Rihwa&鈴木健太が語る、『NOSTALGIA』で結実した理想とするカントリーの世界観

カントリーのエッセンスを活かしたポップスを聴かせる、シンガー・ソングライターのRihwaが、新作『NOSTALGIA』を完成させた。本作でプロデュースからギターやバンジョーなどの弦楽器演奏までを担ったのが、彼女とも定期的にツーマン・ライブを行なうD.W.ニコルズの鈴木健太だ。ふたりに共通するカントリーへの愛が詰まったニュー・アルバムのギター・アレンジについて、Rihwaと鈴木との対談形式でたっぷりと話を聞いていこう。

インタビュー=福崎敬太

日本初のYouTuberかもしれない(笑)──Rihwa

──今回は鈴木健太さんとの対談企画ですが、Rihwaさんはアコギ・マガジンWEBに初登場ですので、まずはギターを弾き始めた経緯から聞かせてください。

Rihwa まず、誕生日かクリスマスにウクレレをもらったんです。高校でカナダに留学する時にそれを持っていって、友達とふざけながら曲を作ったりしていたんですね。その中で、ウクレレのコード感に限界を感じまして……。

鈴木健太 アハハ、そらそうだ(笑)。

Rihwa それで、日本に一時帰国した時に安いアコースティック・ギターを買ったんです。で、それをカナダに持ち帰って。留学先が田舎で当時はカラオケがなかったので、その代わりのように自分で歌いたい曲を弾いていましたね。パソコンで“初心者 コード ギター”みたいに検索して、ゆずの弾きやすい曲とかを歌っていました。で、ちょっと先駆けだと思うんですけど、それを撮影してYouTubeに載っけていたんですよ。

鈴木 かなり前でしょ?

Rihwa 15〜16歳くらいの頃ですね。“Hi guys! I’m Rihwa!”とか言って。日本初のYouTuberかもしれない(笑)。

──それはめちゃくちゃ先駆けですね(笑)。カナダにいる頃の音楽活動は?

Rihwa 高校の授業で一生懸命だったので、特に活動などはしていなくて。人に聴かせる場面だと、授業の発表会や小学校を回って音楽の楽しさを披露する取り組みでみんなで歌ったりはしていました。そこではソロで歌うパートがあったんですけど、音楽の先生に気に入ってもらって、全部のソロをやらせてもらったりしました。

──ソロでは何を歌ったんですか?

Rihwa ケリー・クラークソンの「Because Of You」をとにかく歌っていましたね。

──“Rihwaとニコルズ”というライブ・シリーズを2022年から定期的に開いていますが、そもそものD.W.ニコルズとRihwaさんとの出会いは?

鈴木 三原勇希ちゃんが友達で、Rihwaとも仲が良かったんですよ。それで10年くらい前に、勇希ちゃんがライブに連れてきてくれたんです。その時に、僕が弾いていたバンジョーにすごく興味を示してたんですよ。

Rihwa カントリー・ミュージックが大好きで、“めっちゃいいですね!”って。

鈴木 ただ、そこからはニコルズの飲み会に来てくれたりもしたけど、そこまで深い仲になるわけではなく。で、しばらくしてから突然、仲がいいライブハウスの店長が“Rihwaとツーマンやらない?”って誘ってくれたんです。お互いにずっと活動は知っていたし、“やりたい!”って言って。それがきっかけで“Rihwaとニコルズ”がスタートしたんです。で、その1回目がめちゃくちゃ楽しくて、盛り上がったんですよ。

──そこで意気投合して今作のプロデュースにつながると思うんですが、改めて健太さんに依頼した理由を聞かせてください。

Rihwa 初めてお会いしてバンジョーに興味を持った時から、私は健ちゃんを狙っていたんですよ(笑)。こんなにカントリー・サウンドを作れる人は、ほかにいないなって思っていて。で、当時から私は“弾いてほしいです”とかガツガツ言っていて。

鈴木 “ライブで弾いてほしい”って最初に一緒にライブをやった時から言ってくれて。でもまぁ、よくそう言われることはあるんですよ。ただ、そのあとに何の連絡もないことがほとんどで。だけど、それが本当だった(笑)。

