブ・ソロでやってしまうと、曲がわかりづらくなるんですよ。なのでその曲のイメージを残しながらも、なんとかソロにできないかなって考えて作っていきました。

──アルバム全体のアレンジやサウンドメイクで、テーマのようなものはありましたか?

 奏法的には、ギャロッピング、オルタネイト・ベース、ウォーキング・ベース奏法が多いので、クリスマスのにぎやかな感じや軽快な感じは出したいと思っていました。そこにちょっとジャズっぽい要素があったり。J-POPの曲はまた少し別なんですけど、それ以外の曲はオシャレなイメージで弾きましたね。

 ちょっと言い方がいやらしんですけど、やっぱりジャズっぽい要素が入ったほうが需要があるんですよ。ウケがいいというか。僕の今までのYouTubeでは、そういうオシャレな要素を入れると、大人の人たちが食いつく感じがあるんです。

──以前にもYouTubeでクリスマス曲は披露していますが、今作に収録するためにアレンジは変わりましたか?

 YouTube版は短くて展開も弱かったので、それよりは凝った感じにリアレンジしました。例えば「ジングル・ベル」は転調を入れてみたり、「赤鼻のトナカイ」も2周目は遊び心を出してみたり。

──「ジングル・ベル」はCからEに転調しますが、ウォーキング・ベースで疾走感を出した流れからまたCに戻りますね。ここはどんなイメージで作っていきましたか?

 キーはCが一番弾きやすくて、Eになると急に弾きにくくなるんです。でも、Cでずっと弾いていたら“もう少し華やかさが欲しいな”ってなったんです。それでほかの曲のようにソロを盛り込もうかとも思ったんですけど、どうもしっくりこなくて。何かないかなと考えた時に、Eにいけば開放弦で華やかな感じが出せるので転調してみようと思ったんです。

 ウォーキング・ベースはそういうイメージがよさそうだなっていう感覚があったので、盛り込んじゃったっていう感じですね(笑)。そのままEで終わってもよかったんですけど、またCに戻るのもおもしろいかなと思ってやってみましたね。

──転調するとメロディの運指はまるっと変わりますが、そこの苦労はどういう感じなんですか?

 あんまりそんなに感じてないですかね。コード・フォームで追っかけている感覚で、進行はただ転調しただけで同じなので、そんなに苦労はしていないというか。ただ、ウォーキング・ベースは指が覚えないといけないので、けっこう反復練習はしますね。

──ウォーキング・ベースが入るところはどのようにアレンジを組んでいくんですか?

 ベース・ラインはできるだけ最初に作っていくんです。コード・トーンも意識しながら、かつラインとしてもカッコいいほうがいい。でも、ベース・ラインを優先すると物理的に弾けないメロディも出てくるので、そこがうまいことメロディが弾ける形になるよう試行錯誤していきます。で、作り上げたものをあとは反復練習するっていう感じです。

──「We Wish You A Merry Christmas」や「ホワイト・クリスマス」などでもウォーキング・ベースが出てきいますが、アレンジが一番難しかったのはどれですか?

 「We Wish You A Merry Christmas」はスッとできたんですよ。ベースが入れやすいライン上にメロディがあってくれたので。で、一番苦労したのは「星に願いを」でしたね。このウォーキング・ベースが、僕の中ではすごく速いんですよ。頑張ったので、めちゃめちゃいいアレンジなんですけど、弾くのは大変です(笑)。

──ジャズ・ブルース的なソロ・パートもありますが、アドリブから作っていく感じですか?

 アドリブ的な要素は強いですね。だから、セッションなどで弾くフレーズにはやっぱり似てきます。ただ、やっぱりベースとかも入れないといけないので、その制限された中でなんとか弾けるフレーズを探し出す感じなんですけど。

──アドリブで弾く際は、スケールなどはどの程度考えていますか?

