まず楽器の音が出てきて、奥に空間が広がるような配置にしたかった──玉置
──今作の『轉角民宿』は、台湾は台東県長浜郷でフィールドレコーディングを行なったんですよね。過去の作品ではベトナムや北海道でレコーディングを行なってきたと思いますが、今回、台湾を選んだのはなぜですか?
玉置周啓 どこに行こうか決めかねていた時に、(ライブハウスの)月見ル君想フの台北店が近く閉店するというのを知って。
オーナーの(寺尾)ブッタさんにはすごくお世話になっていたので、閉店前のライブへの出演の打診がきた時に、“ライブのついでに台湾でレコーディングさせてもらえませんか?”と話したんです。
ブラジル、フランス、チュニジアなど、行きたい場所はたくさんあったんですけど、台湾のアーティストとの親交が増えてきていたのもあって、まったく知らない土地ではなくて、自分たちを理解してくれている人が多い国に行ってみようということで選びました。
──過去のレコーディングと比べ、何か違いはありましたか?
玉置 今回行った台東は、観光地ですらない漁村のような場所だったので、夜になると店も開いていないし、乗り物もないので基本は徒歩移動だったんです。宿でレコーディングをしていたんですけど、ご飯を食べに行く以外はほとんど宿から出ませんでした。
ベトナムの時(注:2020年作『Ninh Binh Brother’s Homestay』はベトナムでレコーディングを行なった)はめっちゃ遊んで、毎晩飲んで、すごく開放的な気分だったんですよ。
でも台東では、洗濯機もないので自分たちで手洗いして、毎日8時に起きて録音して、夜は11時くらいに寝るというのを4〜5日やって。最初は物足りないなと思っていたんです。だけどあとから考えると、地元の人たちと近い生活ができたんですよね。
日本でも、田舎に行けば行くほど店が閉まるのが早かったりするけど、それって地元の人たちの生活と合った時間ってことじゃないですか。そういう意味で、地元の人たちと同じリズムで過ごせたのは、それだけで十分台湾に行った意味があったなと思いました。
──レコーディングはどのような手法で行ないましたか?
加藤成順 ボーカル用マイクとギターのサウンドホールに当てるマイク、それぞれのギターをVOXのミニアンプ(Pathfinder 15R)につなげて、そこにもマイクを立てていました。あと、環境音を録るマイクもあったかな。
──アンプは1台ずつ持っていったんですか?
加藤 そうです。
玉置 スーツケースに入るサイズなので(笑)。
──今回、アンプを使ってレコーディングを行なった理由は?
玉置 今回のレコーディング前に、ベトナムの音源を聴き返していて、あまりにも楽器の音が小さく感じたんです。あれはあれで作品としては良いけど、環境音が6割を占めているようにも聴こえたんですよね。
なので今回は、まず全面に楽器の音が出てきて、奥にアンビで録った空間が広がるような配置にしたいというのを奥田(泰次/エンジニア)さんにお願いしたんです。その結果、アンプを使って録ることになりました。
──レコーディングで使用したギターは?
加藤 僕はマーティンの000-28ECだけですね。
玉置 俺はメインのタカミネのPT-408Nと、以前メインとして使っていた伊藤和夫(編注:個人製作家と思われる)さんのギターです。
──ギターはどのように使い分けましたか?
玉置 基本はアンプにタカミネをつなげて録っていたんですけど、「山道」、「鰐町」、「森の遊び」は、フレーズ的にふくよかな音色のほうが良いと思ったので、伊藤さんのギターにしました。
加藤 あと、「鰐町」だけはダブル・ガットだね。僕がタカミネを弾きました。
1回、合宿みたいな感じで、自分がマーティン、周啓がタカミネでこの曲を作っていたんだけど、全然進まなくて……。でも周啓が前のギターに変えたらすんなりいったんだよね。で、そのあとに僕がタカミネを弾くことにしたのかな。
玉置 そうだね。アコギの音色と伊藤さんのガットはあまりにも音が違いすぎて、くっきり分離しちゃうから、それだとハモるうま味がないことに気づいたんだと思う。
“お客さんが安心して聴けるように”というイメージを持って作った──加藤
──「轉角 feat. Ami Tseng」は、台湾のインディー・ポップ・バンド、DSPSのボーカリスト=エイミーさんが参加されていますね。
玉置 エイミーとはもともと仲が良くて、台湾でライブをやる時は必ず観に来てくれるし、逆にエイミーが日本でライブする時はこっちも観に行くので、もし台東でレコーディングをしたら、遊びに来るんじゃないかという予感があったんです(笑)。
で、“遊びに来るんだったら、1曲参加してくれないか”と連絡したんですよ。
──では、現地でエイミーさんと一緒に曲を作っていったんですか?