Rihwa 私が2023年8月に独立したんですけど、そこで初めて作るアルバムは絶対に健ちゃんと一緒にやりたいと思っていたんです。で、その前にジャブとして、手売りだけのCDで「Hey Ho Hey」と
「Jungle, Jungle」の2曲をお願いしたら、それが最高で。改めてアルバムもオファーした感じですね。

ライブ“Rihwaとニコルズ”の模様
ライブ“Rihwaとニコルズ”の模様。Rihwa(左)と鈴木健太(右)

僕がニコルズでやっていることをそのままやったらいいのかなって──鈴木健太

──今作『NOSTALGIA』の方向性についてはどのような話をしましたか?

Rihwa アルバムのタイトルは最初に決まっていて、アコースティック・サウンドのライブでも再現ができる音数で、派手派手にしないっていうコンセプトは伝えましたね。

鈴木 “渋くていい”って言っていたよね。“土っぽくていい”みたいな。でも、それから一緒にライブをやったり、先行で出した「Primary」を作っていく中で、Rihwaがやりたいことがより明確に見えてきたんです。それで、あまりに渋くしすぎるのはもったいないと思って、本場のカントリー的なアメリカン・ルーツのサウンドと、Rihwaが持っている歌の力やポップネスを融合させたいと考えたんです。僕がニコルズでやっているのも、ルーツ・ミュージックと広く普遍的に届く歌の融合がテーマにあるので、それをそのままやったらいいのかなって。

──各楽曲のアレンジについても聞かせてください。「Bellevilleの青い部屋」は、軽くディレイがかかったバンジョーやボリューム奏法のスライドが、ドリーミーな雰囲気ですね。

鈴木 もともとRihwaがくれたのが、ギター・バンジョーが鳴っているちょっと変わったデモだったんです。

Rihwa ギター・バンジョー1本の弾き語りで、2018年頃のデモでしたね。当時ギター・バンジョーを買ったので、バンジョーが合う曲を作りたいなと思って弾いていて。

鈴木 ベースが降りてくる感じのフレーズだったんですけど、それは“ギター・バンジョーのフレーズ”で
キー的にバンジョーには置き換えられなかったんです。だからそのメインのバッキングはアコギで引っ張りつつ、味つけをバンジョーにした感じです。

 で、タイトルや歌詞の内容を聞いた時に、ドリーミーって言ってくれましたけど、そういう回想録みたいなイメージが浮かんで。サビの歌詞で光が差してくる感じを何で出そうかなって考えてラップ・スチールを入れました。

──続く「Good is Good」はベースやドラムがある分、アコギは中高音域で抜けてくるサウンドです。これはどのようにアレンジを組んでいきましたか?

鈴木 この曲自体が弾き語りでも十分成り立つ曲で、すごくパワーがある。ただ、アルバム全体のバランスを見た時にも、“これはバンドだよね”っていう感じで。で、どうせバンドを入れるなら、ある程度派手なほうが映えると思って、アレンジしていきました。

 この曲とかでRihwaの歌を聴いていると、やっぱり90年代のカントリー系女性シンガーが思い浮かぶ。なのでそのあたりのサウンドでいってみようっていうアレンジです。そういう曲にはアコギがすごく大事で、ロックっぽいからってアコギをなくしてしまうと急に味気なくなっちゃうし、匂いもなくなるんですよね。

──「Cheap Perfume」はかなりブルージィですが、作曲の段階ではどのように組みましたか?

