山田将司&村松拓によるアコースティック・ユニット“とまとくらぶ”にインタビュー

THE BACK HORNの山田将司、Nothing’s Carved In Stone/ABSTRACT MASHの村松拓という、日本のロック・シーンを牽引するバンドのボーカリストふたりが結成した、アコースティック・ユニット“とまとくらぶ”。アイリッシュやロック、フォークなどの要素を織り交ぜた、彼らの1st作品『緑盤』のアレンジと、それぞれのアコギとの関係性について、じっくりと話を聞いてみた。

インタビュー=福崎敬太

音楽的な感性を育ててくれたのはアコギ──村松拓

──“とまとくらぶ”としてふたりで音楽を作るうえで、アコギ主体の編成を選んだ理由を聞かせてください。

村松 自分たち的には自然な流れでしたね。バンドのボーカルとしてソロで活動する時、アコギ1本での弾き語りというのが俺らの土台にあって。各々個人で一緒にライブ出たり、そういうことを重ねていった経緯があったので、あまり考えませんでしたね。

──それぞれソロで弾き語りをされたり、バンドでもアコギを弾く機会はあると思いますが、普段のアコースティック・ギターとの付き合い方はどんな感じですか?

山田 家で弾く用のアコースティック・ギターがあって、曲を作ったりするきっかけもアコギであることが多いんですよね。歌とアコギの音色感が“生楽器同士”で近い感じというか。だから歌を作る時には、アコースティック・ギターは欠かせないですね。

──自宅ではどんなギターを使っているんですか?

山田 ボディが小さめの、ヤイリのギターです。つないでもピックアップが鳴るかどうかわからないレベルなので家で弾いているっていう感じなんですけど(笑)。

──村松さんはどうですか?

村松 俺もバンドでエレキ・ギターを弾きますけど、アコギのほうが自分に近い感じはするんですよね。自分はギターを変えて音色の違いを楽しむようなタイプではないので、タッチとかマンパワーの部分で求めている音を探っていくんです。エレキよりもアコギのほうが、そういう“耳で育てていく”感じがあるというか。俺の音楽的な感性を育ててくれたのは、アコギという側面があるんですよね。

──アコースティック・ユニットやアコギが使われている曲で好きなものは?

村松 たくさんありますけど、パッと思いつくのは山弦。若い頃に聴いていて、コピーしたこともあります。

山田 俺はベン・ハーパーやジャック・ジョンソンとか。それこそ今作に収録されている「交差点」のきっかけとして、その頃に聴いていたベン・ハーパーの『Welcome to the Cruel World』があるんですよね。“最近、海を眺めているようなイメージのこういう曲が好きなんだよねー”みたいな話をして、そこからできたり。

拓のソロは、開放弦の使い方がいいよね──山田将司

山田将司
山田将司が手にしているのは、アルバレズ・ヤイリのDY-200

──『緑盤』は1stアルバムですが、全体のテーマや目指した音像はありましたか?

山田 アコギが2本あるから、同じコードを弾くにしても、片方はカポをしてボイシングを変えたり、っていうのは自然にやっていましたね。もちろん曲によっては同じコードを弾くところもありますけど、基本はボイシングを変えたり1〜2弦を開放で弾いたりしながら、音の広がりを見せたかったんです。なので、2本でどれだけ景色を描けるかを最初に決めて、足りないところや“こういう音が入ったらいいな”っていう部分をDTMで入れたりして作っていきましたね。

──作詞作曲は“とまとくらぶ”名義ですが、曲作りやアレンジはどんな流れで行なうのでしょうか?

村松 オケに関しては、どちらかがデモを書いたり、ギターのリフからできたり、ふたりでスタジオに入ってインプロみたいなことやっている時にできたりとか……。でも、イチからふたりで考えていくことが多くて、大枠となるコード進行やリフから、メロディがついて、その中で差し引きができあがってから、最後にふたりで歌詞を考える、みたいな感じでしたね。

──各楽曲についても聞かせてください。「羅針盤」はG7が主体のコード・リフに、歌メロは……。

山田 おぉ〜、コード名を具体的に言われるような取材って、俺は初めてだから(笑)。すごい、なんか楽しいですね(笑)。

──我々はいつもこういう質問ばかりなので、逆にすみません(笑)。で、歌メロはメジャーな感じですが、ギターはセブンス感のあるリフです。このリフはどのように作っていきましたか?

