ジェイコブ・コリアー“DJESSE WORLD TOUR 2022”東京公演レポート

音楽の天才の稀有なアコギ・ワークを堪能

 自らの声とあらゆる楽器を自在に操る音楽の天才ジェイコブ・コリアー。3年前の恵比寿ガーデンホールのライブを体験した筆者にとって、今回の来日公演は絶対見逃せないものだった。ドラム、ベース、ピアノ、シンセ、そして、アコースティック・ギターとさまざまな楽器をとっかえひっかえしながら、ステージを縦横無尽に走り回り、オーディエンスとハーモニーを共有し会場を一体にする彼のライブ・パフォーマンスは唯一無二のものだからだ。

 今回のバンドはロビン・マラーキー(b)、クリスチャン・ユーマン(d)、ブライン・ブリスカ(key)、エミリー・エルバート(g/vo)、アリタ・モーゼス(vo)という布陣。すでにヨーロッパなどで行なわれているワールド・ツアーのライブ映像などで、全員個性的で凄腕なのが伝わってくる。

 幕が開くや否やジェイコブはステージを駆け回り、さまざまな楽器を担当していく。どれも超絶うまい。その中でメンバーの個性が生きるようなアレンジが施されているのだが、今回はメイン・ボーカルをアリタやエミリーに任せることができるのが大きな強みとなっている。そのサウンド・メイクも絶品。メンバー紹介のあとにPAエンジニアたちの名前(照明やそのほかのスタッフたち)も呼び上げていたのは絶大な信頼を寄せている証だ。楽器が多く、かつ複雑な編成だが、異常にサウンド・バランスが良いのには舌を巻いた。

 アコギマガジンWEBとしては、やはりジェイコブのアコースティック・ギターをメインにする「The Sun Is In Your Eyes」や「In Too Deep」などに耳がいく。まだあまり語られることが少ないが、注目してほしいのがジェイコブのギター・ワークだ。彼が手にするのはテイラーのカスタム5弦で、基本となるチューニングはDAEADという特殊なもの。3弦を抜いた変則的なオープンD(4弦はEに全音上げ)と言えばいいのだろうか。彼の発想は普通のギタリストとは次元が違う。ぜひとも本人に話を聞いてみたいところだ。

 ライブ中盤、 “ごめん、ちょっとトイレ”というジェイコブの自由行動があり、ギタリストとして帯同しているエミリーが自身の「Not Alone」を歌い、間をつなぐ場面もあった(ジェイコブは途中で戻ってきて生ピアノでサポート)。エミリーの歌とギターの素晴らしさを日本のオーディエンスに伝えたいというジェイコブの粋な計らいだったのではないだろうか(推測)。

 ライブ終盤はマイケル・ジャクソン「Human Nature」やビートルズ「Blackbird」などから、オーディエンスとの合唱タイムが始まる。会場を左右に分け、別々のメロディを観客に歌わせ、ハーモニーを作り上げるというジェイコブのライブではお馴染みの演出なのだが、毎回会場全体で音楽を作り上げているかのような一体感が生まれる。多幸感に包まれる特別な時間なのだ。 ジェイコブは紛れもない音楽の天才で、自在に音階やコード、リズムを操れるわけだが、そんな彼の口からMCで“音楽はスケールや理論ではなく、ハートだ”と語る。こんな素晴らしいミュージシャンのライブを体感できていることを幸せに思う。

Taylor Guitars Custom 5strings

Made by Andy Powers for Jacob Collier©Taylor Guitars

 テイラーギターズのマスター・ビルダー、アンディ・パワーズがジェイコブのために作ったカスタムの5弦モデル。アメリカン・ドリーム・シリーズのグランド・コンサート・モデルがもとになっており、オール・コア・ボディで5弦仕様にセットアップされている。以前からテイラーを愛用していたジェイコブだが、彼が欲するアイディアをアンディ・パワーズとともに具現化したのだろう。アンディは、ギター製作家にしてジェイソン・ムラーズと活動をともにしたミュージシャンという天才肌。彼らの間でどのようなやり取りがあったのか聞いてみたい。

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於:2022年11月28日@Zepp DiverCity Tokyo 写真:上飯坂一 文:相川浩二(アコースティック・ギター・マガジン)

アコースティックギターマガジン