MATON WORKSHOP 2023@RITTOR BASE

オーストラリアNo.1のアコースティック・ギター・メーカー/メイトン。先日行なわれたサウンドメッセin大阪に合わせて、マスター・ルシアー/アンディ・アレンが来日する予定だったが、急遽のキャンセルということで、メルボルン在住の日本人スタッフ、大森厚史氏がひとりで代役を務めた。イベント後、大阪・東京のメイトン旗艦店が集いワークショップを行なう、ということで、東京では弊社RITTOR BASEを使ってもらった。旗艦店のスタッフならではの、マニアックな内容で、特別なオーダーや改善点などの意見交換が行なわれ、アコギマガジン的にも興味深い内容だった。ワークショップ後は、コロナ禍を経たメイトン工場の現在の状況を大森氏に聞いてみた。

Interview 大森厚史

ここから新世代で新しいメイトンを作っていく時期ですね。

●アコースティック・ギター・マガジンが工場取材に伺ったのは4年前。コロナで工場は変わりましたか?
○オーストラリアも日本と同じく巣ごもり需要で、ギターのオーダーが増えたんですけど、街がロックダウンしたり、工場で働く人が減ってしまったんです。ニュージーランド出身のワーカーは、家族が心配で故郷に帰ったりして。オーストラリアは規制が厳しかったんです。例えばワクチンを2回打たないと職場に行けないとか。そういう規制がかかっても、ワクチンを打ちたくないという人たちもいる。わりとベテランの人たちがそういう風に思う傾向もあったりして、その人たちも辞めてしまったり。理由はいろいろですけど、わりと熟練の職人たちが辞めてしまったんです。そうなると新しいワーカーが入ってきてトレーニングするわけですが、トレーニングとなると僕みたいな経験のある人たちが、自分の手を止めてトレーニングの時間に当てないといけないので、結局2倍かかるんです。ベテランがひとり抜けて、その穴を埋めるまでにひとりの経験者がトレーニングに時間を割いて、その人が一人前になるまでも時間がかかりますし。そういう状況が2年ぐらい続いて、今やっと若い新しく入ったワーカーたちが一人前になって、トレーナー役の職人が現場に戻れて、ようやく通常の生産が始まったという感じの状況です。そういう意味では、けっこう血が入れ替わった感じがしますね。
●ギターを輸出していた国を絞ったそうですね?
○世界の情勢変化も絡んでいます。ロシアとウクライナの問題が出てきて、こういう状況の中でロシアに供給するのはちょっとやめておこうかとか。中国も国の体制が変わって、規制が厳しくなったので、ディストリビューターさんの要求にこちら側が応えられなくなったとか、今までなかったことがここ数年で起きたので、安心して取引ができる国だけに絞ろうと。なので、今は日本、アメリカ、イギリス、ドイツなど輸出する国を絞っている状況です。
●その中で日本は全体の20%ぐらいというのは、誇らしいことですね。
○毎月コンスタントに出荷していて、ほかの国の2倍の量を供給しているんですけど、それでも足りないという状態です。ただ今はどうしてもプロダクションの見直しを迫られている状況なので、その中でやりくりしています。トヨタ自動車のジャストインタイムという“必要なものを、必要な時に、必要なだけ”作るという方式を取り入れて、オーダーが入ってから決められた数だけを作るという体制になりました。今までは完成したギターを貯めておいて、そこから出荷していましたが、前回メイトンの工場にいらしていただいた時に比べてとてもすっきりしています。だから今はウェイティングしている完成したギターもすごく少ない。1回のバッチで作業するギターが今まで20本でまわしていたんですが、今は6本に絞っていて。そのために細かいアジャストメントができるようになりました。
●ギターを製作する上では健全な状況になったと?
○はい、クオリティを下げるわけにはいかないので、そこを守りつつ、どう生産量を増やせるか、ということに取り組んでいます。人を増やすこともできるんですけど、ファクトリーのサイズに限界があって。今ある現状の面積でギリギリの人数を動かしているので、このフローでどうやって生産量を伸ばせるかというところに今力を注いでいます。
●メイトンの今後の展望を教えてください。
○メイトンもここ20数年間はアコースティックに注力してきましたが、エレクトリック・ギターを復活させてほしいという声が常に大きくて、そこに着手しようと構想しています。今あるバックオーダーが一段落したら、開発の方にも力を注ぐことができるようになるかなと。エレクトリック・ギターは、常に世代を超えてマーケットがあるので、そこでもメイトンが選択肢になれば良いなと思っています。
●いつぐらいに発表できそうですか?
○これから開発段階なので、数年はかかると思います。メイトン自体もともと50〜60年代はエレクトリックのほうが多かったギター・メーカーだったんです。日本だと目新しいかもしれないですけど、少なくともオーストラリアでは話題になると思います。ビンテージ・メイトンのコレクターがいたり、古いモデルを探している人が世界中にいるんです。なので、市場的にはメイトンがやっとエレキを出したという感じで、受け入れてもらえると思います。
●往年の名器の復刻モデルを?
○そうです。MS500シリーズというトミー・エマニュエルが5歳の時に初めて手にしたモデルがあって、まずはそこから取りかかると思います。あのモデルが一番オーソドックスなメイトン・エレクトリックで、シェイプも構造もすべて独創的で、他のブランドとは一線を画す仕様なので、おそらく市場で快く迎えていただけると思います。そのあとに、Fyrbyrdなどコレクターから評価の高いビンテージを復刻できたらなと。これまでも大きな節目で時折エレクトリックを復活させてきましたが、今後はリミテッド・シリーズなどの形で引き続き、生産できたらなと思っています。
●それは楽しみですね。
○メイトン自体、オーナーのネヴィルとリンダが、そろそろ引退も近いという状況なので、今は長女の夫デヴィッドと三女のマリカで、新体制を作っています。ネヴィルとリンダが引き継いでから、約40年近くアコースティック・ギターのみで立て直してくれたので、ここから新世代で新しいメイトンを作っていく時期のように思います。

大森厚史

メイトンに長年従事する日本人スタッフ、Atsu Omori。ペイント部門から自身のキャリアをスタートし、現在はプロダクション・マネージャーを務める。実は1998年〜2007年に活動したパンク・バンドMACH PERICANのベーシストで、近年も再結成ライブなどを行なっている。

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