柳下 "DAYO" 武史が語る“SPECIAL OTHERS ACOUSTIC”の10年と新作『ORION』のアレンジ

アコースティック・インスト・バンドの“SPECIAL OTHERS ACOUSTIC(=SOA)”として、2014年にデビュー作『LIGHT』をリリースしてから10年。そんな節目となる2024年に、9ヵ月連続シングル・リリースを経て、アルバム『ORION』がリリースされた。今回はギタリストの柳下 “DAYO” 武史に、本作のギター・プレイについて聞きつつ、SOAとしての10年間も振り返ってもらおう。

インタビュー=福崎敬太

ガット・ギター自体にも馴染みがあったんです

──SPECIAL OTHERS ACOUSTIC(以下SOA)として10周年を迎えました。この10年でSOAはどう育ってきたと感じていますか?

 最初は“アコースティックでやってほしい”っていうイベントのオファーがあって、ひとつのサイド・プロジェクトのような形で始めたんですよね。で、改めてSPECIAL OTHERS ACOUSTICでデビューしてみようってなってから10年経ちましたけど、最初は幹から生えた1本の枝だったのが、だんだん1本の木になっていったような感覚で。どっちも違うバンドですよって胸を張って言えるようになっていきましたね。

──アコースティック・セットのマイス・パレードを観たことが、SOAをスタートするきっかけのひとつだそうですが、柳下さん自身のアコギ的なルーツはどんなところにあるのでしょうか?

 自分もそれまではアコギに対してあまり積極的ではなくて。持ってはいたし、家で弾くことはありましたけど、あまり人前で弾くようなものでもないというか。ただ2000年前後に山弦さんを聴いたりして、すごく感銘を受けたんです。あとはパット・メセニーのアコースティックのプロジェクトとか。そういう影響はもしかしたらあったのかもしれない。

──初期には「LINE」でスティール弦のアコギを使用していましたが、基本はガット・ギターが多いですよね?

 95%がガットですね。

──その理由は?

 音色のジャンルとして、普段使っているギブソンのES-175に近い感じがするんですよね。そういうちょっと温かい音色がいいなと思って、ガットを使っています。あと、山弦さんを聴いたりしていたのとは別に、クラシック・ギターの音色も当時から好きだったんですよ。木村大さんの演奏を聴いてコピーしていた時期もあったので、ガット・ギター自体も馴染みがあったんですよね。

──ということは、ガット・ギターを入手したのは、SOAを始めるより前?

 全然前で、2004〜5年くらいには持っていたかもしれない。そもそもギターを始める前に、父親のクラシック・ギターが子供の頃からずっと家にあったんです。それで遊んでいたりもして、身近にあったんですよね。で、ちゃんと買ってみようかなって思ったのが、2004年頃でした。

──ガット・ギターで好きな曲は?

 木村大さんの「サンバースト」(『カリフォルニアの風』収録/2005年)が好きで、耳コピもしました。アルペジオでのコードの分散方法とかが、すごく勉強になったんですよね。「IDOL」(2006年)っていう自分たちの曲は、「サンバースト」を練習していた時に、近いコード感で派生していった曲で。音の重ね方などを参考にしました。

SPECIAL OTHERS ACOUSTIC

最小音をいっぱい使ったほうが、ダイナミクスが生まれる

──SOAの曲作りはどんな流れで進んでいくんですか?

 今作『ORION』だと9割くらいは、ドラムの(宮原”TOYIN”)良太がモチーフを作ってきて、それをスタジオで広げていく感じでしたね。最初はMIDIとかで入っているのを、ギターの特性を活かしてどう弾けるかを照らし合わせながら、話し合いながら作っていきます。

──SOAではフィンガーピッキングで弾いているパートがほとんどですが、以前から指弾きはしていたんですか?

 ピックを持ちながら指も使うスタイルは、自然と使うようになっていましたね。ギターの世界では当たり前のことなのかもしれないですけど、あんまり知らずに勝手に自分でやり始めて、気づいたらそういうスタイルになっていたという感じです。なのでエレキとアコギの中間の弾き方みたいなことは以前から多くありましたね。

──ちなみに、SOAでピックを使うことはほとんどないんですか?

