体ひとつで音楽が完成するんだっていうことが印象的だった
──最初にギターに触れたのは小学6年生の時だと動画で語っているのを観ましたが、改めてギターを弾き始めた経緯から聞かせてください。
姉がギターを弾いていて“なんか良いな”って思っていたんです。でも姉はすぐにギターをやめてしまって、納戸の奥にホコリをかぶってしまわれていて。もともとそのギターは従兄弟のお兄ちゃんのものだったんですけど、それを引っ張り出してきて弾き始めたのが一番最初ですね。
そこからはずっと趣味のような感じで弾いていたんですけど、「好きだから。」で多くの反響をいただいたことをきっかけに“ちゃんと弾かなくちゃ”って思って、高校1年生頃から本格的に練習をするようになりました。今もあまり変わっていないんですけど、そんな流れでしたね。
──最初から弾き語りというスタイルだったんですか?
そうですね。もともと歌うことが大好きで、幼稚園の卒園アルバムに将来の夢として“歌を歌う人”って書くぐらいで。シンガーソングライターというものに憧れを抱いたのは中学1〜2年生頃に坂口有望ちゃんに出会ってからで、ギターを持って歌うのがカッコ良いって思ったんです。
──坂口有望さんの「月には内緒で」で弾き語りの表現に感動したと語っていましたが、具体的にどのようなところが響いたのでしょうか?
バンド・サウンドの曲もエレクトロニック系も大好きでいろいろ聴くんですけど、やっぱり一番感情が乗って歌詞が入ってくるのは、音が少なくて、かつその音が自分で弾いている音っていう弾き語りだと思っていて。ほかの誰かがギターを弾いているのともまた違う。有望ちゃんが弾いている音で有望ちゃんが歌う声で、っていう全身で音楽を奏でている感じがすごく響いたんです。体ひとつで音楽を作っていて、それだけで音楽が完成するんだっていうのがすごく印象的で、大好きな曲です。
──ギターはどのように学んでいったんですか?
私はギターのタブ譜が読めなくて。U-フレット(歌詞/コード検索サービス)でコードの押さえ方を見ながら好きな曲を弾いて、コード進行ってこんな感じなんだっていうのを覚えていきました。
小学6年生で最初にギターを持った時は、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(2013年)の劇中歌だった、大原櫻子さんの「ちっぽけな愛のうた」をカバーしたいと思って、コードを調べたらバレー・コードもなくて簡単だったんです。みんなFコードでつまずくって言うけど、私はバレー・コードのない曲を最初にやって弾き切ることができたから、そこで達成感が芽生えて、Fが出てきても頑張ろうとなれたんだ思います。それこそ私のお姉ちゃんは、たしかスピッツさんの「チェリー」をやっていて、Fコードが出てきてつまずいていたんですよね。
──ちなみに初期はサムピックを使っていましたよね? 最初からサムピックを使うのはけっこう珍しいと思うのですが、どういうきっかけがあったのですか?
坂口有望ちゃんが「おはなし」っていう曲を鴨川で歌っている動画でサムピックを使っていて、“有望ちゃんみたいになりたい”と思って使い始めたんです。でも、今は有望ちゃんもサンピックを使ってないので、私も使っていなくて(笑)。「17さいのうた。」(2022年)を出したあとくらいから、普通のピックになりましたね。

弾き語りカバーの一歩目になれたらうれしい
──自作曲も早くから作っていますが、いつ頃から作曲を始めたんですか?
ギターを持ってお遊びみたいな感じだと小学校6年生の頃が初めてですけど、ちゃんと曲を作ろうと思ったのは有望ちゃんに出会ってからなので、中学1〜2年生頃です。ただ、この前実家に帰った時に親に言われたのが、3歳頃にマイクのおもちゃをテレビの前で持って、適当に歌っているだけなんですけど、完全オリジナルで作詞作曲をしていたみたいなんですよね(笑)。家族がみんなメロディも覚えているぐらい、私は普通にちゃんと歌っていて。だから最初の作詞作曲は、即興ですけど3歳です。
──それで今も覚えていられるメロディって、かなりキャッチーですよね(笑)。
いつかその復刻版をやりたいですね(笑)。
──作曲の方法を学んだりは?
まったくなくて、“こんな感じだろう”みたいなところから入りましたね。一般的にはメロディから作る曲先の人が多いイメージなんですけど、その当時は何も知らなかったので歌詞から書いていて。で、今も変わらずに歌詞から書いているので、そのやり方が自分にハマっているんだなって思いますね。
──歌詞にメロディをつける時、コード進行はどのように考えていますか?
コード理論とか音楽理論的なことがあんまりわかってないんですけど、洋楽ってけっこう循環コードが多かったりするので、そういうのを軸にすることが多いですね。私が好きなヨルシカさんも循環コードが多かったり、自分が聴いていて好きだなって思うメロディの曲はそういうものが多い印象なんです。
──『ユイカ』さんの曲は同じ循環コードのままBメロやサビへの展開していくものも多いですが、その良さはどういうところにあると感じますか?
私は歌詞が伝わればいいと思っていて。循環コードで作っていくと、メロが追いつかないとか、それによって歌詞が聞き取れないっていうことになりづらい気がするんです。聴いている人もしっかりと歌詞に入り込んでもらえるかなって。
あと私が作る循環コードって、初めての曲にピッタリなコードばかりなので、カバーしたいって思えるきっかけになればいいなって思っています。私もそういうタイプだったので、弾き語りカバーの一歩目になれたらうれしいですね。
──たしかにカポを使うことで、弾きやすいCやGなどのキーになっていることが多いですよね。
そうですね。なんか今頑張って良いように言おうとしてるけど、難しいものが弾けないので(笑)。
──(笑)。でも、カポなしでCで弾ける曲を5カポで弾いていたり、開放弦よりもカポをした音のほうが好きなのかなと思ったんですが、いかがでしょうか?
たしかに「好きだから。」っていう曲だとカポなしでCでいけますね。Cでもオーソドックスに弾けるんですけど、もっとキラキラした高音が好きだからずっと5カポのGで弾いているんです。
カポをしているとキラキラした音というか、高音が刺してくる音のイメージがあって。カポをつけていない開放弦の状態だとジャラ〜ンっていう感じで、それはそれで奥行きがあっていいんですけど、私の中で「好きだから。」っていう曲はこぢんまりとした部屋で歌うイメージなので、そんなに響いているイメージがないんです。で、5カポのGで高音がきれいに鳴っているっていうのがベストだったんです。
それで言うと新曲の「ローズヒップティー」は、曲を作った時は半音下げのDで弾いているんです。それは弦が緩くなった開放弦の、ジャランっていう音と倍音が欲しかったんですよね。

