猪居亜美が語る、2作目となるロック・カバー・アルバム『RED ROSE』のアレンジとプレイのこだわり

クラシック・ギタリストの猪居亜美が、ロック・カバー・アルバム『RED ROSE』とクラシック・アルバム『BLACK ROSE』を2枚同時リリース。小社刊の著書『クラシック・ギター1本で描く、ロックの世界』の執筆と並行して制作が進められており、前者の収録曲には著書に収録した楽曲もいくつか含まれている。

インタビューを2編に分け、次回は『BLACK ROSE』について、今回は2作目となるロック・カバー作品『RED ROSE』についてたっぷりと語ってもらった。

取材・文=角 佳音 撮影=小澤勇佑

原曲の雰囲気を100に近い状態でクラシック・ギター1本に詰め込む

──猪居さんとしては初となる2枚同時リリースですが、実現するまでの経緯を教えてください。

 最後にアルバムを出したのが2024年4月の『My Immortal』で、それが初のロック・カバー・アルバムだったんですが、そこからずっと“CLASSIC×ROCK”シリーズ(編注※猪居が2022年より開催する、クラシック楽曲とロック楽曲を演奏するリサイタル)をやる中で、“次はこの曲をアルバムに入れてほしい”という声をよくいただいていたんです。

 で、クラシック・アルバムは2019年から出してなかったので、こっちも出したいと思っていたんでけど、それぞれ出すのはもうやったし、何か新しいこと、前代未聞なことをやりたいと思って、同時リリースを思いついたんです。クラシック・アルバムとロック・カバー・アルバムを同時に出すというのは自分にしかできないことですし、今回その思いが形になりました。

──アルバムごとに異なるホールで、異なるマイクを使ってレコーディングしたそうですね。実際に出来上がった音源を聴いて、その違いをどのように感じましたか?

 ロック・カバー・アルバムの『RED ROSE』はJ:COM浦安音楽ホール、クラシック・アルバムの『BLACK ROSE』は秩父ミューズパーク音楽堂で録ったんですが、浦安のホールのほうがより響きのあるリバーブ感が強いホールで、秩父のホールはナチュラルな響きでした。

 で、マイクは、『RED ROSE』は音が少しシャープに聴こえるタイプで、『BLACK ROSE』はナチュラルなホールの響きに合わせて、柔らかく録れるタイプを選んだんです。

 なので改めて聴くと、同じ奏者で同じ楽器だけど、ホールとマイクの違いでかなり個性の違いが出せたと感じていますね。そういう対比も楽しんでもらえたらと思います。

──『RED ROSE』はロック・カバー・アルバムとしては2作目となりますが、前作『My Immortal』との違いがあったりしますか?

 前回はバラードが多かったんですけど、今回はバラードもありつつ、アップ・テンポな曲やテクニカルな曲を増やしています。アレンジとしてもより濃いものができたのではないかと思っていますね。

──アレンジで特にこだわったポイントは?

 どの曲もそうなんですが、とにかくリフの再現ですね。原曲のかっこいいリフをいかに表現するかにはこだわりました。

 ギター・ソロもなるべく音をはずすことなく全部拾って、原曲の雰囲気を100に近い状態でクラシック・ギター1本に詰め込むというところは、前作よりもこだわることができました。

 あと、レコーディングの時に“クラシック・ギターの良さやクラシック奏者が弾いている雰囲気を出そう”とディレクターさんと話しながらやっていきましたね。テンポを揺らすところとインテンポで決めるところで差をつけているので、原曲のロックさにクラシック・ギターならではの弾き方を入れることができたと思います。

バラード曲こそクラシック・ギターが本領を発揮できる部分

──ホワイトスネイクの「Is This Love」は、ボーカル、ギター、ピアノの旋律が軸になったアレンジで、原曲よりもゆったりとした雰囲気を感じます。

 バラード曲こそクラシック・ギターが本領を発揮できる部分だと思うので、よりクラシック・ギターならではの弾き方ができたらいいなと思っていました。

 「Is This Love」はジョン・サイクスのギターがすごく好きで、伸びやかな歌もクラシック・ギターに合いますし、バンド感というよりもクラシカルな雰囲気で表現してみました。

──バラードで言うと、メガデスの「A Tout le Monde」はいかがでしょうか?

 マーティ(フリードマン)さんのギターは“泣かせるギター”だと常々思っているので、そこをクラシック・ギターで再現できたらと思っていました。「Is This Love」と同じように、ロック曲を弾くというよりもクラシック曲を弾く時のような感覚で弾いていますね。

──“クラシック曲を弾く時の感覚”というのは、具体的には?

