古川昌義 meets SHINOS incline Jr.
incline Jr.

incline Jr.は1チャンネル仕様のアコースティック・ギター用アンプ。ウーファーとツィーターの中心軸が一致する“同軸スピーカー”の採用により、サウンドホールから音が放たれるように、低音から高音までが同じ位置から出力される。
視覚的にもわかりやすい11バンドのグラフィックEQやハイパス・フィルター、ミュート・スイッチなども搭載。プリ/ポストDIアウトも備えており、ステージでPAにラインで送ることも可能。
また、ヘッドフォン・アウトも装備しており、自宅でじっくりサウンドメイクができるほか、練習にも役立つだろう。
Furukawa’s Impression
“右手が知っている音”がそのまま出ている──古川昌義
生の音でこう弾いたらこういう音が出るって、“右手が知っている”んです。スピーカーから出た音が思ったものと違う音だったら、頭で考える前に右手が調整し始めちゃうんですよね。“あの音を出すためにはこっちで弾いたほうがいいんだ”みたいに。
incline Jr.はその調節がなくて、生音で弾いているのと感覚が同じです。本当に“ギターがそのまま大きくなった”っていう感覚で使えるので、小さなクラブとかでこのまま生歌とやってみたいですね。
あとはモニターのスピーカーの種類とギターが合わないことも多いんですよ。やっぱりギターの音はギターのスピーカーでなきゃダメで。これはツアーでモニターとしても完璧だし、それをマイクで拾ってもらうなり、ラインで録ってもらえれば、PAの方に好きにミックスしてもらえる。本当にいろいろなことが解決する感じがします。
それにデザインも良いですよね。これは相当こだわったんじゃないでしょうか? この顔立ちは、ステージに置きたい気持ちになる。それはアンプですごく大事ですよね。
Talk Session
古川昌義× 篠原勝(SHINOS AMPLIFIER COMPANY)

このままマイクを立ててライブをしたいですよ
──古川昌義
──incline Jr.を弾いた第一印象から聞かせてください。
古川 びっくりしましたね。僕たちは“生の音でこう弾いたら、こういう音が出る”って右手が知っていて、スピーカーから出た時に思った音と違うものが出ると、頭で考える前に右手が調整し始めちゃうんですよ。incline Jr.で弾くと、その調節がないんです。生音で弾いているのと感覚が同じで、そのまま音量が大きくなってくれる。
篠原 これはうれしい! 実は音色には色付けをしてないんです。そのギターの持っている音を、何もしないでそのまま出しますっていう。
古川 それは素晴らしい。でも、実は一番大変なことですよね? プリ(アンプ)にはそのプリの音があったり、スピーカーの特性があったり、また木の音もありますし。
篠原 やっぱりシンプルな回路で、無駄なものをつけないことが大事ですね。どうしても、余計な回路を足したくなっていくんです。これもあれもあったほうが良いとか、ここは保険で、みたいに。そうするとどんどん良くない方向にいくので、ストレートに入ってきた音をそのまま出す、それ以外のことしませんっていう回路を目指しました。
古川 自分の音しか出ないっていうことですね。でも、それが一番助かります。このままマイクを立ててライブをしたいですよ(※編注:後日、本番のステージで実際に試し、本格的に導入することに! PAエンジニアからも“ミックスがやりやすかった”と言われたそうだ)。
篠原 ぜひ! それが僕の望みです。
古川 で、僕たちの場合は、この感じがハウス・エンジニアやPAの方にも同じようにいって、ミックスがしやすいか、みたいなところが最終ポイントですが……。これはラインで録ることもできるんですか?
篠原 できますね。なので、自分の好みで作った音をマイクで拾ってもらうこともできますし、DIアウトでラインで送ることもできる。PAさんに音を作ってもらうというよりは、作ったものを“お願いします”ということです。
古川 その順番はいいですね。僕らは自分でプリアンプなりで音を作ってPAに送って、フット・モニターやイヤフォンで聴きながらエンジニアさんとディスカッションをして音を決めていきますけども、自分がモニターで聴いている音が、お客さんが聴いている音と同じかはわからないんです。そこは信頼でやっているだけで。だからこれは、エレキ・ギターの感覚ですよね。自分の出している音をそのまま拾ってください、と。
篠原 そうです。アコギだけはなぜかPAさんに全部お願いしちゃっている状態なんですよね。“エレキと一緒”とはまさにそうで、アコギも“自分で自分の音を作る”っていうことをやってほしいんですよ。
軽さよりも音が良いことが大事。22kg、これが限界でした
──篠原
──ステージで使用する際のメリットとして、ほかに感じたことはありますか?