玉置 エイミーは俺らの2日後くらいに到着したのかな。エイミーも台東には来たことがなかったらしく、1〜2日くらいかけて散策していて。俺らはその間にレコーディングをして、エイミーとはご飯を一緒に食べたり、おしゃべりをしたりして過ごしました。
で、だんだん「轉角」のイメージができてきたタイミングで俺らで曲を作って、エイミーに日本語の歌詞を翻訳して渡したんです。そしたら“タバコを吸いながら散歩してくる”と言っていなくなって、戻ってきたら歌詞とそのバースのメロディができていました。
──かっこいい(笑)。「轉角 feat. Ami Tseng」にはギターが裏拍で刻むパートがありますね。このパートがあることで、パーカッシブなグルーヴを感じました。
加藤 今まではアルペジオの絡みだけでゆったりと聴かせる音楽が多かったので、ライブではお客さんがポツンとしちゃう感じがあったんです。だから、気持ちよくてぼーっとしちゃう音楽から少し脱却したいというのは自分の中でありました。
リズムがあるとわかりやすく聴きやすいと思うので、「ビーバー」、「丘」を作ったあたりからそこはかなり意識していましたね。“お客さんが安心して聴けるように”という漠然としたイメージを持って作った曲が多いです。
玉置 言われてみるとそうだね。今回、コード弾きや手でリズムをとるプレイが多いなと不思議に思っていたんですよ。そういう理由だったんだね。
加藤 そう。お客さんのことを見放したくはなかったんです。見放すというか、もっとグッと前にきてくれる曲があってもいいんじゃないかなというので、バリエーションを持ちたいと思っていました。
玉置 なるほどね。「轉角」の裏拍のパートは俺なんですけど、これはもしかしたらそのモードに引っ張られたというか、導かれたのかもしれない。
基本、自分で曲を作ろうと思う時はアルペジオばかりなんです。ああいう単純な裏打ちで、コードも4つでっていうのはこれまでやったことがなかったんです。やっとチューニングが合った気がします(笑)。
ギターが変わったことでコードを弾くことも増えた──加藤
──例えば、「恋の味」のイントロに歌のメロディをギターで弾くパートがありますが、こういったパートは歌のフレーズとして生まれますか? それともギターのフレーズとして生まれるものですか?
加藤 僕はギターが先で、ギターのフレーズとしてできることがほとんどだと思います。
なので、歌のフレーズをギターでなぞることは多いかもしれないです。「パレード」(『Ninh Binh Brother’s Homestay』収録/2020年)の冒頭の“やんやんやん”というフレーズもギターからできたものですね。
──ギターのフレーズのインスピレーションはどういったところから来ることが多いですか?
加藤 どこなんだろう(笑)。でも無理はしてないです。頭で考えて“こうしよう”というのはあまりないので、「恋の味」も音の運びとしてはめっちゃシンプルだと思いますね。
あと、前に使っていたヤマハのFシリーズはちょっと拙い音で、そこに味わいがあるギターだったんですけど、今回使ったマーティンの000-28ECはわりと硬派な音なので、作曲する時も低い音や下を支える音を使うことが多くなったかな。「ビーバー」だったりはそうですね。
そういう意味では、ギターが変わったことでコードを弾くことも増えました。前のギターでは、コード弾きだと支えられなかったので、そこには大きな違いがあったかもしれないです。
──「丘」や「森の遊び」などでは、曲中にギター・ソロのようなパートがありますね。こういったパートはある程度曲の形ができてから入れていますか?