Rihwa 怪しげな女性ボーカルの、スモーキーな雰囲気の曲をずっとやりたかったんです。参考にした音源はいくつかあって、そこからコード感をインプットして作った感じですかね。で、健ちゃんには“渋々でいきたい!”って伝えて、そのバランスをめっちゃ擦り合わせた記憶があります。

──ドブロのスリー・フィンガーとエレキのスライドで、カントリー感とブルージィさのバランスが絶妙ですよね。

鈴木 匂いや空気感が、ドブロの音色はすごく独特で。あれをアコギでやるとイナたすぎるんですよね。それにこの曲はちょっと際どくて、アレンジひとつですごくカッコ悪いブルース・ロックみたいなになっちゃう。そこをどう打破しようかを考えて、曲や歌のパワー的にもギター1本だともったいないからスライドを入れましたね。

 で、それもわざと低音弦のスライドにして、独特な怪しい感じにしたんです。あまり“ブルースのスライド!”みたいにギャンギャン弾いちゃうと、たぶんカッコ悪くなるなっていうのもあって、ちょっとひねったというか。

アコギがあることで温かい空気になる──Rihwa

──「新婦の隣」はしっとりしたバラードで、カントリーになりすぎないスライドが絶妙です。このスライドはどんな役割をイメージしましたか?

鈴木 ジャクソン・ブラウンと一緒にやる時のデヴィット・リンドレーみたいなイメージもありますね。これは普通にアレンジをしたらJ-POPな名曲になる曲だけど、カントリー・アルバムにするためにウェストコーストの雰囲気を裏でイメージしていて。楽器の構成を考えたら、やっぱりジャクソン・ブラウンあたりの感じかなって。

 で、イントロのタン、タタタンタンっていうフレーズがテーマのメロディにはなっているんですけど、それだとこの作品の中では色が足りない。それで、ドブロを弾いてみたらピースがハマったなっていう感じでしたね。

──「Primary」はブルーグラスっぽい編成を感じますが、全体的なアンサンブルはどのように作っていきましたか?

鈴木 何も考えずに作った、に近いかな。弾き語りのデモがあって、素直にそのままアレンジしたっていう感じです。ほかの曲がまだ出揃う前で、一番最初に作った曲ということもあって、“ストレートにやっちゃっていいんだよね?”みたいなことを聞いて……。

Rihwa 2024年1月のワンマン・ライブのバンマスを健ちゃんにお願いして、その時にバンドでこの曲をやっていたんです。それもあって作りやすかったのかもしれないですね。

鈴木 そうだ、だからその時みたいなバンド・サウンドでいくのかなって思ったら、“いやバンドじゃなくて、もっとアコースティックで!”みたいに言われたんだ(笑)。

Rihwa 可愛い感じでいきたいって言いましたね。

鈴木 それで、カントリーでもフォークやブルーグラスっぽい感じにしたんですよね。キックだけ入れて、アコギを弾いてからマンドリンとかを気持ちいい感じで重ねていきました。

──後半のピアノが入ってくるところとかは、リトル・ウィーリーズみたいな雰囲気もありますね。

鈴木 本当にそういう感じですね。リトル・ウィーリーズだったり、ノラ・ジョーンズがやるカントリーみたいな。あまりブルーグラスになりすぎないように。ピアノが存在感を出してくるとポップになるし、ちょっとウェットな気持ちいい感じになるんですよね。

──「ただ」は3カポですか?

鈴木 たぶん3カポのCだと思いますね、デモだと1カポのDで弾いていたんですけど、それだとピアノっぽく弾いている感じになっちゃう。それがいいところでもあるんだけど、もうちょっとフォーキーにしたかったんですよ。僕はそういう時にCフォームを使うのが好きで、バッキングもとにかくシンプルに。歌の内容をRihwaと詰めていって、“部屋でこそっと弾いている感じ”をイメージして弾きました。

Rihwa それに合わせて歌もシンプルにして、ちょっとしたフェイクも全部なくしていきましたね。

──Rihwaさんの基本スタイルには弾き語りもあると思いますが、歌とギターだけの構成において、ギターに求めるものは?

Rihwa 「ただ」の感じで言うと、ちょっとしたコード感があって、胸がフワッてなる感じ。アカペラでもいいぐらいの感じでも、アコギがあることによって、温かい空気になるんですよね。

音数で埋めるというよりは、存在感のある音色で紡いでいく──鈴木健太

──「Backpack」はエレキもアコギもキラキラな感じですが、アコギは12弦ですか?

