小沼ようすけが弾く注目のSDGsギター

今やジャズ・ギター界のトップランナーとして活躍する小沼ようすけ。その小沼氏に、SDGsギター8本を試奏してもらったSDGsとは“Sustainable Development Goals”の略/持続可能な開発目標。“SDGsギター”をひと言で説明すると、“代替材を使用したギター”となる)。

なお、本誌『アコースティック・ギター・マガジンVol.99』では、SDGsギターについて詳しく取り上げているので、そちらもチェックしてもらいたい。

小沼ようすけ

Bromo Guitars BAR3

去年立ち上がったばかりのブロモ・ギターズは、インドネシアのジャワ島にあるブロモ火山の麓に工場があり、環境に配慮したギター作りを行なう次世代のブランドだ。

古楽器のようなルックスのこのトラベル・ギターには、指板とサイド&バックにはインドネシア産のアマラ・エボニーが使われているのが特徴だ。トップもソリッドのシトカ・スプルースだ。ブレイシングはトーン・フローと名づけられた独自仕様で、サイズを超えた豊かな鳴りを生んでいた。現段階では日本未入荷だが、この材を使ったフル・サイズのギター(BAR5CEとBAR6)もラインナップされている。

Bromo Guitars BAR3(前面)
Bromo Guitars BAR3(背面)

●小沼’sインプレッション

これはいろいろ見事です。作りもしっかりしていて弾きやすい。このサイズながら身体にフィットして、ネック落ちせずに弾けます。それに、サイド&バックに使われているアマラ・エボニーの木目も美しいですね。弾き心地はフル・サイズのギターに比べても違和感がないと思います。しかも14fまで綺麗に音が鳴ってくれて、オクターブ・ピッチもしっかりしていますね。小さいボディでも音量が大きく、ウクレレ的な立ち上がり感もあって弾いていて気持ちいい。値段も手頃で、これは1本購入して車でどこか行く際に積んでおきたいギターです。

【SPEC】

●トップ:ソリッド・スプルース

●サイド&バック:ソリッド・アマラ・エボニー

●ネック:マホガニー/アマラ・エボニー・スカンクライン

●スケール:580mm

●指板:アマラ・エボニー(20F)

●ブリッジ:アマラ・エボニー”Eagle Wing”

価格:オープン(市場実勢価格:税込39,600円)

問い合わせ:キクタニミュージック☎️0561-53-3007

Headway HD-SAKURA ’24 SF, S-ESU/ATB

国産材の可能性に早くから着目し、多くのアコギ・ファンにその魅力を伝えてきたヘッドウェイ。特に桜モデルはすでに発売から10周年を迎え、国内外から高い評価を得ている。このモデルは桜モデル10周年を記念して作られたAska Team Buildが手がける1本だ。うっすらと桜色に着色されたトップは、シトカ・スプルース単板。セミ・フォワード・シフトの34ブレイシングが施されている。サイド&バックは山桜で、バックは栃を挟んだ3P仕様。栃には鶴が飛翔する様が描かれ、桜モデルのさらなる飛躍を感じさせる。薄いESUネックで、演奏性も抜群だ。

Headway HD-SAKURA '24 SF, S-ESU/ATB(前面)
Headway HD-SAKURA '24 SF, S-ESU/ATB(背面)

●小沼’sインプレッション

このギターは、ストロークしたくなりますね。レンジにまとまりがあって、音の密度が濃い。ロー・コードの響きが綺麗ですね。弾き語りやバンドのギター・ボーカルで、カッティング・メインで弾く方は、すごく魅力を感じる音だと思います。特に低音がリッチで、音のバランスもいい。デザインには遊び心があって、女性にも好まれそうですね。国産材が使われていますが、音はトラディショナルなアコギに近い印象です。いい意味で個性が際立っていないので、幅広いジャンルで使いやすいモデルですね。ピックアップを付けても良さそうです。

【SPEC】

●トップ:セレクテッド・シトカ・スプルース

●サイド&バック:山桜 with 栃(3ピース・センター)

●ネック:アフリカン・マホガニー

●スケール:645mm(20F)

●指板:パープル・ハート

●ブリッジ:パープル・ハート

メーカー希望小売価格:税込396,000 円

問い合わせ:ディバイザーカスタマーサポート☎️0263-57-9608

James J-300S

2002年に誕生し、オール単板仕様の本格派から初心者向けの安価なモデルまで、幅広いラインナップを展開する島村楽器のオリジナル・ブランド、James(ジェームス)。本器は “Evergreen Project”の一貫として、環境に配慮した素材を用いて作られているのが大きな特徴だ。スモール・ボディのサイド&バックには、HPLが使われ、指板&ブリッジもテック・ブラックと呼ばれる人工材で作られている。ただトップはシトカ・スプルースの単板で、豊かな生鳴りを生む。演奏性の高いネックはカーボン・ロッドで補強され、ボディとともに湿気にも強い。弦高調整可能なサドルもポイント。

