BEGINの島袋優が語る、新作『太陽』における作曲とアコースティック楽器のプレイ

2025年にデビュー35周年を迎えたBEGINが、新作『太陽』をリリース。ギタリストの島袋優は、アコースティック・ギターやマンドリン、ブラジルの弦楽器=カバキーニョなども使用し、色とりどりな楽曲を鮮やかに彩っている。今回は新作の作曲やアコースティック楽器のプレイについて、またデビューからの35年で変化してきたアコギとの関わり方について話を聞いた。

取材・文=角 佳音 写真=かわどう

ちょっと弾くとすぐブルー・ノートになっちゃうんです

──今作『太陽』は、故郷である“メイド・イン石垣島”というのがコンセプトのひとつなんですよね。

 そうですね。石垣島の、自分たちで改造した大きなプレハブ小屋みたいな場所でレコーディングをしました。

 で、今回はほとんど一発録りで、極力マイクが被らないようにはしていたんですけど、アコギだけの音を録るやり方はしていなくて。ドラムやエレキは一応ちょっとしたブースに入っているんですけど、人間が出した足踏みの音とかは入っているんじゃないかな。クリアに録るというよりは、何本かのマイクでざくっと録ったイメージですね。

 それに、せっかく石垣島で録っているので、石垣のグルーヴやスピード感を大事にしたくて、クリックもほとんど使っていないんです。本島で作ったデモよりも石垣で録ったバージョンのほうがちょっとゆったりしたテンポになりましたし、もし東京で録っていたらテンポがもっと速かったかもしれないです。

──「沖縄Sunshine Day」は、比嘉栄昇さんがアコギを担当されているようですが、島袋さんは弾いていないのでしょうか?

 2回目のレコーディングでは俺も弾いたかな。1回目に録った栄昇のグルーヴを感じながら、上から自分のアコギも重ねたかもしれないです。

 この曲は昔のR&Bやソウルのようなリズム・パターンやメロディに取り組んだんです。マーヴィン・ゲイにしてもモータウンの音楽にしても、エレキは入っていてもアコギはあまり入っていなくて。意外とエルヴィス・プレスリーみたいなロックンロールのほうが入っていたりするんです。で、この曲だと“アコギはどこの役割かな?”って考えながら、パーカッション・チックな16分音符っぽいのを入れたりしました。

 あとリズムに関しては、ハネるのとハネていないのを1小節の間で行き来するような揺らぎも作りましたね。ハネずに裏のビートだけでいったら時速70〜80kmぐらいで車が走っているように感じると思うんですけど、その揺らぎがあることで、テンポは一緒だけど60kmぐらいに感じるというか。それが沖縄っぽいかなと思ったんですよね。

──「ワイキキシェル」は、スライド・ギターがハワイアンな雰囲気にマッチしていますね。

 スライド・ギターとスラック・キー・ギターを弾いているんです。スラック・キー・ギターは、ハワイのギター・スタイルで、オープンCにカポをして、Fで弾いていますね。

 この曲を録った日は大雨が降っていて、プレハブだと雨の音が入ってしまうので“これは厳しいね”って諦めた頃に、雨が上がったんです。なので、音源をよく聴いたらポツンポツンっていう雨が落ちる音が入っているんじゃないかな(笑)。

──インスト曲の「4匹のチワワ 」はエキゾチックな雰囲気がありますが、どんなテーマの楽曲ですか?

 「ワイキキシェル 」のレコーディングが終わって、ライブのために東京に行く準備をしていた時に、栄昇が“お客さんがライブから帰る時に、今回のアルバムを全部流したい”って急に言い始めたんです。でも、予定していたインスト曲がまだ作れていなくて、家で“どんな曲を書けばいいんだろう?”と考えていたんですよ。で、うちには本当にチワワが4匹いるんですけど、“4匹のチワワっていいなあ”と思ったんです。実はチワワってルーツがメキシコなんですよ。それで“メキシコっぽく、マリアッチみたいなメロディで書けないかな”と思ったら、思いのほか上手くいったんですよね。

 この曲のメロディは、普通の6弦のアコギと“カバキーニョ”っていうブラジルの(4弦)楽器をユニゾンで弾いているんです。“バホ・セスト”っていうメキシコの複弦(12弦)ギターがあって、メキシコ人はそれでメロディを弾くことが多いんですけど、俺は持っていなくて。なので、アコギとカバキーニョを重ねたらそういうニュアンスが出るかなと思って、試しながら重ねていきました。あと、イントロではガット・ギターも使っていますね。

──「ただ雲になる」は、どのように作っていきましたか?