 使ったことはないですね。厳密に決めているわけではないんですけど、自分の中ではSOAでのピックはNGにしていて。

──この10年で、アコギの弾き方に変化はありましたか?

 SOAがデビューした頃は、アコギがちょっと怖いなって思う部分があって。丸裸というか、エフェクターもなしでそのままの音を鳴らすので、下手なこと弾けないし、ミスも目立っちゃう。そういうマイナスな部分を感じながら触っていたんです。

 で、不慣れなものだから力任せに弾きがちだったんですけど、ライブをたくさんこなしたり、いろんな作品を作っていく中で、だんだん余裕が生まれてきた感じはあります。

 強く弾くよりも、最小音をいっぱい使ったほうが、大きく弾いた時の差=ダイナミクスが生まれるから、そういうところを活かしたらアコースティックは面白いなって思うようになったり。リズムに関しても、ビシッとキメるだけじゃなくて、少し幅を持たせて弾いたほうが音色がより引き立つとか。そういう弾き方をSOAをやっていく中で学んできて、今はすごく楽しく弾けるようになりました。

メロディと合いの手を一緒に弾いている感覚

──「Clocktower」のソロは歌うようなメロディ・ラインです。メロディ・プレイではどういったことを考えていますか?

 そもそも歌モノを作っているような感覚が僕の中にはあって。で、同時に歌モノのバックで鳴っている合いの手も兼ねているイメージなんですよ。聴いているとひとつのメロディにしか聴こえないかもしれないけど、自分の中ではメロディと合いの手を一緒に弾いている感覚。

──「MASK」のソロはラストに16分音符の速いフレーズがありますね。フィンガーピッキングだと難しそうな速さですが、どのように作っていきましたか?

 バンドが歯切れのいいリズムだったので、転がっていくような速いフレージングにしたら面白いかなって思ったんです。カントリー的な要素も少し意識して、それこそフィッシュみたいなアメリカのジャムバンドの人たちをイメージしたかな。

 それで、コード・トーンを多めに入れて、音を探しながら作っていったら、“あれ? 弾くの大変だなこれ”って(笑)。けっこう難しくて、ギリギリで弾いている感じですね。ただ、プリングとハンマリングを多めに使ったほうがうまくいくっていうことを、このあいだのMV撮影で気づきました(笑)。

──「Object」は音数も少なく、グルーヴ感を出すのが難しそうだなと感じました。アコースティック編成ならではのグルーヴで意識していることはありますか?

 メロディに関しては、レイドバックしたりニュアンスをつけて弾くことで立体感が出てくるんですけど、アンサンブルの部分では“点”を意識して合わせる。あと、思ったよりも淡々と弾いたほうが、あとあと聴いた時にグルーヴィに聴こえる感じはあります。エモーショナルに弾こうとすればするほど、グルーヴが崩れちゃう場面があるんですよね。だから、符割どおりに淡々と弾くっていうのも、アコースティックではより大事にしています。

──「California」のMVを観ると、テーマ・フレーズで4弦の開放でDを弾いてから6弦のEに移る時に、D音をミュートしています。左手のフォームを一瞬変えてまでミュートするところに、響きに対するストイックさを感じました。

 「California」のそのパートで言うと、最初はミュートしていなかったんです。でも弾いているうちに、濁るというか、気持ちよくないかもって思って、“これ(D音)をミュートしてないからだ!”って気づいたんです。それでミュートしたいと思ったんですけど、“この流れでミュートできんのかな?”みたいな(笑)。それで、いろんな動きを試していって、ようやくちょっと光が見えたので、そこは重点的に練習しましたね。

──作っていく中で、そういう響きの部分が気になってくることはよくあるんですか?