山田 頭のリフは俺が弾いていて。オープンDみたいなアイリッシュぽい響きで曲を作っている時にできたフレーズなんです。1弦を1音下げてDにして、2弦の3フレットと1弦の3フレットを押さえて。そこにコードを乗せようってなった時に、この感じならGでいけるなっていう解釈ができて、全体ができました。

──この曲のギター・ソロはGミクソリディアンでのアプローチですよね?

村松 そうなんですか(笑)?

──おそらく(笑)。ポップスでもなければロックでもない中間的なアプローチというか、不思議な浮遊感を感じました。

山田 あれはすごいソロだよな。ちょっと民族的というか、多国籍な雰囲気があるよね。

村松 できた時もそう言ってましたよね。あれは、速いテンポの短い尺の中で、“歌うような感じではないソロ”っていうイメージがあったんですよね。特に“浮遊感”は重視してたかもしれない。なんとなく、テンションが高いやつらがずっと周りをうろつきながら“うぉいうぉいうぉい!”って言っている、みたいな緊張感を出したかったんです。だから、気持ちいい音に着地させずに、いいテンション感がある音を探しながら作っていきましたね。

──「春夏秋冬」はキラキラした高音弦のイントロが印象的です。これは5カポですか?

山田 あれは3カポですね。

村松 これって、コードからできたんでしたっけ? 

山田 拓があのイントロに近い雰囲気のフレーズを弾いていて、そこでストロークにいったんじゃないかな。“ライブでお客さんがクラップできる曲があったらいいよね”的なノリで作っていて、いいところを探っていったらこうなった感じですかね。

──この曲もソロがありますが、開放弦の使い方が絶妙ですよね。

山田 拓のソロは、開放弦の使い方がいいよね〜。

村松 これはでも、苦肉の策ですね(笑)。俺はもともとソロを弾くほどギター・プレイをするタイプじゃないんですよ。これは“とまとくらぶ”として最初の頃に作ったソロなんですけど、けっこう長い尺だから“どうやって考えたらいいんだろう”ってなって。それで、前半と後半を分けて考えて、前半は歌って後半はリフっぽいフレーズを混ぜていきましたね。ふたりなので、音の広がり損なわずに、バランスよく歌わせることを、すごく悩んでできたソロですね。

曲全体があのフレーズを聴かせるためにある──村松拓

村松拓
ギブソン・カスタムのSJ-200 Ultimateを手にする村松拓

──「Sunny Side Song」はアルペジオのテーマ・フレーズにハーモニクスでユニゾンするパートがありますが、それによってピアノのような艶感が出ているような感覚がありました。

山田 あれはレコーディングだけの技ですね。あのメイン・フレーズは弦1本だけでは弱いかなって思ったんですけど、エフェクトを踏むのも違うし、別の楽器を入れるのも“とまとくらぶ”としては違う。アコギを使ってもう少し背中を押せないかな、っていうところで、ハーモニクスのアイディアを出しました。RECでは本当に1音ずつ録っていきましたね。

──ギター・ソロはそのテーマ・フレーズへのバトンの渡し方が素晴らしいですね。

村松 後半のメイン・フレーズがもともとあった形なんですよね。それを割ってイントロの形にしたんです。で、前半はコード・トーン使って広がりを持たせながらドラマチックに後半へと向かう。なんなら、この曲全体があのフレーズを聴かせるためにあるんじゃないか、くらい聴かせたかったんです。

──「羅針盤」の時にも“アイリッシュ”という言葉が出ましたが、「とまとめいと」はまさにそのテイストですよね。

山田 そうですね。コード進行のBからCにいく感じやF#からGにいくところにアイリッシュな要素を感じるんですけど、そのフワッとする感じをどうやって進行に織り交ぜるかは考えましたね。

