最近はエレキよりもアコギのほうが楽しいくらい──亀本寛貴
──実はインタビューでは初登場ですので、初めてアコースティック・ギターを弾いた時のことから教えてください。
松尾レミ 父のアコギが家にあったので、幼い頃から触ったことはあったんです。でも最初に練習をしたのはエレキで、アコギを自分で弾いたのは中学校3年ぐらいの時でしたね。その時は父のギターではなく、楽器をめっちゃ持っている父の親友が貸してくれたんです。
亀本寛貴 僕もエレキからで、アコギはほとんど弾いてこなかったです。松尾さんが持っていたタカミネやVGギターを借りたりしていましたけど、機会は多くなくて。
で、デビューしてからギブソンのJ-45を使い始めたんですが、それもあまり弾いていなかったんですよね。それがコロナ禍以降にアコースティック系のイベントが爆発的に増えて、ここ数年で弾く機会がめちゃくちゃ増えたんです。最近はエレキよりもアコギのほうが楽しいってくらい。そんなタイミングだからアコギ・マガジンからオファーがあったのかなって思ってました(笑)。
──グッド・タイミングでしたね(笑)。アコギ奏者でGLIM SPANKYの音楽性に影響を与えた人はいますか?
松尾 もともと個人的に好きで、音楽性にも影響が反映されているのは、ニック・ドレイクやバート・ヤンシュ、ジョニ・ミッチェルなどですね。2019年頃から変則チューニングで曲を作り始めて、そういった際は特に参考にしています。
──『The Goldmine』(2023年)に収録されているインスト曲「真昼の幽霊(Interlude)」は、ニック・ドレイクがよく使っていた“BEBEBE”チューニングですよね。
松尾 ニック・ドレイクの『Pink Moon』(1972年)をよく聴いていたんですが、部屋にこもってひとりで弾いているような空気感がすごくいいなと思っていたんです。パーソナルな“秘密の部屋”に入り込めた感じがするというか。そういう音像の楽曲を作りたいと思って、雰囲気も含めて参考にしました。
チューニングは、「Looking For The Magic」(2018年)をDADGADで作ったんですが、「真昼の幽霊」と、それにつながる「Summer Letter」(2023年)は、なんとなく違うもので作ってみたいと思ったんです。で、いろいろと実験する中で“BEBEBE”が手に馴染んだという感じですね。
──ほかにアコースティック方面のミュージシャンからの影響が反映されている楽曲があれば教えてください。
松尾 「白昼夢」(『BIZARRE CARNIVAL』収録/2017年)は、アンディ・シャウフというカナダのミュージシャンに影響されて作りました。彼も、アコースティックで穏やかな楽曲を作るミュージシャンですね。
アコギの音って偉大ですね──松尾レミ
──デビュー10周年記念のベスト・アルバム『All the Greatest Dudes』についても聞かせてください。「夜風の街」や「話をしよう」、「形ないもの」などはアコギが軸となって鳴り続けていますが、エレキではなくアコギを選ぶ時の理由はなんでしょうか?
松尾 特に「形ないもの」とかは最初からアコギで作っているので、全体もそういうイメージになりますよね。たとえばブリティッシュ・フォーク感のある曲があれば、カントリーっぽいアメリカンな曲もありますけど、アコギの音ってそれだけで世界観を構築できるくらい情報量が多いから、作曲はエレキよりもアコギで作ったほうがインスピレーションが湧いてくる気がするんです。なので、最初にアコギのイメージで作った曲では、使うことが多くなります。
亀本 やっぱり曲自体にカントリーやフォークのようなルーツ・ミュージックの要素が入っている時は、アコギの雰囲気が合うから採用するっていうことは多いですよね。あとは、音圧で勝負するような感じではない曲で、エレキ2本だと上のリード・ギターを爆音にしないと聴こえてこない、みたいな時にリズム・ギターをアコギにすることもあります。
──「Glitter Illusion」はリフ的な使い方ですし、パーカッシブなアコギの使い方をしている曲もあると思います。アレンジのエッセンスとしてアコギを使う際は、どのような効果を狙うことが多いですか?