 いわゆる“クラウドっぽい音”ってあるじゃないですか。ディレイとコーラスをかけてエレキでクラウドっぽい音を出すのはどうかな思って、最初はそっちでやってみたんですよ。でもうまくいかなくて、完全に世界観を切り替えて、俺はマンドリン、ピアノはアコーディオンで、ジプシー・ジャズじゃないけどそっちの世界観にいったんですよね。

 あと、今の子たちってSNSやネット・ゲームをやっていて、“クラウド上”にいっぱい情報があるじゃないですか。だから、逆に演奏だけは地面にぐっと持ってこようっていう発想だったと思います。

──「夜空にブルースを」は、島袋さんが作詞作曲を担当していますね。

 自分の音楽、特にギターに関して一番影響を受けたのがブルースなんです。ブルースマンって、本当に“愛すべきろくでなし”っていうか“最高なろくでなし”で。日本にも大好きなブルースマンがたくさんいますが、憂歌団の木村(充揮)さんは、ツアーに行くのにレジ袋だけ持ってきたり(笑)。“やべーな”って思うんですけど、それに憧れるんですよね。

 結局、自分はそこまで行けないので普通の人だなって思うんですけど、何もない一日で、ただ過ぎていくようなぽっかり抜けた感じの日に、“これが自分にとってのブルースかも”って思ったんです。とるに足らない一日に、空を見ていたらカラスが飛んでいて、“うるさくて評論家みたいな声をしてんな”みたいな。それが自分的にはブルースなのかなって。

──この曲は、イントロで聴こえるツイン・ギターのアンサンブルが印象的です。

 栄昇と一緒に録りました。こういうのは“BEGINの得意技”なので、メンバーみんなが活き活きと、何も考えずにできるんです。どこかを狙っているとか、どこに行きたいとかみたいなのはまったくなくて、本当にナチュラルに弾けました。アコギのソロも1〜2テイクで終わりましたね。

──ソロはどんなイメージで作ったものですか?

 ブルースが好きすぎて、ちょっと弾くとすぐブルー・ノートになっちゃうんですよ。「夜空にブルースを」に関しては、デルタ・ブルースとかよりは新しいんだけど、シカゴ・ブルースに行く前ぐらいのアコースティックなブルース・ギター・スタイルを意識しました。アルペジオ的なコードをなぞる指弾きのスタイルも入れているんです。そういうのを自分の中でうまく消化できたソロですね。

BEGIN 島袋優

これからもずっと好きでい続けたい

──BEGINには、アコギが軸の曲とエレキが軸の曲とありますが、島袋さんはそれぞれの違いをどのように考えていますか?

 まず曲を作る時に、ギタリストなのでアコギ1本で歌える曲になったらいいなと思うんです。もちろんエレキ1本の場合もあるんだけど、やっぱりエレキではギューンって泣きのギターを弾きたいんです。でもそれだとどうしても相方が必要で。エレキとアコギの棲み分けは、自分の中ではそこにありますかね。

──今作には昭和歌謡、ハワイアン、ロックンロール、ブルースなど多種多様なジャンルの楽曲が収録されていますね。プレイするスタイルが変わる際に、どのように頭を切り替えていますか?

 BEGINは3人ともルーツ・ミュージックが大好きなんですよ。ハワイアンやブラジル、メキシコ、沖縄の音楽もそうですけど、ものすごく尊敬しているというか、愛しているんです。だから切り替えるっていうよりは、“そこにどっぷり浸る”という感覚が大きい気がしますね。

 2024年に初めて自分のソロ・アルバム(『55rpm』)を出した時に、いろんな人に曲を書いてもらったんですけど、それは自分が予想していないところに行くので、頭の切り替えをしていたんですよね。でもBEGINでやってる時はそれがないんです。

──いろんなルーツ・ミュージックが全部混ぜ合わさっているんですね。

 “チャンプル”ですよね。沖縄独自のゴーヤ・チャンプルも結局はアメリカのポークの缶詰を使っていたりするし、いろんなものがごちゃ混ぜな世界で生きてきたので。

 例えばマンドリンを弾くようになったのもザ・バンドのような音楽をやりたいと思って独学で研究したし、ウクレレも“加山雄三さんかっけーな!”って思ってやってみたり。カバキーニョもそうですね。

──今作で使用した機材を教えてください。

 今回は全部ヤイリじゃないかな。アコギはBL-132RE、ガット・ギターはCE-1です。

BEGIN 島袋優
島袋優とK.ヤイリのBL-132RE

──さまざまな楽器をプレイする島袋さんですが、その中でアコースティック・ギターとはどんな存在ですか?

 “変なの”って言われるんですけど、自分の基準がアコギなので、ウクレレはアコギの5カポっていうイメージで弾くんですよ。カバキーニョはアコギの1オクターブ上、マンドリンはバイオリンと同じチューニングでギターと逆、っていう発想で弾くんです。自分の中でアコースティック楽器はアコギが中心にあって、そこから派生している。三線はアコギよりも先に弾いているので、まったく別の世界なんですけどね。

──デビュー35年という節目になりますが、アコギとの関わり方に変化はありますか?

