高橋優が語る、新作『HAPPY』の制作で蘇った“初期衝動”とアコギを弾き続けた15年

2025年7月にメジャー・デビュー15周年を迎えるシンガー・ソングライターの高橋優は、デビュー前の路上ライブ時代から、武道館での弾き語りライブ、また47都道府県弾き語りツアーなど、アコギとともにその活動を続けてきた。

そんな彼が2025年1月にリリースした9th AL『HAPPY』の制作にまつわる話を軸に、“高橋優とアコギの関係”について紐解いていきたい。

取材・文=角 佳音

その白いヘッドウェイで作ったと言っても過言じゃない

──まずは、今作『HAPPY』のテーマやコンセプトとして考えていたことから教えてください。

 コンセプトとしては、15年前にデビューした時の“自分らしさ”というか、自分が自由にのびのびと作るものをそのまま聴いてもらえる作品になればいいなと思っていましたね。

──そのコンセプトをアコギで表現できたと特に思う曲はどれですか?

 「明日から戦争が始まるみたいだ」ですね。最近、ヘッドウェイのアコースティック・ギターを買ったんですけど、それを弾いていた時にできた曲で。というのも僕、ヘッドウェイが大好きなんです。高校生の時に地元の楽器店でたまたま見つけて、一番最初に買ったアコギもヘッドウェイで。教則ビデオやギター・スタンド、ピックも3枚くらい付いてくる20点セットで8000円みたいな。路上時代はそのギターで8年くらいずっと弾いていたんです。

──新しいヘッドウェイを買ったのは何かきっかけがあったんですか?

 Spinna B-illっていう、僕の“青春時代”みたいなミュージシャンがいるんですけど、もともとSpinna B-ill & The cavemansっていうレゲエ・バンドで活動していて、今はソロでギター弾き語りもしているんです。その彼が小ぶりの白いギターで弾き語りしている動画をたまたま見つけて。“可愛いギターだな”と思ってよく見たら、“ヘッドウェイ”って書いてあったんですよ!

 で、気になってインターネットのサイトで調べたら、まったく同じモデルが売られていて。横浜の楽器屋さんにあるみたいだったので、そこへ行って触ってみたら状態もよくて、買うことにしたんです。

──そのモデルというのは、HN-615 ASHでしょうか?

 そう、それです! それからしばらくじゃかじゃか弾いていたんですが、サドルがパキーンって折れちゃったんです。でもサドルってちょうどよくハマるものがあまり売っていないみたいで……それで探し回ろうと思ったら、なんと1軒目のお店にバチっと合うのが売っていたんです。

 そんなエピソードが重なったギターなんですが、ちょうどその頃が、アルバムでなかなか仕上がらない曲があって悩んでいた時期で。息抜きとして、部屋でそのヘッドウェイを弾いていた時に、「明日から戦争が始まるみたいだ」ができたんです。

──そのヘッドウェイが生み出した楽曲だったんですね。

 もちろん曲ができた経緯で言えば、“幸せは、今日も明日も続くかどうかわからない”みたいなテーマからなんですけどね。でもギター弾きとしては、家にすごく好きなギターがあると弾き語りしたくなるし、ただ弾いているだけで幸せな気持ちになるっていうのがあって。

 あと、ヘッドウェイってどんな価格帯のものでも“ヘッドウェイの鳴り”があるじゃないですか。だから高校生の時、初めてギターを買った時の初期衝動もすごく蘇ってきたんですよね。

──“15年前の自分や、ありのままの自分らしさを表現するアルバムにしたい”という思いと、ヘッドウェイのギターが呼び起こした初期衝動がリンクしたんですね。

 そうなんです。デビューした15年前よりもさらに前、16〜17歳くらいの時に初めてギターを持った時の衝動がまだ残っていたっていうか。ヘッドウェイの音で、“青春時代に部屋でギターを弾いていた頃の感じ”を思い出したんです。なのでこのアルバム自体、その白いヘッドウェイで作ったと言って過言じゃないかもしれないですね。

上記MVに登場する白いギターが、ヘッドウェイのHN-615 ASH

鳴りや手触りがすごく好きだと思うようになって、アコギが本命みたいになった気がします

──その「明日から戦争が始まるみたいだ」は、高橋さん自身がレコーディングでアコギを弾いたんですよね。どのように作っていきましたか?

