まるやまたつやに聞く、ソロ・ギター作『FOCUS』の12曲と愛器8本との“組み合わせの妙”

ソロ・ギタリストのまるやまたつやが、フィンガースタイルに特化したフル・アルバム『FOCUS』を2024年11月にリリースした。その収録曲はボーナス・トラックを含め全12曲で、レコーディングで使用したギターの総数は8本にものぼるという。

そこで今回はギターに着目し、まるやまが各モデルを選んだ理由や楽曲とのマッチングなどの話を中心に質問をぶつけてみた。

取材・文=角 佳音

“フィンガースタイル・ギター”にフォーカス=集中したいなと思って

──まずは今回の『FOCUS』の制作にあたって、全体のコンセプトとして考えていたことから教えてください。

 タイトルのとおり、“FOCUS”というのがコンセプトでした。日常を過ごしていく中で、何かひとつのことに集中するというのがだんだん難しくなっているというのを最近すごく感じていまして。

 僕自身も、普段はソロ・ギター以外の曲を制作したりするんですけど、このアルバムを作る瞬間は“フィンガースタイル・ギター”にフォーカス=集中したいなと思って、このタイトルをつけたんです。

──レコーディングではアコースティック・ギターを8本使用したそうですね。この本数を使うことになった理由について教えてください。

 前々作の『NEW HOME』(2019年)では、最初から最後までメイトンのEBG808ARTISTで録ったんです。それはそれで良かったんですが、ここ数年で異常にギターが増えたので、それを生かさないともったいないなというのもありました。でも一番大きいのは、“飽きずに聴いてほしい”ということでしたね。

──今回は、それぞれの楽曲で使ったギターについて聞いていきたいと思います。まず最初に登場するのは?

 1曲目の「CYAN」と2曲目の「PULSE」は、ヘッドウェイのHOC-NORTHBIRDという僕が監修したモデルですね。

──この2曲のレコーディングに、本器を選んだ理由としては?

 「CYAN」に関しては、爽やかな感じ、熟成されていない感じが欲しかったんですよね。HOC-NORTHBIRDは弾き始めて1年ぐらいのギターなので、そういうフレッシュさが出るといいなと思っていました。

 「PULSE」はそれとは別の意図があって。このギターにはアンフィニカスタムワークスのBACNTというピックアップ・システムが入っているんですが、これはドラムのキックのようなサウンドがよく出るんです。それで、この曲では今回唯一ピックアップの音を混ぜて録音して、迫力が出るようにしました。

──監修モデルということですが、本器の特に気に入っているポイントを教えてください。

 鳴りすぎないところがすごく気に入っています。トップがイングルマン・スプルースという材で、すごく優しい音がするんです。前にボーンって出るというよりも、まとまってキュッとしてるサウンドなので、本来はバラードとかに合うサウンドですよね。あと、マイク乗りが非常にいいので、レコーディングでも重宝しています。

まるやまたつやとHeadway HOC-NORTHBIRD
まるやまたつやとHeadway HOC-NORTHBIRD

──続いて3曲目の「Daydream」で使用したのは?

 マーティンのDMというモデルです。当時の定価で10万円前後くらいのギターなんですけど、これを中学生の頃から15年以上弾いていたら、ありえないぐらいいい音がするようになって(笑)。

 「Daydream」は深い感情を出す曲なので、ドレッドノートで深い低音が出るこのギターをセレクトしてみました。どんな曲にも合うギターではないんですが、迫力がある曲にはすごく合うと思っています。

──全体的にちょっとノイジィなサウンドを感じる4曲目の「Gleaming」は、何のギターを使いましたか?

 セブンティーセブンのHAWK-STD/DEEP-JTというフルアコですね。普段は打ち込みの曲で使うことが多いんですが、今回初めてソロ・ギターとして録音しました。

 僕の持っている個体はハムノイズが少し乗ることがあるので、それを逆に生かしちゃおうと思ったんです。それで、ミックスの段階でちょっとレコードっぽいザラザラ感のあるノイズや、ローファイなサウンドになるエフェクトを足したりしています。

一番大きいのは、“飽きずに聴いて欲しい”ということ

──5曲目の「sazanami」はどうでしょうか?

 ゴダンのRialto JRというパーラー・ギターです。何年か前にゴダンのガット・ギターを購入して弾いていたら、パトリック・ゴダンさん(ゴダン現社長ロバート・ゴダン氏の息子)が僕のSNSを見て、気に入ってくれたんです。で、その後にプレゼントしていただいたギターなんですよ。

 ノン・コーティングの弦を張って放置して、ちょっと音がヘロヘロになってから弾くのが好きなんですが、今回も弦をちょっと劣化させた状態で録ったんです。パーラー・ギターにカスタム・ライト弦を張っているので、可愛らしいサウンドになっていますね。

──クラシック・ギターのサウンドが温かい印象の6曲目、「tiny bird」は?

 アヌエヌエのMN14というミニ・クラシック・ギターです。これもちょっと可愛らしい音がします。クラシック・ギターの音色がほしいと思って、“曲にも合うし、これで録ってみよう”と思って弾いてみたら、すごくいい感じにフィットしました。

──続いて登場するのは?