加藤 周啓はアドリブができるので、自分が聴いていて“良い”と思ったらすぐに伝えて、それを採用するという流れですね。だから自分がバッキング・ギターを弾いている時にこういうパートが入ることが多いです。今回は周啓がけっこうソロを弾いていますね。
玉置 俺はいわゆるギタリストの遍歴をたどっていないので、ギターもそんなにうまくないんですけど、それでも一緒に演奏していて楽しい瞬間ってあるじゃないですか。それを求めて、いろんなリフを当てるというのをくり返します。
で、成順がコードを持ってきた時は、成順が気に入った時点で“これにしよう”と決まっていくことが多くて、たしか「丘」はそういう流れだったはず。もうちょっと暗いというか、良い意味で沈んだ曲だったんですけど、俺のフレーズが入ることで、良くも悪くも軽やかになりましたね。
──今作では、曲によってはスチール弦がこすれる音がよく聴こえますが、特に「山道」ではこのフィンガリング・ノイズがアンサンブルの中のひとつのサウンドとして成立しているように感じました。
加藤 今回、8割くらいは一発で録ったんです。なので、本当は消したかったというのも全然あります(笑)。どうやったら消せるかを調べたりもしました。
でもそういう処理はせず、ありのままの空気感込みでやったんです。ある意味、変に編集してないからこそ、聴き馴染みも良いのかなと思います。
──「とびうおのうた」では、ボディ・ヒットが採用されていますが、弦の上を叩いた音とボディを叩く音の2種類が聴こえますが、これも自然と生まれたものですか?
加藤 これは弾くコードの位置でそうなっちゃうんです。ここも整えようと思ったんだけど……。
玉置 いろいろ試してたよね。これも自然の産物だね。
加藤 そう。そういうのも“良いや”と思って。諦めじゃなくて、“それで良い”と思ったんです。
ギターが重なった時のハーモニーで、曲になるかどうかが決まる──玉置
──アルバムをとおして聴く中で、MIZのコンセプトである“聴き手のある場所の思い出、匂い、音にリンクするような楽曲”において、ギターのハーモニーが担う役割の大きさを感じました。ハーモニーを生み出す上でのこだわりはありますか?
玉置 ギターが2本ある時、それがどういう役割分担になっているのかわかりづらい音像が好きで。逆に、バッキングをジャカジャカ弾く人と高音でフレーズを弾く人、みたいな役割分担的なサウンド構築はあまり好きじゃないんです。
だからギター2本とも開放弦を多用して、時にはユニゾンして、ちょっと独特な音になっては離れてみたいな、そういう絡み合いが起きるまで部屋で試奏し続けます。そこはけっこう泥臭くやっていますね。
──おふたりが考えるアコースティック・ギター、ガット・ギターの魅力とは?
加藤 今の話を聞いていて、やっぱりハーモニーがあることで、そこに景色が見えたりするのかなと思いました。エレキでもその感じは出せるかもしれないけど、もっと自然に、絡みあって広がっていく世界観ができるのはアコギだからなのかなと。アコギだけの絡みで見えてくるものがあるというのは強みなのかなと思います。
玉置 俺は音楽理論を勉強していないので、“奇跡的にそういう作用のあるハーモニーが生まれてくれ!”という感じで作っていますね(笑)。でもそれを一番大切にしてるかな。
今のところは歌で押すというスタイルでもないので、“良い歌ができたわ〜”じゃなくて、“このアルペジオ、良くない?”というので作っているんですよ。アルペジオもしくはストロークに、もう1本のギターが重なった時のハーモニーで、それが曲になるかどうかが決まるんです。今回のアルバムでは、ほぼ全曲でそういうプロセスを踏みました。
あと、俺はやっぱりアルペジオの鳴りが一番好きなんですよ。だからガットの魅力としては、“ピアノっぽいところ”というか……。ピアノに例えるのはあまり良くないかもしれないけど、今の知識ではそうとしか言えない。
──“ピアノっぽい”というのは?
玉置 エレキだとふくらみすぎるというか、“こんなに聴こえなくていいのに”というところまで鳴っているようなイメージがあるんです。それはそれでエレキのかっこいいところだとは思うけど。
だからガット・ギターの、単音のアタックはちゃんと際立っていながらサステインもすごくある音に胸をつかまれたのかもしれない。それを一番簡単に形容できるのが“ピアノっぽい”なんです。
加藤 確かに、周啓が弾くフレーズはピアノっぽいリフが多いね。
玉置 そうだね。ガットの魅力は、“ピアノっぽい”ということで(笑)。
『轉角民宿』MIZ

Track List
- 山道
- とびうおのうた
- ビーバー
- 恋の味
- 轉角 feat. Ami Tseng
- 暑中見舞い
- Yaku-Yaku Buscemi
- 丘
- 鰐町
- 森の遊び
SPACE SHOWER MUSIC/PECF-3304/2026年4月8日リリース