 狙いによりますが、ジャズっぽく弾きたい時はコード・トーンを意識してスケールで組みますし、もっとブルージィにやりたいと思ったらペンタトニックしか弾かない、みたいな感じもあります。

9thの響きが好きなのでよく使ってしまいます

龍藏Ryuzo

──全体的にテンションなどは過度に入れすぎないようにしている印象ではありますが、「きよしこの夜」は冒頭がいきなりAadd9で奥行きを感じさせます。このあたりのコード選びはどのように考えていますか?

 僕、AはもうほぼAadd9で弾いちゃうんですよ(笑)。普通のロー・コードではなく、このハイ・ポジションのほう(6弦から[×-0-7-6-0-0])がすごく好きで。これはいろんな曲でついつい使っちゃう手クセですね。でもたしかに、テンションばかり入れすぎると原曲のイメージを崩しすぎてしまうので、やりすぎないようには注意していますね。ただ、個人的に9thは響きが好きなので、よく使ってしまいますよね。

──この曲はDM7へ進む前の開放弦を交えたA7も9thが入りますね。メロディを3〜4弦で弾いて、1〜2弦の開放弦がバッキングに位置するアレンジは、すごく広がりが演出される印象です。

 それも手クセのような感じで、好きなコードがいっぱいあるんです。例えばAadd9だったら、さっきも言ったようにこう(弾く)なんですよね。このほうが3度が入って響きがきれいになる。C♯m7も僕はこっち([×-4-6-6-5-4])で弾くことはあまりなくて、だいたいこっち([×-4-6-6-0-0])かこっち([9-×-9-9-0-0])で、これ([9-×-9-8-0-0])で9thが入れられる。

 EM7も1弦を開放弦にしたり([×-7-6-8-0-0)、Bm7はこう([7-×-7-7-0-0])だったり、そういうコードが僕の中にいっぱいあるんです。普通の押さえ方を崩すのが好きなんでしょうね。

──開放弦が使えるコードの形をストックしているような感じですか?

 そうですね。その時作る時もありますが、ほぼストックですね。この半音のぶつかり([9-×-9-8-0-0])なんかは、ギターならではのきれいさがあるじゃないですか。G7はこう([3-2-0-0-0-1])じゃなくて、こう([3-×-3-0-0-0])してしまったり。そういうのはけっこう使っちゃいます。

 なので、キーCではあまり使えなかったりするので、キー選びがかなり大事になってくる。ソロ・ギターだとCが一番弾きやすいんですけど、AやE、Dのほうが開放弦が活かせるんですよね。

──「ウィンター・ワンダーランド」は前半は低音弦はあまり使わず、後半になっていくにつれてベースが動いていきます。このような1曲の中での緩急のつけ方は、スタンダード曲だとより重要になってくると思いますが、どのように考えていますか?

 これも試行錯誤で、すんなりいく曲もあれば苦戦する曲も出てくる。一度全部をバーッとアレンジしてみた時に違和感を感じる時が、緩急がない時だと思うんです。のペ〜っとしてるんですよね。

 特に「ウィンター・ワンダーランド」を最初にアレンジした時は、たぶん全部ギャロッピングで攻めたんですけど、すごくのっぺりしたんですよ。そこで色々考えて、アタック系のアクセントを入れてみたり、後半にウォーキング・ベースを盛り込んでみたりして。そういう緩急をつける作業は、本当に試行錯誤ですね。一応得意なパターンはあって、ギャロッピングとウォーキング・ベースはよくやるので、もうひとつパターンが欲しくなった時に、アタックでアクセントをつけるパートも作ってみようと。

──以前のインタビューで“引き算を意識するようになった”と語っていましたが、ベースを少なくするところにそういう感覚が入っているのかなと思ったんですが。

 そういうところもありますよね。ただ、最近はそこまで意識していないかも。どちらかというと最近意識しているのは、いかにノリを出すか。そのジャンル特有のノリがあるので、そこをどう出そうかはいろいろ考えているんですけど、最近はゴーストノートを入れることが多くなりましたね。

──それはどのようなタイミングで入れるんですか?

