SNS時代を席巻するTani Yuuki

2022年、ふと街中で流れる音楽に耳を傾けると、Tani Yuukiが歌う「W/X/Y」の“戯れるslowly flowing day♪ ”という歌詞がよく聴こえてきた。透き通るような綺麗な歌声とアコースティック・ギターとピアノの音色、そして今風の派手な打ち込みのリズムが実に心地よく交わり、多くのリスナーに受け入れられた。聞けば、「W/X/Y」はTikTokでの総再生回数が10億回を超え、Apple MusicやSpotifyなどの音楽配信サービスでもチャートを席巻、去年最も多く再生されたという。そんな時代の寵児となった若きシンガーソングライターが本誌初登場。アコギとの出会いや曲作りについて話を聞いた。

TikTok総再生回数10億回超え! SNS時代を席巻する若きSSWの正体

なぜかおじいちゃんの家にアコースティック・ギターと生ドラムが置いてあった。

──2023年3月4日、5日に開催されるギタージャンボリーに初出演されますが、そもそもTaniさんの原点は弾き語りにあるのですか?

 そうですね。音楽を始めたきっかけは、アコースティック・ギターだったんです。それこそバンドを組んだのは、僕が専門学校に通い始めたあとで。なんなら専門学校に入ってすぐの頃は、アコースティック・ユニットみたいなのを組んで、自分でアコースティック・ギターを弾いていたんです。

──近年のライブではバンド編成が中心でハンドマイクで歌うことも多いようですね。

 そうですね。ソロではありますがライブなどは今のバンド・メンバーと長く一緒にやっていて、その中でアコースティック・セクションみたいなパートがあるんです。でも、大体はバンドのメンバーに演奏してもらって、マイク1本で歌うことも増えてはきましたね。

──そもそもアコギを手にしたきっかけは?

 祖父からアコースティック・ギターをいただいたんです。僕が中学2年生の時にちょっと病気をして、学校に行けなかった時期があって。人と関わらなくなったことで、自分の気持ちを吐き出せなくなっちゃって。それで気分転換じゃないですけど、多感な時期ではあったので、発散として音楽をやってみたらどう?という話になって。そうしたら、なぜかおじいちゃんの家にアコースティック・ギターと生ドラムが置いてあって、どちらを始めるか選べる環境だったんですよ。

──なかなかおじいさんの家に生ドラムはないですよね?

 すごいですよね、今考えると(笑)。僕のおじさんのドラムらしいんですけど。それで、楽器を選ぶ時に、当時はゆずさんが好きだったので、せっかくだったら演奏しながら歌えるほうがいいなと思って。当時はドラムを叩きながら歌うっていう発想がなかった(笑)。じゃあこのアコースティック・ギターをもらっていく、という感じで始めてみました。

──それはどのようなアコースティック・ギターでしたか?

 ヤマハですね。古いギターだったので品番とかはわからなかったんですけど。おじいちゃんも趣味で音楽をやっていた人で、ハーモニカやウクレレとかいろいろやっていたので、ギターもちゃんとしたものだったと思います。

──YouTubeで「愛言葉」のアコースティック・バージョンの映像を拝見しましたが、木の下で弾いているギターがそれですか? 

 そうです(笑)。あれはもう初期も初期に作った映像ですね。まだ今の活動をする前に、友達に撮ってもらった映像です。その時、チューナーを持ってなくてチューニングもぐちゃぐちゃだったんですけど、当て振りだし、野外だからいいやって言うので、不協和音を鳴らしながら撮影しましたね。懐かしいな(笑)。

──なるほど。指板の削れ具合からもかなり弾き込まれている様子が伝わってきましたが、あれがおじいさんから譲られたギターなんですね。

 もう年季が入り過ぎていますよね(笑)。ある時、ナットが割れちゃったんですけど、同じような型が売ってなくて。一番型が近そうなやつを買ってきて自分で削って修復しながら使ってました。今は妹がギターをやりたいっていうので、そのギターは妹に受け継がれました。

Tani Yuuki

ルーパーは挑戦したんですけど、めちゃくちゃ難しかった。

──初心者の頃は、歌本とかを見ながら弾き語りしていたのですか?