古川 最近はエレキ・ギターもラインでやることは導入されてきて、ステージ上で誰も音が鳴っていない現場があるんです。本来ステージで音が鳴っていれば、シンガーは自分の歌を中心にモニターの音を作れたのが、いろいろな音を返さなくちゃいけない。特にアコギは間違いなく全部ラインだったので、必ずイヤモニに返していたわけで。
で、ステージ上でincline Jr.を鳴らすことの一番の利点は、自分の持ち場で音が鳴っているということ。モニターやイヤモニからの返しに、ステージ上の音からちょっと足らない分だけを加えれば良いので、ボーカリストにはすごく良いと思います。ちなみに、重いんですか?
篠原 スピーカーが重たいので……。
古川 しっかりしたシャーシですしね。
篠原 実は、最初は木をすごく軽いものにしたんですけど、ハリボテみたいな感じになっちゃうので戻したんです。やっぱり音が良いことが大事だなっていうことで、22kgです。これが限界でしたね。
古川 いやいや、別にいいです。それは運搬時だけのストレスで、弾いている時にストレスがないことが一番大事ですから。
──古川さんはステージ上でのサウンドメイクで、アコギらしいエアー感を出すためにどういった工夫をしていますか?
古川 それは教えてほしいくらいですよ! 例えばハイハットを叩くと意外と“カシッ”っていう音がしていて、それをマイクで拾って会場で響かせることで、エアーが加わった“シャー”っていう音になる。アコギも、ピックアップからの信号でCDのような音が出ているのは、本当は不自然なんですよね。
でもそうしないと心地よくないから、エアー感を足すピックアップを使うと、今度は音程によってどこかでデコボコしちゃう。完全ピエゾにするとすべてが同じような音で弾けるんですけど、弾いている側はエレクトリックな音ばかりではストレスがあるので……っていうことで、一切解決していないです。
今は、できるだけコシのあるままで出したいので、ピエゾ感のままで表へ送って、“エアーは会場で作ってください”っていうスタイルですね。
篠原 ピエゾで送るっていうのは、しっかりした音の芯も絶対あるので、全然ありだと思います。
古川 だから、ピエゾからincline Jr.へ送って、それをマイクで拾うことでエアーが出ればいいんですよね。ピックアップの信号自体があまりエフェクティブなものだと、受け取ったPA側の人にとっては“遠い音”っていうものになっちゃうんですよ。
篠原 incline Jr.からはラインも出せますし、マイクでも拾ってエアー感を足すということができますからね。
古川 そう、incline Jr.も含めて、大きなギターだと思えばいいんですよ。サウンドホールの中でエアー感を作るのは限界を感じるので、たぶんその発想のほうが先があるような気がします。僕もこのやり方でやりたいです。エアー感をじっくり楽しめる気がします。
篠原 まさにそう思って作ったので、ぜひ使ってもらいたいですね。
──では最後に、incline Jr.はどんなプレイヤーにオススメかを聞かせてください。
古川 いわゆるフィンガーピッカーの方がストリートで使ったらすごく贅沢でカッコ良いですよね。ストリートで完璧なアコギの大きな音が聴こえるって、不思議ですもん。あとはやっぱり、ライブをすると時にセッティングやサウンドチェックに時間がかけられないような環境をお持ちの方だったら、ヘッドフォンで確認しながら家で音を作って行けば、すぐにいつものアコギの音が出るから、バッチリですよね。
SHINOS/incline Jr.
◎Specification
- 出力:350W(外部スピーカー接続時は700W)
- チャンネル数:1
- スピーカー:ベイマ製10CX300Fe
- コントロール:ゲイン、ハイパス・フィルター、ミュート、11バンドGEQ、リバーブ、マスター・ボリューム、ヘッドフォン・ボリューム
- 入出力端子:インプット、ヘッドフォン・アウト、プリDIアウト、ポストDIアウト、センド、リターン、フットスイッチ、外部スピーカー・アウト
- 寸法:430(W)×300(D)×540(H)mm
- 重量:22kg
◎価格
279,400円(税込)
※公式オンラインショップでの販売価格
https://shop.shinosamp.com/product/inclinejr/
◎問い合わせ
SHINOS AMPLIFIER COMPANY https://shinosamp.com/