実は今でも1個もコード名を知らない──鈴木実貴子
──インタビュー初登場ですので、アコースティック・ギターを初めて弾いた時のことから教えてください。
ズ 今のギターと出会う前からアコギを弾いていたの?
鈴木実貴子 うん。家には転がってた。でもエレキのほうがかっこいいと思っていたから、アコギは“おじさん”のイメージもあって、良いと思ってなかった(笑)。
で、路上ライブをすることになった時に“アコギじゃないと”ということで触り始めたんです。当時、mixiで知り合った人からいらなくなったギターを譲ってもらって、それをそのまま弾き続けています。だからこの取材を受けていいのかわからないくらい、アコギに対してこだわりやプライドがない(笑)。
──当時、アコギで楽曲をカバーすることもありましたか?
鈴木 エレキを弾いていた時はカバー曲が多かったんですけど、アコギを弾くようになってからは自分の曲ばかりですね。自分の曲を歌いたくなるような温かみを感じたんだと思います。
──アコギの練習として何かしていたことはありますか?
鈴木 全然ないです。実は今でも1個もコード名を知らないので、ダイアグラムに色をつけて順番に弾いてるんです(笑)。

ズ これで、メジャーでやっているという(笑)。
鈴木 だからほかの弦楽器と合わせる時は向こうが耳で理解してくれないと難しくて、そこは苦労していますね。
──アコギを弾くギタリストで、影響を受けたミュージシャンはいますか?
鈴木 竹原ピストルさんですね。ご本人の弾き方や出す音もすごいんでしょうけど、一度クアトロで一緒にやらせてもらった時、けっこう攻めるPAさんだったのもあって、めちゃくちゃ素晴らしい出音になっていたんですよ。低いところから高いところまですごく美しくて、それは今でも真似したいけどできない。すごいなと思っています。
楽器が重なることのすごさを改めて思い知りました──鈴木
──2ndアルバム『いばら』の制作にあたり、全体的なテーマとして考えていたことはありますか?
鈴木 ない(笑)。アルバムを作る時は毎回そうなんですけど、この1〜2年間で自分が思ったことがパッケージングされているだけなんです。
でも、アルバム1枚をとおしてのテーマはないけど、歌を歌っているテーマは一貫してある。それは、生きづらい、吐き出し口がない、どうしたらいい、変わりたい、不安、孤独とかなんですけど、そのテーマはずっと変わらないですね。
──では出来上がったアルバムに対して、どのようなアルバムになったと感じますか?
鈴木 “ミラクルが起こってるな”という感覚です。アコギでポロポロ弾いていると、寂しい感じやドロッとしてしまう感じがあるけど、ほかの楽器が入ることによって、より聴きやすく、いろんな人に届くようになった。肉づけをしてもらってパワーアップした気がするんです。楽器が重なることのすごさを改めて思い知りましたね。
──前作『あばら』(2025年)にも複数のゲスト・ミュージシャンが参加していましたが、今作では「イッキ」に菅原卓郎 (9mm Parabellum Bullet)さん、「ハックオフ」にあーちゃん(きのこ帝国/MY TEMPLES/KRISHNV)さんなど、より多くのゲスト・ミュージシャンが参加していますね。
ズ アコギとドラムの2ピースだと、やっぱりイメージがソリッドすぎるんですよ。前作の時、ゲストに参加してもらうことによって曲が生まれ変わる感じがすごく気に入って、前は数曲だったんですけど、今回は10曲中9曲で参加してもらいました。
でも最初は別に決めてなかったんです。曲を作って聴いて“これは〇〇さんに合いそうだな”、“〇〇さんにやってほしいな”というふうにバラバラの時期にバラバラの人に頼んだ結果、9曲になっていました。
──ゲスト・ミュージシャンとは、一緒にレコーディングをしたんですか?
ズ 本当に良くないと思うんですけど、一緒に録った人はゼロです。
鈴木 このふたりで録ったものを送って、データをもらって、それを聴くという流れです。
ズ しかもほぼ全曲一発でOKしました。“こういうふうに弾いてほしい”というざっくりとしたイメージと抽象的な内容だけ伝えて、やってもらって、完成です。
──“こういうふうに弾いてほしい”というのは具体的には?
