汐れいらが語る、“実体験に基づく曲作り”を行なった新作『HB2U』の作曲とアレンジ

バイラル・ヒット曲「センチメンタル・キス(Acoustic ver.)」でブレイクし、以来SNSやライブ・シーンを中心に沸々と人気を集めてきた汐れいら。彼女が2025年2月にリリースした2nd EP『HB2U』では、初めて“実体験に基づく曲作り”を行なったそうで、それに伴い変化もあったそう。オベーションのAdamas=愛称“べべ”で行なっているという作曲の流れや、ライブにおけるプレイのこだわりなどを語ってもらった。

取材・文=角 佳音 撮影=sotaro goto

片桐さん(Hakubi)と一緒に、「夢の続き」を弾き語りできた

──初登場となりますので、初めてギターを弾いた時のことから教えてください。

 高校生の時に軽音部に入って、最初はボーカルだけだったんですけど、ギターの人が辞めてしまって、エレキ・ギターをやらなきゃいけなくなったんです。なので最初はエレキからでした。

 そのあと、自分で曲を作るようになってから、ひとりで弾き語るにはエレキだと音が小さいので、アコギが欲しいと思ったんです。

 最初はどんな種類のギターがあるのかも知らなかったんですけど、弾き語りの大会などを見ている中でアコースティック・ギターというものがあると知って、曲を作る時、家で弾く時にアコギを使うようになりました。

──その弾き語りの大会というのは?

 私の学校や音楽活動が活発な学校などで、高校生の大会があったんです。そういうのを見ているとすごい子がいましたね。

──当時、アコギで弾き語りカバーをしていた曲はありますか?

 カバーよりも自分の曲のほうが多かったですけど、みんなが弾けるような簡単な曲と、自分が好きなHakubiの曲などをやっていましたね。Hakubiの曲はいろいろやりましたが、「夢の続き」という曲が好きで弾いていました。

 で、ちょうど先月、自分の誕生日に開催したライブ(2026年2月9日の自主企画ライブ“Club 2night”)に、Hakubiの片桐さん(vo,g)に出ていただけて、一緒にこの曲を弾き語りできたんです。

──ほかに汐さんが影響を受けたアコギ弾きはいますか?

 誰なのかは覚えてないんですけど、それこそ弾き語りの大会に出ている女性で、マイクの使い方というか、弾き語りの見せ方がすごく上手い人がいたんです。

 バンドをしていて弾き語りもする人と、弾き語りだけでやっている人では表現力が全然違うんですよ。そこで影響を受けたというか、“アコギで歌うのって良いな”と思いましたね。

汐れいら
汐れいら

自分の感情を乗せている曲だと、あっちにもこっちにも行ける

──2nd EP『HB2U』は、これまでの作品とは異なり、“実体験に基づいた曲作り”を行なったんですよね。作詞のアプローチを変えたことで、どんな変化が生まれましたか?

 自分の言葉なので、わざわざひねらなくても“良い”と思えたし、感情も乗りやすかったですね。前は、乗っていてもどこかちょっと距離があったんです。自分の言葉として歌えるのはすごく良いなと思いました。

 あとは、これまでの曲は物語だったので、歌詞やメロディを作った時点ですでに色がついていたんです。だからアレンジも“こういうストーリーだから、こういうふうじゃないと”というのがあって、自分の中で挑戦はしづらかった。でも自分の感情を乗せている曲だと、あっちにもこっちにも行けるので、自由度が高くなりましたね。

──普段の作曲の流れについても教えてください。曲を作る時はメロディと歌詞はどちらがが先ですか?

 メロディが先のことが多いですね。ギターのコードを適当に弾いて、歌う中で良いフレーズができたら採用するという流れです。ちゃちゃっとできる時もあるし、出ない時は出ない。それを常にやっているので、メロディのストックはすごく多いですね。

──メロディのインスピレーションはどういったところから来ているのでしょうか?

 自分ではわからないですけど、あるとしたら過去に聴いてきた曲かな。でも弾いているコードに沿って出てくるメロディなので、ギターの中にある気はしますね。

 メロディを出す時は、コードを弾きながら自分が気持ちいいところを歌っていくだけなので、マッサージで言う“ツボを押す”みたいなイメージです(笑)。

──今作では、作曲の際にアコースティック・ギターを使いましたか?

 全曲アコギですね。

──その時に手に取るのは、愛用しているオベーションのAdamasでしょうか?

 そうですね。

──アコギで曲を作る理由は?

 例えば“バンド・サウンドの曲を作りたい”という目的があれば、エレキで作るかもしれないですけど、今はアレンジをしてもらっているので、とにかく良いメロディが作れたらというのでアコギを使います。やっぱり大きい音が出るほうが自分もノるというか、メロディも出やすいんです。

──コード選びのこだわりはありますか?

 適当なんですけど、過去の曲のコードを使って、カポでキーを変えたりもしますね。メロディを出す時は弾きやすいコードじゃないとギターに意識がいっちゃうので、大体ループで弾いています。

──そういった時によく弾くコード進行やお気に入りの進行はありますか?

 丸サ進行やカノン進行はよく使いますね。

汐れいら

“この雰囲気でアコギ?”と思ったけど、聴いてみたらめっちゃかっこよかった

──「バンドエイド・マイ・ティーン」は、冒頭からアコギのバッキングが聴こえてきますが、レコーディングでは汐さんがプレイしましたか?

 いえ、ギタリストの方に弾いてもらいました。今作のレコーディングでは、自分ではアコギを弾いていないですね。

──この曲のアレンジ面では、どのようなことを考えながら作っていきましたか?

