最初にハマったのはライトニン・ホプキンスだった
──まずはあなたのギター・スタイルに影響を与えたミュージシャンについて聞かせてください。
子どもの頃、私たちの父はフォーク系のグレイトなギター・プレイヤーだった(ビル・ウッド:ジョーン・バエズなどとも共演したシンガー/ギタリスト)。父は戦前のマーティンD-28を持っていて、私たちは父がこのギターを弾くのを聴きながら育ったんだ。その中でも彼はブルースっぽいプレイをすることもあって、家にもレコード・コレクションがあったんだけど、私が特に興味を持ったのが昔のブルースだった。
最初にハマったのはライトニン・ホプキンスで、彼のプレイからはブルースだけじゃなくて初期のロックンロールのようなリフも感じられたんだ。それがのちにハマっていくジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンにつながっているんだけど、その間にはフレディ・キングやB.B.キングのようなエレクトリック・ブルースもすごく好きになったね。ほかにもマディ・ウォーターズやジミー・リードのレコードもあった。そういうのが最初に夢中になった音楽だったね。
──フォーク系のミュージシャンにはそこまで影響は受けなかったんですか?
父はボブ・ディランやジョニ・ミッチェルのレコードも持っていたからそういうのも聴いていたよ。だけど、ライトニン・ホプキンスの曲は複雑じゃないから、自分でもどうにかなりそうな感じがしたんだよ。もちろん同じサウンドは出せなくても、トライできるものだった。ギター・プレイについては、そういうシンプルなスタイルが私にとっての基本だったと思う。
それからあとになってロバート・ジョンソンなどのアコースティック・ブルースの名作にも出会った。ちょうど彼の音楽が再評価されていた頃だったからね。さらにミシシッピ・ジョン・ハートやもっと近代の人ではタジ・マハールにもハマっていった。
──あなたはブルース・ロック・バンドのキング・ジョンソンで活動していましたが、ウッド・ブラザーズをやるようになった経緯を聞かせてください。
私の弟のクリス(ウッド/b)はジャズのグレイトなベース・プレイヤーになり、私たちはそれぞれ別のバンドで活動していて、10年くらい離れて暮らしていたんだ。再会した時の私はブルースやR&B、南部の音楽をプレイしていた。そこでふたりでバンドを始めてみようという話になって、彼が“もしチャールズ・ミンガス(b)がロバート・ジョンソンとバンドを組んだらどうなると思う?”って言ったんだ。そうやって始まった私たちの音楽は、ジャズとブルース、そこにいろいろなスタイルを混ぜているんだよ。
──ジャズやブルースなどのルーツ・ミュージックが土台にありつつも、ジャノ・リックス(Jano Rix)の改造アコギによるパーカッションや「The Trick」の歪んだエレピの音色など実験的なサウンドも多いですよね。
私たちはトラディショナルなものが本当に好きなんだよ。ただ、それを“モダンにしよう”という感覚はあまりなくて、さまざまなジャンルを混ぜたり実験的なことを試すことで新しい音楽を作っているんだ。
ジャノが使っている“シュイター(Shuitar)”っていう改造ギターは手製の楽器で、まるでドラム・セットみたいに使えるんだよ。歪んだエレクトリック・ピアノもかなりクールだったし、私たちはとにかく、プレイしていて楽しくてインスピレーションが湧くようなサウンドを探している。それはだいたいまだやったことのないサウンドの組み合わせや新しいレシピを見つけるってことになるんだ。
ちなみに次のアルバムでは、ゴスペルとラテン音楽を混ぜたような曲を披露すると思う。カリプソっぽいサウンドや、ほぼレゲエのようなラテンなベースラインもある。それでいてブルースやゴスペルの要素はちゃんと残っていて、それらをどう調理するかっていうレシピが違うだけなんだ。
それに、ブルースのプレイヤーって実はボキャブラリーがけっこう豊富なんだよね。そのルーツはゴスペルだったりする。ミンガスみたいな人も同じなんだけどもっと洗練されていて、彼はジャズのボキャブラリーを持ちつつもゴスペルやブルースと共に育っている。私たちは、全部を混ぜながらも、どこかに荒々しさやトラディショナルなヴァイブを音楽に与えていきたいと思っているんだ。

基本的な発想は“一般的に良しとされていることに逆行してみよう”
──新しいアルバム『Puff of Smoke』もウッド・ブラザーズらしさ全開で、冒頭の「Witness」のA7のリフから耳を奪われます。
長年ギターを弾いてきたせいで、たまに自分のリフに“あぁ、これは誰かがすでにやっていそうだな”って飽きてしまうことがあるんだ。そこで違うチューニングを試すことがあって、シェイプが変わることで全然違う音使いになり、偶然にも新しいリフが生まれることがある。あのリフもまさにそうやってできたんだ。
──それはどんなチューニングなんですか?