 ベース・ラインの合間にパッと入れて、ベースとリズムに絡んでくるイメージですね。わりとどの曲でも入っていると思います。

セッションっぽい流れに注目してほしいです

龍藏Ryuzo

──「Merry Christmas Mr. Lawrence」のソロ・ギターは、やはり押尾コータローさんによるバージョンの印象が強いですよね。ほかにもクリスマス曲はソロ・ギターの定番ばかりですが、ほかのアレンジと差別化するうえで、どのようなことを考えましたか?

 「アメイジング・グレイス」もトミー・エマニュエルがすごくいい演奏をしていますし、こういう曲はやりたくないんですよね(笑)。ただこの「Merry Christmas Mr. Lawrence」に関しては、僕はレギュラー・チューニングが主なので“オープンチューニングじゃなくてもこれだけ頑張れるよ”っていうことを見せる意味でも、やってもいいかなと思ったんです。それに、この曲のアレンジに関してはほぼ苦労していなくて、わりと原曲のとおりに作れた感じですね。

 「星に願いを」はバラードできれいに弾く人はいますけど、早めの4ビートでアレンジしてる人はあんまいないんじゃないかなとか。「アメイジング・グレイス」もブルース寄りのアレンジにして、1周目は普通に弾いて2周目にちょっとリズムを出して3周目で転調、最後に締めでバッとテンポを落としたり。アイディアをいろいろ頑張ってひねり出した感じですね。

 あと僕はエレキ出身で速いパッセージは得意なので、そういうのを盛り込んだり。ずっとアコギで弾いている人はあまり速弾きはやらないので、そういうプレイは大事に使っていますね。

──その中でもアレンジに最も苦労した曲を選ぶなら?

 これはもうダントツで「Happy Xmas(War Is Over)」ですね。原曲ではメイン・ボーカルの裏でコーラスも動いているので、それをどう表現しようかなと。いろいろと苦戦した結果、親指の腹でストロークするという作戦に出て、それでうまくいい感じにできたと思います。

──今作も譜面が同時発売されていますが、コピーする人にアドバイスをお願いします。

 いつもなんですけど、全体的にけっこう難しめなんですよ。特にスタンダード・ナンバーはテーマをもじったようなソロっぽい部分が難しいんですけど、テーマ部分だけでも全然楽しめるので、無理に全部やらなくてもいいです(笑)。テーマの1コーラスをやるだけでも楽しめる感じのアレンジになっていますので、無理なく楽しんでコピーしていただけたら嬉しいですね。

──では最後に、アコギ・プレイヤーに注目してほしい聴きどころを教えてください。

 テーマがあって、そのメロディを崩したソロ部分があって、またテーマに戻って終わるみたいな、セッションっぽい流れに注目してほしいです。それにソロ・パートはかなり練って作っていて、その上で僕らしいフレーズが出ているので、そこも楽しんでもらいたいですね。

──ちなみに9月24日の発売ですが、クリスマス・アルバムとしては早くないですか(笑)?

 そうなんですよ(笑)。でもこれが大事で、コピーする人がクリスマスまでに間に合うようにするには、これくらい早くないといけなくて。YouTubeにあげ始めたのも夏ですから(笑)。だいぶ先取りしちゃってます。

──たしかに、コピーに挑戦するならそれくらいの期間は必要ですね……(笑)。

『Very Merry Christmas〜Acoustic Guitar Solo〜』龍藏Ryuzo

Track List

  1. きよしこの夜
  2. ジングル・ベル
  3. 赤鼻のトナカイ
  4. 星に願いを
  5. We Wish You A Merry Christmas
  6. サンタが街にやってくる
  7. アメイジング・グレイス
  8. ホワイト・クリスマス
  9. ウィンター・ワンダーランド
  10. Last Christmas
  11. WINTER SONG
  12. クリスマス ・イブ
  13. Everything
  14. Merry Christmas Mr.Lawrence
  15. Happy Xmas(War Is Over)

Rolling Ahead/RAHC-1007/2025年9月24日リリース

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