 レコーディングって、大体はプリプロをやって、それをなぞって弾いていくのが一番スムーズなんですよ。でもこの曲はプリプロをやらずに、バイオリンの須磨和声さんとドラマーのDUTTCHさんと3人でセッションをしながら作っていきました。出たとこ勝負のハプニング・ソングみたいにしたかったんです。

──「リアルタイムシンガーソングライター」も、レコーディングでプレイしたとのことですが、こちらも同じような流れでしたか?

 この曲は逆に、かなり入念にプリプロをして、しっかりと設計図を作ってやっていきました。編曲家の池窪浩一さんと、付き合いたてのカップルよりもたくさんやりとりしながら(笑)。

──作曲する際にはどんなギターを使いますか?

 ギブソンのDoveはライブや撮影の時に使っていて、普段は保管してもらっているんですよ。なので作曲する時は、普段家に置いてあるヘッドウェイとヤマハの2本を使っていますね。

──作曲に、アコギ以外の楽器を使うこともありますか?

 今作はアコギのみでしたね。

──それには何か理由があったんでしょうか?

 2023年から2024年にかけて47都道府県ツアーをやったんです。それが弾き語りツアーだったので、アコギへの愛が深まったのかもしれないですね。もちろんツアーではエレキも弾いたんですけど。

 もともと僕は、“アコギだろうがエレキだろうが、弾ければいいや”くらいの気持ちでギターを始めた人間なんです。アコギのほうが音が大きいから、路上ではそっちを弾いていたってだけで。

 でも、そのツアーを経たあたりから、アコギの鳴りや手触りがすごく好きだと思うようになって、アコギが本命みたいになった気がします。

──作曲についても聞いていきたいのですが、「オープンワールド」は展開が多く、何度聴いても発見があります。どのようなことを考えて作っていきましたか?

 この曲を作ったあたりから、“固定概念に縛られずに曲を書きたい”って思いがあったんです。地元の秋田県の「サタナビっ!」(秋田朝日放送)という番組の20周年記念タイアップだったので、素敵な良い曲にしたいと思いつつ、“そういう時こそ、好きに作ったほうがいいんじゃないか”と思って。

 あと、普段からあまりディミニッシュを使わないんです。できるだけメジャー・コードで作りたい人間なんですよ。

──それはなぜでしょうか?

 路上時代、立ち止まってディミニッシュ・コードについて熱く語ってきたおじさんに良い思い出がなくって(笑)。“私の若い頃はね〜ディミニッシュがね〜”とか言われて、“そんなの知らないよ!”って思っていたんです(笑)。

 そんな思い出もあって、今までディミニッシュやセブンスのような、ちょっとおしゃれなコードを多用する曲はあまりなかったなと思って、それを意識して、少し取り入れてみました。

──「spotlight」はイントロの一番最初で鳴るGコードの時、2弦3フレットを押さえていることで爽やかな印象が出ていると感じました。

 あ、そうなんです。この2弦3フレットの音が好きなんですよ。まず1音目のGでその音を鳴らして、次のDでも同じ音を鳴らして。さらにその次のCもそこを押さえてCadd9にして、同じ音が鳴り続けるようにしているんです。この曲のチャームポイントみたいな感じにしたくて。

 指で言えばたった2mmくらいの違いですけど、それだけで曲の特徴になりますよね。ギターって面白いですね。

ギターを弾き続けてきたおかげで、周囲が変わっていったのかなって

──「明日から戦争が始まるみたいだ」と「リアルタイムシンガーソングライター」のレコーディングで使用したギターを教えてください。

 ギブソンの黒いDoveだったと思います。赤いDoveもセッティングしてもらった気がしますが、確か黒を弾きました。

高橋優
高橋優とギブソン製カスタム・モデルのDove

──その黒いDoveと赤いDoveについて、聞かせてもらえますか?

 まず2008年に“マイ・ファーストDove”を買ったんです。それがボディが赤いほうのDoveですね。当時、サウンド・プロデューサーをやってくれていた浅田信一さんと渋谷のイケベ楽器に行って、“これいいよ!”って言われたんです。実際に弾いたらめっちゃかっこよくて、当時は上京したばかりでしたが、思い切って買いました(笑)。

 で、そのあとにギブソンさんが作ってくださったのが、黒いほうのDoveですね。

──カスタム・モデルを作る際にDoveを選んだのは高橋さん自身ですか?