James J-300S(前面)
James J-300S(背面)

●小沼’sインプレッション

ネックは適度な太さがあり、初心者向けの価格ながら本格的な演奏にも十分に使える弾き心地だと思いました。音も弾き心地も、人工的な材料が使われていることは、言われないとわからないですね。すべて木材で作られたギターと比べて弾き心地に違和感はないですし、音の立ち上がりも速く鳴らしやすいと感じました。それに音のバランスもいいですね。使えるギターを目指したのが伝わってきます。人工材を使い、さらにカーボン・ロッドで補強もされているので、ギターの状態をそこまで気にしなくても良く、初心者に最適ですね。

【SPEC】

●トップ:シトカ・スプルース単板

●サイド&バック:HPL

●ネック:マホガニー(カーボン製サポートロッド内蔵)

●スケール:638mm(20F)

●指板:テック・ブラック

●ブリッジ:テック・ブラック

メーカー希望小売価格:税込39,500円

問い合わせ:島村楽器(https://www.shimamura.co.jp/

Lâg Guitars SAUVAGE-DCE

1981年から伝統と革新を両立させたギター作りを行なうフランス発祥のブランド、ラグ・ギター。2011年には中国の天津に工場をオープンし、最先端のギター作りを行なっている。このモデルは、独自の木材処理加工によって生まれたペール・ブランコウッドの単板を使用。サイド&バックにはスモークされたユーカリが使われ、サンディング時に出る微粒子や化学物質を抑えるため、あえて凸凹のまま仕上げられている。アーチバック仕様で、歯切れの良いトーンが特徴だ。チューナーを内蔵したピックアップ・システムは、EQで細かな音作りができる。

Lâg Guitars SAUVAGE-DCE(前面)
Lâg Guitars SAUVAGE-DCE(背面)

●小沼’sインプレッション

これは、すごく弾きやすい。僕の感覚だとフルアコを弾いている感じで、エレキ感覚で弾けました。音は低域がいい意味でスッキリしていて、アーチトップのような鳴り方ですね。音の反応も速いですし、速弾きもしやすい。これはジャズ・ギターとしても使えそう。アーチ・バックだからなのかも。スタンダードなアコギとはひと味違った個性で、これはおもしろいですね。それからピックアップを通した音もいい。ピックアップを通したほうが、生音よりアコギらしい響きに感じました。テンションも緩めなので、普段エレキを弾いている方にもオススメです。

【SPEC】

●トップ:ペール・ブランコウッド

●サイド&バック:スモークド・ユーカリ(ラフソーン加工)

●ネック:カヤ

●スケール:650mm(20F)

●指板:ブラック・ブランコウッド

●ブリッジ:ブラック・ブランコウッド

●エレクトロニクス:Stage Lâg(Vol、3バンドEQ, Mid Freq, Phase, Notch, Tuner)

定価:税込100,100円(市場実勢価格:税込79,970円)

問い合わせ:コルグ(https://www.korg.com/jp/support/contact/korg

MARTIN 000-XAE BLACK CUSTOM

島村楽器とマーティン・ギターの貴重なコラボレーション・モデル。000サイズのボディには、HPL材が使われ、指板&ブリッジにもFSC認証材のリッチライトを用いるなど、環境に配慮した材料で作られている。マーティンでは数が少ない、ブラックで統一されたルックスも魅力だろう。指板に入れられたダイアモンド&スクエア・ポジションマークも特徴のひとつ。フィッシュマン製のピックアップはナチュラルな出音で、幅広いスタイルのライブ演奏に対応できそうだ。このギターもEvergreen Projectに該当するモデルで、売上金の一部が森林保護活動などに役立てられている。

●小沼’sインプレッション

マーティンらしいバランス感覚はありながらも、新しい雰囲気も感じさせてくれるギターだと思いました。生音ももちろん楽しめますが、ピックアップを通した音がいいですね。いい意味で生音がまとまっているので、素直で柔らかい音が得られます。ピエゾ感もないですね。音は中高域に特徴があり、抜けつつも揺らぎがあって、バンド・アンサンブルでも使いやすいと思います。ネックの握りとか弾き心地は、さすがマーティン。このルックスも、意外性があっていい。何となくアメリカのロックを弾きたくなりますが、幅広い演奏に対応できそうです。