鈴木 例えば、“夜の街を歩いている感じ。2番、ちょっと走り出した。3番、逃げたー!”ぐらい(笑)。それを手書きでメモしたものを送っています。
ズ ゲストの中には“この人はこういうギターの人”という理解が深い人もいるので、ほとんどこれで伝えていきました。
鈴木 「パンダ」だと“中華で、レトロゲーム”みたいな(笑)。でも最高なものが上がってくるので、めちゃくちゃ面白かったですね(編注:「パンダ」にはゲスバンドの高野京介/gが参加)。
バンドの芯に鈴木実貴子がいて、それはアコギもセット──ズ
──アルバム作品において1曲目のオープニングは重要なパートだと思うのですが、「ががが」は鈴木さんのボーカルとアコギから始まるのが印象的です。
鈴木 そんな大事に考えてなかったけど、聴く側からしたらそうだよね。でも普通のことだもんね、うちらにとっては。
ズ 当たり前だけど、同時にこうじゃないと鈴木実貴子ズってもう意味がない。アコギじゃないと成立しないんですよ。
鈴木 エレキと声で始まったら実貴子ズじゃないもんね。
ズ バンドの芯に鈴木実貴子がいて、それはアコギもセットだから。そう考えたら始まりとしては最高だね。
──歌詞も相まって、“怒り”を想起させる楽曲ですが、締めくくりがDコードで明るく終わるので、安心感もあります。こういったコード選びのこだわりについて教えて下さい。
鈴木 ない。
ズ いや、終わり方に関してはけっこう言ってくるじゃん。暗いまま終わるんじゃなくて、明るく終わるこっちのほうが良い、とか。
鈴木 あ、確かに言ってますわ。歌が暗い分、最後はちょっとだけ明るく持っていきたいというのはある。最後だけ小指をちょっと添えるとかね。
──そういった工夫が特に表われている楽曲はありますか?
鈴木 「ハックオフ」の後半はそれをめっちゃ意識していて、本編では全然使っていないコードを最後だけ使ったりしています。これから先を見る歌なので、音でその明るさとポジティブさを出そうとしました。
──2曲目の「ゆれる6弦」ですが、“ゆれる6弦”というのはずばりアコギのことでしょうか?
鈴木 確かにそうですね! よかった〜(笑)。
ズ やった、やった! 冒頭の“アコギに対してプライドがない”という言葉から持ち直そう!
鈴木 6弦が揺れるのはアコギしかない。
ズ エレキはそんなに弦が揺れないからね。
──(笑)。これはどのようなインスピレーションから生まれた曲ですか?
鈴木 ステージに立っている時って、お客さんから見上げられるから、こっちだけ頑張ってるみたいな構図に見えるんです。でもうちはステージからお客さんの顔を見ていて、お客さんたちの普段の様子をSNSなどで知っていて。
で、そのひとりひとりが日々の生活に苦しんで悩んで壁にぶつかって、それを乗り越えてライブに来てくれているという意味では、どっちも同じくらい偉いし、素晴らしいと思うんです。そっちもこっちも立場は同じだから、一緒に乗り越えようという曲ですね。
ズ 観ている人にとってはライブがそういう存在で、自分にとってはそれが“ゆれる6弦”ってことでしょ?
鈴木 そうそう。頑張ろう、なんとかしようという気持ちの曲ですね。
ミニマムな編成だからこそ、アコギもドラムも工夫しよう──ズ
──「ゆれる6弦」や「ブルース」はアコギのアルペジオが聴こえますが、コードをなぞるというよりも、ボーカルに寄り添う役割を担っているように感じます。
鈴木 本当にそうなんです。ギターがあまり上手じゃないからというのもありますけど、手元に気を取られたくないんですよ。自分が心地よく、ストレス・フリーで歌えることしかしたくない。曲のことよりも、気持ちを安心して乗せられるかしか考えてないんです。
ズ だから普通はこっちにいかないといけないコード進行でも、変なオンコードでルートだけ歌に合わせるというのがけっこうありますね。
鈴木 で、リズムもそうじゃない? 絶対に言葉とギターとドラムで頭は合わせる。歌が優先。
──「イッキ」は4分音符で刻んでいたり、「四月の風」や「ちいさなうた」ではリズムに乗るようなバッキングになっていたりしますが、アコギのバッキング表現のこだわりは?