私がスライドを弾く時によく使うチューニングで、1弦だけを1音下げてDにしている。だから半分だけオープンGって感じだね。あのリフのダブル・ストップの部分が、普通のチューニングでは出せないニュアンスになるんだよ。
このチューニングは1弦以外は普通のチューニングだから、親指をネックの上に回すスタイルで普通のコードも押さえられるし、そこに7thを加えることもできる。あとチューニングを変えずにオープンGに近い感覚でスライドもプレイできるんだ。
──「Witness」はキーがCメジャーになってすぐにD7からAのブルースに戻る感じに、ウッド・ブラザーズらしい絶妙なバランス感を感じます。
例えば指摘してくれたところではCをプレイする際にGをベースにして鳴らし、そこからGに移るっていう流れで、私はこういったゴスペルっぽい響きが大好きなんだ。それに、こういうコード進行によって、曲にも面白さが加わる。この曲のヴァースはAマイナーやA7で引っ張っている長いセクションで、別のパートにこういうコード進行を入れるとコントラストによってメロディが生きてくる。
あとこのリフは、私がよく聴くアフリカのディ・ガリ(D’Gary)というギタリストがいて、彼のプレイからインスパイアされたものだと思う。何をやっているのか全然わからないくらい難しいんだけど、おそらくオープンGチューニングか何かで弾いているインターバルの響きが耳に残っていたんだ。自分で作ったあとに“これってディ・ガリっぽいな”って思ったんだよ。
──「Puff of Smoke」でのプレイなど、あなたのフィンガーピッキングはとても歯切れの良いリズムですが、どのようなルーツがありますか?
タジ・マハールにハマった時期があって、彼のルーツとなったミュージシャンたちまで掘り下げたんだ。その中でも特に大きかったのが、ミシシッピ・ジョン・ハートとギターを逆さまに持って左利きでプレイしていたエリザベス・コットンで、彼女の代表曲「Freight Train」のようにオルタネイトでベース音をプレイするスタイルを学んだんだ。
そういったフィンガーピッキングの手本になっている人たちは、基本的にソロでプレイしていて自分でリズムを全部キープしているだろう? それをベーシストやドラマーと一緒にやる形に応用して、「Puff of Smoke」のようなファンキーな曲に取り入れるのは楽しいチャレンジなんだよ。
私たちの過去の曲でも、もともとはトラディショナルなフィンガーピッキングだったけど、ドラムとのコンビネーションでどんどん変化していったものがいくつかある。ニューオーリンズ風のリズムを意識してアクセントをつけたり、逆にベース音をあまりヘヴィ過ぎないようにしてスペースを残したりね。
その際のポイントは、サムピックを使わずに生身の指でプレイすることで、ベースやバスドラムの邪魔をせずに済むんだ。
──今回はスライドが聴けるのは「The Waves」ぐらいですが、スライド奏法についても聞かせてください。あなたは中指にスライド・バーを装着していますが、どのようなメリットがありますか?
1弦をDにするチューニングで弾くようになって、どの指でスライドをプレイするか試行錯誤した結果、中指が“一番犠牲になっても大丈夫”だってことに気づいたんだ。残りの指を使えばセブンス・コードや3〜4音のコードはまだ押さえられるっていうのが中指を選んだ理由だね。
リトル・フィートのローウェル・ジョージやボニー・レイットといった私の好きなギタリストも同じスタイルだったのもあるね。自分のヒーローたちも同じことをしていたとなると嬉しくなるよね。
──木製のスライド・バーなども使っていますが、使うスライド・バーへのこだわりなどはありますか?
普段はガラス製のスライドが好きだね。今回のアルバムでは使ってないけど、ライブではあえてサステインのない素材を試したこともある。木製のスライドも持っているし、ゴム製のだって持っているよ。まぁ、想像どおり音はメチャクチャ酷いけどね(笑)。
そもそもスライドはサステインが求められるものだろう? でもウッド・ブラザーズの基本的な発想は、“一般的に良しとされていることに逆行してみよう”ってことなんだ。そうやって普通じゃないものを追いかけた先に新しい発見があるかもしれないからね。スライドについてもそうで、私にとってサステインのない音を探すことは面白くて、そのサウンドもけっこう好きなんだよ。
今回のアルバムで使った1930年代製のステラのパーラー・ギターはゴム製で、そこにフラットワウンド弦を張ることでかなりダークなサウンドになって、かつサステインもなくなる。「Is It Up To You」ではスライドはしていないけど、このギターを使っているね。このギターでスライドを弾くのもけっこう好きで、サステインがないからこそ典型的なプレイにならないんだよね。試してみてダメな時もあるけど上手くハマる時もあって、それがまた面白いんだ。
古いギターにはスピリットが宿っている気がする
──アコースティック・ギターのレコーディングでこだわりはありますか?
