wacciの橋口洋平が語る、アコギとの付き合い方と新作『Dressing』の作曲

日常に寄り添う歌詞と、それを包み込むような温かいサウンドの楽曲で幅広い層から支持を集める5人組バンドwacci。そのボーカル・ギターを務める橋口洋平は、wacciのほとんどの楽曲の作詞作曲を手がけている。

今回は、橋口の“アコギ弾き”としてのルーツから、2025年1月にリリースした新作『Dressing』の作曲、またwacciの音楽における“アコギの役割”についてまでを聞いた。

取材・文=角 佳音

モデルによって、出てくるサウンドもメロも変わります

──初登場ですので、まずは初めてギターを弾いた時のことから教えてください。

 中学3年生の時に音楽の授業でガット・ギターに触れて、いいなって思って……母親に買ってもらったのかな? アコギより前にガットがあって、弾いたりしていたんです。

 で、音楽をちゃんと始めたのは、高校1年生くらいの時ですね。小学校から大学までの一貫校に高校受験で入ったので、最初はなかなか友達ができなかったんです。そんな時に唯一友達になってくれた人が、マーティンのアコギを持って歌っていたんですよ。

 その人と一緒に音楽をやりたいと思って、ヤマハのギターを買ってもらったんです。当時はゆずがすごく流行っていたので、岩沢厚治さんが使っていたモデルの廉価版のようなギターを。それを弾きながら、路上で歌っていました。

──当時、どのようにアコギを練習していましたか?

 ゆずや忌野清志郎さんだったり、歌いたい曲のコードを覚えて、ひたすらカバーしていました。“歌いたい”という気持ちが先にあったので、その伴奏を自分でやるためにギターを弾いている感覚でしたね。

──アコースティック・ギターのプレイや、作曲面で影響を受けたアーティストはいますか?

 ゆずはもちろんですけど……大学で軽音楽部に入って、そこがジャズやソウル、ファンクなどを大所帯でやる部活だったんです。そこで、いろんな音楽を聴いたりしていましたね。

 ただ、実際に作曲やプレイに落とし込んだアーティストで言うと、くるりですかね。メジャー・セブンスやsus4のようなテンション・コードなどはすべて、くるりで覚えました。

 あと、シンガー・ソングライターのおおはた雄一さんがすごく好きなんですよ。大学時代に僕が定期的にライブをしていたバーが、おおはたさんが下積み時代を過ごした場所で、そこでご本人にも出会って、前座をやらせてもらったりもして。おおはたさんを見て、指で爪弾きながら歌うスタイルも素敵だなって思うようになりました。

 まとめると、ベーシックはゆずで、コードに関してはくるり、指弾きというプレイ・スタイルは、もともとガットを持っていたというのもありますが、おおはた雄一さん、という感じですね。

──今回は新作『Dressing』について、作曲をテーマに話を聞いていきたいと思うのですが、まずは基本的な作曲の流れについて教えてください。

 最近は詞先が多いです。でも、歌詞のフレーズにメロディを乗せていく段階で、“こういう曲にしたい”っていう全体のメロディが浮かんで、そこにどんな歌詞を乗せようか考えることもあるので、曲によって順序はいろいろですね。

──メロディを作る段階ではアコギを使っていますか?

 たまに鍵盤を使いますが、ほぼアコギですね。

──その時に手に取るモデルとしては?

 レコーディングでも使っているマーティンのD-28 Marquisですね。あとはメイトンのECW80も使います。

 手にするギターによって出てくるサウンドもメロも変わるというか、“よく聴こえるメロ”と“聴こえないメロ”が違う気がするんです。たとえば、Marquisは下がよく鳴るので、歌っている時にメロディを支えてくれますし、縦をしっかり出したい時や、アップテンポな曲の時はメイトンのほうがいいなって思いますね。

wacci 橋口洋平
wacci 橋口洋平

wacciらしい“切なさ”や“ノスタルジックさ”には、こういう手グセが活きているのかな

──今作では、「君を好きな理由」のBメロや「忘れたい」のサビなどで、6度のマイナー・コードの前に半音下のディミニッシュが入っています。これはどのようなイメージで使っていることが多いですか?