亀本 「Glitter Illusion」はまさにリフで、エド・シーランのようなイメージの単音で弾くアコースティックの感じがスタートでした。ただ、アレンジのアクセントという点では、最近は逆にあまり入れないようにしています。前までは、バラードでエレキが鳴っている時に、“一応”アコギの音も入れていたんです。でも、なんでもかんでも増やすのはやめて、最近は“アコギ1本のニュアンスで勝負”という使い方が増えてきたかなと思います。
「Glitter Illusion」のほかにも、「ひみつを君に feat.花譜」や「風にキスをして」はアコギだけで持っていくイメージでしたね。あと、「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」のコード・カッティングでループするリフみたいな感じは、KTタンストールをイメージしていたり。
──その「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」は、“アメリカの砂漠を貨物列車が走る景色をイメージして作った”と松尾さんがSNSに書いていましたよね。曲を聴いてまさにそんな情景を思い浮かべていたので、それを読んで驚きました!
松尾 それはうれしい! この曲は亀が最初にアイディアをくれたんですが、その時点であのイントロも入っていたんです。それに引っ張られて、アメリカの砂漠のような空気の中で、サボテンがあったり、砂ぼこりが吹いたりしている景色を想像して作っていきました。メロディを作る時も、“狙ったように登るサンシャイン”っていう歌詞も、ギターのフレーズからインスピレーションをもらったので、アコギの音って偉大だなと思います。
亀本 この曲は、単純なコード進行なんですが、アンサンブルでオン・コードになっているから浮遊感が生まれて、かっこよく聴こえるんですよね。
あとけっこうミソなのが、イントロはギター2本で弾いてるんですけど、1本はドブロなんです。LOVE PSYCHEDELICOのスタジオにあったドブロを使ったんですよね。
松尾 “とにかくギターをかっこいい音で録ることに集中したい”ってNAOKIさんがおっしゃって、いろいろと実験していたんです。で、たまたまドブロを重ねてみたらめちゃめちゃ面白い音になって、NAOKIさんもKUMIさんも私も“いいね!”ってなったんですよね。なので、サラッと録ったというより、意識的にユニークな音にしようと思って録った音です。
完璧なアコギよりも、感情が見えるアコギを弾きたい──松尾
──作曲時、最初のアイディア出しでは何の楽器を使っていますか?
松尾 アコギも使うし、エレキでやる時もありますね。ピアノで適当にコードを押さえて、そこから作ることもあります。
──アコギを手に取るのは、どういう楽曲を作りたい時でしょうか?
松尾 パーソナルな歌詞だったり、生々しさがある“感情的なもの”を作りたい時ですね。「美しい棘」や「大人になったら」、「形ないもの」などは、アコギだからできた曲だと思っていて。ピアノだと押さえ方に集中しなきゃいけないし、エレキだと部屋で弾きたい時は集中できない。アコギはそういうストレスがなく、言葉とメロディだけに集中できるんですよね。
──亀本さんも、作曲時にアコギはよく使いますか?
亀本 作曲ではけっこうアコギを使っていますね。ギターを持って適当に口ずさんで、メロディが掴めてきたら、声だと綺麗に音程が取れないので、ギターでメロディとコードをゆっくり同時に弾いていくんです。それでハーモニーがいい感じになっているかを一音一音確認していって。そういうのはピアノでやったほうがいいんですけど、自分はギターのほうがすぐに音を見つけられるし、指板上も感覚で音楽的に動けるんですよね。
それにアコギはエレキよりも音量があるし、テンションも高いので、ピッチ感もピアノに近いというか。ポーンって鳴ってくれる感じは、すごく作曲に向いていると思います。
──レコーディングについても教えてください。アコギをレコーディングする時に、気にするポイントやこだわるポイントはどこですか?
亀本 歪んだエレキ・ギターだと波形がバーっと埋まりますけど、アコギは一音一音がしっかり波形に出るので、その長さや強さはすごく気にしなきゃいけないんですよね。アルペジオの一音の長さだったり、ストロークでもコードが変わる時にどこまで弾くのか、ブラッシングに変わるまでの実音の長さとか。そういう演奏のディティールっていうのは、エレキの時よりも気にするかな。
あと松尾さんにもたまに言うんですけど、エレキは“どう止めるか”っていう楽器で、アコギは“どう鳴らすか”っていう楽器だと思っているんです。アコギは一音一音をちゃんと自分の中でとらえないといけないし、鳴らしているっていう感覚があるから気持ちいいんですよ。
松尾 私は、個人的にはあまり“うまいアコギ”が好きじゃなくて、感情が見えるアコギが弾きたいんです。たとえば、新曲「Hallucination」は、GLIM SPANKYとしては初めて、別のギタリストの方に弾いてもらっていて。この曲のように、うまいからこそ成り立つリズムもあるとは思うんですが、弾いてる人の顔や、その曲の世界や温もりが見えるギターが好きなんですよね。ちょっとぐらいヨレていても全然よくて、感情がそこにあればいいなって思います。
──レコーディングでのギター選びはどのように?