 僕が“Doveで”とお願いしたと思います。当時、J-45も使っていたので、“J-45にしますか?”って言っていただいたような記憶もありますね。

 でも、Doveをカスタムしている人のほうが断然少ないという話も聞いていたし、真っ黒なDoveってあまり見たことないじゃないですか。それで、“できるだけ全部黒で”ってお願いして作ってもらいました。

──2本のDoveを比較すると、それぞれどんな特徴や違いがありますか?

 赤Doveは、海の近くや雨の中で歌ったり、暑い日に汗をだらだらかきながら歌ったりしているし、サウンドホールの中には僕の血が染み込んでいて。そんな風にいろんなものを吸収して、独特なトーンが鳴っているんですよ。

 それに比べると黒Doveは、そういうギターにとって危ないところで歌わなくなってきた時期から弾いているので、優等生というかボンボンというか(笑)。恵まれた環境で健やかに育っていますね。最近、鳴りが良くなってきたんです。もとから“ギブソンの音”ではあったんですけど、新品特有の鳴りから変わってきたと思います。

──ここまでに登場したギター以外に、高橋さんのお気に入りのモデルはありますか?

 マーティンのBackpackerっていう縦長の民族楽器みたいなギターがあるんですけど、それがすごく好きなんですよ。軽くて小さいので、寝室に持って行って寝る前に弾いたりしますね。

──愛用している弦についても教えてください。

 最近は細い弦が好きで、エリクサーの.011-.052を使っています。路上時代は、切れないように太い弦を張っていたんですけど、こんな僕でも弾き方が上達したのか、そんなに切れなくなってきたんです。細いほうが何かと押さえやすいし、繊細な音が鳴るような気がするんですよね。

──2025年にデビュー15周年を迎えますが、これまでを振り返って、高橋さんとアコギとの関係にはどんな変化がありますか?

 中学生の時に初めて楽器に興味を持って、当時はGLAYのコピー・バンドをしていたんです。そのかたわら、X JAPANとかをコピーしているやつらがいて、HIDEのギターが弾けるやつがポロっと言っていたんです。“どんなに下手くそでも、10年続ければプロになれるんだって”って。その言葉を聞いて、“本当かな?”みたいに思っていたんですよね。

 僕はもともと、自分はギターが上手だと思っていないんです。ただ歌えれば良かったので。でも、弾き語りツアーをしたり、こうやってギターについて話す機会があったり、ファンの方から“どうしたら優さんみたいに上手に弾けますか?”って言われたりして。それで、“僕のギターを上手って言ってくれる人が現われ始めた! あいつの言うとおりになってる!”って思ったんですよね。パワー・コードで弾き殴るだけの“歌の飾り”としか思っていないギターでも、“歌の飾りと思ってギターを弾くプロ”にはなったんだなって。

 それに、アートワークの中でも絶対にギターを持って歌っているし、“高橋優はアコギを弾いている”という印象を持ってくれている人も多いと思うんです。だから、自分が変わったかどうか、上達したかどうかはわからないけど、ギターを弾き続けてきたおかげで、周囲が変わっていったのかなって最近は思いますね。

──最後に、アコギ・マガジンの読者に向けてメッセージをいただけますか?

 今回紹介したアルバムを引っ提げて、2025年2月22日からまた全国ツアーをやらせていただくんです。そのツアーは初めての方にも観てほしいライブなので、ぜひお会いできたら嬉しいなと。ギターがお好きな方には、何よりも演奏しているところを見てもらうのがいいと思いますし、生でギターのサウンドを感じてもらえたら嬉しいです!

高橋優

『HAPPY』高橋優

WPZL-32172/74/2025年1月22日リリース

Track List

  1. 明日から戦争が始まるみたいだ
  2. BRAVE TRAIN
  3. キセキ
  4. はなうた -pray for Akita-(CD盤のみ収録のボーナストラック)
  5. 現下の喝采
  6. リアルタイムシンガーソングライター
  7. WINDING MIND
  8. 雪月風花
  9. かくれんぼ
  10. spotlight
  11. オープンワールド
  12. 青春の向こう側

https://takahashiyu.lnk.to/HAPPY

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