【SPEC】

●トップ:HPL /ジェット・ブラック

●サイド&バック:HPL /ジェット・ブラック

●ネック:ブラック・バーチ・ラミネイト

●スケール:632.5mm(20F)

●指板:FSC認証リッチライト

●ブリッジ:FSC認証リッチライト

●ピックアップ:フィッシュマンMX

メーカー希望小売価格:税込129,000円 

問い合わせ:黒澤楽器店☎️03-5911-0611

MORRIS M-164.LC

フィンガーピッカーに愛されるSシリーズでも知られるモーリスは、これまでトラディショナルな材を用い、幅広いユーザーに向けた良質なギターを作り続けてきた。しかし今回、ジャパン・フォレストと名づけられた国産材を使ったシリーズが登場した。紹介するギターは、マスタールシアーの森中巧氏が手掛けるルシアー・メイド・プレミアムのモデル。トップには宮崎県産の地杉が使われ、サイド&バックは山桜という組み合わせ。独特のルックスにも惹かれるが、音も個性的で柔らかい中高域が気持ち良く響く。国産材の可能性を感じる1本だ。

MORRIS M-164.LC(前面)
MORRIS M-164.LC(背面)

●小沼’sインプレッション

これは弾きやすく素晴らしい作りで、製作者の気合いが感じられました。ナチュラルな出音で、すごく鳴ります。ロー・コードを鳴らしただけで満足感がありますね。カラッとしているけど、奥行きがある響きで温かい。まさに木そのものの音。あとギターが軽いのも魅力です。それとギターの振動が身体に伝わってきます。特に4弦の芳醇さに驚きました。生音の感覚を大事にするプレイヤーにとって、鳴りが身体に響くことは大切です。何となくガット・ギターを弾いている気持ちになりました。普段ガットを弾いている方も満足度が高いはずです。

【SPEC】

●トップ:地杉(ジスギ)

●サイド&バック:山桜単板

●ネック:ホンジュラス・マホガニー

●スケール:645mm

●指板:山桜

●ブリッジ:山桜

価格:オープン(市場実勢価格:税込525,800円)

問い合わせ:モリダイラ楽器☎️03-3862-5041

Natasha Guitar NBSG Nylon

フィンガースタイルで奏でられる音楽をこよなく愛する、アーロン・ザオ氏が立ち上げたナターシャ。同ブランドのギターは、中国の正安県の工場で作られている。組み立て可能なこのギターは、ボディからフレームまで竹製でナイロン弦(写真)とスティール弦のモデルがラインナップ。ライン接続に加え、ワイヤレス・レシーバーを使えばBluetoothでアンプと接続可能。エフェクターも内蔵し、専用のアプリと組み合わせればメトロノームやリズム・マシンなども使える。これ1台で幅広い使い方ができ、さまざまなシチュエーションで重宝する。

Natasha Guitar NBSG Nylon(前面)
Natasha Guitar NBSG Nylon(背面)

●小沼’sインプレッション

これは一般的なクラシック・ギターよりも指板の幅が狭く、見た目以上に弾きやすいと思いました。ただ竹で作られているせいか、これまでにない弾き心地です。音の立ち上がりが速いのも竹の効果なのかもしれません。最初はBluetoothでアンプに接続して弾いてみましたが、レイテンシーもほぼ感じないですね。ただ音質を重視するならば、シールドでつなぐことをオススメします。これ1台あれば、ツアー先のホテルなど音が出せない環境でも練習できる点がいいですね。リバーブやディレイなどのエフェクターを手軽にかけることもできて、作曲とかにも役立ちそうです。

【SPEC】

●ボディ:ソリッド・バンブー

●ネック:ソリッド・バンブー

●スケール:650mm

●指板:ソリッド・バンブー

●エレクトロニクス・コントロール:チューナー、マスター/スタイル、エフェクト・コントロール、ヘッドホン端子、USB-C端子、ワイヤレスON/OFF、ワイヤレス・マッチ

●その他:ワイヤレス・レシーバー付属

オープン(市場実勢価格:税込68,200円)

問い合わせ:JESインターナショナル☎️0561-72-9801

Taylor Builder’s Edition 324 CE V-Class

長年サステナビリティを意識したギター作りを行なっているテイラー。同社のマスタービルダーであるアンディ・パワーズがデザインした、ビルダーズ・エディションの“324 CE”には、街路樹として植えられたアーバン・アッシュと呼ばれる木材がサイド&バックに使われているのが特徴だ。同材は古いマホガニーのような響きが特徴で、トップのトロピカル・マホガニーに施されたVクラス・ブレイシングも合わさり、ハイ・ミッドが豊かな鳴りを生む。定評のあるピックアップ・システム“ES2”がマウントされ、ライブにも重宝する。