鈴木 アコギは6弦ですけどカポ違いで2本重ねていますね。で、12弦のエレキを入れていて……。曲自体がだいぶポップだったので、この曲のアレンジが一番大変だったなぁ。でも、Rihwaから“ママス&パパスみたいなイメージがある”って聞いて、その頃のアメリカン・ポップスにバーズ初期のフォーク・ロックのようなテイストを加えてアレンジしていきましたね。

──アコギでミュートをしながらリズムを刻む感じは、ほかの曲ではないですよね。

鈴木 人がやっているのはよく見るけど、基本的には滅多にやらなかったことで。単純に、ビート感を足したいってところでやってみたんですけど、“あ、けっこういいんだな”ってこれで知りました(笑)。

──ほかの楽曲と比べてギターのレイヤー重なる曲ですが、Rihwaさんとしてはどういったアレンジですか?

Rihwa 正直、私も“この曲はどうなるんだろう?”って思ってたんです(笑)。でも、このアルバムにはライブで楽しい曲を入れたいなっていうのがあって、“こういうメッセージの、こういう明るいポップなのをやりたい!”ってお願いをして。

鈴木 Bメロの“どん、どどーん、いえーい!”みたいなのがほしいって言われて。“ここでくるか、それ!”って(笑)。この曲はどう着地させるかが、すごく難しかった。

Rihwa 今まではアイドル風のノリみたいなのを避けていたんですけど、この曲ではあえてやりたいって(笑)。キラキラでハッピーなイメージがあったので。健ちゃんもヒィヒィ悩みながら作ってくれて、Rihwaのファンの中では一番人気の曲です。

──最後に「Moving On」。アコギはミックス的にも控えめで、独唱のような印象もあります。

鈴木 2024年1月にライブをやった時に、僕らもステージにいる中でこの曲だけRihwaがひとりで弾き語りをしたんです。それにすごく感動して。その時のアコギがね、本当に必要最小限で、正直“これをアレンジするのか”みたいに感じたんです。

 ただ、ライブでよかったからといって、そのままアコギ1本で聴かせるだけでは音源だと伝わらないんですよね。あの空気感を壊さずにどう膨らませられるかが一番のポイントで。

 あと、Rihwaが弾いていたアコギが、僕がやらないようなフィンガリングのアルペジオだったんですよ。それがひとつのポイントだと思って、そのまま活かして弾いて。

 あとは直感的にコントラバスのアルコを入れたいと思ったんです。この曲のスケール感と雰囲気に絶対合うなと。そこに音源として長く聴いてもらえるための味つけとして、バンジョーとラップスティールを入れてリズムの揺れ感や空気感を出した感じですね。

──健太さんは本作のどこを注目して聴いてほしいですか?

鈴木 やっぱり僕は“引き立てる”のが好きなんですよね。作品や楽曲の色づけの多くって、けっこうギターで決まることが多いと思うんですよ。だから、すごく大事なポジションだと思っているんです。

 で、それをよく考えて試したりしながらやっていくんですけど、やりすぎないっていうのが僕の美学で。いい音色で弾けたなら、余計なことをしないほうが説得力があることってすごく多くて。

 だから音数で埋めるというよりは、存在感のある音色で紡いでいく。そういうことを思いっきりやらせてくれた作品だなと思っています。そういう生楽器の良さや音色の大事さっていうところに気づいてくれたら嬉しいですね。

──Rihwaさんは健太さんのギター・プレイのどこを聴いてほしいですか?

Rihwa 自分でもこのアルバムはずっと聴いていて、本当に心地いいんですよ。何回でもくり返し聴いていられるアルバムだなって。それでいて、聴くたびにいろんな音が聴こえてくるし、その心地よさに健ちゃんのバランス感の良さを感じるんですよね。その感じを、皆さんにも体感してほしいなって思います。

『NOSTALGIA』Rihwa

Track List

  1. Bellevilleの青い部屋
  2. Good is Good
  3. Cheap Perfume
  4. 新婦の隣
  5. Primary
  6. ただ
  7. Backpack
  8. Moving On

タクティカート/TAC-0010/2024年9月10日リリース

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