 この曲はどんなアレンジにするかすごく迷いましたね。壮大にすることも考えたんですけど、あえて平坦なアレンジにしたことがすごく良かったなと思っています。いつも一緒にやっているアレンジャーさんなので、私が“良い”と思うツボをわかってくれているんです。

 あと、アコギも聴こえますけど、ライブではたぶんエレキを弾くと思います。ひとりでやるならアコギも良いと思うんですけど、バンドでやる時はエレキを持ちたいんです。

──逆に、新作の収録曲に限らず、“この曲はアコギで弾きたい”という曲を選ぶなら?

 「味噌汁とバター」はアコギのイメージですね。あとは「泣きっ面に8」とか。

──「味噌汁とバター」は、過去にバンド・セットのライブでもオベーションを弾いていましたね。

 はい。「味噌汁とバター」は、オベーションでの弾き語り動画がけっこう観てもらえたんです。なので、みんなもアコギで歌っているところを観たいかなと思って。

──「火の用心」はラテンなムードの楽曲で、ギターや鍵盤、打楽器など、さまざまな楽器の音色が聴こえてきますね。

 個人的には、落ちサビ前の鍵盤が熱く弾いているパートが好きなんです。サポートで入ってくれている方の人柄も情熱的なので、この曲のラテンな雰囲気にとても合っているんですよ。

 ただ、楽器がたくさん入っているのもかっこいいけど、楽器が少ないほうが自分の声は立ちやすいので、アレンジャーさんは、ガヤガヤする中でもちゃんと抜き差しをしてくれていると思います。

──「About you for me」は、曲の途中から入るローカットされたアコギの音色が印象的です。

 最初、アレンジャーさんから“アコースティック・ギターを入れますか?”と聞かれて、どっちでも良かったので“別に入れなくてもいいです”と答えたんですよ。でもそのアレンジャーさんは入れたほうが良いと思ったみたいで、私がデモで弾いたアコギの音を入れてくれたんです。音は少しいじってありますが、プレイはそのまま使ってくれているみたいですね。

 正直、“この雰囲気でアコギ?”と思っていたんですけど、聴いてみたらめっちゃかっこよかったですね。

──YouTubeでは、歌とギター1本でアレンジされた“Playing Movie”として「恋をひそめて」や「ハレの日に」が公開されていますね。これは汐さんが作曲した際のデモのイメージなのでしょうか?

 そうですね。ほぼデモの時のイメージです。

──歌とギター1本で楽曲を表現する際、アコギのバッキング表現で意識していることは?

 1曲をとおして同じバッキングだと絶対に飽きるというのは、自分も聴いている側もあると思うので、なるべく変えるようにしています。盛り上げるところはちゃんと盛り上げる、とか。アルペジオよりもストロークのほうがやりがちなので、余計に気をつけていますね。

アコースティック・ライブは、自分の好きな音でやれる

──バンド編成のライブとアコースティック・ライブの両方でオベーションを弾いていますが、それぞれで意識するポイントの違いなどはありますか?

 自分の好きな音にしたところで聴こえないと意味がないので、バンドではけっこう音は任せています。でも、アコースティック・ライブだと自分の好きな音でやれるので、それが良いなと思いますね。

──好きなアコースティック・ギターのサウンドの傾向についても教えてください。

 ハイがギンギンしない音ですね。いつも中音域をいじっているんですけど、“これこれ”というのがあって。ハイが目立つのは嫌なので、シャリシャリというよりは丸くて太い音のほうが好きですね。

──数年前まで路上ライブ活動もしていましたよね。

 ずっと路上ライブをやってみたかったのもあって、やるなら続けようということでやっていました。

 路上ライブってお客さんの反応がよくわかるんですよ。自分に興味ない人もいるし、興味持ってくれた人は立ち止まるので。根性面ではけっこう鍛えられたなと思います。

──路上でアコギを弾き語る魅力とは?

 例えばライブハウスで誰かと対バンしている時と比べると、“自分を観させている”という空気にならないのが良いなと思います。聴いてくれている顔が見えるし、立ち止まる人が見えるのもうれしいし、私の歌に興味を持ってくれていることがわかりやすく見えるんです。

 あと、もともと室内よりも外で歌うほうが好きなので、気持ちよかったですね。

──今作ではアコギが前に出てくる曲はあまり多くないですが、「センチメンタル・キス」のアコースティック・バージョンが人気を集めたりと、汐さんの音楽とアコースティック・ギターの関係は深いと思います。ご自身の音楽において、アコースティック・ギターが持つ役割についてどう考えていますか?

 やっぱりひとりでやる分には、なくてはならない存在ですね。でも、もともとギターが苦手で、今も苦手意識はあるんです。なので本当にもっと、歌なしでもアコギを弾けるようになりたいです。弾けるように、観せられるようになりたくて、練習中です(笑)。

──最後に、汐さんにとってアコースティック・ギターはどんな存在ですか?

 今はこの子(オベーションのAdamas)が可愛いですね。名前もつけているんです。

──そうなんですね。何という名前なんですか?

 ひらがなで“べべ”です。オ“ベ”ーションの“ベベ”。名前をつけたら愛着が湧くかなと思って。なんだかんだマネージャーも“べべ”と呼んでくれています。見た目も良くて、高かったのもあって、やっぱり愛着がありますね。

 同世代で同じギターを使っている人をあまり見たことがないので、そこも良かったなと思っています。

汐れいら

『HB2U』汐れいら

Track List

  1. リバースデイ
  2. pink
  3. バンドエイド・マイ・ティーン:ギターのバッキング聴こえる
  4. déjà vu
  5. ハレの日に
  6. 火の用心
  7. About you for me
  8. 恋をひそめて
  9. Earring
  10. 泣きっ面に8

Epic/ESCL-6212(通常版)/2026年2月26日リリース

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