大橋トリオが語る、“1本マイクコーナー”がテーマの新作『MONO-POLY』のアンプラグド・アレンジ

シンガー・ソングライターでマルチ奏者の大橋トリオが、2025年8月に新作『MONO-POLY』をリリース。アコースティック楽器を使ってメンバーが1本のマイクを囲む、彼のライブでの定番演出=“1本マイクコーナー”をコンセプトにした1枚だ。カバー曲なども収録した本作のアレンジやレコーディングのこだわりについて聞いていこう。

取材・文=角 佳音 写真=コザイリサ ヘアメイク=Ena Honjo 衣装提供=i`m here: シューズ提供=SAKAGUCHI TAICHI

僕は、自分でも認めますけど、完璧主義なので

──最新作『MONO-POLY』のコンセプトは、長年ライブで行なっている“1本マイクコーナー”なんですよね。そもそもこのコーナーはどのような経緯で始まったんですか?

 “ライブで何か面白いことをしたい”っていうのはいつも思っていて。ある時にドラムの神谷洵平が、“1本マイクをやりませんか?”って言ってきたんです。一緒にパンチ・ブラザーズのライブを観に行ったあとだったんじゃないかな。あとギタリストの長岡亮介、わっち(伊澤一葉)もいたかな? 彼らがサポートで入ってくれていた時があって、それが最初だった気がします。

──当初はどんな楽曲をプレイしていたんですか?

 フォーク・コーラス系の分野にいた時期があって、そういう土壌を持っていたりするんですが、そこが長岡亮介と一致したのもあって、“いかにも1本マイクに合います”みたいな曲を選んでやっていました。「悲しくてやりきれない」(ザ・フォーク・クルセダーズ/1968年)だったりはやりましたね。

──“1本マイクコーナー”をアルバムという形に落とし込むことになった理由は?

 逆に今までやってこなかった理由が、あくまでもマイク1本だし、ライブでの空気感や会場の響きがあってこそのものだから、それを音源作品にする必要はない、したくないと思っていたからなんです。でも、2024年のツアーで、踊ろうマチルダの「化け物が行く」をやったら各所から評判がよくて、その勢いで“これを音源化しませんか?”みたいなことを言われて、初めて考えたんです。

──コンセプトのとおり、マイク1本でレコーディングしたのですか?

 違います。これは違うと断言しておかないといけないので。それぞれにマイクを立てて、ブースにも入っています。録音自体はいっせーのせでやっているんですけどね。

 実は最初は、マイク1本で録音して、さらに映像も同時に撮る予定だったんです。でも、それだときれいな音で録れるかどうかわからなかった。絵的にも良くないといけないというのもあって、まったくイメージが湧かなくて。

 僕は、自分でも認めますけど、完璧主義なので、中途半端なものを作ってお茶を濁すみたいなことを絶対にしたくなかった。それで“音源はレコーディングをして、映像は別で考えませんか?”と提案して、分けることにしたんです。なので、映像のほうが絵としては“1本マイク”になっていますね。

──ギターのプレイ面で、レコーディングで意識していたことはありますか?

 ギターがひとりしかいない曲が多いので、間違えてはいけないっていうのはありましたかね(笑)。メンバーもそれぞれプレッシャーが大きかったと思うんですけど、それは当然僕もありました。

 あとは、音選びを考えながらやっていきましたね。例えば「化け物が行く」は、原曲キーが高いので、僕のキーに合わせるとなるとかなり下げないといけなくて。そうすると押さえるところが違うので、鳴る響きも変わるじゃないですか。

 それにキーを下げすぎると、上げるほうが早くなって結果上げることになりますよね。もうちょっと低い響きのはずなのに、ギターは高いところで鳴らさなきゃいけなくて、全然味が出ないっていう悩みがあって。それは最後まで悩んでいましたね。

