GLIM SPANKYが語る、アコギの音色が輝きを放つ新作『Éclore』のこだわり

GLIM SPANKYが2年4ヵ月ぶりにリリースしたオリジナル・アルバム『Éclore』では、亀本寛貴(g)のブルージィなアコースティック・ギター・ソロが光る「第六感」、松尾レミ(vo, g)による歌とアコギから壮大なロック・チューンへと展開する「エクロール」を始め、アコギを効果的に使ったアレンジを堪能することができる。“アコギは第2の自分の声”と話す松尾と、“最近アコギがすごく好き”という亀本に、本作のアレンジや作曲、レコーディングのこだわりなどを語ってもらった。

取材・文=角 佳音 写真=上村窓、上飯坂一

音源の中でアコギをかっこよくデフォルメするのも良いと思う──亀本

──2年4ヵ月ぶりのオリジナル・アルバムとなる『Éclore』ですが、アコースティック・ギターに関わる部分ではどのようなことを考えて作っていきましたか?

亀本寛貴 最近の僕のモードなのか、歪んだエレキをコードで弾くパートはほとんどなくて、今回はむしろアコギでメロディやリフも弾くところが増えていますね。

 歪んだエレキが入っていると空間は埋まるけど、逆にディテールは見えなくなるじゃないですか。アコギはハーモニーを作る要素としての音符は存在しますけど、空間を埋めきらないので隙間が生まれるんです。そうするといろいろな楽器がちゃんと見えて、より世界観が伝わると思うんですよね。例えばピアノを聴いてほしい部分では、結果的にアコギをけっこう入れていたり。

 あと、歌にフォーカスする音楽だと、アコギのほうが雰囲気が出るなと思って使ったパターンも多いですね。

松尾レミ 楽器や歌の一音一音の情報量を深くしたいというのはありましたね。もちろん歪んだエレキも好きだし、必要だったら使うけど、アコギの素の音の温もり、情報の多さってその一音だけで成立するんですよ。

 エレキでジャーンってやるのもかっこいいけど、できる限り少ない音数でどう情報量を詰め込むかというのを考える中でアコギをよく使った気がします。

──「第六感」はギター・ソロのパートでアコギが効果的に使われているのが印象的です。あのパートはどのように作っていきましたか?

亀本 サイドにいるキメの伴奏はもちろんアコギなんですけど、ギター・ソロの前半部分も実はアコギなんですよ。マイクで録ったアコギの音に、フェンダーのTweed Deluxeをモデリングしたプラグイン(※ユニバーサルオーディオのFender ‘55 Tweed Deluxe)をかけているんです。

 この曲はブルースから持ってきたフレージングが多いんですが、バリバリに歪んだアコギは太い音になるので、すごくブルース感が出るんです。今はプラグインで処理するのは当たり前で、アコギだからと言ってクリーンじゃないと不自然というわけでもないので、音源の中でアコギをかっこよくデフォルメするのも良いと思うんですよね。

松尾 バキバキに歪ませたアコギってめっちゃかっこいいからね。アコギの幅広さを出せる曲になったかもね。

亀本 あと、このパートはスライドで弾いているんですけど、アンプをとおしているので、こすっている音が爆発的に上がってきちゃうんです。きれいなフレージングだけ残してもよかったけど、けっこう聴こえますよね。

 しかもスライド・バーがネックにカコンと当たることもあって。その音はけっこううるさいので、ノイズを取るプラグインで少し除去してもらいました。

メロディに対して各楽器がどういう響きなのか、一個一個確認しています──松尾

──「あたらしい物語」はピアノとアコギのアンサンブルが印象的ですが、この曲のアレンジについても教えてください。

亀本 サビではピアノもアコギも1本ずつしか入れていないんですけど、お互いから出ている倍音がうまく噛み合って、そこでパッと広がったように聴こえるんですよ。周波数が噛み合わないとうまく広がらないんですが、良い感じになりましたね。

 あと、間奏部分でアコギが歌のサビメロをなぞるフレーズがあるんですけど、普通はアコギじゃない気がするんですよね。それをあえてアコギでオクターブ違いで弾いて、ここも1本ずつ左右に振っています。両方を左右に振って計4本にすると、のっぺりとした音像になっちゃうんです。それはそれで迫力があって良いかもしれないですけど、ビビらず1本ずつにすることでより立体感が出るんですよ。

──その間奏部分では、松尾さんのフェイクが所々に入っていて、アコギと歌の掛け合いのようにも聴こえます。

松尾 ちょっとコーラスが欲しいと思って、クワイヤー(編注※教会などで聖歌や賛美歌を歌う“聖歌隊”のこと)のイメージでフレーズを足したんです。あれっていつ入れたんだっけ?

