花実茜音インタビュー【Morris FingerPicking Day 2025】アコースティック・ギター・マガジン賞

アコースティック・ギター・マガジン賞は、紅一点の花実茜音に贈ることに。14歳の俊英、韓国のリー・シーウーが会場全員の度肝を抜く演奏を聴かせた直後の出番となったが、花実は堂々とした弾きっぷりを見せてくれた。モリー・タトル「Next Rodeo」を豪快にストラミングするそのフィンガースタイルは、とても新鮮で爽快。当日受賞後に早速話を聞いてみた。

撮影:ashtei

昨年から始めたフィンガースタイル

──ギターを始めたのはわりと最近なんですか?

 2018年から歌をやりたいと思って、バンドを組んだんです。ライブの集客をするために、全然弾けないんですけど、配信で弾き語りをしたりして。独学で3年ぐらいは弾き語りしていました。

 で、2021年にエレキを始めたんです。きっかけは、マテウス・アサトとかコリー・ウォン、あと有賀教平さんとか、ああいうギタリストのYouTube映像を観て、かっこいいと思って。ギターの音がもともとすごく好きで、曲を聴いていると、ギターのリフを追っちゃうみたいな。

 エレキを始めて3人の先生に習いました。それこそ最初、有賀さんに習ったんですけど、有賀さんの演奏を生で聴かせてもらうみたいな、レッスンというより、ほぼファンみたいな感じで通っていて。そのあと理論系の先生と、スケールを叩き込む系の先生に1年ずつくらい習いました。

 で、去年の6月に、ライブに出る?という話があったので、何をするか決まってなかったんですけど、ひとりでテクニカルなギターで弾き語りをしたいと思って、アコギの先生を探したんです。YouTubeを見ていたら、矢後憲太さんが出てきて、まずはこの人に習おうと。そこでフィンガースタイルというジャンルがあることを知りました(笑)。それが昨年の2月末。3月に発表会があるよって言われて、とりあえず1曲覚えて2週間後に出ました。

──なんかすごいスピード感ですね。

 はい(笑)。矢後さんの曲を演奏したいと、発表会で「Once upon a time」という短めの曲をやって、6月のライブに向けて「Something Blue」と「Remember」と「Never Ever」の3曲を3ヵ月間めちゃくちゃ練習しました。6月にライブが終わって、アコースティック・ギター・ワールドさん主催の“ソロ・ギター・コンペティション”の募集が7月の末締め切りで、審査に通るとは思ってなかったんだけど、本選に出られたんです。

──最初からライブやコンテストを目標に続けていたと。

 目標がたまたまいい感じにあって。だからレパートリーがまだ全然ないんですよ。その3〜4曲と、今回のフィンガーピッキングデイのための2曲。

──つまり弾けるのは5〜6曲……そんな感じの弾きっぷりではなかったですよ。

 ありがとうございます。私的には、最近立て続けにオープンマイクに出て、とにかく場慣れしようって。コンテスト前に矢後さんのレッスンがあって、その時本当に良いイメージで演奏できたんです。今日はそれが出しきれなかったと思っていて。緊張して頭が飛んじゃって、弾けていたのかも自分でわからないというか。自分としては出しきれなかった気持ちでいっぱいだったので、アコースティック・ギター・マガジン賞で名前を呼ばれた時びっくりしました。ありがとうございます。

授賞式
授賞式の模様

85の策略

──モリー・タトルのカバーが意外でした。

 カントリーやブルースはそんなに聴いてなかったんですけど、矢後さんに毎週いろんな曲を教えていただいて。モリー・タトルやシエラ・ハルとかブルーグラスみたいな音楽をやりたいと思って相談したら、穴だと思う、そういう人いないからって(笑)。私はスキルがないから、できることをストレートにシンプルに、とにかくナイス・グルーヴで弾くのを目標にしようって言われて。

 モリー・タトルで、私が一番好きな「Next Rodeo」をやりたいって言ったら、その選曲めっちゃいい、矢後さんがよく使っているCGCGCDっていう「Something Blue」と同じチューニングでやってみようって。ソロ・ギターって、全部ベース音をとろうとしたら、すごく難しいと思っていたけど、このチューニングは開放弦を1度と5度で考えれば、意外とシンプルなんです。

──こういう楽曲だと複雑なコード進行ではないし。

 そうなんですよ。あのチューニング独特のバーンとした響きとギターの音色が合っていて。実力よりもうまいみたいに言われるんですけど、実はそんなに難しいことやってないんだよな〜と思っていて(笑)。

 で、オリジナルはDADGADで作りました。同じチューニングで作ったら、引っ張られちゃいそうと思って。でも、めちゃくちゃ苦戦しました。1曲として作り上げるのが難しくて、矢後さんに聴いてもらって、これはいらない、これはいいフレーズだね、もっとシンプルにとかアドバイスをもらいながら、毎週レッスンに通って、今回のアレンジが完成したんです。

 矢後さんの力がなければできなかったです。矢後さんの策略、スゴ!って(笑)。

──使っていたギターは?

 ボジョアのOMCソロイストです。これも物語があって。矢後さんに習い始めて数日後に、マーティンのオールマホのモデルを買ったんです。ソロ・ギターに向いているとか向いていないとかわからなくて。

 矢後さんにそれいったか〜と言われたんですけど、自分も実際力みすぎて優しく弾けなかったこともあって、ギターが負けちゃうというか、確かにソロ・ギター向きじゃないのかもと思いながら使っていました。うまくなるために、そのギターでやり続けるより、レンジが広くて表現力を鍛えられるギターを弾くと全然違うよという話を矢後さんからされている中で、6月にボジョアの展示会があって。そこでサンバーストのソロイストにひと目惚れして、もうこれしか見えなくなりました(笑)。

──なんか操られている気が……。

 いやほんとに危ないですよね(笑)。でも実際良いギターだなと今はすごく思っています。

──急にそこまでハマりますか!? 85塾、恐るべし……。

 時間とかお金とか、全部ここに費やしているんです(笑)。ひたすらひとりで練習すればいいんでしょって思うし、曲があるから、楽しい。楽譜があって、動画とかお手本もあるし、練習しやすいんですよね。フィンガースタイルは自分に合っていたんだなと。来年は最優秀賞を目指して頑張ります!

花実茜音

SNSでシェアする

アコースティック・ギター・マガジン

バックナンバー一覧へ