気鋭シンガー・ソングライター=井上園子が語る、自身のルーツとデビュー作『ほころび』のギター

フォーキーなテイストのフィンガーピッキングで弾き語る、若きシンガー・ソングライター、井上園子。彼女の記念すべき1stアルバム『ほころび』は、その存在をありのままにとらえた一発録りでレコーディング。力強く芯のある歌声と、感情と呼応するシンプルだがフックのあるギターが楽しめる1枚に仕上がっている。今回は初登場となる井上に、ギターを弾き始めた頃の話から、アルバムの制作についてまで聞いてみた。

インタビュー=福崎敬太

いつも音が鳴っているほうに行っていたんです

──アコギ・マガジンWEBは初登場ですので、まずはギターを始めた経緯から聞かせて下さい。

 茅ヶ崎にSTAGECOACHっていうライブ・カフェ&バーがあって。カントリーなどのアメリカン・ルーツ・ミュージックをやっているところなんですが、ブルーグラスの人たちのライブが観たくて、バイトをしていたんです。で、演奏を観ていると“ブルーグラスのギターって動きがすごく少ないな”と思って、教えてもらったのがきっかけです。カントリーをやっているオーナーが、GとCとDをまず教えてくれて。

──もともとブルーグラスに興味があったということですか?

 いえ、そうではなくて。お店は以前辻堂にあったんですけど、大学生の頃にその隣のパチンコ屋さんでバイトしていたんです。で、パチンコ屋さんのうるさい環境から静かになるのが心細くて、バイトが終わったらいつも音が鳴っているほうに行っていたんですよね。そこがSTAGECOACHで、聴こえていたのがブルーグラスっていう音楽だった。だから当時は、それがブルーグラスだとは全然知りませんでした。

──そこから演奏活動に至る経緯は?

 気がついたら始まっていたって感じですね。まず、バック・オーウェンズの「Act Naturally」を教わって、1曲弾けるようになったんです。そしたらオーナーから“じゃあ次、歌ってみろ!”って。で、“いいぞ! なかなかいいぞ!”、“じゃあ次、曲作ってみろよ!”みたいに(笑)。

 私もバイトしかしていないフリーターで暇だったので、“やってみようかな〜”と。で、“できました!”って言ってバイトのあとに披露したら、“おぉ、いいじゃねえか! じゃあ来月ライブやろう!”という感じで(笑)

──とんとん拍子ですね(笑)。バイト先以外で演奏するようになったのはどのような流れで?

 オーナーが茅ヶ崎のフロッキーズっていうお店の小田一雅さんにつないでくれて、新百合ヶ丘のChit Chatの方に“いいやついるぞ”って。そこから横浜のサムズアップのスタッフさんに、みたいに、初めて会った私なのに、いろんな人にパスを出してくれる人がいて。すごく恵まれていますよね。

──影響を受けたギタリストやミュージシャンはいますか?

 まず“英語で歌うのが難しい”っていうことで、“日本人でこういう歌を歌っているやつがいるぞ!”って高田渡さんを教えてもらったんです。あとは、バンジョーを弾いて歌う、岩井宏さんの『30才』っていうアルバムは好きですね。

──コピーした楽曲などは?

 すごく少ないですけど、「Act naturally」、オズボーン・ブラザーズの「Lonesome Feeling」、オーストラリアの国歌みたいな「Waltzing Matilda」、高田渡さんの「生活の柄」や「仕事さがし」。あとは「チョコレイト・ディスコ」(Perfume)、「恋愛レボリューション21」(モーニング娘。)、オジー・オズボーンの「Crazy Train」は練習していました。

──「Crazy Train」もアコギをサムピックで弾くんですか(笑)?

 そうですね(笑)。部屋で練習している曲です。

井上園子

私は私だし、ギターはギター

──1stアルバム『ほころび』は歌とギターを合わせて一発録りだそうですね。

 何回録り直してもうまくはならないし、今あるものが全面に出せるように、あんまりカッコつけず。でも、今のすべてが詰まっている気がします。

──「漫画のような」はサブドミナント・マイナーが入ったりとちょっとフックがありますが、コード進行で考えていることはありますか?