大人ぶっていない、背伸びしていない自分を表現したい
──「ローズヒップティー」は少ない数のコードでAメロ、Bメロ、サビと展開していきますが、どういう順番で作っていくんですか?
私は曲を作るうえで“サビから”みたいに飛んだりしないんですよね。だからこの曲もAメロから作って、順番にいきます。レコーディングの時もAメロから順番どおりに歌っていて、1Aと2Aで同じメロだから先に録るとかもしたくないんです。私は1曲をストーリーとしてイメージしているので、感情の変化も順番に変わっていく感じで歌いたいんですよ。だから、作曲する時もAメロから確実に終わらせて、じゃあBメロに行こう、みたいな作り方をしてますね。
──ディミニッシュで経過音を入れたり、テンションを加えて変えたりはせずに、シンプルなコードで展開していくのは、ストレートですごく聴きやすいです。楽曲構成で考えていることや、大切にしているとことはあったりしますか?
コード理論がよくわかっていないから動かせないのは正直あるんですけど、自分の中でこういうコードや動きもあるんだって試してみた時に、大人っぽくなりすぎちゃうというか。“玄人っぽい”じゃないですけど、純粋に今の私が思うことを表現したいところに、いろんなコードを使いすぎると変に曲だけがカッコよく、オシャレになっちゃう。「ローズヒップティー」はドラマのタイアップ曲で、いろんな人に聴いてもらえる、聴いてほしいなって思った時に、自分が思う音で、大人ぶっていない、背伸びしていない自分を表現したくて。そういうことも考えて書いていますね。
──バンド・アレンジの楽曲でもそのシンプルなコード感は崩れていませんが、そういうところもアレンジャーさんと話をしたりするんですか?
そうですね。最初に“私はこうしたいんだ”ってお話をして、オシャレにしてもらったりもするんですけど、“いや違う、私の頭の中で鳴っているのはこれなんだ”って話したり。いろいろやっているんですけど、それも全部“わかったよー”ってやってくれるので(笑)。
──「ローズヒップティー」のアレンジではアレンジャーの小名川高弘さんとどのようなやり取りがありましたか?
私は基本的にアコギで曲を書いてるんですけど、「ローズヒップティー」はエレキで書いていて。だから“エレキの感じを出してほしいです”っていう話をしましたね。あと、デモで作っていたのが今より少しトーンダウンした感じだったんです。私の力ではそれ以上はできないから、“明るい感じを出してください”ってお願いして。歌詞が“甘いのがきらい”とか少しトゲトゲしている部分もあるので、そこをマイルドになるように、華やかさが出ればいいなっていう話はめちゃくちゃしましたね。
──今回エレキで作曲をしたのは、何かきっかけがあったんですか?
ライブでこの曲を披露する時に、アコギだとシンガーソングライター感が強いけど、エレキだとガールズ・バンドっぽい感じが出るなって思ったんです。うしろは全然ガールズじゃない、イケメンおじが控えているんですけど(笑)。でもイメージとしてはガールズ・バンドっぽくしたくてエレキで作りました。
──エレキで作曲するのと、アコギで作曲するのとで何か違いは出ましたか?
アコギだと刻みたくなるというか、16分音符で弾きたくなるんですよね。エレキはロング・トーンが響くから、間が持つので刻まなくてもいい。それで、テンポ感は変わらなくても、入れる言葉がゆったりしていてもいいなって思えるんです。逆にアコギだとジャンって弾くだけだと寂しく感じちゃって、ジャカジャカ刻みたくなるので、言葉もいっぱい入れたくなっちゃう。「ローズヒップティー」も私の曲の中ではAメロなどはかなりゆったりできたので、それはエレキで弾いたからこその良さかなと思います。
──「ローズヒップティー」のアコギはうっすら入る程度ではありますが、基本的には必ずアコースティック・ギターの音色が入っています。『ユイカ』さんの音楽にとって、アコギとはどういう存在でしょうか?
私が初めて自分からやってみたいと思った楽器がアコギで、もともとその音が好きっていうのもあるし、やっぱり私にとっては一番中心にある存在なんですよね。私の音楽にとっては“生の音”というか“温かい音”として、アコギは欠かせないなって思います。
「ローズヒップティー」『ユイカ』

Track List
- ローズヒップティー
ユニバーサルミュージック/Virgin Music/配信/2025 年 9 月 26 日リリース