──右チャンネルのメロディ・プレイが、全部ダウン・ピッキングで弾いてるようなニュアンスなのも、アイリッシュっぽさに一役買っている感じがします。

山田 わかりやすく4分音符で、タン、タン、タン、タンってクラップが鳴っている、頭の中でもノれるそのキャッチーさが大事で。そのためにもダウン・ピッキングで、全部粒を揃えておきたいと思ったんですよ。チャーチャカチャカチャ〜みたいにスムーズじゃなく、タータタタタタータタっていう感じに。

──「交差点」は、シェイカーとカホンだけでもロック・バンド的なビート感が出ているのが、さすがです。この曲のアンサンブルはどのように作っていきましたか?

山田 サビで基本的にストロークがいて、イントロやAメロはアルペジオっぽい感じでいこうと思っていて。それが完成したあとにカホンを入れたんですよね。あとこの曲は、絶妙に色っぽいシンセの音色ができた時に、“交差点”っていうイメージができあがったんですよ。現実なのか夢なのか、時間も超えたような現実離れした雰囲気が見えて。あの音が作れた時は、ふたりとも酒が進みました。

村松 たしかに(笑)。

──それはうまい酒ですね(笑)。「故郷」のトレモロ・ピッキングはマンドリン的でもあり、琴や三味線のような和楽器っぽい雰囲気も感じます。このアプローチはどのように生まれましたか?

山田 最初からイントロでトレモロ奏法をやるイメージはあって。で、ガット・ギターのハイポジションの感じに、中国の山奥を俯瞰して見ているようなイメージがあって(笑)。胡弓とかで弾いてる感覚というか。そういうフレーズを作りたいなっていうところがスタートでしたね。

──「逃走曲」も開放弦が効果的に使われていますが、1〜2弦の開放とハイ・ポジションを交互にいくフレーズは、どちらかというとロック的ですよね。

村松 高校生の頃から20歳になる前ぐらいに聴いてたシステム・オブ・ア・ダウンだったり、オルタナから派生していったちょっと重ためのバンドのギター・リフをイメージしましたね。マイナーな曲なので、歌い過ぎないように意識して。メロディアスにコードを説明し過ぎると、一気に60年代頃のルーツ・ミュージックに寄ってしまいそうだったので、そこに寄り過ぎないように。

──「風と流浪」はスライドを織り交ぜたメロディ・フレーズが印象的です。 

村松 俺はザ・ラーズ (The La’s) が好きなんですよ。好きといっても、アルバム全曲が好きなわけじゃなくて、「There She Goes」みたいなポップ・ソングが特に。で、あの魅力って“リフレインの気持ちよさ”じゃないですか。それが徐々に変化してメロディアスになっていくところも含めて好きで。それをどうやってこう自分なりに解釈して盛り込むかをけっこう考えましたね。

自分の呼吸をアコギと共有していく感覚がある──山田将司

──「Whaleland」はバッキングのアルペジオがテーマ・フレーズとすごく有機的に絡み合います。このギター・パートはどのように作っていきましたか?

村松 このハネたアルペジオ、将司さんは歌いながら弾くんですよね? ムズくないですか(笑)?

山田 歌っている時は8分音符で置いているから大丈夫(笑)。でも、ああいう跳ねたアルペジオは自分の基本にあるんですよ。俺がギターを始めたのが中学校の時で、最初はガット・ギターだったんですよね。で、教則本で初めて弾いたのが、フィンガーピッキングのハネたリズムのアルペジオだったんですよ。だから、ちょっと跳ねるフレーズ聴くと、そのアルペジオを弾きたくなっちゃうんです(笑)。で、最初に拓がハネた感じのストロークでAメロを持ってきて、俺があのアルペジオを弾いたら、その上に拓がフレーズをのっけてくれて。

──それぞれが考えたものを層にしつつ、ということですね。サビでずっとF♯の音がステイしているのもカッコ良いです。

山田 あそこのずっと鳴っている感じは、弾きながら歌うのがめっちゃ難しい(笑)。開放弦が入るとやっぱりちゃんと押さえないとミュートしちゃうし、一拍でコードを持っていかないといけないから……。

──(笑)。「タイムカプセル」も少しアイリッシュな雰囲気がありますが、2弦開放を鳴らしながらのメロディ・プレイはどういったイメージですか?