鈴木 ズに新曲を最初に聴いてもらう時は、“あ、またこれ?”って言われます。
ズ 3種類しかない。“ジャーン”かアルペジオかミュート。
鈴木 で、コードも5個くらいしかない。でも飽きさせないように努力はしていますね。
ズ 自分たちでも飽きるんですよ。1曲をとおして同じようなことをループしていると、“これ楽しい?”となっちゃいがちで。ミニマムな編成だからこそ、アコギもドラムも工夫しようという意識はめちゃくちゃあります。
──具体的にはどんな工夫をしていますか?
鈴木 “小”を大事にしてますね。Bメロでボリュームを下げる時、たぶん普通のバンドよりもっと下げているんです。楽器が2個しかないから、サビで上げるためには、その前でめちゃくちゃ下げておかないと、上がりきったのが伝わりにくいんです。
あとは、めっちゃ引き算をしてるよね。
ズ そうだね。頑張ってドラムのフレーズを考えても、“それいらない”って言われたり。
鈴木 4人編成だったら派手なドラムも良いと思うけど、ふたりでやっていてそっちばかりが目立つと、それは鈴木実貴子ズではないし、歌が生きないから。下げること、小さくすること、空白を作ることはけっこうこだわってる。
“アコギは4〜6弦”って思ってる。アコギ・マガジンで言うことじゃないけど(笑)──鈴木
──ライブにおけるアコギのプレイで意識していることはありますか?
鈴木 6弦、5弦頼り。こんなことを言ったらダメだけど、ライブの時、1弦と2弦はいらない。
ズ いや、いります。
鈴木 1〜3弦が切れても全然ライブできる。“アコギは4〜6弦”って思ってる。アコギ・マガジンで言うことじゃないけど(笑)。
──(笑)。
ズ でも、最初に“ピストルさんの音が良い”と言ったのもそうだと思うんですけど、ふくよかな音に歌を乗せるイメージがあるから、そっちのほうが重要になってますね。
鈴木 そうそう。だって、ベースがいないから。で、うちは声が女だから、真ん中は音として足りてるんですよ。でも下のほうの音がないので、声を支えるための低音がすごく欲しいんです。
ズ あと、ライブでは基本的にアコギにブルース・ドライバーというエフェクター(BOSS/BD-2 Blues Driver)を2個つないで、サビなどで使っています。“小さい歪み”と“大きい歪み”みたいに使い分けていますね。
──そのエフェクターを使うことで、どういう音を目指していますか?
ズ 暴れてるけど、でもアコギの感じがするのが好きだよね? 歪ませすぎたらエレキみたいな音になっちゃうし。
鈴木 うん。“怒ったアコギの音”のような感じかもしれない。
──現在、路上ライブ・ツアー“いばらの道”を開催中ですね。ライブハウスでアコギを弾く時と違いを感じることはありますか?
鈴木 アコギの音は、外のほうが合うなと思ったんですよ。外で弾くとちょっとポジティブな音になる気がする。
ズ ライブハウスだとどうしてもライン音がメインになるけど、路上ライブの規模だと生音が少し混じっていて、それも一緒に聴こえるのが良いなと思います。
鈴木 それに雑踏にも馴染むよね。街の音、バイクの音、車の音、喋り声にも馴染むのがアコギの魅力なんじゃないかな。
──改めて、アコースティック・ギターの魅力とは何でしょうか?
鈴木 やっぱり人間の体温に近い感じが魅力だと思います。音と、お腹に当たる安心感。
ズ でも、もろさみたいなのも好きだけどね。アコギはバーンってしたらもちろん壊れちゃうし、雑に扱ったら折れちゃう。でもそこを自分のさじ加減で、曲を激しく作ったり、弱く作ったりもできるから、よりダイレクトな感じがする。
鈴木 あとは、コーティングが薄いから自分の感情や経験をちゃんと吸収してくれそう。一緒に歴史を刻める感じがする。
ズ 生楽器だからだね。生きているに近い。
──では、鈴木実貴子ズにとって、アコースティック・ギターはどんな存在ですか?
鈴木 “呪いと救い”だよね。
ズ 本当にそうかもね。なかったら死んでるし、あったらあったで苦しんでる。
鈴木 人生とも音楽とも自分の生命とも直結しすぎてるから、“呪いと救い”ですね。