 7曲目の「City Lights」、9曲目の「Unison」、10曲目の「Yume」、そして11曲目の「episode」の4曲がメイトンのEBG808ARTISTですね。

 5、6年近く前、メイン・ギターを新調しようと思っていた時期にドルフィンギターズさんへ行ったんです。そこでメイトンを試奏したらすごく弾きやすくて、ピックアップの音も良かったので、気に入って購入したんですよね。それから長く弾いてるんですけど、ちょっと味が出てきました。

 あと、弦もいろいろと試したんですけど、サバレスのノンコーティング弦を張ったらすごくマッチしたんです。その組み合わせが良かったので、複数の曲でこのギターを使用したという感じですね。

──8曲目の「FOCUS」もガット・ギターでしょうか?

 ゴダンのMultiac Nylon SAという、さっき話した1本目のゴダンですね。僕の好きな人たちがゴダンを弾いていたのもあって、憧れのギターだったんです。スケールが長くて、ハリのあるサウンドなんですよね。実は音よりも見た目のほうが気に入ってるんですけど(笑)。

──CDにのみ収録されているボーナス・トラックの「都会」では何のギターを使用しましたか?

 バッカスのG6-HL/ASHというヘッドレスのエレキ・ギターと、「sazanami」で使ったゴダンのRialto JRですね。

──ちなみに、レコーディングで使用するギターを決めるのは、どのタイミングなのでしょうか?

 いざレコーディングするってなった時に決めることが多いかもしれないです。ただ、普段弾いている中で、“このギターはこういう音がする”というのはある程度わかってるので、あまり試したりはせず、直感に従って選んでいます。

“あるようでなかったソロ・ギター作品”になった気がしているんです

──基本的な作曲の進め方について教えてください。

 最近は先にテーマを決めることが多いですね。具体的に言うと、“場所”をイメージして作っていくんです。

 例えば、「Gleaming」のテーマは“恵比寿や代官山の夜”なんですよ。ちょっと大人な感じのイメージだったので、ネオ・ソウルっぽいコードを使ったりしました。

──チューニングを決定する時は、どのように考えることが多いですか?

 よく使うのは6弦からDADGCEですね。それをベースに作って、もっと低音が欲しいと思ったら5弦、6弦をさらにダウン・チューニングにして、CGDGCEにしたり。

 今作だとレギュラー・チューニングは「sazanami」の1曲だけですね。僕は素朴な曲でレギュラー・チューニングを使うことが多くて、レギュラーで作っている中で、キーがDになったらドロップDチューニングにしたりします。

──今作のレコーディングはどのように行ないましたか?

 今回は全部家で録音しました。レコーディングにあたってマイクをちょっと買い足して、AKGのC451Bを2本立ててステレオで録ったんです。で、マスタリングだけエンジニアさんにお願いしました。

──マイクはどのようにセッティングしましたか?

 ギターとマイクが近いと音像がくっきりしすぎちゃうなと思ったので、最近はちょっと離し気味で録っていますね。井草聖二さんがマイクをサウンド・ホールの下に向けるといいと言っていたので、それを真似して録ってみたりしました。

──レコーディングで特にこだわったポイントは?

 今までの作品と大きく違うのはリバーブですね。以前、下山亮平さんとスタジオでレコーディングした時にレキシコンのリバーブがあったんですけど、それがすごく良くて。実機を買うとめちゃくちゃ高いんですが、それをシミュレートしたプラグインだと1万〜2万弱くらいだったんです。曲によって設定は違うんですけど、今回は全曲でそのプラグインを使いました。

 あと音作りで言うと、2曲目の「PULSE」は、実はギターをけっこう重ねて録っているんです。わからない程度なんですけど、サビは3本ぐらい重ねていますね。まず1回目のテイクを録って、それと同じものをさらに2回弾いて、それを左右でガッツリ振って、包み込む感じにしました。

──最後に、アコギ・マガジンの読者に向けて、今作『FOCUS』の“ここを聴いてほしい!”というところを教えてください。

 自分で言うのもあれなんですが、“あるようでなかったソロ・ギター作品”になった気がしているんです。ギター・ファンの方は、サウンドやギターの違いに耳を傾けて聴いてみてほしいですし、仮にギター好きじゃなくても楽しめるような作品になってると思います。なので、1回集中して聴いてみてほしいですね。

──まさに、“FOCUS”してほしいということですね。

 そうですね。1回“FOCUS”して聴いてみて、あとは垂れ流して聴いていただければいいんじゃないかなと思います(笑)。

まるやまたつや

公演情報

アコワドの部屋 vol.27(ワークショップ+ライブ)

Tatsuya Maruyama FOCUSツアー

https://tatsuyamaruyama.com/live

『FOCUS』まるやまたつや

2024年11月29日リリース

Track List

  1. CYAN(album ver.)
  2. PULSE
  3. Daydream(album ver.)
  4. Gleaming(album ver.)
  5. sazanami(album ver.)
  6. tiny bird
  7. City Lights(solo ver.)
  8. FOCUS
  9. Unison(solo ver.)
  10. Yume(solo ver.)
  11. episode
  12. 都会(Bonus Track)

https://distrokid.com/hyperfollow/tatsuyamaruyama/focus

SNSでシェアする

アコースティック・ギター・マガジン

バックナンバー一覧へ