日本再上陸を果たしたイーストマン。1992年に設立され、バイオリンやギターといった弦楽器、さらに管楽器なども手がけるメーカーだ。ハンドクラフトの精神を最も大切にし、妥協なく製作されている。
そんな同社は2019年にボジョアを傘下に収め、そのラインナップは一新されている。今回はイーストマンの現状をひも解くとともに、矢後憲太にアンティーク・ヴァーニッシュ・シリーズを試してもらった。
HISTORY
Eastman Stringの創業者Qian Ni(チェン・ニー)氏は、ボストン大学音楽学部に留学してフルートを専攻していたが、バイオリンやチェロを専攻する友人たちが使っていた学生用の安価な楽器の品質の悪さに気づき、1992年に販売会社を設立し、父親が買いつけた手工楽器を彼らに提供し始めた。
そして1995年に北京に自社工房を設立して以来、イーストマンは従業員約1,100人という世界有数の楽器メーカーに成長し、製造品目もアーチトップおよびフラットトップのギターやマンドリンなどにまで拡張している。その生産本数は、ギター族の楽器だけで年間5~6万本にもなるという。
イーストマン社では楽器製作の場を“ファクトリー(工場)”ではなく“ワークショップ(工房)”と呼んでいる。なぜなら、木材の荒加工にはCNCマシンを使用しているが、楽器の各構成部品の微妙な整形や最終的な仕上げはすべて、手作業で行なっているからである。
STAFF INTERVIEW
製作過程やボジョアとの関わりについて詳しく探るため、ディレクターのPepijn’t Hart(ぺピン・ハート)氏に話を聞いた。
イーストマンの現状とボジョアについて教えてください。
イーストマンでは現在、エレクトリック・ギターとマンドリンの製作を北京、アコースティック・ギターを河北省覇州にあるそれぞれのワークショップで行なっています。
アコースティック・ギターのラインナップには、モダンなスタイルのACと、ビンテージ楽器のコンセプトを受け継ぐトラディショナルのふたつのシリーズがありますが、今回新たにアンティーク・ヴァーニッシュ・シリーズが加わりました。
2016年にバイオリンのヴァーニッシュ塗装工程を視察していた私は、それをギターにも応用するアイディアを思いつきました。そこで使い込んだオールドの楽器のような仕上げを施したのが、このアンティーク・シリーズです。
ボジョアについては、2019年にチェン(ニー氏)がアメリカ・メーン州ルイストンにあるダナ・ボジョアの工房を訪れて、いろいろなアイディアについて話し合っている時に、イーストマン・ファミリーの一員になるという話が出て、その年末に実現しました。
以来ダナは、ニトロ・セルロースの感触を持ちながらも環境に優しいウレタン系の“トゥルートーン塗装”や、ブレイシングの削り方など、ギター作りのあらゆる点にさまざまなノウハウを提供してくれています。
現在のイーストマン製ドレッドノートやOMなどのボディは、ボジョアとまったく同じ形状になっていますし、ボジョア独自のボルト・オン構造を持つ“トーン・タイト・ネック・システム”もACシリーズの上位モデルで採用しています。
ただし、イーストマン・ファミリーになったとは言え、ボジョアというブランド自体は以前と同じ独立した会社です。私たちは協業することで、効率的な木材の調達やノウハウの伝授など、さまざまな面でお互いにメリットを享受しています。
矢後憲太が試すアンティーク・ヴァーニッシュ・シリーズ
バイオリンのニスによるアンティーク・ヴァーニッシュ塗装
E22-OOSS/v
ブルース・キングの名で知られるL-00を基本にしながら、スロッテッド・ヘッドを採用し、よりニューヨーカーらしいスタイルに振ったモデル。トップはアディロンダック・スプルース、ボディはウォルナットを採用。仕上げは同社のバイオリンと同じヴァーニッシュ塗装。ビンテージの雰囲気に満ちている。
Specifications
●ボディ・トップ:アディロンダック・スプルース単板
●ボディ・サイド&バック:ウォルナット単板
●ネック:マホガニー
●指板&ブリッジ:エボニー
●価格:オープン(実勢市場価格264,000円/税抜価格240,000円)
ヴァーニッシュ仕上げだとオーラが違いますね。音の傾向はトラッドな印象ですが、ニューヨーカー独特の中音域が膨らんだ箱鳴り感があまりなくて、フラットでプレーンなサウンド。仕上がりは渋めだけれど弾き心地はモダンで、オープン・チューニングもイケるし、応用範囲が広い楽器だと思います。欲しいですね。
同フィニッシュのラウンド・ショルダー型
E22-SS/v
ラウンド・ショルダーのJ-45スタイルで、トップ材はこの価格帯の楽器としては貴重なアディロンダック・スプルースを採用。マホガニーとローズウッドの中間的なサウンドを持つサイド&バックのウォルナットは、アンティーク・シリーズのみの仕様となる。さりげないダイヤモンド型のポジションマークがお洒落だ。
Specifications
●ボディ・トップ:アディロンダック・スプルース単板
●ボディ・サイド&バック:ウォルナット単板
●ネック:マホガニー
●指板&ブリッジ:エボニー
●価格:オープン(実勢市場価格264,000円/税抜価格240,000円)
学生時代に使っていたJ-45のような粗さやコツッとしたアタック感はありますが、よりプレーンで、どんなジャンルでも使いやすいような印象です。倍音も無駄なく伸びて、寂しくもなく、扱いやすい。気持ちいいですね。フィンガースタイルだとレスポンスが重要ですが、弾き手が思ったとおりに追従してくれる感じです。
総評
僕もビンテージを使いたいと思うことはありますが、自分のようなフィンガースタイルだと、音が抜けすぎて都合が悪い部分もあるんですよ。その点、今回のアンティーク・シリーズのような楽器のほうが要求を満たしてくれるのかもしれません。
E22-SS/vは満たされた音質だけれども歌を邪魔しない感触で、弾き語りにも良さそうですね。ウォルナットの効果なのか、バランスが秀逸だなと思いました。DADGADのようなオープン・チューニングでもレスポンスやバランスが保たれているし、ネックが薄くて弾きやすいので、モダンなプレイにも向いていると思います。
E22-OOSS/vもそうですが、どのポジションでも使えるぐらいピッチが良くて、プレイアビリティも高いという基本があって、その上でビンテージなルックスとはまた違ったプレーンな音がするのがおもしろいですね。レスポンスが速いのもヴァーニッシュの効果なのでしょう。
弾きたい音楽にしっかりついてきてくれるという、大事な要素をちゃんと備えたギターですね。
製品に関するお問い合わせはS.I.E.(☎03-5965-6333)まで。
取材:坂本信 写真:八島崇