 僕は歌本じゃなくて、YouTubeを観ながら練習してましたね。あと、僕のお父さんがエレキ・ギターをやっていたので、コードの押さえ方とかが載っている本は家にあったので、そういうものは少し見たりもしました。同じコードでもこういう押さえ方があるよ、みたいな。でもほとんどはYouTubeで初心者用にアコースティック・ギターの弾き方を教えている人の動画を見たり、U-フレットを見ながら練習してましたね。スピッツの「チェリー」、サスケの「青いベンチ」、ゆずの「夏色」とか。本当に初心者が最初にやるような曲を練習していました。

──その後、専門学校でシンガーソングライター・コースを受講されたそうですが、その前から曲作りは行なっていたのですか?

 専門学校に入るちょっと前から作詞作曲自体はちょっとやっていました。シンガーソングライター・コースとは言え、表現としてのとらえ方というか、“作詞作曲とはなんたるか”みたいな根本的な授業が多かったんですね。作れない人向けの講座がほとんどだったので、空き教室や廊下などで曲を作ってることが多かったですね。慣れたという感覚は今もないですが、納得のいく楽曲を初めて作れたのが専門学校1年生の時でした。

──それはアコースティック・ギターから作った曲でしたか? それとも打ち込みで?

 当時はアコースティック・ギターしかできなかったのでアコギですね。DTMを始めたのは専門学校を卒業してからなんですよ。でも、ギターから作ると手癖が多くなっちゃって、同じようなコード進行ばっかりになっちゃう。それでコードを分解して見なくちゃいけないなと思って、ピアノを始めたんです。そこからはピアノで作曲することが多くなりましたね。でも、リズムから考えたい時とかはアコギから曲を作ることが多いです。

──例えば大ヒットした「W/X/Y」や「Myra」のサビは、6451(小室進行)だったり、シンプルなコード進行のリフレインが多いですよね。

 歌詞を書く時に韻を踏みたいとか、リフレインしたメロディを歌いたいってなった時に、やっぱり同じコード進行をくり返すのが僕のスタイルは作りやすいんです。最初に大枠、ラフなイメージの状態で、こういう感じにしたいという時は同じコード進行のくり返しだったりするじゃないですか。だから、あれのままずっと行ってるんだと思います。これでいいじゃんっていう(笑)。

──でも同じコード進行でもいろいろな展開があって飽きずに聴かせますよね。

 実はそれが課題だなとも思っているんですよ。もちろんコードが変わったり部分転調している曲もあるにはあるんですけど、癖としてループ・コードを使うっていうのは染み付いている部分はあるので。小難しいと言ったらあれですけど、理論的な曲作りも挑戦したいなと思います。

──エド・シーラン以降、ルーパーを使ったアコギ・ミュージシャンが増えていますが、Taniさんの音楽はそういうスタイルもしっくり来そうですよね。

 ありがとうございます。1回挑戦したんですよ。アルバムのリリース・イベントをタワーレコードでやったんですけど、まだまだ熟練度が足りないと思いました(笑)。あれ以降、一回も登場していないです(笑)。欲を言えば、ギタージャンボリーもそれで出たかったんですけど、今のところはなかなかうまくできないですね。

──どのような機材を使ったのですか?

 ボスのRC-600ですね。スイッチもたくさんあって、いろいろとやれることがあるんですけど、難しいです。去年のギタージャンボリーでも観させてもらったり、対バンもやらせてもらったんですけど、Anlyさんがルーパーを使っている姿を観て、カッコいいなと思ったんですよね。挑戦したんですけど、めちゃくちゃ難しかった。慣れるまでに時間がかかりそうです。

──曲作りの手法としては、どういうパターンが多いですか?

 曲のタネみたいなのは、お風呂で作ることが多くて、大体メロディが先ですね。稀に歌詞も一緒に出てきますけど。基本はメロディからできて、お風呂で歌詞を考えます。さっきのくり返しのコードが多いって話も、タネが生まれたらコードをつけて、すぐに録音しちゃうんです。それでAメロができたとして、Bメロの歌と歌詞をすぐに考えたいから、コピペするんですよね。だからループになってるんだと思います。先を考えたい、考えたいってなっていっちゃうんです(笑)。

──エド・シーランも同じようなコードとフレーズをくり返して曲を作っていると思いますが、そういう洋楽には影響を受けていないのですか?