 そうですね。一度気になっちゃうと、不要な音をなくすためにはどうしたらいいのかってところから考えていきます。でも、ちょっとした不協和音に近いようなものも面白い部分ではあるので、全部をなくしてしまうと面白くなくなる。その判断基準が曲によって違うって感じですかね。

最近はギターを使わないでソロを作るんですよ

──「UP」は、ガットの爽やかさを活かしたような、トロピカルな楽曲です。

 この曲のソロは、けっこう考えましたね。良太から“セブンスとかをたまに使ってほしい”みたいなことを言われたので、ちょっとブルージィな要素も入れつつ。7/8拍子っていうのをあまり感じさせないソロにしたくて、コードを4分音符で弾いて4つに感じさせるっていうギミックを途中に入れたり。そういう部分でちょっと個性を出しています。

──この曲に限らず、MVだとソロ・パートも音源とほぼ一緒ですが、どこまで作り込んでいるんですか?

 アコースティックに関しては、もう9.7割くらい作っていきます。エレキの時はもう少し勢いで弾く時もあるんですけど、アコースティックはやっぱりある程度描いてからいったほうがクオリティが高くなる。それは経験的に感じていたので、今回もほぼ作ってからレコーディングに臨みましたね。

──アドリブ的な要素が入ることは?

 『LIGHT』だとレコーディング当日にアドリブで弾いたりはしました。でも今は、作り込んで録音するほうが楽しいんですよね。

──ソロを作る時はどのように作っているんでしょうか?

 最近は、けっこうギターを使わないで作るんですよね。びっくりされることもあるんですけど。メロディ重視で“次はこの音を聴きたいな”、“この音はこの長さだな”ってMIDIで打ち込んでいって、最終的にできたものをギターで弾く。それが意外とうまく着地できるんですよ。

──SOAをやるようになって、アコギ独自のテクニックとして身につけたことはありますか?

 レイドバックしたようなフレージングが、けっこう大胆にできるようになりましたね。楽譜に当てはめるというよりは、もう少し感覚的な部分で弾けるようになったというか。呼吸をフレーズに反映させられるようになってきた感じはあります。

──今、アコースティック編成ならではの魅力をどのようなところに感じていますか?

 SOAを始めた頃は、音の隙間が怖かったんですよ。エレクトリックで慣れていたし、音が埋まっていることを心地いいと思っていた自分がいたりして。でもアコースティックをやり始めて、だんだんその隙間が面白いんだなって思い始めてきたんです。今はむしろその空間を楽しむことができるし、弾かない時間もひとつの醍醐味だなと思えるようになって。空間と友達になれました(笑)。

──最後にアコギ・プレイヤーにむけて、『ORION』の聴きどころを教えてください。

 タイトル曲の「ORION」は5/8拍子なんですけど、やっぱりこの曲もソロ作りで苦労したんです。5/8拍子の中でもメロディアスに歌うようなメロディを目指して作ったので、そこはぜひ聴いてもらいたいです。5/8拍子を感じさせないように作って、自分的にも気に入っている部分でもあるので。

『ORION』 SPECIAL OTHERS ACOUSTIC

Track List

  1. MASK
  2. Clock Tower
  3. Splash
  4. California
  5. Nature
  6. UP
  7. Object
  8. OSAKA
  9. ORION

スピードスターレコーズ/VICL-65970(通常盤)/2024年10月23日リリース

SPECIAL OTHERS 毎年恒例SPE納め2024

会場:横浜Bay Hall

日程:2024年12月21日(土)OPEN/START 16:00/17:00

チケット:2024年11月30日(土)発売

チケット料金
前売/スタンディング5,500円(税込)、当日/スタンディング6,000円(税込)
※整理番号付、ドリンク代別

Info. HOT STUFF PROMOTION:http://www.red-hot.ne.jp/

SPECIAL OTHERS ACOUSTIC TOUR2024

チケット料金
*6,000円(税込、整理番号付)** 6,000円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
広島公演 駐車券付全自由7,000円(税込、整理番号付)全自由6,000円(税込、整理番号付)
浜松公演 全自由6,500円(税込、整理番号付、シート付)

SNSでシェアする

アコースティック・ギター・マガジン

バックナンバー一覧へ