アコースティック・ギターの素晴らしさを再確認したジェイムス・テイラーの一夜限りの来日公演

2024年4月6日@東京ガーデンシアター
写真:土居政則 文:アコースティック・ギター・マガジン編集部

 2024年4月6日、あのジェイムス・テイラーが約9年ぶりの来日を果たした。運良くライブを体験できた人には共感してもらえると思うが、あのジェイムス・テイラー(以下、JT)がアコギで弾き語りをする様を目の前で見ることできたのは、本当に夢のような時間だった。前回は、2015年に長野県で開催された小澤征爾の80歳バースデーを祝うコンサート、その前は2010年の盟友キャロル・キングとのTroubadour Reunion Tour で来日しているが、純粋な単独公演としては1981年まで遡る。実質、43年ぶりの単独ショーで、しかも、今回は一夜限りの公演だった。

ジェイムス・テイラー

 1948年生まれのJTは、御年76歳。さすがに全盛期は過ぎ、年相応のパフォーマンスでも仕方がない、観られるだけでラッキーくらいに考えていたのだが、見事に期待を裏切られた。1曲目は1968年の1stアルバム『James Taylor』に収録されている「Something In The Way She Moves」。そのイントロを得意のフィンガーピッキングで奏でた瞬間、1968年にタイムスリップしたかのような錯覚を起こすほど、CDやレコードで聴いていたJTの音楽そのものだったのだ。流れるようなフィンガーピッキング、優しいタッチ、うっとりするほどに美しい音色……歌声も、まさにJT以外の何者でもなく、史上最も偉大なシンガーソングライターのひとりに数えられるレジェンドの圧巻のパフォーマンスだ。

 選曲は1stアルバムから80年代の作品まで全キャリアにわたって幅広かったが、1970年に発表された2ndアルバム『Sweet Baby James』からの楽曲も出し惜しみなく演奏してくれたことには本当に胸が高鳴った。このアルバムはアコースティック・ギター・マガジンVol.100の特別企画『後世に伝えいた最高のアコギ名盤100』で、ベスト3にランクインしたことからもわかるように、日本のアコギストたちに多大な影響を与えた世紀の名盤だ。

アコースティック・ギター・マガジン 2024年6月号 Vol.100

 サポート・ギタリストを務めたディーン・パークスのペダル・スティールから始まる「Anywhere Like Heaven」、JT印のフィンガーピッキングが印象的な「Country Road」、さらには「Sweet Baby James」に「Fire and Rain」と、JTがイントロを爪弾くたびに大歓声が巻き起こった。何をどう弾いたら、あの流れるようなアルペジオが弾けるのだろうか?

 当時のJTはギブソンJ-50で録音したと言われているが、近年はアメリカの名工で、ルシアーメイド人気を牽引したジェームス・オルソンのギターをメインで使用しており、この日もSJカッタウェイやSJノンカッタウェイ、自身のシグネチャー・モデルなどを適宜交換していた。どのギターもうっとりするほど美しい音色だったが、ギターを交換するごとにジャックを差し替えていたので、何かしらのピックアップ・システムが組み込まれていたようだ。ちなみに3コードのスロー・ブルース「Streamroller」でのみ、水色のフェンダー・テレキャスターも登場したが、エレキ・ギターでも3フレットにカポタストを装着していた様子。曲によって頻繁にカポタストの位置を変えるのがJTスタイルだが、それはアコギでもエレキでも変わらないという点は興味深かった。

 終盤にはキャロル・キング作の「You’ve Got a Friends」、「You Can Close Your Eyes」などの超有名曲も聴くことができ、終始見どころに事欠かない濃密過ぎる2時間半のライブだった。叶うならもう一度来日し、またあの美し過ぎるボーカルとアコースティック・ギターの音色を聴かせてほしい! いや一度と言わず、何度も何度も観たい! そして、JTみたいにもっとアコギを上手に弾けるようになりたい! きっと、ほとんどの観客がそう願いながら帰路に着いたことだろう。それほどにアコースティック・ギターの素晴らしさを再確認した一夜だった。

ライブの模様

Member

・ジミー・ジョンソン – bass
・ディーン・パークス – guitar
・スティーヴ・ガッド – drums
・ケヴィン・ヘイズ – keys
・アンドレア・ゾン – fiddle and vocals
・ケイト・マルコウィッツ – vocals
・ドリアン・ホリー – vocals

Set List

== 第1部 ===
1 Something in The Way She Moves
2 Rainy Day Man
3 That’s Why I’m Here
4 Yellow&Rose
5 Anywhere Like Heaven
6 Never Diy Young
7 Country Road
8 Fiddle&Drum
9 Sweet Baby James
10 Handy Man
11 Long Ago&Far Away
12 Sun On The Moon

=== 第2部 ===
13 Carolina in My Mind
14 Mexico
15 Steamroller
16 Fire & Rain
17 Up On The Roof
18 Shower the People
19 You’ve got a Friend
20 How Sweet It Is (To Be Loved by You)

=== Encore ===
21 Shed a Little Light
22 Your Smiling Face
23 You Can Close Your Eyes

SNSでシェアする

アコースティックギターマガジン