“もっと叩いたら面白いかも!”と思うようになったんです
──ギターを始めた経緯から教えてください。もともとはピアノを弾いていたんですよね?
当時、ピアノを習っていた音楽教室に、ギターやドラムを習えるポップス・コースがあったんです。それを見て“あっちがやりたい”って言っていたんですよね。そんな時に兄が家にアコギを持ってきて、それを借りて弾くようになりました。
で、中学3年生の時に、友達と“バンドを組もう!”ってなって、初めてエレキ・ギターを買いに行ったんです。その後、高校でアコースティック・ギター部に入ってからは、アコギを弾きながら歌も歌っていましたね。
──当時はどういった曲をコピーしていましたか?
友達とユニットを組んで、YUIやゆずの曲などをコピーしていました。
──プロ・キャリアとしては、シンガー・ソングライターからスタートされています。その頃は、歌うためのギターという感じだったのでしょうか?
そうですね。どちらかというと歌に力を入れていました。中ノ森BANDの中ノ森文子さんとお会いする機会があって、教えていただいていたんです。そこからボーカルにどんどんのめり込んでいった感じでしたね。
──2017年にフィンガースタイルのソロ・ギタリストに転向した経緯を教えてください。
曲作りを含め、色々とやってみた結果、“自分には武器がない”と思うようになっていたんです。それで、“何か強みがほしい”と思って、歌は一旦置いておいて、ギターに集中することにしたんですよ。そしたら、ギターが楽しすぎて、抜けられなくなったんですよね(笑)。
──その中でも、パーカッシブなスタイルを選んだ理由は?
もともと、ギターは誰からも教わらずにやろうと思っていたので、自分でやっていくうちに、アコギがどういう楽器なのかを掘り下げてみるようになったんです。で、“カッコよくやってみたい”、“人がいないほうへ”みたいなことを考えながらやっていく中で、「Fire」っていう曲ができたんですね。
その「Fire」を路上ライブで、ギターを叩きながら弾いてみたらすごく反応が良かったんです。そこで“もっと叩いたら面白いかも!”と思うようになって、押尾コータローさんなどのプレイをもっと観るようになっていったんですよ。
ロンドンやシドニーに路上ライブをしに行った時にも、現地で叩くプレイをしたらやっぱり反応がよくて。その時の動画をアップしたら、押尾さんや布袋寅泰さんのような、超有名なギタリストの方々も反応してくださったんですよね。
そんな経緯もあって、2023年の12月くらいに、今のパーカッシブなスタイルに振り切ろうって決めて、そこからオープンチューニングも掘り下げていきました。
──その結晶が、今作の『Beat! Beat! Beat!』ですね。テーマやコンセプトとして考えていたことはありますか?
“今の、2024年のAoi MichellEの形を残したい”ということですね。パーカッシブなスタイルでいこうと決めたところだったので、全曲にそういった奏法を入れることにしました。
あとは、よく“良い音”って言うと思うんですけど、その定義って存在しないと思っているんです。だから、とにかく“かっこいいじゃん!”って思える方向に行こうと考えていましたね。
“今の私”という意味では、「Make a Splash!」のほうがマッチしていて
──1曲目の「White tiger」は、力強いビートの楽曲ですが、どのようなイメージで作りましたか?
東武動物公園でホワイト・タイガーを見たんです(笑)。2匹交代制みたいで、表に出ていないほうの1匹が檻の裏でずっと回りながら待機しているんです。それが“今からやるぞ!”みたいな感じで、すごく力強い歩き方だったんですよ。
どちらかというとリフが先にできたんですけど、それを弾きながら、“この感じ、あの時のホワイトタイガーみたいだ!”と思って。檻の中をずっとあのビート感で歩いているというか(笑)。
あと、これは初めてオープンチューニングで作った曲です。6弦からDADFADのオープンDマイナーで、パーカッシブなプレイができなかった頃に、ひとつひとつを組み立てていって、何回もリアレンジしてやっとできましたね。
──ボディ・タップのあとに残響音が残っていたり、ラスサビ前のメロディ・プレイにディレイがかかっていたりしますが、どのようにサウンド・アプローチをしていきましたか?
Co-producerとして一緒に作品を作っているNaoTsuzuki氏に、“こういうイメージで”というのを何回も伝えて作っていきました。NaoTsuzuki氏とは、歌っていた時からずっと一緒にやってきているので、言わなくても伝わっていることがすごく多いんですけど、ミックスに関しては1曲につき20回くらいやり直ししていると思いますね。
──続いて「Make a Splash!」。これはどんなテーマの楽曲でしょうか?
“DADGADで1曲作ってみたい”というのと、“スラップをやりたい”というテーマがあって作った曲です。ライブでスラップや派手なプレイをするとみんなの視線や耳が集まる感じがあって、そういう曲を入れたかったんですよね。
今作は、「White Tiger」がタイトル曲みたいな感じではあるんですけど、“今の私”という意味では「Make a Splash!」のほうがマッチしていて。爽やかで前に行くような曲で、白いアルバム・ジャケットにも合っている曲だなと思っています。
──「Make a Splash!」は、途中でリバース・ディレイのようなサウンドが入りますよね?