Taylor Builder's Edition 324 CE V-Class(前面)
Taylor Builder's Edition 324 CE V-Class(背面)

●小沼’sインプレッション

新しい素材を使ってもテイラーらしさを感じます。独特の立ち上がりの良さもあり、音がパリッとしています。それに程よい粘りもあり、そこにテイラーらしさを感じます。アーバン・アッシュの特徴かわかりませんが、中高域にすごく豊かさを感じますね。音は艷っぽく、低音から高域までバランス良く鳴り、ハイ・フレットまで気持ち良く弾けます。それに細かなダイナミクスもしっかり描き出してくれるのがいいですね。ピックアップもシールドを挿しただけで使える音ですね。従来の良さもありつつ、新たなテイラーの魅力も感じられるモデルだと思いました。

【SPEC】

●トップ:トロピカル・マホガニー

●サイド&バック:アーバン・アッシュ

●ネック:トロピカル・マホガニー

●スケール:25 1/2インチ(約650mm)

●指板:エボニー

●ブリッジ:エボニー

●エレクトロニクス:ES2(Volume, Treble, Bass)

メーカー希望小売価格:税込489,900円

問い合わせ:テイラーギタージャパン カスタマーサービスセンター☎️0561-50-5025

総評 by 小沼ようすけ

小沼ようすけ

今回、環境に配慮した材料を使って作られたギターを8本弾いてもらいましたが、率直にどうでしたか?

各ブランドが環境に配慮した材料を使いながらも、それぞれベストを尽くしていることが感じられました。でも、どれも方向性や個性が想像以上に違っていて、そこに驚きました。それぞれに個性が出ていて、おもしろかったですね。サステナブルとか環境に配慮することは、今後も重要なテーマだと思っています。それに配慮した良質なギターを作ろうという想いをどのギターにも感じられたことが、すごくうれしかったですね。自分も音楽を通じて、環境を守っていくような活動ができればいいなと思っていたので、すごく貴重な経験になりました。僕と同じ目線で作られたギターが、こんなにあることを知ることができましたし、より興味が湧きましたね。

小沼さんは、おもにトラディショナルな材料で作られたギターを弾いてきたと思いますが、それらと比べてどうですか?

トラディショナルなギターの良さもありますが、環境に配慮して作られたギターは見た目もそうですし、音にも新しい個性があっておもしろかったです。ぜひ、材料の名前や見た目にとらわれず、弾いて判断してほしいなと思いました。今回試したギターを弾いてみれば、自分が想像していたアコギのイメージを超えてくれるはずです。

今回弾いた中で、特に印象的なモデルは?

僕の好みはモーリスです。普段弾いているアコギの表現を、すごく広げてくれそうです。すごく親近感もありながら、新しさも感じさせてくれて、それが不思議でした。その感覚はスティール弦のアコギを弾いて、今まで感じなかったかも。ナイロン弦に近い響きだったからかもしれません。音に柔らかさと芳醇さがありましたよね。ピックアップを通さず、生でマイク録りしてみたいと思いました。それからヘッドウェイもそうですが、国産材を使う視点は素敵ですね。

ほかに人工の素材を使ったモデルもありましたが、木材で作られたギターと比べて違和感は感じましたか?

人工素材ならではの音はある気がしますが、特に弾いていて違和感はないですね。逆に人工素材の特徴が良かったりすることもあると思いますね。例えばピックアップを通した時とか。だから人工の材料を使ったモデルに合った音作りや演奏をすることで、新しい音楽や演奏が生まれるかもしれないと感じました。僕の世代はマーティンやギブソンとか、トラディショナルなギターを作っているブランドのギターを長年弾いてきたと思いますが、そういうことを知らない若い世代は、人工的な材料で作られたギターを先入観なく、おもしろいととらえるかもしれないですし。そういう未来の希望も含めて、環境に配慮した素材で作られたギターは今の時代ならではというか、今後もっとおもしろくなりそうですね。

そうかもしれません。木材が枯渇して、資源を大切にしなければならない時代になったからこそ、これまでギター作りには使われてこなかった木材や人工の材料が使われたモデルが生まれてきたので、今後はそれを楽しむ視点が必要なのかもしれないですね。

本当に、そう思います。今回、いろいろと弾かせてもらって、アコースティック・ギターそのものの幅が広がっているなとも感じました。伝統的なギターの延長で作られるギターもありながら、新しい発想のモデルもありました。それは実際に音を出してみないと良さを感じることが難しいと思ったので、ぜひお店で試奏してほしいですね。きっとその良さを感じられるはずです。

アコースティック・ギター・マガジンVol.99

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撮影:八島崇、取材・文:菊池真平

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