 例えば「The Trooper」や「CRAZY DOCTOR」など、縦の刻みを重視している曲に対して、バラード曲は横の波、フレージングや歌のブレス感だったりを意識しながら弾くんです。そこがクラシック曲を弾く時に近い感覚ですね。

──イングヴェイ・マルムスティーンの「Trilogy Suite Op.5」と「You Don’t Remember, I’ll Never Forget」の2曲が収録されています。2025年はコンサート“Bach×Yngwie”を開催したりとイングヴェイの楽曲に向き合った1年でしたね。

 クラシック奏者から見たエレキ・ギタリストとして、イングヴェイは一番ピックアップするべきだと思っていました。“Bach×Yngwie”の時は、コンチェルトの曲はマストでやりたくて、加えて歌モノとインスト曲をやりたいと思ってイングヴェイのいろんな曲を一度アレンジしてみたんです。

 ただ、どれも音数が半端じゃないので、それを全部拾った上でうしろのバンドの音も入れるとなると、そもそも弾くことが不可能で……。アレンジしてみたものの、ボツになった曲がたくさんあるんです。その中で、これならクラシック・ギターでなるべく原曲に近い形にできるかもと思えたのが「Trilogy Suite Op.5」、「You Don’t Remember, I’ll Never Forget」の2曲だったんです。

 あとコンチェルトは、“Bach×Yngwie”では抜粋で演奏したんですが、いつか組曲すべてをアレンジしたものをレコーディングしたいと思っています。現時点で可能かどうかは言えないのですが、人生のどこかで形にしたいですね。

猪居亜美
猪居亜美

家でひとりで練習するのとホールで響かせるのでは全然違う

──MUCCの「咆哮」は、前作収録の「雨のオーケストラ」とは異なる雰囲気ですが、この曲を選んだ理由は?

 前作は“エモいアルバムにしたい”というテーマがあったので、“クラシック・ギターで弾くならバラード”と思っていたんです。というのも、マネージャーに“私の特徴って何ですか?”って聞いたら、“テクニカルなところに注目がいきがちだけど、影があるようなエモい部分を好きな人が多いと思う”と言われたんです。それで前作は「雨のオーケストラ」をピックアップしました。

 今回はよりハードな楽曲を取り上げた1枚にしたいと思っていたんですが、「咆哮」が収録されているアルバム『球体』(2009年)の時代は、MUCCがアメリカ・ツアーで現地のメタル・バンドの影響を受けていた時期で。私のファンの方々にはメタルが好きな人もすごく多いので、この曲を好きになってもらえるんじゃないかと思って選びました。

──「CRAZY DOCTOR」は自身のコンサートのほか、高崎晃さんのライブでもプレイされたりと、ステージでよく披露していますね。この曲を弾き続ける中で変化してきた部分はありますか?

 どの曲もそうなんですけど、最初は探り探りやっていくんです。家でひとりで練習するのとホールで響かせるのでは全然違うので、ホールで弾く時はビート感の出し方やアクセントの付け方の感覚をその都度つかみながらやってきました。

 たぶん最初はお客さんも“クラシック・ギターでどうやって「CRAZY DOCTOR」を弾くんだろう?”と思っていたと思うんです。でもこれだけ弾いていると、あのイントロが始まった時点で“やっぱりこの曲だよね”って(笑)。回数を重ねていくごとに、弾き終わった瞬間の会場の盛り上がりを肌で感じられるようになってきましたね。

──ヘイルストームの「Break In」は唯一の女性ボーカル曲ですね。

 メタル界はまだまだ男性ボーカルのバンドが多いですが、女性ボーカルの曲も大事にしたいと思っているんです。前作ではエヴァネッセンスを入れたんですが、エイミー・リーはすごく儚げな歌声ですが、でもとても強い女性だろうなと感じていて。

 で、今作では誰の曲を入れようかと考えた時に、ヘイルストームのリジー・ヘイルはバンドを引っ張っていく力が強いボーカルだなと思ったんです。ヘイルストームだとほかにも人気曲があるんですが、この曲が入っているアルバム(『Strange Case Of…』/2012年)が好きで、その中でもギターに合いそうだと思っていた「Break In」は、実際に弾いてみたら自分でも心地よかったので今回収録しました。

──『RED ROSE』の制作にあたり、特に難しかったことは?

 アレンジという点ではやっぱりイングヴェイが難しかったですね。あの選曲にいたるまでに、たくさんのボツ曲があるので……。

 あとは、アルバム全体のバランスをとるというところですかね。メタルに偏ることもロックに偏ることもなく、国が偏ることもなく、各バンドの個性を幅広くとっていけるように意識しつつ、1枚のアルバムとして聴いた時にひとつの世界観が出来上がるものにしたいと思っていたので、そこのバランスは特に意識しました。

猪居亜美

『RED ROSE』猪居亜美

Track List

  1. The Trooper / Iron Maiden
  2. Is This Love / Whitesnake
  3. Don’t Stop Me Now / Queen
  4. 咆哮 / MUCC
  5. Trilogy Suite Op.5 / Yngwie Malmsteen
  6. Crazy Doctor / LOUDNESS
  7. A Tout le Monde / MEGADETH
  8. Break In / Halestorm
  9. You Don’t Remember, I’ll Never Forget / Yngwie Malmsteen
  10. I Don’t Want to Miss a Thing / Aerosmith

Fontec/FOCD9930/2026年2月7日リリース

『クラシック・ギター1本で描く、ロックの世界』

定価2,970円(税込)
発売日2025.11.17
品種ムック
仕様菊倍判 / 112ページ
ISBN9784845643493

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