亀本 本当に最後だよ。

松尾 最後か。“何か足りないな”と思って、勝手に歌ってつけ足したんですけど、アコギとも良い組み合わせになったので気に入っていますね。

──「わたしはあなた」は、ゆったりとしたテンポ感の曲ですが、サビなどで聴こえるアコギは細かなストロークとなっており、曲に推進力も与えているように感じました。

亀本 まさに、ゆったりとしたテンポではなくて細かい音符を感じてほしくて、その役割をアコギに持たせています。アクセントの位置も奇数のところに置いてあって、そこでスピード感を出していますね。

──こういったアコギのバッキング表現で意識するポイントは?

亀本 例えばEmにしても、ロー・コードのEmや5弦ルートのEmのように、よく耳にする押さえ方で“ただ鳴らす”ということはほとんどしなくて、弾いた時に雰囲気が出る和音になるように意識しています。

 音程差をつけたほうが雰囲気が出ると思っているので、5弦ルートのEmを弾くとしたら、5弦、3弦、2弦だけ押さえるとか。5度のオクターブを鳴らしちゃうと、ちょっともっさりしちゃうんですよ。コード・ストロークにしろアルペジオにしろ、一個一個のコードをただ普通に鳴らさないようにすごく考えて押さえています。

 あと松尾さんは、例えばギタリストがノリでsus4を弾いちゃった時に、ほかの人が同じ帯域で3度を弾いていたら、それが一瞬だとしても気がつくんですよ。これはピアノとアコギで起こりがちなので、一音ずつ作っていきますね。

松尾 めっちゃ気にしますね。脳内に図があって、その音が鳴るとモグラたたきみたいにピョンと飛び出してくるんです。それがすごく気になるので、アコギがどう鳴っているか、鳴るべきところで鳴っているか、メロディに対して各楽器がどういう響きなのかをメロディとともに一個一個確認しています。

 アコギとピアノと歌だけなら大丈夫なのに、コーラスが入るとおかしくなることもけっこうあるんです。でも、ズレていても良いんですよ、かっこよければ。自分の中のOKだったらいいんですけど、ズレているとわかった上でズレているのか、わからずにズレちゃっているのかは違うので。今回はそこまで気にしながら作っていきたいモードでしたね。

松尾レミ
松尾レミ(撮影:上村窓)

“なんでもかんでもオアシスをぶち込もう!”と思っていた時期で(笑)──亀本

──今作はタイトル曲の「エクロール」がアルバムを締めくくりますね。

松尾 2025年10月の終わりぐらいにこの曲の歌詞を書いていたんですけど、アルバムのテーマである“孵化する”、“開花する”、“進化する”というのは、「エクロール」を作ってる時にちょうど思いついたんです。

 今、自分は何を歌いたいのかを考えた時に、“これから孵化をするところだ”と思ったんですよ。ちょうどその頃、自分がぜんそくになって休んでいた時だったので、そういうテーマばかりが浮かんできて。そのタイミングで作った曲だったので、アルバムのタイトルをそのままつけても良い曲になるんじゃないかと思ったんです。

──この曲では要所にブリティッシュ風味を感じさせるアコギのフレーズが入りますが、あのパートはどのようなイメージで入れたものですか?

亀本 あのフレーズは元々入っていなくて、あとから作ったセクションですね。

 ちょうどオアシスのライブに行ったあとで、“なんでもかんでもオアシスをぶち込もう!”と思っていた時期で(笑)。4弦開放のロー・コードのD(編注:楽曲では半音下げチューニングでD♭)を押さえて、そのあとベース音だけC→B→B♭と下がっていくという、ビートルズやオアシスもよくやる進行を最初に入れていたんです。

 で、そのパートを作ったあと、“これだけじゃ味気ないなと思っていた時に、あのビートルズみたいなリフが出てきて、あとから重ねたんです。

 ちなみにあのリフはDメロでも鳴っているんですけど、ロックなパートのうしろで鳴ると、最初とはまた違う印象になるんです。Dメロで聴くとめちゃくちゃオアシスで、真ん中のほうで聴くとビートルズに聴こえるんですよね。

──今作でアコースティック・ギターを使ったからこそ生まれた楽曲はありますか?