 経過音で使いますね。でもそこは手グセで、何も考えていないですね。

──個人的には、ディミニッシュを経由することで“切なさ”が増すように感じました。

 確かにそうですね。ただ単純に落ちるよりも、“良い曲”っぽく聴こえるので入れています(笑)。wacciらしい“切なさ”や“ノスタルジックさ”には、こういう手グセが活きているのかなと思います。

 あ、でも「どんな小さな」の“咲くことのない花があるんだ”の“だ”の音のハーフ・ディミニッシュは意識的に使っていますね。サビの後半にハーフ・ディミニッシュをぽんと置くことで、センチメンタルさが増すと思っていて。

 自分のなかで、それぞれのコードに明確な役割があるので、その役割を求める時に出しているっていう感覚ですね。

──「愛は薬」は、Aメロアルペジオ・リフがグルーヴィで耳に残りました。

 これは村中(慧慈/g)が編曲していて、彼が全部上から下まで作っています。なので、このパートに関しても村中がレコーディングしていて、アタックを出すためにD-28をピックで弾いていましたね。

 アルペジオやストロークのような基本的なアコギは僕が弾いているんですけど、こういう、ピックを使ったちょっと難しいやつは嫌なので“丸投げ”しています(笑)。

 このフレーズはシーケンスっぽい役割で、伴奏というよりもしっかりしたギター・リフという感じでいるので、ギタリストらしいフレーズですよね。

──「春の背中に」は、アコギのストロークが楽曲全体を引っ張っていく印象の楽曲ですが、プレイをする上で意識していることはありますか?

 リズムがヨレないように、ということですね。僕が作った弾き語りデモの段階から縦をしっかり意識していたので、編曲を担当した因幡(始/k)も“アコギがしっかり引っ張っていくようなアレンジにしよう”と言って作っていったんです。そういう意味では、ドラムやベースにしっかりついていくことと、歌に対していい位置でいることがすごく大事になってきますよね。

 この曲はまだライブではやっていないんですが(※取材時点)、自分の中でアコギのリズム・キープのウェイトが大きいなと思っていて、あまりやりたくないですね(笑)。……頑張ります(笑)。

──アコギのパートのアレンジについて、編曲担当とはどんなやりとりをすることが多いですか?

 弾き語りから曲を作っているので、どうしても“弾き語った時に気持ちいい曲”を作ってしまうんですよね。なので、アレンジの段階で曲の雰囲気ががらっと変わる時は、“ここはアコギを残したい”とか、そういう話はけっこうしますね。

 たとえば「まぶたを閉じれば」は、もともとは3フィンガーでアルペジオを弾くような感じで作っていたんです。フォーキーというか、カントリー・チックなイメージで。それがアレンジを経て、アコギのストロークでバンド・サウンドの世界観を作る雰囲気に変わったので、この曲の編曲を担当した村中としっかり話し合いながら作っていきました。

“相棒”って言ったらかっこいいんですかね(笑)?

──今作のレコーディングに使用したギターについて教えてください。ヤマハのLL36 AREなどは使いましたか?

 ヤマハはちょっと前まで使っていたんですが、最近は弾いていなくて。おもにマーティンのD-28とD-28 Marquisでレコーディングしましたね。

 ライブでも使っているD-28は、ずっとついてくれているテックさんと楽器店へ行って、いろいろと試奏して新品で購入しました。弾きやすいですし、キラッとした成分がバンド・アンサンブルの中でもしっかり抜けてくるんですよ。もしも弾き語りで活動していくってなっていたら、このギターを選ばなかったかもしれないです。バンドの中で弾くことを考えた時に、すごくいい1本だと思って買いました。

Martin D-28(本人撮影)
ライブで使用しているMartin D-28(本人撮影)

 Marquisのほうは「リバイバル feat.asmi」(配信シングルは2023年リリース)を作っている時にテックさんが持ってきてくれて。めちゃくちゃ鳴りがいいので、“これ、買います!”って言って、後日、楽器店に行って買いました。“レコーディングと家で使う用”って決めているので、ピックアップもつけていないんですよ。

──それぞれのサウンドの印象は?