 コードは本当に最初に教えてもらった3つと、あと少ししか知らないので、基本は綺麗な音、好きな音を探している感じです。で、理論も正直わかってないんですけど、裏切るような展開にしたいとは思っています。

──「きれいなおじさん」や「あの街この街」はフィンガーピッキングでのトラディショナルな雰囲気のイントロです。

 「きれいなおじさん」は、ジェイムス・テイラーの「Fire And Rain」のイントロを練習していて……パクったという(笑)。

 「あの街この街」も「Freight Train」で。エリザベス・コットンは左利きで、観ても勉強にならなかったので、どんな音が鳴っているかをめちゃくちゃ聴きました。

──曲を作る時は“この人のイメージ”みたいなアーティストや曲があるんですか?

 いえ、基本的にはないですね。あとでいろんな人が“⚪︎⚪︎っぽい”と言ってくれたり。そんなに深いことは考えずに、メモする感じで曲は作っています。

──作詞と作曲はどのような流れでやっているんですか?

 歌詞とギターはバラバラですね。ギターは触っている中で、カッコ良いところを見つけたら、はめてみようって感じで、パートごとに分離して作っているんです。

 で、歌詞も“書こうと思って書く”というよりは、書き留めておいたものを組み立てていくことが多いです。あと、書く時は怒ってる時か悔しかった時が多いかも。負の感情のほうが原動力は強いし、持続性も強いのかなって感じますね。

──曲はそんなにダウナーって感じじゃないですよね?

 基本はやっぱり救いがあってほしいんですよ。音楽に私も救われてるから。だから、ポップでありたいなっていうのは考えています。それに、自分の意見を全部、この彼(編注:ギター)に託すわけでもないから。私は私だし、ギターはギター。

井上園子

メタル・ピックのほうがキラキラ感がある

──サムピックでのフィンガースタイルを選んだ経緯を教えてください。

 純粋にフラットピックが使えなかったんです。ギターを触ったことなかったから難しくて、ストロークをするとパーンって飛んでいってしまったり、中に入っちゃったり。

 それで指で弾いていたんですけど、ピック弾きならではの鋭さが欠けちゃうから、そのミッドの鋭さを残したいなって思った時に、バンジョーの方が“指につけるのがある”ってメタルのピックを一式くれたんです。それで弾き始めたら、自分の思ったままのサウンドで音量もデカい。そこからメタルのサムピックとフィンガーピックを使うようになりました。

──プラスチックじゃなくメタルを使っている理由は?

 最初にもらったのがメタルだったので。あとは、飾りのメロディだったりが、メタルのほうがキラキラ感がある。1本細いのが通っているような音が好きだなぁって。

 でも最近は、ストロークが多いライブの時には、山崎まさよしさんモデルのサムピックを使っています。使いやすくてびっくりして、10個くらいまとめ買いしました(笑)。

──フィンガースタイルはどう練習をしましたか?

 最初に教わったのは3フィンガーだったんですけど、今は2フィンガーなんですよ。なので、あんまり資料がなくて、とにかくいっぱい触って仲良くなる、みたいなことは心がけています。

──現在の井上さんの音楽にとって、アコースティック・ギターというのはどういう存在でしょうか?

 すごく身近にありますね。ずっと触っています。“そこにあるもの”って感じです。

──最後に、今作について読者のアコギ・プレイヤーに一言お願いします。

 大きい会場とかだと、やっぱり“もっとうまいと思っていたのに!”みたいなことはすごくたくさんあるんです。なので、どんどんもっと頑張って練習しますので、うまくなる過程を見てくれたらいいなって。何か言いたいことがあっても、どうか言わないでくれたら(笑)。

『ほころび』井上園子

井上園子『ほころび』
P-VINE/PCD-18913/2024年9月4日リリース

Track List

  1. 三、四分のうた
  2. おいしい暮らし
  3. あの街この街
  4. 十を数えて
  5. きれいなおじさん
  6. ありゃしない
  7. 漫画のような
  8. カウボウイの口癖
  9. 人ばかりではないか

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