超絶技巧テクニックを持ちながら、それを芸術的なパフォーマンスにまで昇華させたステージを見せてくれるスーパー・ギタリスト、トミー・エマニュエル。このたび、その彼が日本ツアーを行なった。そこで、2023年8月11日ビルボードライブ横浜の1stステージの模様をお届けしよう(※ライブ写真は、8月11日ZEPP HANEDAのステージを使用)。
なお、以下の動画は、2023年8月10日でのアコースティック・ギター・マガジンの取材時の一コマ。 『Accomplice Two』収録「Son of a Gun」の一節の演奏だ。本誌で大特集を組んでいるので、こちらもチェックしてほしい(詳細はページ下参照)。
ライブ・レポート
当たり前だが、今回のようなソロ・ギター形式でのライブは、ステージ上にはトミー・エマニュエルひとり。観客は終始、彼に注目している。一瞬たりとも気の抜けないこの状態は、バンド形式とは比較にならないほどの集中力が必要なはずだ。彼はそのようなことを長年に渡り行なってきており、しかも、シーンのトップに君臨し続けている。このような熟練アーティストのパフォーマンスを見れるというだけでも、非常に価値のあることだ。
そして、1曲目の「The Fuel」が始まる。右手でギターのボディを叩きビートを演出すると、観客もそのビートにシンクロするように白熱していく。ライブのオープニングにふさわしい始まり方だ。その後、「Traveling Clothes」、「(The Man With the)Green」が演奏され、会場のボルテージはさらに高まる。そして、ボーカル曲でもある「Nine Pound Hammer」では、左手のタップだけの演奏を交えたパフォーマンスを披露するなど、観客を魅了する完璧な流れが続く。
ほかにも「Doc’s Guitar」や「Cannonball Rag」のような超難曲を余裕で弾く姿を見せてくれたり、そう思えばハーモニクスの美しい「Secret Love」などのバラード系をメロウに奏でたりと、緩急も素晴らしい。超絶技巧ギタリストでありならが、表現力も超一流のプレイヤーならではの曲運びと言えよう。
また、ギターをパーカッションのように叩きまくるパフォーマンスも見応え抜群。会場も大いに盛り上がったのだが、そこにマイクへの頭突きを交え、笑いを取るところはベテランの余裕といったところだろう。
後半では、「Please Please Me」、「DayTripper」などのビートルズ・メドレーも披露。誰もが知っている曲のカバーが映えるというソロ・ギターの魅力を、トミー・エマニュエルに改めて教えてもらった感がある。
そして、「Classical Gas」や「The Wide Ocean」を挟み、最後はジョン・レノンの「Imagine」を観客とともに大合唱して本日のエンディング。
このように、卓越した演奏力を極上のエンターテイメントに昇華させたステージを見せてくれた。アコギ1本で、これだけ素晴らしいパフォーマンスができるという点も驚きだ。ある種、アコギの可能性をステージに凝縮したライブだったと言えよう。そういった点が、彼が“アコギの神様”と呼ばれる所以だろう。本当に、神がかったライブであった。
アコギ・マガジンVol.98は、トミー・エマニュエル大特集号
●特集記事内容
2023年のジャパンツアーでも相変わらずの圧倒的なプレイを披露するとともに、アコースティック・ギターの楽しさ、素晴らしさ、美しさを体現し、アコギの神様たる所以を我々に見せつけてくれたトミー・エマニュエル。
改めてその演奏力の秘密を探るべく、アコースティック・ギター・マガジン編集部は8月10日のZEPP HANEDA公演、8月13日の大阪ALWAYS-umedaのワークショップに密着し、インタビュー取材や使用機材の撮影などを敢行した。
さらに、ソロ・アコースティック・ギター界の重鎮である住出勝則と若き才女として注目を集めるKOYUKIによる対談、国内外のギタリストたちによるトミーへのコメント、少人数制で行なわれたワークショップの内容を盛り込んだ奏法分析など、約50ページにわたってトミー・エマニュエルという稀代のギタリストの全貌に迫る。
●ギター・スコア
また、以下の2曲のギター・スコアも掲載。入手しづらい彼のスコアだけに、ぜひこの機会にチェックしてほしい。「Over The Rainbow」は、ソロ・ギターのレパートリーとしても活用できるだろう。
・トミー・エマニュエル&モリー・タトル「White Freight Liner Blues」
・トミー・エマニュエル「Over The Rainbow」
Live Photo by Yoshika Horita