ここもNaoTsuzuki氏とのやり取りの中で、何回も聴きながら作っていきました。こういうサウンドメイクもこのアルバムの聴きどころになっていると思います。 ただ入れすぎるとくどくなっちゃうので、全体的なバランスをみて入れたり、抜いたりしました。
──3曲目の「Teriyaki Funk」は、ファンキーなベース・ラインが耳に残る楽曲ですね。
ライブの時、みんなが“イェーイ”ってノレる曲がほしいと思ったんです。ブルーノ・マーズの“あの感じ”が大好きで、そういう曲をアコギでできたらいいなということで。
ソロ・ギターって、ジャンル的には何を盛り込んでもいいと思ってるんです。でも、それだとどんどんテクニカルなだけになっていっちゃうので、手数を抜いて、最終的にシンプルにしたという感じですね。
──「No time to cry」は、切ないメロディの楽曲ですが、どこからインスピレーションを受けましたか?
シドニーに行った時、2週間ちょっとの期間だったんですけど、雨が多かったんです。なので、路上ライブをしていても、誰も観ていないこともあったんですよね。しかも、シドニーはその頃クリスマスで(笑)。
周りに誰もいなくなって、雨の中、“何をしにきたんだろう?”みたいな気持ちになりつつ、でも“自分のためにでもギターを弾こう”と思って弾いていたんですよ。その時の情景が忘れられなくて。アルペジオのところから、“これはあそこの風景だな”って思いながら書いていきました。
──「Fire」と「Journey」は過去のリリース曲で、今回再録された楽曲ですね。従来のバージョンと比べて、どのような変化がありますか?
実は、2023年くらいにマイクや足下の機材を一新したんです。それもあって、ライブをする度にどんどん変わっていっていますね。符割りもそうですし、尺だったりイントロだったり。今回の収録では、それらをうまく盛り込めたかなと思っています。
──「Fire」は、チューニングも変化していますよね?
「Fire」は、もともとレギュラーで書いた楽曲だったんですが、レギュラーだとキラッとしちゃうので、前からあまりしっくりきてなかったんです(笑)。それで、チューニングを1音下げて、ちょっとどっしりとした感じにしました。
ソロ・ギターって、ロマンの塊だと思うんです
──普段作曲する時は、ギターを弾きながら考えていきますか? それとも、メロディを先に考えて、それをギターに落とし込む流れでしょうか?
両方あると思います。今作は“こういう曲が足りないな”って考えながら書くこともありました。あとは“スラップを使おう”とか、奏法から入っていく曲もけっこう多いです。
──レコーディングはどのように進めていきましたか?
実は今回、ピアノ・スタジオで収録したんです。響きがあったほうが、何も聴かずに生音で弾けるので。で、クリックも使わず、コンパクトにひとりでツルッと弾いて録っていきました。
──レコーディングに使用したのは、メイン・ギターのTaylorの814ce SBのみでしょうか?
はい、その1本ですね。
──使用機材や収録方法についても教えてください。
プリアンプは、アンフィニカスタムワークスのBatteryを使いました。Batteryにステレオ信号で入って、マグネット(SUNRISE)とコンタクト・ピエゾ(アンフィニカスタムワークス)に分岐させています。で、マグの信号をオクターバー(BOSS/OC-5)でウェット音とドライ音に分けて出していて、あとはコンタクト・ピエゾの合計3回線をギターから出しています。
エアー用にマイクも何本か立てていたので、それを合わせると全部で7〜8回線くらいですね。ソロ・ギターは家でも録れるとは思うんですけど、難しいところもあって。答えがないからこそ、こういう風にやってみたいと思っていたんです。
──最後に、このアルバムに込めた思いを改めて聞かせてください。
ソロ・ギターって“ロマンの塊”だと思うんです。私自身、こんなにソロ・ギターにのめり込むと思っていなかったんですよ。でもやればやるほど奥深くて、終わりが見えない音楽だなと感じています。
そして、みなさんのおかげもあって、この形でアルバムを出せるというのがとても嬉しいです。考えようによっては、シンガーからスタートしたりと、私が通ってきたすべてが遠回りだったように見えると思うんです。でも、その全部が通過してきてよかったことだし、その全部がつながったものがここに詰まっていると思っています。
バッキングのグルーブ感とメロディの一体感は、歌ってきた経験が大きいなと感じることがあるんですよね。海外にも行って、いろんな世界も見ましたし。そうやっていろんな選択をしてきて、今のパーカッシブなスタイルに辿り着けてよかったなと思います。
公演情報
okapiとAoi MichelEダブルレコ発Live
2024年11月24日(日)/東京・錦糸町rebirth
18:00開場/18:30開演
前売券:4000円 当日券:4500円
スペシャルゲスト:伊藤詩織
Aoi MichelE ワンマンライブ“MichelE Party 2025”
2025年1月23日(木)/東京・Jazz Dining B-flat
18:00開場/19:00開演
チャージ:3,850円(税込)+1ドリンク&1フード
https://aboutme.style/aoimichelle
『Beat! Beat! Beat!』Aoi MichellE
Aoi MichellE/2024年9月24日リリース
Track List
- White tiger
- Make a Splash!
- Teriyaki Funk
- Adventure
- No time to cry
- Back and forth
- Fire2024
- Journey2024