 まさしくエド・シーランは好きで、学生の時にハマった時期もありました。だから、その時からループ・ステーションには憧れがあったんですよ。たまに洋楽感があるよねと言われたりするんですけど、海外の音楽が好きな自分もいるんですよね。父親が洋楽というかハードロックがすごく好きな人で、一緒に乗っている車でよく流れていたんですよね。父親って自分の好きなものを“やらないの?”と言ってくる節があるじゃないですか。その押しが嫌で、すごく嫌いだなと思っていたんですけど、潜在的にメロディだったりとかキャッチーな雰囲気が自然に出てくるところはあるのかな?とは思いますね。

──お父さんはどんなハードロックを聴いていたのですか? ディープ・パープルとか?

 いや、僕は詳しくなくてよくわかってないんですけど。名前を上げていってもらっていいですか? そしたら思い出せるかもしれないです。

──レッド・ツェッペリンとかアイアン・メイデンとか?

 アイアン・メイデンは知っています!

──ジューダス・プリーストとか?

 いや、それはわからないです(笑)。

──ブラック・サバス、ガンズ&ローゼズとか。

 あっ! ガンズは聞いていたと思いますね。アイアン・メイデンは大好きだったと思います。あとクイーンもよく流れてましたね、ハードロックじゃないかもしれないですけど。

──Taniさんの曲はフォーキーなものからチルっぽい楽曲、または「夢喰」みたいなアップテンポのロックな曲まで幅広いですよね。「夢喰」も最初はアコースティック・ギターから作っているのですか?

 あれはですね、2021年だったか2022年の始めだったかに、サビだけをアコースティック・ギターか何かでSNSに投稿しているんですよね。その時はもっとスローテンポで、ゆったりした曲になる予定だったんです。でも、気づいたらああいう形になっていましたね。ライブで映えると言うか、みんなでガーッと勢いのある曲をやりたいという思いがあってああいう形になったんですけど、最初はアコースティック・ギターを弾いて作っていきました。最初のカッティングも録音ではエレキ・ギターになっていますけど、もとはアコギでやっていたと思います。

──この曲もBメロからアコギが入ってきますが、どんな曲にもアコースティック・ギターが鳴っていますよね。その辺はこだわりですか?

 うーん、こだわりというわけではないんですけど、僕ができる楽器がピアノとアコギなので、そこが中心になってきちゃうのは自然なことだと思います。

Tani Yuuki

今ならギブソンにも負けずに歌えるようになったかな?

──ところで、先日のアコースティック・ライブで楽器のトラブルがあったそうですね。

 アコースティック・セットで、アコギとカホンとピアノとベースという編成でミニ・ツアーをやったんですね。僕はギターとたまにピアノという形で、弾き語りを中心としたライブだったんです。ある意味で武者修行的な、ライブの経験値を上げたいっていう目的もあって。バンドセットだと勢いでいける部分も多少なりともあると思うので、アコースティックのライブだとごまかしが利かないじゃないですか。そういうツアーを数ヵ月前にやったんですけど、大阪公演でライブが始まって2曲目のど頭、一節歌って、インターに入るんですけど、そこで弦がバチーンと切れちゃって。

──なるほど。それは大変ですね。

 あっ!やばい切れた!っていうのでライブがピタッと止まっちゃったんです。チューニングも狂っちゃって、続行するわけにもいかず。アカペラで歌うか? いや、どうしよう? 俺、今めっちゃ試されてるって思って(笑)。いろいろ考えたんですけど、僕の中では打開策が見つからなくて。たまたまそのライブハウスと隣接しているリハーサル・スタジオがあったんですけど、スタッフが駆けずり回って、誰のかもわからないギターを借りてきてくれて(笑)。それでライブは無事ことなきを得たんですけど、そういう最悪な状況も想定しておかなくちゃいけないっていうので、次の日が名古屋公演だったので、そもそも弦を買わなきゃいけないし、またこういうこともあるかもしれないと、翌日楽器屋さんに行ったんです。もちろん弦を買ったんですけど、やっぱりサブ・ギターもあったほうがいいということで、いろいろ弾いた中から、ギブソンのハミングバードを選びました。サブのつもりでリハーサルで弾いていたら、まわりからの評判もよくて、メインに昇格しました。今は全部のライブでこのハミングバードを使っていますね。参加させていただくギタージャンボリーもハミングバードで出演すると思います。

──替えの弦はなかったのですか?