 実はデビューが決まるまでアコギを弾いたことがなかったんです。もちろん一応触ったりはしていたんですけど、弦も替えたことがなくて。で、1stアルバムで初めてアコギでソロをやることになったんですけど、当時BEGINは“ネオ・アコースティック”みたいに言われていたので、“やばい、アコースティック弾けねえや!”っていうのから始まって(笑)。

 当時は、アコギはエレキに比べたらちょっときつそうみたいなイメージで、エレキの延長線でアコギっていうのを触っていたかもしれないんです。でもそのことを嘘のように忘れているぐらいで、今ではまったく別のものになっていますね。

──35周年を迎えた今、感じることはありますか?

 1990年にデビューした当時、まさか35年も音楽をやってこられるとは思えなかったんですよ。それはなぜかと考えた時に、もちろん音楽が好きっていうのが根本にはあるんですけど、やっぱりギターがめっちゃ好きっていうことが大きいんですよね。中学2年生の時に初めてギターを買って、台に置いてみたり、箱にしまってみたりをくり返していた感覚がいまだにあるくらい大好きで。

 BEGINはみんな音楽が好きなんです。こんなに好きだから、“美味しいものがいっぱいあるよ!”っていうふうに35年やれてきて、それが皆さんに届いているのかなって自分なりに解釈していますね。これからもずっと好きでい続けたいなと思います。

『太陽』BEGIN

Track List

  1. 太陽
  2. ほなバイバイ〜大阪マドロス女〜
  3. 沖縄Sunshine Day
  4. ワイキキシェル
  5. 星空の下のRADIO
  6. 4匹のチワワ
  7. ただ雲になる
  8. 開拓者
  9. 夜空にブルースを
  10. 空気いただきます
  11. なんくる君であれ

PIG PINK RECORDS/AMEJ-1001(CD +Blu-ray+Photo Book)、AMEJ-1002(CD)/2025年7月2日リリース

BEGIN 「さにしゃんサンゴSHOW!!」~35年目の音楽旅団ツアー~

◎スケジュール

  • 2025年9月19⽇(金)/東京・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
  • 2025年9月20⽇(土)/神奈川・小田原三の丸ホール
  • 2025年9月23⽇(火・祝)/新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
  • 2025年9月27⽇(土)/静岡・静岡市清水文化会館マリナート大ホール
  • 2025年9月28⽇(日)/三重・イスのサンケイホール鈴鹿(鈴鹿市民会館)
  • 2025年10月3⽇(金)/石川・金沢市文化ホール
  • 2025年10月4⽇(土)/長野・長野市芸術館 メインホール
  • 2025年10月11⽇(土)/鹿児島・宝山ホール(鹿児島県文化センター)
  • 2025年10月12⽇(日)/宮崎・日向市文化交流センター 大ホール
  • 2025年10月17⽇(金)/奈良・なら 100 年会館 大ホール
  • 2025年10月18⽇(土)/兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
  • 2025年10月25⽇(土)/島根・島根県民会館 大ホール
  • 2025年10月26⽇(日)/香川・サンポートホール高松 大ホール
  • 2025年11月8⽇(土)/福島・いわき芸術文化交流館アリオス アルパイン大ホール
  • 2025年11月9⽇(日)/岩手・奥州市文化会館 Z ホール 大ホール
  • 2025年11月13⽇(木)/山形・酒田市民会館「希望ホール」大ホール
  • 2025年11月15⽇(土)/秋田・由利本荘市文化交流館カダーレ 大ホール
  • 2025年11月16⽇(日)/青森・弘前市民会館
  • 2025年11月23⽇(日)/)熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2025年11月24⽇(月・祝)/福岡・福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2026年1月16⽇(金)/沖縄・宮古島市文化ホール(マティダ市民劇場)
  • 2026年1月18⽇(日)/沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
  • 2026年1月31⽇(土)/北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)
  • 2026年2月7⽇(土)/宮城・東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
  • 2026年2月14⽇(土)/山口・三友サルビアホール(防府市公会堂)
  • 2026年2月15⽇(日)/広島・広島上野学園ホール
  • 2026年2月23⽇(月・祝)/京都・ロームシアター京都 メインホール
  • 2026年3月1⽇(日)/愛知・Niterra 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2026年3月8⽇(日)/東京・NHK ホール
  • 2026年3月14⽇(土)/愛媛・しこちゅ〜ホール(四国中央市市民文化ホール)
  • 2026年3月15⽇(日)/高知・高知市文化プラザかるぽーと・四国銀行ホール
  • 2026年3月20⽇(金・祝)/大阪・オリックス劇場
  • 2026年3月21⽇(土)/大阪・オリックス劇場
  • 2026年3月28⽇(土)/沖縄・石垣市民会館
  • 2026年3月29⽇(日)/沖縄・石垣市民会館

◎チケット

  • 一般:8,800円(税込)
  • 小中学生:2,500円(税込)
      ※全席指定
      ※未就学児は保護者1名につき膝上観覧1名まで無料(座席が必要な場合は有料)

◎関連リンク

  https://www.begin1990.com/35show-tour/

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