aNueNue × 龍藏Ryuzo featuring 杉田健司【サウンドメッセ ・レポート】

2023年5月13日、14日に開催されたギターの祭典、サウンドメッセ in 大阪。

そのうち今回は、アコースティック・ギター・マガジン・ステージで行なったaNueNueのイベントについてお伝えしたい。

富山の名工、杉田健司氏が登場し、監修として携わったLSアコースティック・フューチャー・シリーズの製作背景を詳しく解説。

さらにソロ・ギタリスト龍藏Ryuzoを試奏者に迎え、aNN-LS700E、aNN-LS600E、そしてこのたび発表されたトリファイド・トップ・モデルaNN-LS770Eの3本をチェックしてもらった。

トーク・パートと楽器の詳細をレポートしよう。

LSアコースティック・フューチャー・シリーズ

“今までにない未来の新たな楽器を生み出す”というコンセプトのもと、杉田健司氏の監修によって生まれたLSシリーズ。

トップはムーン・スプルースを採用。そしてボディにインディアン・ローズウッドを使用したaNN-LS700EとaNN-LS600E、また写真にはないが受注生産にてココボロのaNN-LS800E、同様にアフリカン・マホガニーのaNN-LS500Eが用意されている。

加えて、今回のサウンドメッセで発表されたのが、トリファイド加工が施されたムーン・スプルース・トップのaNN-LS770Eだ。熱処理のおかげで、長年弾き込まれたようなサウンドを味わうことができる。こちらは10月発売予定となる。

新たに発表されたトリファイド・トップ・モデル

aNN-LS770E

Specifications

●ボディ・トップ:トリファイド・ムーン・スプルース単板

●ボディ・サイド&バック:インディアン・ローズウッド単板

●ネック:サウスアフリカン・マホガニー

●ジョイント:スパニッシュ

●指板&ブリッジ:エボニー

●価格:510,000円(税抜価格463,636円)※10月発売予定

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ローズウッド・ボディのフラッグシップ器

aNN-LS700E

Specifications

●ボディ・トップ:ムーン・スプルース単板

●ボディ・サイド&バック:インディアン・ローズウッド単板

●ネック:マホガニー

●ジョイント:スパニッシュ

●指板&ブリッジ:エボニー

●価格:480,000円(税抜価格436,363円)

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トラディショナルなダブテイル・ジョイントを採用

aNN-LS600E

Specifications

●ボディ・トップ:ムーン・スプルース単板

●ボディ・サイド&バック:インディアン・ローズウッド単板

●ネック:マホガニー

●ジョイント:ダブテイル

●指板&ブリッジ:エボニー

●価格:330,000円(税抜価格300,000円)

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トーク&試奏パート

aNueNueと杉田健司の関わり、LSモデルの製作ポイント

●杉田さんが関わるようになった経緯を教えてもらえますか?

杉田 もう15年以上前になるのかな。たまたまジョンソン・リアオ氏(2008年にaNueNueを創業した現代表)と知り合ったんです。その後彼は、5年くらい前に僕のギターを改めて見て感銘を受けたと。

 

そこで“aNueNueの工場を見ていろいろ教えてほしい”と。彼や工場スタッフのギターに対する情熱、より良い楽器を作りたいという思いを見ると、“じゃあ一緒にやろうか”と決断しましたね。

●今回用意したLSモデルの3本、アコースティック・フューチャー・シリーズの構想として、ポイントとなった点は?

杉田 まずaNueNueの特徴であるボディ・シェイプやオフセット・サウンドホールは生かそうという話になりました。

 

その中で、“ブレイシングはどうすればいい?”と尋ねられましたが、僕の答えはボディだけの問題ではないということ。ボディやネック、ギター全体をいかに鳴らすかが非常に大事なんだと。

●とおっしゃいますと?

杉田 僕ね、若い時に合唱団に入って声楽のレッスンを受けていたことがあるんです。そしてウマく声を出せている時は、アタマから手足の先までがビリビリしてくるわけです。それは体全体を楽器として使えている証拠。

 

そのことを、ギター作りをするうえで思い出したんです。鉄弦のアコースティック・ギターは弦の張力が大きく、特にネック・ジョイントはウィーク・ポイントになります。

●フラッグシップのaNN-LS700E、そして今回新たに発表されたaNN-LS770Eは杉田さん流のスペイン式ジョイント、“ヒールレス・スパニッシュ・ジョイント”ですね。特徴を教えてもらえますか?

