気鋭シンガー・ソングライターの映秀。にインタビュー! アコギ弾き語りを中心に作った3rd作のこだわり

2025年1月に3rd作『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』をリリースした、シンガー・ソングライターの映秀。

DTM上での作曲が中心だった前作『第弐楽章 -青藍-』とは異なり、今作はアコースティック・ギターの弾き語りでの曲作りが多くを占めたという。

そこで今回は、作曲の手法を変えた理由やそれによって生まれた変化、作曲時のこだわりについてインタビュー。合わせて、愛用するギブソンのHummingbird 50th Anniversaryについても話を聞いた。

取材・文=角 佳音 写真=小林一真

曲作りのルーツはアコギですね

──初登場となりますので、アコースティック・ギターを初めて弾いた時のことから教えてください。

 まず小学校の頃に、学校にあったドラムを叩き始めたんです。荒井由美さんの「ひこうき雲」を演奏したり、そこから音楽を始めて。中学校では男子だけの男声合唱をずっとコツコツやっていて、高校に上がったタイミングで友達から“バンドやろうぜ!”って言われたんですね。あまりバンドの音楽を聴いてこなかったので、正直わからなかったんですけど、ちょっとやってみようって思ったんです。

 その後、新しいアコギが欲しくなって“どれにしようかな〜”って言っていた時に、父が“これでいいじゃん!”ってオベーションを買ってくれたんです。

──高校時代から続いているYouTubeチャンネルの“ジェラfeat.映秀。”でも弾いているCS24P-4Qですね。

 はい。高校時代に使い始めて、3〜4年前まではメイン・ギターとして使っていましたね。

 良くも悪くも“チャキチャキ”していて、ハイ成分が強いんですよ。バック材が木じゃない(編注:オベーション製のギターのバックに使用されているのは“リラコード”と呼ばれるガラス繊維強化プラスチック)ので、普通のギターとは違う質感の音がするんです。

 で、それをスマホで録音するとキラキラして、映えるんですよ。レコーディングで使うとなると難しい部分もあると思うんですけど、YouTubeに載せる弾き語り動画を録るうえでは、自分の歌声のロー成分とすごくマッチしているなと思っていました。

本動画にて映秀。が弾いているモデルが、オベーションのCS24P-4Q

──YouTubeでは弾き語り動画を多くアップされていますが、当時はどのようにアコギを練習していましたか?

 正直、あまり練習はしてなかったですね。普段好きで聴いている音楽を、その場で友達に披露するみたいな感じだったので、動画もほぼ一発撮りだったんです。

 でも楽曲をコピーしていくうちに、“このコードは、こっちの響きのほうが好きだな”っていうことを感覚的に気づいていって、譜面に載っているとおりのコードではなくて、自分でボイシングをつけたり、組み合わせたりと試行錯誤するようになっていきました。

──その頃からオリジナル楽曲も作っていたんですか?

 高校2年生くらいから始めましたね。玉置浩二さんの“ラララ〜”ってフェイクを入れるスタイルに憧れて、よくアドリブで真似していたんですが、それがだんだん曲の形になっていったという流れでした。最初はアコギで作っていて、だんだんとDAWを使って曲を作るようになっていったんです。なので、やっぱり曲作りのルーツはアコギですね。

“弾き語りで演奏できる”ということが、曲を理解するうえで重要だと気づかされました

──2025年1月にリリースしたばかりの最新アルバム『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』は、ほとんどの楽曲をアコギの弾き語りで作ったとのことですが、1stアルバム『第壱楽章-青藍-』と2ndアルバム『第弐楽章』の制作がDTMが中心だったんですか?