亀本 そこにあるギターを全部弾きながら決めていきますね。いろいろと試すんですが、最近は自分のJ-45が抜群にいいんですよ。ラインだとレコーディングにはちょっと難しいんですけど、マイクで録るとめちゃくちゃいい音になるんです。ライブでも弾き心地がいいし、“定番中の定番”ならではの素晴らしさがあるなと思っています。
“一人前になりたい”っていう気持ちが芽生えました──亀本
──デビューからの10年間を振り返って、アコギとの向き合い方で変わった部分はありますか?
松尾 いろいろな変則チューニングだったり、ストロークだけじゃないアプローチもするようになって、“こういう弾き方が好き”っていうのがわかってきたんです。それで、今までよりも奏法的な部分が気になるようになってきましたね。それこそバート・ヤンシュだったり、そういうトラッドなスタイルも極めたいなと思っています。
亀本 僕は最近やっとアコギのことがわかってきて、こだわるべき部分も理解できるようになったんです。例えば弦高とかも、エレキのように自由に動かせたりしないので、これまでは“こんなもんでいいでしょ”って思っていたんですけど、しっかりベストな状態にすると、弾きやすさはもちろん、鳴り方にも影響する。そういうコンディションを詰めていくことがすごく大事だなって思うようになって。
あとはライブやイベントだと、ピックアップやDIでPAに送った音が直で出ることがあるので、ある程度こっちで作っておく必要があるじゃないですか。その音作りとかも最近はすごく気になって、楽しくなってきたんです。
それに、最近は僕だけがアコギを弾いて、松尾さんが歌うっていうスタイルもやっていて、それもめちゃくちゃ楽しいですね。アコギ1本でも、ヨレもなくタッチに無駄もない“歌を聴くための”完璧な伴奏になれた時、正直それだけでフルバンドにも負けない満足感をお客さんに与えられると思うんです。今は、そういうふうに弾きたいっていうモチベーションがすごくあるんですよ。
松尾 それができたら一人前だ!
亀本 そう。“一人前になりたい”っていう気持ちが芽生えました(笑)。
──アコギ好きな読者たちに聴いてほしいGLIM SPANKYの楽曲をそれぞれ教えてください。
松尾 私は「Summer Letter」ですかね。変則チューニングで、弾く時も“この弦は鳴らさない、この弦は弾いてOK”みたいに考えて作ったんです。めっちゃ大変だったんですよ。
亀本 この曲は、アコギでローをカットせずに、フルバンドのロー・エンドを再現しているというのがミソですね。で、僕は「ひみつを君に feat. 花譜」です。あのアコギの音はよく録れていると思うんですよ。西川(陽介/レコーディング・エンジニア)さんも言ってくれているけど、あれ、いい音じゃない?
松尾 ……(無言)。
亀本 おい(笑)!
──(笑)。では最後に、おふたりにとってアコースティック・ギターはどのような存在なのか、ひとことで表わすと?
亀本 僕はアコギを家に置いて、常に愛でているっていうか。木でできているというのもあって、“家具とペットの中間”みたいな感じですね(笑)。
松尾 私は、“自分を代弁してくれるもの”ですね。もともとは絵を描くのが好きだったので、“なんで絵からギターに変えたんですか?”ってよく聞かれるんです。でも、自分的にはどちらを選んだとかはなくて、どちらも同じく自分を表現してくれる相棒だなと思っています。
『All the Greatest Dudes』GLIM SPANKY
TYCT-60240/1/2024年11月27日リリース
Track List
<DISC 1>
- 焦燥
- 怒りをくれよ
- ダミーロックとブルース
- 愚か者たち
- 吹き抜く風のように
- 闇に目を凝らせば
- 話をしよう
- NEXT ONE
- TV Show
- 褒めろよ
- 美しい棘
- 夜風の街
- サンライズジャーニー
- リアル鬼ごっこ
- 大人になったら
- ワイルド・サイドを行け
<DISC 2>
- Glitter Illusion
- こんな夜更けは
- HEY MY GIRL FRIEND!!
- ラストシーン
- 形ないもの
- Circle Of Time
- Fighter
- 風にキスをして
- ひみつを君に feat.花譜
- 赤い轍
- Hallucination
- 愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO