ラテンのヴァイブやサウンドを求めたところがある
──『Dragon in Harmony』は満を持してのデビュー・アルバムです。作品全体で目指していたことはありますか?
アコースティック・ギターのパーカッシブなスタイルを少しでも多くの人に届けることだね。一部のギター・ファン以外はこんなプレイが可能だということすら知らない、とても過小評価されているスタイルだと思うんだよ。だから僕のミッションは、こういったプレイスタイルで一般的なリスナーたちとコミュニケーションを取ることだと思っている。
──収録曲には歌モノもあり、クラシックやジャズ、ロックのカバーもありと色々なスタイルの楽曲が並んでいますよね。どういった1枚に仕上がったと感じていますか?
このアルバムはラテンのヴァイブやサウンドを求めたところがあるんだ。僕のバックグラウンドにあるフラメンコや、ナイロン弦のサウンドによって、そういった雰囲気が出せたと思う。
あと、このアルバムのハーモニーの多くはハーモニック・マイナーによるもので、少しメランコリックなところがありつつも7thで作られるような緊迫感が存在しているよね。このスケールでプレイすることで、フレーバーのあるサウンドにできたんだ。
それにユニークでパーカッシブなプレイ自体が印象深いものをもたらしてくれるから、すべての曲を同じジャンルに留めておこうと意識する必要がなかったんだよ。
例えばクラシカルなアレンジの「Clair de lune」やIchika Nitoと一緒にプレイした「I Don’t Write About Girls」をよく聴いてもらえれば、スタイルはほぼ同じで、バックグラウンドのちょっとした違いがあるだけだとわかってもらえるんじゃないかな。
自分のオリジナリティやサウンドの質感といったものにフォーカスした
──「I Killed It」や「I Don’t Write About Girls」など、あなたが作るメロディはキャッチーで印象に残るメロディ・ラインです。メロディはどのような時に生まれますか?
僕は自分のことをギタリストと思わないようにしているんだ。実際はギターをプレイすることが僕の人生だし、ギタリストなのは間違いない。ただ、僕がやることのすべてがギターというフィルターを通しているだけであって、それは純粋に“音楽をプレイする”という感覚なんだ。
だからメロディに関して話すと、例えば「I Don’t Write About Girls」はピアノで作ったんじゃないかな? ひょっとしたら歌いながら出てきたのかもしれない。確実なのはギターで作ったものではなくて、ボーカルっぽいメロディだということだね。
それを実際はギターでやっているのだから、ナチュラルなプレイというわけにはいかないんだ。ギターでこの曲を作るのは難しかったと思うけど、ピアノを弾きながら歌うのであれば、こういったシンプルなメロディを作ることは簡単だと思う。
それをあとになって、僕のパーカッシブなスタイルに置き換えている。だから作っている過程では単なる音楽としてアプローチしていて、これは純粋に面白いインスピレーションから生まれるものなんだよ。
──例えば「Cry Me a River」はシュレッドなフレーズも歌えるメロディだったりと、テクニカルな部分も音楽的に聴かせることを大事にしているように感じます。メロディをテクニックで装飾していく中で気をつけていることやこだわりはありますか?
