小渕健太郎が語る、コブクロの新作『QUARTER CENTURY』の作曲

長く歌い継がれる楽曲をいくつも生み出してきたコブクロが、25周年を記念した新作『QUARTER CENTURY』をリリース。今回はメイン・コンポーザーである小渕健太郎に、新作の収録曲を題材として作曲について話を聞いた。

インタビュー=福崎敬太 写真=©️GOBU GOBU Festival

クリシェはもう大好きなんですよ

──『QUARTER CENTURY』は25周年を記念する1枚ですが、全体のサウンドでイメージしていたことはありますか?

 コロナ禍を超えていく時期にも曲を作っていて。あまりしっとりしすぎても切ないし、カラッカラに明るい曲も違う。あの時期はけっこう葛藤していたんです。だけど、今しか書けない曲もあるだろうなと思って、現代をイメージして「Days」などを書きましたね。世界的に大きな出来事も、やがては何か意味があったと思えるといいなって。

 あとは、「雨粒と花火」は少しノスタルジックで昭和っぽいけど今っぽい、そういうのが楽しいんじゃないかって思い始めた時にできた曲で。そこからの流れで、「Blame It On The Love Song」の懐かしいようなメロディができましたね。

──今回は作曲面を深堀りしたいと思っています。例えば「Mr.GLORY」は、B♭add9から始まって、すぐにCへと転調し、サビですごく開けるようにDへと転調します。作曲時にコードの展開などはどのように考えているのですか?

 僕、転調が苦手なんです。無理やり転調すると歌うのも難しいし、歌詞がハマらなくなるメロディだとキツい。僕らが聴いてきた音楽で自然と転調できている歌って、今聴いても飽きがこないんですよね。そういう流れを作れたらいいなと思いつつ、なかなかうまくいかなくて。

 でも「Mr.GLORY」は“コロナ禍を乗り切って、カーブを曲がったらもうもう明るい未来が見えてくるはず”っていう歌詞のメッセージからも、転調がうまくハマったんです。B♭からCにいってDに、またCに戻ってDにっていう、時代に揺さぶられていた情景を、もしかしたらコードの中で表現したかったのかもしれないですね。

──「Blame It On The Love Song」や「雨」のように、ダイアトニック・コード以外のフックとなる音がすごく自然に入っていることも多いので、転調が苦手というのは少し意外です。こういったノン・ダイアトニック・コードはどのようなイメージで使っているのでしょうか?

 「雨」はイントロとアウトロで少しコードを変えて。聴き終わったあとに、“雨”がまた違う雫に変わるような展開がうまくいきましたね。メロは1音変えたくらいなのに、あそこにB♭△7を挟むだけであんな変わるんだって。

──Aメロの終わりにはE♭からDにいきますが、E♭であそこまで尺を取るのはなかなか勇気がいるのかなと思うんです。

 そうですね。あそこは歌詞に影響を受けていて、“今は一人で居る部屋が この街より広くて”という歌詞に対して、キーGでのE♭はものすごく浮遊感がある。一発入れるだけでブワッと世界が広がるなと思ってああいう展開にしましたね。

──「Blame It On The Love Song」だと、キーD♭の中でのB♭で雰囲気が変わりますよね。

 あのメジャーの使い方は、ちょっと間抜けにしたかったというか。“真面目な顔をしなくちゃいけないような世界だけど、息を抜いて笑ってもいいよ”っていう。シンプルなラブソングというより、歌詞の中でひねくれたこともちょこちょこ言っているので、クスッとさせたくてメジャー・コードを持っていったんじゃないかなと思います。

──「Blame It On The Love Song」と「雨」ではどちらもクリシェが入ります。作曲の中で、クリシェはどういうイメージで入れるんですか?