 ライブ用のD-28のほうが上の帯域がしっかり抜けて、全体的に音のまとまりがよくてキラっとしているんですよ。一方のMarquisは、低音がかなり鳴って気持ちいいですね。

──レコーディングでは、どのように使い分けていましたか?

 バンド・サウンドがあって、アコギが伴奏の中のひとつのサウンドになっている時だとライブ用のD-28のほうが合うんですよね。逆に、「春を背中に」のように、アコギがメインの楽曲ではMarquisを使っています。

──作曲で使っているというメイトンのECW80についても教えてください。

 wacciを組んだ当初は、指でしっかりアコースティック・サウンドを鳴らすスタイルを描いていたので、メイトンが合いそうだと思って買ったんです。でも、僕が書く曲とメイトンの音に矛盾が発生することが多くて、今は家用のサブ・ギターみたいになっていますね。

──2024年12月にwacciは結成15周年を迎えましたが、この15年間を振り返って、アコギとの関わり方に変化はありますか?

 アコースティック・ギター・マガジンさんに言う答えじゃないんですけど、弾かなくなってきました(笑)。

 最初は僕の弾き語りのサポートとしてやってくれていたメンバーでもあったので、アコギで作る曲のバンド・バージョンという感覚があったんです。でも、最初に広がった「別の人の彼女になったよ」がエレキ・ギター主体だったこともありますし、みんなのアレンジ力も高まっていろんな音楽を奏でられるようにもなって。

 それにシンセやストリングスが入ったり、いい意味で派手になっていく中で、アコギの出番が減っていったっていうのがありますね。

──減っているとは言え、アコギのサウンドが支えている楽曲も多いように感じます。

 アコギが主体で聴こえる曲というのは、リズムを刻むベーシックの楽器がアコギ、という時ですね。アコギのアルペジオで聴かせるバラードにそっとほかの楽器が入ってくるみたいな使い方ではなくて、アコギがリズムを刻む役割だったり、楽曲を引っ張っていく役割を担う場合にその存在がしっかりと出てくる。そういう棲み分けをするようになって、バンドの中でのアコギの役割がはっきりしてきたんだと思います。

──橋口さんが思う、アコースティック・ギターの魅力とは何ですか?

 ずっと思っているんですけど、ギターの場合、運指が簡単なコードのほうがコード名としては難しいってことがよくあるじゃないですか。たとえば、Fが弾けないから3本の指でF△7にしたり、そこから小指で3フレットを押さえたらFadd9になったりとか。弾きやすいコードを選んだほうが、音色がオシャレになったり、コード名も難しかったりするので、ラッキーだなって(笑)。

 で、それらを爪弾いていくと、いろんなコードの組み合わせがあって、いろんなメロディを乗せられる。しかもそれをひとりで完結できるというのは、ありがたいなと思いますね。

 あと、弾き語りをすると、アコギ1本で歌を届ける良さをしっかり感じるんですよ。歌がノっているとアコギもノるし、そういう一心同体な感じもアコギならではなのかなって思います。

──では最後に、橋口さん自身にとって、アコースティック・ギターとはどんな存在ですか?

 今までアコギを弾いてきたからこそ、現在のこの仕事がありますし、ほとんどの曲をアコギで作っているので、表現において切っても切り離せないツールですね。“相棒”って言ったらかっこいいんですかね?(笑)。

 あの時に出会ってアコギを始めてよかったって思うし、今では生活の一部になっているものだと思います。僕の人生において、すごく大事な存在ですね。

wacci
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wacci 6th Album『Dressing』

ESCL-6052/2025年1月29日リリース

Track List

  1. 君を好きな理由
  2. インカメラ
  3. どんな小さな
  4. 愛は薬
  5. そういう好き
  6. 忘れたい
  7. バカ
  8. まぶたを閉じれば
  9. 恋人卒業
  10. ジグソーパズル
  11. OKワード
  12. 正義と悪
  13. リバイバル
  14. 春を背中に
  15. あなたの隣で

CD購入:https://erj.lnk.to/dyyVHa
ダウンロード/ストリーミング:https://wacci.lnk.to/AhWFO0
wacci公式HP:https://wacci.jp/

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