松尾 「エクロール」はアコギありきの曲ですね。Aメロ、Bメロのアコギはハンマリングを使ってアルペジオで弾いているんですけど、最初にあのフレーズを作ったんです。そこに合わせて歌のメロディを考えていきました。

亀本 でも松尾さんは自分で曲を作る時は絶対アコギを持って作るよね。

松尾 そうだね。

亀本 僕もベッドやソファによっかかりながらギターを持って作るんですよ。それ以外の作り方はしない。

 7曲目の「わたしはあなた」は先にコード進行だけピアノで打ち込んだものに松尾さんがメロディを考えてくれたんですけど、それ以外は全部アコギでフンフン言いながら作っていますね。

亀本寛貴
亀本寛貴(撮影:上飯坂一)

アコギの音色は、“第2の自分の声”のような感じ──松尾

──レコーディングについても教えてください。どの曲でどちらがプレイしましたか?

松尾 私は「エクロール」だけですね。

亀本 あとは全部僕が弾きました。

──アコギのレコーディングで難しかったポイントは?

松尾 「エクロール」は1サビまでアコギと歌だけなので、“歌うようなアコギ”が録りたいと思っていました。人が弾いている感じを出したいというか、ちょっとヨレていても良いから歌っているような音が良いなと思いながらレコーディングしましたね。まあ自分が弾けばそうなるんですけど。うまくないから(笑)。

亀本 でも不思議なもので、録音している時は“ちょっとヨレヨレしてるけど大丈夫かな?”って思ったりするけど、完成した音源を聴くとそれくらいのほうが人間味あって良いなと思うんですよ。

──亀本さんはレコーディングではどういったところを意識していましたか?

亀本 アコギってすごく便利なんですよね。レンジが広いから伴奏楽器として使うこともできるし、リード楽器としても使える。一音一音がきれいに見えるし、音の処理の幅も広いんですよ。

 今作の肝なのが、アルペジオはめっちゃ大きく出して、ストロークはめっちゃ小さく出しているんです。実は録り音を変えるために、別で録っているんですよ。アルペジオの時は、(アコギを)ほぼ鍵盤だと考えて太い音にして、逆にストロークはドンシャリで録っていますね。いろんなことができる楽器なので、そのことに気づいて今回はそういう使い方をしました。

──今作のレコーディングで使用したアコースティック・ギターは?

亀本 あまり覚えてないですけど、僕はたぶん自分で弾いたところはほとんどギブソンのJ-45で録ったはず。

 僕のはUSAラインのJ-45ですし、松尾さんは絶対ギブソンHummingbirdを使ってるよね。カスタムショップのほうを使った?

松尾 どっちだったっけ? カスタムショップを使ったんじゃないかな。

亀本 いずれにせよスタンダードな道具だけで録っていますね。

──今作でアコギ・マガジンの読者に特に聴いてほしい曲やパートは?

亀本 僕はやっぱりさっき話した「第六感」のソロじゃない? 「あたらしい物語」も好きだな。松尾さんは「エクロール」?

松尾 自分でアコギを弾いているからね(笑)。この曲は単純なGコードやDコードで始まるんですけど、途中にニュアンス・コードを入れているんです。アルペジオだからこそできる音の並びやメロディのニュアンスの出し方ができたと思います。

 アコギでフレーズを作ったからこそ、歌のメロディもそっちに傾いたと思いますし、サビ前までのフレーズの気持ちよさを聴いてもらいたいですね。

──GLIM SPANKYの音楽におけるアコースティック・ギターの役割をどのように考えていますか?

亀本 すごく重要な楽器だなと思っていますね。なぜかと言うと、松尾さんの声や音楽の世界観にすごくマッチするんです。例えば、松尾さんの世界観の中にシンセサイザーを成立させるのは難しいんですよ。

松尾 そう?

亀本 簡単ではないじゃん。でもアコースティック・ギターは何も考えなくても普通にポンといて良い存在。そういう意味で、本当に相性が良い存在だなと感じていますね。

松尾 私もアコギで曲を作ることが多いからか、“第2の自分の声”のような感じはずっとありますね。

 さっき「エクロール」で“歌っているようなギターが弾きたい”と言ったのもそうで、アコギが歌の代わりという時もある。特にアルペジオなどのフレーズを弾く時は“第2の声”のように思っています。

──最後に言い残したことがあればどうぞ!

松尾 次にアコギでやってみたいことがあって。めっちゃ歪ませたアコギで歌いたい!

亀本 ブルースっぽくなって、ちょっと“ミシシッピ感”が出るかもね。

松尾 確かに。きれいなアコギじゃなくて、凶悪なアコギで曲を作りたいですね(笑)。

GLIM SPANKY
GLIM SPANKY(撮影:上村窓)

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