 アコギ自体は使っていましたが、DTMを中心に制作することのほうが多かったと思います。1st作の頃は、アコギで作った種をDTMで広げる感じで、2nd作からはDTMでの制作が上達して、曲の大元からDTMで作る形が増えていきました。

 で、そのあとに少し考え直すタイミングがあって、“どういう音楽がやりたいんだろう?”みたいなことをいろいろと考えたんですね。そこで、歌詞とメロディっていうのは、ほかの誰にも触れない部分だから、そこをもっと極めたいって思ったんです。つまり、自分がやりたい音楽は、サウンドやアレンジみたいに“側”だけが良いものではなくて、ちゃんとそこに自分の意思やメッセージが詰まっているものだと。

 それで一度立ち返って、弾き語りで作ることにしたんです。自分が“良い音楽”だと思えるものを作れば、それをどうアレンジしようが、結局は良いものになるだろうということで。

──弾き語り主体で作曲をしたことで、どんな変化がありましたか?

 まず、“自分の歌”が中心になったことですね。DTMで作っていた時は、歌うのが難しかったり、そもそも歌えなかったりすることもあったんです。でも弾き語りの場合、可能な要素で作ることになるので、自分の歌声に合った曲や自分自身に近い曲になるんですよね。

 あとは、“弾き語りで演奏できる”ということが、曲を理解するうえですごく重要だと気づかされました。歌詞やメロディの解釈が深まるし、歌い回しを変えたりもできる。完成したアレンジに縛られず、その都度で楽曲を解釈できるのは、弾き語りで作ったからこその変化だなと思いますね。

 ただ、同時に課題だと思っているのは、自分に可能な範囲で作るがゆえに、構造的に新しいものや一歩超えた表現に挑戦しにくいことですね。手ぐせに依存してしまったり、コードのボキャブラリーにも制限があったりするので、自分の可能性を超えるのは、DTMで作るよりも難しいなと改めて思いました。

映秀。

僕とアコギのつながりを感じ取ってくれたからなのかな

──今作の収録曲を弾き語る姿を見て、カポを使っていないことが多いように感じたのですが、それには何かこだわりがありますか?

 確かに今回はカポを使わない曲が多いですね。アコギって、カポを使うと音の響きの印象が大きく変わるじゃないですか。弾けば弾くほど、アコギのいいところは“カポを付けていない時の響き”だと思うようになったんですよね。

 あと、うちのバンドで一緒にやっている杉村謙心くんがよくセッションに出ていて、僕もちょこちょこ行くんです。で、そこにいるプレイヤーたちにはカポを使う文化があまりないんですよね。そんな彼らのプレイに憧れて、“カポを使わずに弾けるようになりたい”と思っていた時期もありましたね。

──ちなみに、セッションの場で、映秀。さんがギターを弾くこともあるんですか?

 ギターを弾くことはあまりないんですけど、パーカッションとかで参加することはあります(笑)。

──そうなんですか!? それはなぜですか?

 シンガー・ソングライターって、ひとりじゃないですか。そこにアレンジャーやミュージシャンを呼んでやっていく中で、自分の音楽と距離が離れていってしまう可能性もあるのが嫌だなと思っていたんです。もっとちゃんと自分の音を理解したいし、周りと同じ視点で話したいと思うようになって。

 で、ボーカリストの視点では、“フィルすごいな〜”とかって思っていたんですけど、セッションの場で、バンド・メンバーとしてパーカッションをやってみると、大事なのは、フィルみたいな奇抜なことよりも“タイム”なんですよ。そういう視点を持てるようになりましたね。

──「黄色の信号」は、冒頭から入るアコギのコード・バッキングがこの曲のノスタルジーな雰囲気を引き出していますが、どのように作っていきましたか?

 あれ、すごいですよね! 実は、僕が作ったデモをアレンジャーのUiLLoUに投げて、戻ってきたらああなっていたんです。あのボイシングって、ピアノ的なアプローチというか、ギタリストではなかなか出せないものになっているんですよ。UiLLoU自身もアコギはそんなに上手くないって言っていたので、一小節ごとに弾きながら作っていったみたいです。

 「黄色の信号」は僕の現状や葛藤を書いた曲なんですが、UiLLoUが楽曲を解釈していく中で、アコギのサウンドをなくすこともできたと思うんです。でも残っていたというのは、僕とアコギのつながりを感じ取ってくれたからなのかなと思います。

──アレンジに関して、バンド・アンサンブルの中で聴こえるアコギの役割について、どのように考えていますか?