大橋トリオ

“自分らしさって何だろう?”っていうところをちゃんと突き詰めないといけない

──「Shangri-La」では大橋さんがいろんな楽器を担当していますね。

 これは一番最後に作業した曲なんですよ。もう1曲ぐらい入れておこうかなと思って。だから時間がなかったんです(笑)。

──この曲のイントロは、アコースティック楽器だけでグルーヴを出しているのがすごくカッコ良いです。

 サビだけそれっぽくすればいいかなと思っていたので、遊ぶ方向でいきましたね。ただ、“1本マイクコーナー”の現代の先駆者であるパンチ・ブラザーズのサウンド作りをかなり追っていて、そっちの方向に持っていけたらかっこいいなというのは、この曲で特に思っていました。

──「Pi Po Pa」のアレンジはどのように完成させましたか?

 「Pi Po Pa」も2024年のライブでやったんですが、やっていて面白すぎて。もともと隙間が多い曲で、原曲のこの音はバンジョー、この音は打楽器、この音はマンドリンっていうのがあって、ベースはほとんどそのままだし、ドラムもわりとすぐにイメージができてっていう奇跡的なバランスの曲なんです。“ちょっとやってみよう! せーの”ってやった瞬間すぐにイメージどおりになりましたね。

──「新宝島」は、“1本マイクコーナー”でマイクと楽器との距離で音量を調節しているような質感を感じました。

 ライブならソロの時にマイクに近づいていったりしますけど、音源だとミックスでなんとでもなってしまいますからね。でもせっかくこのコンセプトでやっているので、より近づいたっぽくしているかもしれないです。ミックスはほぼ自分でやっているんですけど、うしろにいるべき人はルームをちょっと増やして、前にいる人は少なめにしていますね。

──「りんごの木」、「そんなことがすてきです。」は、セルフ・カバー曲となりますが、今作において再解釈、再構築したことはありますか?

 バンドでやるので、それぞれのアイディアや持ち味を活かすことができたらいいんだろうなっていうのはありましたね。

 あと、原曲には入っていないアレンジを加えたりもしています。「そんなことがすてきです。」は、サビのあとをちょっと伸ばしたりしました。

──今作のカバー・アレンジにおいて、原曲の良さを残しながらアレンジで広げていくためにどんなことを意識しましたか?

 原曲と同じことをしても意味がない、でもその良さを絶対に消してはいけない。なおかつ、“自分らしさって何だろう?”っていうところを突き詰めないといけないので、そのバランスですよね。

 今回はフル・アコースティックっていう縛りもあったので、「新宝島」のベースなどはすごく悩みました。ウッドベースなので、あまり音数を増やすべきじゃないみたいなところがあるんですよ。全部の楽器がそうなんですけど、僕の中にこういう方向に持っていけたらいいなってイメージがぼんやり、時にははっきりとあるのでっていう感じですね。

──レコーディングで使用したギターは?

 「Shangri-La」はマーティンのOM-28(OM-28 Modern Deluxe)、「そんなことがすてきです。」と「化け物が行く」は00-21(CTM 00-Style 21)、「新宝島」がD-28 Marquis、「KAAMOS」はローデン(O-22C)です。あと、「りんごの木」のマーティンD-42と「Pi Po Pa」のバンジョーは高木(大丈夫/mandolin, g, etc)から借りたものを使っています。

──アコースティック・ギター・マガジンWEBの読者に、今作で一番聴いてほしいポイントを教えてください。

 アコギというよりも“1本マイク”っていう縛りのほうがやっぱり大きいので、映像も観てもらいたいという思いが強いですね。見方としては、CDあっての映像っていう、その違いが面白いかもしれないです。アコギのレコーディングは目標の6割くらいにしかできてないんですけど、自分の中ではいいほうかなと思うので。ぜひ映像つきをゲットしてほしいです。

大橋トリオ

『MONO-POLY』大橋トリオ

Track List

  1. そんなことがすてきです。
  2. Shangri-La
  3. Pi Po Pa
  4. りんごの木
  5. 新宝島
  6. KAAMOS
  7. 化け物が行く

avex/RZCB-87174/B(CD+Blu-ray)/2025年8月13日リリース

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