これっていうひとつのやり方があるわけじゃないけど、まずアコースティック・ギターは基本的にマイクで録っているね。で、今回のアルバムもアナログ・テープで録っていて、音が良いからってのもあるけど、それが一番の理由ではないんだ。
最大の理由は“選択肢が少ない”ことで、コンピューターで録るとあとから直せるし編集も簡単だけど、テープだとそれができないぶんパフォーマンスに集中することになる。“あとで編集すればいい”とか考えずにやるほうが楽しいし、より良いものになる。テープ・レコーダーに向かってライブをしている感覚で、それは私のヒーローたちがかつてやっていたトラディショナル方法だろう? そういうマインドで録音するのはなかなか気持ちいいものだよ。
──所有しているアコースティック・ギターについても教えてください。まずは貴重な1950年代のギブソンCF-100を持っていますが、どんなギターでしょうか?
このギターは本当に気に入っている。昔、小ぶりなギブソンが欲しくて新品のL-00を買ったんだけどシックリこなくてね。ある日ギター・ショップに行ったらあのCF-100が置いてあって、見た目はボロボロだったけどちゃんと修理されているしっかりしたギターだった。クラックもたくさん入っていたけど、調整されていたから見た目よりずっとソリッドな音だった。カッタウェイがあるけどそれは決め手じゃなくて、ただグレイトなサウンドだから手に入れたんだ。
で、そのすぐあとにデレク・トラックスからギターを1本プレゼントされたんだよ。テデスキ・トラックス・バンドと一緒にツアーに出た時に、彼が持っていた1930年代のL-00を気に入って、彼のバスで毎日そのギターをプレイしていたんだ。そしたらツアーの最終日に“ほら、プレゼントだよ”と言って、同じモデルを私にくれたんだ。1937年製のVネックでとても美しくて、今でも私のお気に入りの1本だ。
──そんな貴重なギターを……(笑)。ほかにお気に入りのアコースティック・ギターはありますか?
000くらいのサイズの1950年代製ハーモニーも持っていて、おそらくH-1203だと思う。「Puff of Smoke」はこれで録ったよ。ハーモニーはチープなギターだけど、最近はそれを改造して再ブレイシングしたりする人も多くて、このギターもリフレットをしてXブレイシングを施してある。50年代の良い木材はそのままだから、サウンドが良いんだよ。私はハーモニー以外にもケイ、ステラ、シルバートーンみたいなギターが好きで、そういうものをたくさん持っている。
今回のレコーディングではギブソンは使っていなくてハーモニーがメインで活躍しているよ。ハーモニーはCremonaっていう50年代のアーチトップも数曲で使っていて、「Witness」なんかはそれで弾いている。
──ライブでのアコギの出力はファイアー・アイ(Fire Eye)のRed Eyeからバランス・アウトされているのを見ましたが、それは変わらずですか?
今も同じシステムだね。ドラムがいるバンドで大きな会場でやる時は、マイクで拾うのは正直不可能だろう? だからピックアップが必要で、私のアコースティック・ギターにはK&KのWestern Miniを入れている。それにマッチするDIとしてRed Eyeを誰かに勧められたんだ。けっこう気に入っているよ。
──CF-100はマグネティック・ピックアップも搭載していますが、これも同じように出力しているんですか?
このギターにはK&Kとサンライズのピックアップが両方入っていて、昔はステレオ・ケーブルでふたつのピックアップを同時に出力していたんだ。でもサンライズのマグネティック・ピックアップのサウンドがあんまり好みじゃなくてね。今はK&Kのほうだけ使っているよ。
──あなたが使うアコースティック・ギターは基本的にビンテージで、またマーティンはほとんど見たことがありません。どのようなアコースティック・ギターが好みなのでしょうか?
マーティンは父から受け継いだ1本以外はあまり弾いたことがなくて、レコーディングにもほとんど使ったことがない。でも素晴らしいギターだと思っているし、特に古いものは本当に良いよね。
ただ私が好きなのはちょっとクセのある小さめのギターで、例えばギブソンやハーモニー、ケイ、ステラのようなもので、サイズはパーラーや000、00あたりが好きなんだ。それに古い木に何かを感じるし、そういうギターにはスピリットが宿っている気がする。古くなれば長い歴史が蓄積し、“このギターは誰が持っていたんだろう?”とか“どこに行ったんだろう?”って思いを巡らせるのが好きなんだ。
──日本にもブルースなどのルーツ・ミュージックのファンは多く、そんな人たちがあなたたちの音楽を聴いている印象です。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
私たちの音楽を聴いてくれている人たちが日本にもいるなんて本当にうれしいよ。私たち自身、どこで誰が聴いてくれているのか実感できないこともある。ヨーロッパには何度か行ったことがあって、大都市ではわりと知られているんだけど、それでもまだ私たちのことを知らない場所もたくさんある。だから日本の音楽ファンにはいつか会いに行きたいな。本当に近いうちにね。
『Puff of Smoke』The Wood Brothers

Track List
- Witness
- Puff of Smoke
- Pray God Listens
- Money Song
- The Trick
- Is It Up To You
- Above All Others
- The Waves
- Slow Rise (to the middle)
- You Choose Me
- Till the End
BSMF/BSMF-6269/2025年8月22日リリース