杉田 大雑把に言うとスペイン式のジョイントです。ところが通常の作り方では、見た目はダブテイルなどと同様のヒールが存在します。そこの木部の体積を、ある程度ボディ内のブロックでまかなうようなイメージです。

 

これによってヒールの出っ張りが小さくなり、ハイ・ポジションが弾きやすくなる利点が生まれます。

●発想の転換ですね。

杉田 もうひとつ大きいのは、ネックの仕上げかなと思っています。音に関係ないと思われがちですが、いやいやそんなことはありません。というのは、フレットの処理、特にエッジを極めてなめらかに仕上げているんです。

 

工場レベルで行なうのは非常に大変な作業ですが、aNueNueとしては“ぜひやりたい!”とのことでした。手触り、それは弾き手の心に影響します。つまり、ひいては音につながりますよね。

●ブレイシングに関しても教えてください。基本的にはノンスキャロップドXブレイシングとのことですが。

杉田 はい。ただオフセットのサウンドホールということで、少しパターンを変えています。またボディの中心部は硬く、端へ向かうにつれてやわらかく作っています。

3モデルを龍藏Ryuzoがチェック

●まずはaNN-LS600Eを弾いてみてください。ダブテイル・ジョイントで、木材はムーン・スプルース・トップ、インディアン・ローズウッド・ボディとなります。

杉田 ダブテイルがダメということではもちろんなく、スペイン式を含め2通りのモデルを用意しています。

●龍藏Ryuzoさん、いかがです?

龍藏 鳴らしてみると……あ〜綺麗な音ですね! 生音の感触は、ボディ・サイズから想像するよりも低音がすごく出ています。それも単にボリュームが出ているというより質感が素晴らしい。包み込んでくれるようなサウンドで、安心感を持てますね。

 

僕はローが出ているほうが嬉しくて、ライブでもそういう音作りをしています。低音がないと演奏が寂しく聴こえてしまいますし、ソロ演奏では特に大事になるポイントですよね。

●ボディはどちらかと言えば小ぶりで、スケールは640mmです。

龍藏 このサイズ感はすごく嬉しいです。日本人の体型からすると、これ以上大きくなると弾きにくくなってしまうことが多いと思います。特に女性の場合はありがたいんじゃないでしょうか。

●ピックで弾いてみるといかがでしょう?

龍藏 やっぱりすごく煌びやかな音だと思います。倍音がすごく出ていて、ストロークをするとキラキラとしたサウンドになって好きですね。

●わかりました。続いて、スパニッシュ・ジョイントのaNN-LS700Eをお願いします。

龍藏 確かに先ほど話に出たとおり、ハイ・ポジションがすごく弾きやすいです。エレキ並みですね(笑)。音はけっこう違いますね。先ほどよりも1音1音が太く感じます。こんなに変わるとは!

 

特に1弦の音が太くてラクに演奏することができます。細い1弦の音もジャンルによってはマッチしますが、僕のアレンジでは9〜12フレット周辺を使うことが多く、その1弦の音をタッチで太くしなきゃと思えば余計な力が入ってしまうので、これは嬉しいです。

 

ネックまわりの弾きやすさもバッチリですね。

●最後に、このたび発表されたaNN-LS770Eです。熱処理を施したトップ材を使用し、ネックは比重の大きなサウスアフリカン・マホガニーが採用されています。

龍藏 これは全然違いますね。

●杉田さん、トリファイド加工について教えてもらえますか?

杉田 トリファイド材は熱処理のおかげで、始めからオールド感が出るんです。

●感触はいかがでしょう?

龍藏 オールド感とおっしゃいましたが、出音の速さにそれを感じます。立ち上がりがカーンと出てきますね。レスポンスが良いので、アップテンポな曲にもついてきてくれるはずです。

 

ネックの重量感も、先ほどより感じますね。とは言え持った時のバランスは良いです。

 

また、音のバランスが抜群ですね。レコーディングで使ったとしたら、何の補正も要らない気がします。

●それでは杉田さん、総括をお願いします。

杉田 ここにある3つのモデルは、どれも厳選された木材が使われています。これをファクトリー・メイドで実現されたら、僕のような製作家は困ってしまいます(笑)。

 

木材を仕入れることができる量も質も、メーカーのほうが有利ですから。改めて、良いギターだと思いますよ。


製品に関するお問い合わせはHMM(☎0475-28-2934)まで。

アコースティック・ギター・マガジンVol.97 2023年9月号

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