 アコギがリズムを支える場合と、フックになる場合の2パターンがあると思うんですけど、個人的には、アコギのサウンドがしっかり前に出てくるような、メロディを担う使い方のほうが好みではありますね。自分ではそういう使い方ができないので、ちょっと憧れを持っている部分があります。

“おいお前、練習しろよ!”ってギターから言われている気持ちになります(笑)

──今作のレコーディングでは、アコギのパートはすべて映秀。さんが弾きましたか?

 大方は僕が弾いていますが、「ほどほどにぎゅっとして」はUiLLoUで、「黄色の信号」は僕とUiLLoUが弾いたのが混ざっていますね。

──レコーディングで使用したギターについて教えてください。

 人からお借りしている、ギブソンのHummingbirdの50周年記念モデルですね。作曲する時もこれを使っています。

映秀。とGibson Hummingbird 50th Anniversary
映秀。とGibson Hummingbird 50th Anniversary

──どういったところを気に入っていますか?

 何よりもまず、弾きやすさですね。今まで弾いたギターの中で一番自分に合っているなと感じます。それから音の深みですね。ボディもネックも太すぎないのに、音としてはローの厚みがありつつ、かと言ってハイが削られてなくて、ギブソンらしいキラッとした部分が際立つんです。目の前の人に向けて、マイクなしで弾き語りをする場面などで、ものすごく活きる楽器だなと思います。

 あと、音が大きいので、それに合わせて歌も大きくしないといけなくて。“おいお前、練習しろよ!”ってギターから言われている気持ちになります(笑)。音が大きいという側面でいうと、表現の幅をつけられるところも好きなポイントですね。歌声の緩急にも応じてくれますし、僕の歌との相性がいいなと思っています。

──レコーディングで印象に残っている楽曲はありますか?

 「瞳に吸い込まれて」ですね。過去作でもアコギを弾いていたんですけど、当時は全然うまく弾けなくて、レコーディングにすごく時間がかかったんです(笑)。でも、この2〜3年間でアコギを弾いてきた成果が出たのか、自分が思ったような形で、スムーズにレコーディングできたんですよね。

 もうちょっと音楽的な部分でいうと、3連のチャカチャーンっていうリズムを多用しているんです。今まであまりしてこなかったプレイなので、自分の中での挑戦を組み込めたかなと思っていますね。

──映秀。さんにとって、“アコギで弾き語る”ことや“アコースティック・ギター”はどのような存在ですか?

 弾き語りはもう、歌の次に、身体に染み付いている行為ですね。最初はただの伴奏だったけど、クオリティが上がって、できることが増えていって、ギターが歌に近づいてきた気がするんです。昔は“歌って”って言われたらアカペラで歌っていたけど、今なら“ギターがほしいな”と思いますし。

 声は身体の一部ですけど、ギターも身体の一部に近い存在になってきましたね。“第三の腕”というくらいの気持ちです(笑)。

映秀。

公演情報

映秀。 CLUB QUATTRO TOUR “音の雨、言葉は傘、今から君と会う。”

https://eisyu0317.com/news/detail/512

『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』映秀。

UMCK-1789/2025年1月22日リリース

Track List

  1. まほうのことば
  2. 涙のキセキ
  3. 瞳に吸い込まれて
  4. ほどほどにぎゅっとして
  5. 黄色の信号
  6. Boys & Girls
  7. 幸せの果てに
  8. 星の国から
  9. 全部しようぜ
  10. My Friend
  11. よるおきてあさねむる
  12. youme
  13. 春を背中に
  14. あなたの隣で

https://sp.universal-music.co.jp/eisyu/otonoame

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