僕は以前からインターネット上にビデオをアップしてきていて、おそらく世界中の人たちが僕を知ってくれているきっかけのほとんどが、InstagramやTikTok、YouTubeだったりする。こういったビデオの多くでかなりテクニカルなものをプレイしていて、僕自身の技術面は知ってもらえていると思うんだ。だからこそアルバムでは、自分のオリジナリティやサウンドの質感といったものにフォーカスしている。
テクニックはそこまで大切なものではなくて、あくまでも自分をナチュラルな形で表現するための方法であるということを常に意識しているよ。
それでも「Cry Me a River」が頭の中に流れた時、僕にはテクニカルなアルペジオも一緒に聴こえてきた。それはこの楽曲の中に存在するギャップを自然な形で埋めるものだということだ。特に“アコースティック・ギターのフィンガースタイル”でプレイするうえで最も自然だった。
──メロディのようにテクニカルなアプローチが思い浮かぶんですね。
そうだね。でも、もちろんレイヤーのようにテクニカルな要素をつけ加える時もあるよ? 例えば、ポップ・ソングのアレンジとなると、たいていヴァース→サビ→ヴァース→ブリッジ→サビという構成でヴァースやサビがくり返されているだろう? シンガーの場合は歌詞で違いを出せるけど、ギタリストがそういった変化をつけるためには、もっと表現力があって本質的なものでなければならない。
メインのメロディ・ラインをくり返してプレイするとなると、2回目ではその中に潜むギャップをテクニカルでクールなもので埋めようとするんだ。これは僕にとってプレイして楽しいことでもあるし、観たり聴いたりしている側にとっても楽しめるものになるんだよ。
“メロディ、ハーモニー、ベース、ドラム”は縦につながったひとつの塊
──ニルヴァーナの「Heart-Shaped Box」はボーカル、ベース、ドラムがそれぞれ別々に動いているような印象です。メロディ、ハーモニー、リズムのアレンジはどのように組み立てていくのですか?
まずメロディをクールでユニークにアレンジすることから始める。そして、メロディにレイヤーをひとつ重ねたら、それらを再びすべて覚え直すっていう作業をひたすらくり返している。つまり、あくまでもひとつのパフォーマンスであって、メロディやベースなどのいくつものレイヤーが存在しているけど、僕にとってはひとつのフレーズなんだよ。
僕は多くの人が考えているような“マルチタスク”っていうものを信じていなくてね。そんなものが可能だと思っていないし、人間の頭脳が分裂して複数のことを行なえるとは思えないよ。
だからアレンジする際は横並びで考えるのではなく、メロディ、ハーモニー、ベース、ドラムが縦につながった状態で考えていて常にひとつの塊という感覚だ。アレンジの作業が進むにつれて、レイヤーをどんどん加えていくのだけど、全体をひとつのパッケージとして扱うように考えているから、必ず頭の中で思い描いた全景を把握することにしているんだ。アレンジをする人には単一の線上で考えるのでなく、全体的に考えることをオススメしたいね。
──機材についても聞かせて下さい。このアルバムで使用したギターはアイバニーズのMRC10ですか?
MRC10の1本だけだね。ただ、ライブでは2本のMRC10を使い分けているよ。
──レコーディングはどのように行なっているんですか?
スタジオでのレコーディングとライブ・パフォーマンスは別物だと考えている。スタジオでDIを使うのは好きじゃなくて、マイクで録るほうが好きなんだ。マイクを12フレットとブリッジのあたりに、そしてルームマイクもさらに2本立てる感じでレコーディングしている。
ただ、これで一発録りすると、どのマイクにも音のカブりが出て、エンジニアからミックスしづらいと言われてしまう。だから、弦のパートとパーカッションのパートを別々に録音して、エンジニアに調整してもらうこともあるね。
──さて、あなたの楽曲はどれも難しいですが、アコギ・マガジンの読者がチャレンジするのにオススメする曲は?
「Innuendo & Asturias」だね。ぜひ挑戦してみてほしい。ガンバッテクダサイ(笑)。
『Dragon in Harmony』Marcin
Track List(DISC1)
- Guitar Is Dead
- I Killed It
- When The Light Goes – featuring Portugal. The Man
- Cry Me A River
- Classical Dragon – featuring Tim Henson
- Smooth Operator
- Allergies – featuring Delaney Bailey
- Nardis
- I Don’t Write About Girls – featuring Ichika Nito
- Clair de Lune
- Cough Syrup
- Heart-Shaped Box
- Bite Your Nails
- Requiem
- Carmen(ボーナストラック)
- Just The Two Of Us – featuring Ichika Nito(ボーナストラック)
※DISC2は「Classical Dragon」のMVなどを収録したブルーレイ