 そうなんですよね。ズボラなのかも知れないですけど、替えの弦すらちょうど切らしてました(笑)。エレキの弦ならあるよっていうので持ってきてもらったんですけど、流石にそれは無理です!って。あれは最悪のパターンでしたね。

──悪夢として夢に出てきそうなエピソードですね。

 帰った日の夜はちょっとうなされましたね(笑)。猛反省でした。

──ハミングバードはどういったところが気に入って購入したのですか?

 弾いた感じが手に馴染むなあと。あと、僕はあんまり強い声というか、ガツンという声よりもウィスパーボイスのような、さらっとした声のほうが強みだと思っていたんですね。以前にも、ギブソンを弾いたことがあったんですけど、音色的に声が負けちゃって、自分にはあんまり合わないかな?と思ってたんです。だから、マーティンとかテイラーとかのほうが合うかなーと思ってたんですけど、最近ライブを重ねているうちに声の感じが変わってきて、今ならギブソンにも負けずに歌えるようになったかな?と思ったりもして。

──結果的にそれが今メインとして大活躍しているということですね。ギタージャンボリーはそのアコギを持ってひとりでステージにあがるのですか?

 僕ともうひとり、ちょこっとリフだったり装飾をしてくれる人とふたりで出ようかなと思っています。もちろん歌を歌うのは僕ですけど。

──ギタージャンボリーでは両国国技館の土俵ステージで、360度お客さんがいる環境です。

 あれすごいですよね。去年見せていただいたんですけど、本当に特殊なステージですよね。あれは緊張すると思います。皆さん堂々としててすごいなって思って観てたんですけど、まさか自分が出ることになるとは。ステージが回転するじゃないですか? 一生懸命歌っている時に、自分の見ている景色が変わっていくのはどんな感じなんだろう?と思ったりしましたね(笑)。でも、確実に自分の実力が試されるステージだと思うので、自分がどこまでできるんだろう?という期待感もあります。挑戦ですけど、頑張りたいなと思っています。

──ぜひサブ・ギターと替えの弦も忘れずに(笑)。

 はい! もちろんです。用意させていただきます(笑)。

Guitar

2022 Gibson Hummingbird Standard

 現在、Taniがメインで使用する2022年製のギブソン・ハミングバード・スタンダード。まだ手に入れて間もないとのことで、新品同様の輝きを放っている。

 材はスプルース・トップ、マホガニーのサイド&バックというギブソン王道の組み合わせ。ハミングバードの特徴となるスクエア・ショルダー・ボディ、ダブル・パラレログラム・インレイ、ハチドリの意匠が入ったピックガードが用いられている。

 ピックアップにL.R.バッグスのVTCエレクトロニクスが最初から搭載されており、即ライブに使える実践的な仕様となっている。

Tani Yuukiが弾き語りの祭典、ギタージャンボリー2023に出演決定!

“TOKYO GUITAR JAMBOREE”

 J-WAVEが主催する“TOKYO GUITAR JAMBOREE”は弾き語りをテーマとした催しで、2013年より毎年錚々たる実力者たちが聖地・両国国技館に集結し、アコギ1本の勝負をくり広げてきた。今年は、話題のTani Yuukiを筆頭に、斉藤和義、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、秦 基博、高橋 優、藤原さくら×Rei、七尾旅人、 みゆな、CLOW(以上3月4日)、竹原ピストル、トータス松本、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)、ハナレグミ、森山良子、 UKULELE GYPSY(キヨサク from MONGOL800)、岸谷香(以上3月5日)他、豪華メンツの出演が決定! 日本屈指のシンガーソングライターがお届けするアコギ弾き語りの美学を堪能しよう。チケットは公式サイトまで。

J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 2023 supported by 奥村組

日時: 2023年3月4日(土)、5日(日)
場所: 両国国技館(東京都墨田区横網1-3-28)
主催: J-WAVE
企画・制作: J-WAVE、J-WAVE MUSIC、DISK GARAGE
特別協賛:奥村組
https://www.j-wave.co.jp/special/guitarjamboree2023/

アコースティック・ギター・マガジン2023年3月号 Vol.95

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撮影:鈴木千佳 取材・文:アコースティック・ギター・マガジン編集部

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