山田 これも「とまとめいと」とは違う雰囲気のアイリッシュっぽい曲を作りたいと思って6/8にしてみて。勇壮な雰囲気のサビ、ハモり、サビのあとにBメロみたいな感じで、ふたりが高らかに歌うところとかは、最初からイメージしていましたね。で、どんどんいろいろな音が重なっていくような、感動的な流れにしたくて、スネアのロールとかもオーケストラのリズム隊のようなイメージで作っていきました。

──とまとくらぶでアイリッシュなアレンジを取り入れることになったのは、どういった流れがあるんでしょうか?

山田 やっぱりアコギの独特な雰囲気が、アイリッシュっぽい雰囲気と合う感じがするんですよね。ちょっと懐かしく感じるというか。

──普段からアイリッシュ系の音楽は聴いているんですか?

山田 ヴェーセンっていう、バイオリンとニッケルハルパ(スウェーデンの弦楽器)とギターの3人組がいて、20年くらい前からずっと聴いてるんですよ。日本だとハモニカクリームズっていうケルト系の要素を汲んだバンドを聴いたり。けっこう昔からそういう音楽は好きなんですよね。自分がTHE BACK HORNでやっている音とはまた違う景色が見えるので。

──レコーディング時に苦労したエピソードはありますか? 

村松 けっこうあるよね(笑)。

山田 苦労話はありますね(笑)。「タイムカプセル」で初めてギター・ソロっていうギター・ソロを弾かせてもらったんですけど、なかなか上手く弾けなくて。で、ソロをダブルで重ねたんですけど、ずっと2弦が開放で1弦だけが動いているソロが、少しバンジョーみたいな感じの響きになって、哀愁がより増したんですよ。それがめちゃめちゃ良かった。“試しにダブルにして、濁してくれる?”ってスタートだったんですけど(笑)。

──濁すためだったんですね(笑)。

村松 でもあれはコーラスとかじゃなく、ちゃんと2本録ってるからいいですよね。俺が苦労したのは、「とまとめいと」のソロ後半のハモリです。2本重ねている箇所は、将司さんが言ったところとそこしかないんですけど、あの世界観を出すのにどうすればいいかはけっこう悩みましたね。本チャンを録る時にフレーズを変えながらやっとできたっていうパートです。

──おふたりはそれぞれのバンドで完成したスタイルをお持ちですが、いろいろなキャリアを経てきたからこそ感じる、アコースティック・ギターの魅力について、最後に聞かせてください。

山田 なんだろう……弾き語りをやる時とかも常に一緒にいるから、自分の呼吸をアコギと共有していく感覚があるんですよ。非常に身近な存在で、どんどん自分にフィットしていく、“自分の分身”になっていく感じがあります。

村松 俺もすごく”相棒っていう感じがあって。ソロでツアーを回ることもあって、やっぱりひとりでステージに立つと怖いし、緊張もする。で、自分の緊張度合いとかで、アコギがまったく鳴らなかったりするんですよね。緊張や自信のなさが、力みとかに変わってくると思うんですけど。で、“どうやってこいつを鳴らそうか”っていうことを純粋に考えられると、力みや気負いとかいろんなことが抜けて、その日のステージのことを教えてくれる感じがするんです。そういう相棒感がありますね。

山田 俺もそうだなぁ。

村松 やっぱり、みんなそう思うよね。アコギに関して、ボーカリストは。

とまとくらぶ/左から山田将司、村松拓

『緑盤』とまとくらぶ

Track List

  1. 羅針盤
  2. 春夏秋冬
  3. Sunny Side Song
  4. 風と流浪
  5. とまとめいと
  6. 交差点
  7. 故郷
  8. 逃走曲
  9. Whaleland
  10. タイムカプセル

かんじゅくれこーず/KNJK-001(通常盤)/2024年10月20日リリース

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