 クリシェはもう大好きなんですよ(笑)。ただ、いいメロディといい歌詞しか乗せちゃダメなコード進行。美しく、気持ちがふわっと落ち着いていくような感覚が、クリシェはすごく合う。どうしてもそこは必要になってきますよね。

小渕健太郎

アコギを聴かせたい時は左に振るんです

──ピアノで作曲することもあるそうですが、基本的にはギターの弾き語りが多いですよね?

 そうですね。だけど今回は、「Blame It On The Love Song」と「雨」、「RAISE THE ANCHOR」などで変わった作り方をしたんです。普段はギターを弾いて、コードに対して歌いながらメロディを作るんですけど、その時はツアーが終わったばかりで声が出なくて。なので、コードを弾きながらギターでメロディを紡いでみようかなって。ギターで歌ったものを曲にしていくっていう作業をやってみたくなったんです。

 で、ギターで弾いたメロディを聴いてみると、どんどんつながっていくんです。歌って作るよりもメロディアスさが増して、飽きがこないメロディをずっと弾けるんですよ。これが今作の作り方として、けっこう大きかったかな。

──ギターのメロディから作ったことが、コードの流れにも影響したのでしょうか?

 たしかにそうかもしれないですね。コードからじゃなくて、とにかくメロディを主に考えていたので。ギターがなかったら、何曲かは本当にできていないです。

──ちなみに作曲の際に手に取るギターは何ですか?

 作曲の時にはMini Matonっていう小さいギターを使うんです。小さいからぶつけないし、本当に便利なんですよ。アンプにつなぐと響きもすごくいいので、素晴らしいですね。超名器だと思います。

──今作も多様なアレンジが聴けますが、今のコブクロにとってのアコギはどんな役割を担っていますか?

 すべてのアレンジを取り払っても曲の印象が変わらないようなアコースティック・ギターを弾きたいんです。アコースティックの煌びやかさはストリングスのようにも聴こえるし、ベースやキックも表現ができる気がするんですよ。そのためにはリズムやストローク、ちょっとした左手のプリングやハンマリング、そういうことの積み重ねが重要で。それで、大きなピアノにもフル・オーケストラにも負けない。

 「エンベローブ」のようにぎゅーっと細いところから、少しずつ広げていくものがあったり、「Days」のように大きなピアノを4つ打ちで弾いてるようなイメージで思いっきりストロークをしたり。その両方ができるっていうのは、アコギの表現力のすごいところだと思いますね。

──アコギのアレンジ上の配置の仕方で気をつけていることはありますか?

 アコギをしっかり聴かせたい時は、左に振るんですよね。本当かどうかわからないんですが、“左耳で聴いたものは右脳に届く、右耳で聴いたものは左脳に届く”みたいなことがあるじゃないですか。で、僕は感覚的に左でアコギが鳴っているほうが気持ちが良いんですよ。

 「ここにしか咲かない花」もAメロいっぱいぐらいはアコギと歌しか鳴っていませんが、歌が真ん中でアコギが左。アコギが右だと気持ち悪かったんです。好き嫌いかもしれないんですけど、左にアコギを置くのは意識してやっていますね。

──では最後に、今作でアコギ・プレイヤーに注目してほしいポイントを教えてください。

 やっぱりアコギで言うと「エンベロープ」。Aメロをピアノと共に飾る、歌と寄り添いながら優しく語るようなアルペジオは聴いてほしいですね。あのようなアルペジオをいつも弾きたいんですよ。それに、コードの展開も僕的にはすごく新しくて。アコギがなかったらメロディもコードも浮かんでいない1曲ですね。

『QUARTER CENTURY』コブクロ

Track List

  1. RAISE THE ANCHOR
  2. エンベロープ
  3. Mr.GLORY
  4. Soul to Soul
  5. Blame It On The Love Song
  6. 足跡
  7. ベテルギウス -Over the GLORY DAYS-
  8. 雨粒と花火
  9. Moon Light Party!!
  10. Days
  11. この地球の続きを

ワーナー/WPCL-13605(通常盤)/2024年9月4日リリース

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